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経営コラム SOLID AS FAITH 第619号
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ご愛読ありがとうございます。第619話をお届けします。
とうとう今年も残すところ2ヶ月を切りました。商業施設の中はクリスマ
ス・ムードになり、冬の到来で着込んだ人々が街を慌ただしく歩いています。
新政権はロケットスタートの言葉通りに、少なくとも、今まで社会の課題と
目されていた事柄に何らかの手を打つことを重ねているように見えます。前
号のご挨拶でも述べたガソリン価格も年内に何とか決着がつくようです。物
流費はさまざまな物品・サービスの原価となっていますから、それが下がれ
ば、多少なりとも物価は鎮静の方向に向かうのかもしれません。
新政権が公約段階で想定していなかった課題はクマ対策かもしれません。
各地で被害が広がっています。札幌市内にある拙宅から半径2km以内で既に
過去3ヶ月間でクマが5頭ほど駆除されています。元々自然の中に居るクマは
人間を恐れ、鉢合わせで相互にパニックになるなどしない限り、直接的な危
険は生じないはずでした。
しかし、住宅地では森の中より効率的に餌にありつけることを学び、さら
に人間そのものが餌になり得ることを学ぶと、人間を避けるどころか、隙を
見て仕留めるべく付き纏ってくるようになっています。ネット上の専門筋の
記事でも「アーバンベア」と呼ばれるこうしたクマは、山中の従来のクマと
は全く別物と考えるべきと書かれています。体もそこそこ大きいのに、物理
的な攻撃力は殆どない人間は動きも遅く、クマから見ると道路のあちこちに
落ちている大きなボンレスハムぐらいのものかもしれません。
自衛隊まで要請され、異次元の対策が必要と考えられている状態ですから、
人間の生活の中に紛れ込む怪獣退治のレベルに話は既に変わっていると考え
るべきでしょう。ニホンオオカミを絶滅させ、シカを保護することにした政
策が、結果的にクマが生きる環境を破壊したという説も聞きます。いずれに
せよ、人間の施策のために増えてしまったものが、人間を餌として認識する
ようになったのであれば、怪獣退治か異生物種間の戦争といった社会的覚悟
を要する結果になるでしょう。とても「クマがかわいそう」などと同情して
いる場合ではありません。
餌として認識された新聞配達員も藪に引きずり込まれ、温泉清掃員は川に
引きずり込まれるような事態で、住宅から外出も儘ならないような地域が発
生し始めています。ローカルの企業活動にも支障が出ているケースもあるよ
うです。VUCAとは言え、企業活動への予想外の脅威の出現に驚かざるを得ま
せん。
今号は6回シリーズ『R6メリケン奇聞』の第5回目です。昨年の米国旅行で
できれば見たいと思っていたオピオイド中毒で道にゾンビのように佇む人々
は、残念ながら私の訪問地が田舎過ぎて見当たりませんでした。そこでアム
トラックの駅の付近に大量に見掛けたホームレスの人々を視察することにし
てみた話です。現地でも雇用不足が問題の原因と指摘されていましたが、ど
うもことはそれほど簡単ではないように思えました。雇用に関しては、次回
の第6回目（シリーズ最終回）で、現地のハロワを尋ねる話が登場しますの
で、是非合わせてご一読ください。ご意見・ご感想をお待ちしております。
頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!
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その619：悪魔信仰 ＝シリーズR6メリケン奇聞(5)＝
1995年。私は当時の勤務先の仕事の取引先接待旅行で米国ジョージア州ア
トランタを訪れたことがある。オリンピック開催の前年。街ではあちこちで
開発工事が行なわれていた。夜、ホテルでやることがなく、取引先の役員が
「街をドライブしてみよう」と言い出したので、アトランタの街が三度目の
参加客を案内役にレンタカーで繰り出した。深夜、当時人口35万都市の街は
暗く、商店街も繁華街も闇に沈んでいた。
中心街の通り沿い。ブロック向こうの交差点で赤信号が灯り、役員が減速
を始めると、案内役が慌てて叫んだ。「車を停めたらダメだ。徐行しながら
青信号まで時間を稼いで」。私と役員が「え」と驚いていると、「多分、襲
われる」と案内役がぼそりと言った。ノロノロと動く車を追付けると見定め
て暗がりから数人の男がこちらに向かって走ってくるのが見えた。ナイフや
棒を手にしている者もいた。赤信号が変わり、車は猛ダッシュして辛くも私
達は難を逃れた。闇の中の会話は今も記憶に残っている。
2024年。15年ぶりぐらいに訪れたオレゴン州で州都に滞在した。人口17万
都市。皆が以前より治安が悪いと言う。路上のオピオイド中毒者が見当たら
ず、せめてホームレスが沢山いると噂のエリアを見たいと私が希望すると、
ホスト・ファミリーらが猛反対した。曰く「若者はギャングで銃を持ってい
て、ホームレスはナイフを携帯していて襲ってくる」。それでも行くと言い
張る私に彼らは催眠スプレーを3缶もくれて、「銃もナイフも至近距離なら
これで生還の可能性が上がる。離れたら素人の銃はかなり当たらない。スプ
レーを使ったら死ぬ気で走れ」と諭した。市の中心部に近い自然公園にホー
ムレスはいるという。
公園の角には貧困者の支援センターがあるが休日で閉まっていて、食べ残
しや汚れた紙皿が入口付近に散乱していた。公園に歩み入ると、100人近く
はその類の人がいた。木製ベンチに座る者、立ち木に立小便をする者、山積
みの所持品を弄る者、叢に寝転ぶ者、談笑する一群もいる。脇を通りながら
目線を投げると、笑い返してくる者や「ヘイ」と声をかけてくる者さえいる。
誰も銃も出さねばナイフも振りかざさない。昼間のせいか穏やかだ。
「demonization」を直訳すると「悪魔化」だろうか。誰かを悪魔のような恐
怖の対象と見做すことを指す、日本語には類語が見当たらない言葉。テスラ
を所持し、近所でセグウェイを乗り回して遊ぶホスト・ファミリーに「あな
た達はホームレスを悪魔化している」と見学報告のついでに言うと、日本人
は分かっていないと彼らは憤慨した。そうだろうか。
大学で教鞭をとったこともある彼らに日本の書籍の『僕に方程式を教えて
ください 少年院の数学教室』の内容を教え議論しようかと思ったが、英語
力不足で断念した。
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発行：「企業から人へのコミュニケーションを考える」
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次号予告：
第620 『押しの難度』
シリーズ『R6メリケン奇聞』(6) （11月25日発行）
シリーズの最終回はオレゴン州の州都でハローワークに集まっていた失業
した人々の姿を描いてみます。
（完）