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経営コラム SOLID AS FAITH 第600話発行記念特別号 第四弾
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目次
1 ご挨拶
2 603話 『VR的人生設計』 =励起粒子(04)=
3 非雇用化の背景(03) 雇用形態の高負担化
4 非雇用化導入時の留意点(04) 報酬体系の確立
5 非雇用化のメリット(04) キャリア・パスの拡大
6 関連情報 MSIグループのウェブサイトの関連ページの紹介
7 MSIグループの仕入完了報告(抜粋)
8 次号予告
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☆注意:お読みになる際には、枚数がかさみ恐縮ながら、プリントアウト
の上お読みになることを、心よりお勧め申し上げます。
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1 ご挨拶
御愛読御礼申し上げます。第600話発行記念特別号シリーズ『励起粒子』
全5話をお届けしています。このシリーズのテーマは「非雇用化」で、今回
は第四話です。
既存社員の非雇用化の話をすると、幹部クラスでも「偽装請負」などを連
想して頭から「違法だからダメだ」と思考停止になるケースがあります。非
雇用化のプロセスで当該社員には一旦退職して貰うことを告げると、「そん
なリストラのようなことをすべきではない」と決めつける経営者もいます。
また「社員の方には個人事業主になってもらいましょう」というと、「ウチ
の社内でしか働いたことがないのに、自分で仕事を取って食っていく個人事
業主になれる訳がない」と妄想に走っていく社長もいます。
今回のシリーズで説明している「既存社員の一部非雇用化」は全くイメー
ジが異なります。雇用裁定の9条件を意識しつつ、自社にも個々人にも合っ
たスキームを作ることで、合法な組織運営を実現するものです。一旦辞めて
貰うのは必然ですが、縁を切る訳でもありませんし、社員も納得しないよう
な低い報酬に捨て置くようなこともしません。リストラとは根本的に発想が
異なります。
自社の業績が芳しくない中で、自社の社員が世知辛い世の中で食っていけ
る自営業者になれる訳がないと社長が言うのも、(嫉妬がやや滲み出ていま
すが)妥当な推論ではあります。しかし、個人事業主でありながら主に特定
の工務店の仕事ばかりをしている大工などの職人をイメージすればよいで
しょう。他社から広く仕事を受注するような「事業」を行なう必要もありま
せん。
こうした妄想や幻想で、実は多くの業界で慣例的に行なわれているような
非雇用化の選択肢を検討しないのは非常に勿体ないことだと言わざるを得ま
せん。今回も含めて全5話の残り2話となりましたが、自社の生き残りのため
の組織形態の選択肢として、的確な理解をしていただけたらと思っておりま
す。
シリーズ第四回の今回は、『VR的人生設計』と題して、非雇用化と聞いて
多くの経営者が連想する、典型的な食えない個人事業主のありさまを描写し
てみます。こうした食えない個人事業主が生まれる理由は、元の職場で成果
を生み出さないうちに個人事業主になったことと、その結果、食っていくに
十分なスキルや知見を獲得していないことの二点でしょう。これら二点にお
いて対極にいる人々の姿から、あるべき非雇用化を考えてみていただけたら
幸いです。本文に対するご意見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご
感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!
