4月後半ぐらいから5月全体にかけて、映画紹介サイトなどのざっと見で観たいと感じる作品が増え、それがふと気づくと6月に至っても猛攻が継続するといった感じになり、「観ても良いと感じる映画作品候補リスト」がかなり満載になって収拾がつかなくなってきました。その結果、月二本の劇場鑑賞ノルマなのに、5月には5本を観て、6月にも3本を観ています。
それでも消化できない中、7月初旬段階で中位クラスの優先度だった5月17日公開の話題作『ミッシング』は早くも新宿でたった1館1日1回の上映でそれも午前早めという状況になり、同様の優先順だった『映画 からかい上手の高木さん』も全く同じ新宿でたった1館1日1回の上映でそれも午前早めになり、私には面倒で観に行けない状況に陥っていました。中位クラス故に、残念ながらDVDは間違いなく出るであろうこれらの作品をDVD鑑賞で好とすることにしました。かなりの人気の二作の筈であったのに、1ヶ月半を待たずにこの状況になったことには驚かされました。それなりの人気急落ぶりであるように感じます。
さらにこれら大作二作よりはやや私の関心度が高かった『りりかの星』はレビューの内容に書かれている映画の情報から期待度が一気に薄れて、おまけに上映が渋谷で上映回数も少ない状況