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2 第603話 『VR的人生設計』 =励起粒子(04)=
白金近くのファミレスで食事をしようとクライアントの幹部がメールして
きたので、二階にある店舗に上がってくると、「ここ」と彼が手を挙げた。
ボックス席の彼の対面に座ると、彼の斜め後ろ4、5メートル先のテーブル席
を二つも三つも組み合わせた大所帯の客が目に入った。まとめ役風の30代前
半の男性とそのアシスタント的女性を取り囲むように、同じデザインの薄手
のファイルを持参した人々が一人また一人と現われては座っていく。
私の視線の先に気づいて、「ああ。あれは多分MLMの新規説明会じゃない
かと思う。ここでは時々見かけるんだ。前に見た時にはあまり煩くはならな
いようだったけど、一応離れた席にした」と幹部は説明した。さらに説明会
に加わった30代半ばの女性に私は見覚えがあった。三年ほど前、知人の開催
する中小零細企業の経営支援者として独立起業を図るセミナーに呼ばれた際
に、熱心に質問をしてきた参加者。記憶は怪しいが、和製の経営コンサル
ティング会社の一般職で、辞めて中小零細企業の経営支援をしたいと言って
いた。私が幹部に事情を説明すると、彼は「面白いからちょっと見ていよう」
と言い出した。
席では聞き耳を立て、ドリンクバーに頻繁に向かって、状況を窺った。ま
ずは成功者の豪勢な生活ぶりが語られる。FIREどころか、多額の収入を使い
切れず困っているらしい白い歯の外国人男女の話。まとめ役は参加者を名前
で呼び、「夢は何か」、「やりたいことは何か」と問い、参加者が答えに窮
すると、「僕は、海外に移住したいです」と無邪気に言う。
参加者が皆明るく頷く。そして話は商品の良さに及んで、まとめ役は「売
る努力何て一切要らない。商品がいいと苦労もなく素人でもどんどん売れる」
などと宣う。そして収益の仕組みを説明して、自分が働かなくてもどんどん
子や孫の売上からお金が振り込まれる。それも毎週集計されて直ぐ振り込ま
れるという。幹部と目配せして笑いを堪えた。
参加者はどんな会社で何の仕事をしているのか。その組織は余程彼らに無
学無能でいて欲しいらしい。和製経営コンサルティング会社でさえ、社員に
一般常識一つ教えないようだ。社員は会社を辞めてあからさまに拙い儲け話
に人生をかけたくなるのだから。
中小零細企業は社会人・組織人・職業人教育最後の砦と聞いたことがある。
自社の社員を他社垂涎の存在に育て、それを社内囲わずに独立させる。そし
て、そのスキルや知見で社会に貢献させつつ、自社とも緩くつながりを維持
させ、自社の発展にも柔軟な形で貢献してもらう。自社を卒業した自営型の
“社員”とはそう言った存在だろう。
優秀な職業人には誰もが声をかける。だからやりたいことだらけで夢を見
る暇もない。
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3 非雇用化の背景(03) 雇用形態の高負担化
非雇用化が必要とされるようになった背景要因を考えてみます。今回は第
3回目で、「雇用形態の高負担化」について振り返ってみます。
既に第1号から第3号までの本文部分を始めとする各所で書き述べて来た通
り、既存社員の一部非雇用化を企業組織が進めざるを得なくなる最大の理由
は雇用のコストが非常に上がってしまっていることです。
まず最も直截的な所では人件費の膨張が挙げられます。最低賃金は年平均
で3%程度上昇を重ねています。新卒者の初任給や若手社員の給与額はどんど
ん最低賃金に抵触する水準に落ち込んで行きます。給与額が上がれば、法定
福利の会社負担額も上昇していきます。
また採用難が続いていますので、採用コストも上昇しています。応募者の
母集団を形成するのも一苦労な上に、ロクな人材がいないとズルズルと採用
活動を継続しなければならなくなります。結果が出ない状態が続き採用コス
トが膨らみます。妥協して採用すれば育成のコストも膨らんでしまいます。
定着させるための福利厚生のコストも一般的には膨張の一途でしょう。
さらに前回の第602話『扶養家族』でも書いた通り、累積残業時間や有給
休暇消化日数、果ては健康状態まで管理する義務が会社に負わされています。
おまけに男女関係なく育休などの各種休暇を取れるようにするなど、以前に
比べてワーク・ライフ・バランスに配慮すると、総じて社員一人当たりの労
働時間も労働成果も減少することが多いことでしょう。こうしたことは雇用
契約ではない働き手であれば考えなくても良い事柄です。
良質な労働力を適切なコストで組織の中に組み入れていく上で、非雇用化
は非常に効果の大きい手段の選択肢であることが分かると思います。
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4 非雇用化導入時の留意点(04) 報酬体系の確立
非雇用化制度導入時の留意点を全5回で5点に分けて紹介します。今回は4
点目です。
社員を非雇用化して業務委託/業務請負の契約形態で働いてもらうことに
すると、報酬は基本原理としては出来高での支払いになります。物理的に社
屋に留まって仕事をしなくても良いような働き方のバリエーションを実現す
る上で、自社内の広く多様な作業をできるようにする必要があります。する
と、単純な特定作業をして、「10個作ったから出来高の報酬は…」というよ
うな単純な報酬体系になることは稀です。
非雇用化する社員一人ひとりの能力のセットを評価して、どのような仕事
を自社に対してやってもらうかを決める必要があります。そして、その業務
で発生する成果を報酬に換算して行く形になるでしょう。
どのような仕事をどのようにやってどのような成果を出すといくら支払う
ことにするのか。これを非雇用化する社員一人ひとり個別に設定して行く形
になりますので、賃金テーブルに従って半自動的に賃金が決まるのとはかな
り趣が異なります。煩雑な作業にはなりますが、できる社員をより柔軟に働
けるようにするための重要なステップですので、本人の同意を得つつじっく
りと取り組むべきポイントです。
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5 非雇用化のメリット(04) キャリア・パスの拡大
非雇用化のメリットを全5回で5点に分けて紹介します。今回は4回目で
「キャリア・パス」について考えてみます。
多くの企業において、社員のスキルは所属している部署の業務を行なうた
めに育成が行なわれていることでしょう。零細企業でさえ事務を行なう社員
は内勤で事務ばかりを行ない、営業担当者は営業ばかり行ない、倉庫の担当
者は倉庫で荷受けや出荷ばかり行なうといった働き方のままで、部署横断的
に仕事ができるように育成し、柔軟に担当業務を融通し合うような体制を組
んでいる会社はかなり少ないようです。
非雇用化する社員は自社内で発生する複数の分野の業務スキルを持ってい
ることが望ましいですが、他社の業務を請負ったり何かの資格を自発的に取
ったりなど、本人が自由にスキルを獲得し、キャリア展開の幅を広げること
ができるはずです。
自社の中で雇用されているだけの状態ではなかなか得にくい会社外部の人
脈や自社の業務には直接的な関係のない業務スキルなど、会社の業務を請け
負う個人事業主ならどんどん自分の裁量で獲得して行くことができるのです。
非雇用化の際には本人にこうしたことを是非行なっていくように奨め、その
恩恵に自社も預かれるような状況を企業側が目指すべきです。自社に今まで
存在しなかったスキルや経験を持つ人材を外部から中途採用する場合に比べ
て、既存社員の非雇用化はリスクが格段に低いことが分かるかと思います。
社員の副業もなかなか許容できない企業が多い中で、業務請負の個人事業
主の立場の働き手まで外部での活動が儘ならないのでは話になりません。自
社の同業他社との契約などには機密保持に十分留意する必要がありますが、
基本的に非雇用化された社員が人脈やスキル、知見などを広く持つようにな
ることで、本人のキャリアの可能性も広がり、結果的に会社もその恩恵に浴
すことができるのです。
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6 関連情報 MSIグループのウェブサイトの関連ページの紹介
今回のシリーズ『励起粒子』をお届けする遥か以前から、既存社員の一部
非雇用化はいろいろなクライアント企業に提案をしています。実際にクライ
アント企業がこのスキームを採用するか否かは別として、説明する機会は多
いので、合資会社MSIグループでは、自社ウェブサイトに既存社員の一部非
雇用化について解説するページを設けています。
『既存人員の非雇用化を進める方法論を企画・実施支援する』
http://msi-group.org/msi-organizational-networking/
シリーズの第一号でも紹介した雇用裁定の9条件などもまとめられている、
他であまり見ることがない内容のページになっています。既存社員の一部非
雇用化に関心が湧きましたら、是非ご一読ください。
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7 MSIグループの仕入完了報告(抜粋)
■『客観性の落とし穴』
村上靖彦 著
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■『いちばん親切でくわしい緑内障の教科書』
井上賢治 著
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■『驚きの「リアル進化論」』
池田清彦 著
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8 次号予告
第604話 『続・既成の新事実』 励起粒子(5) (3月25日発行)
神田昌典は2012年の著書で「2024年に会社はなくなる」と予言していまし
た。勿論、昨年にすべての会社が消滅するような事態は起きませんでしたが、
この予言の的中度合いを考えてみます。
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
MSIグループ 市川正人
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(完)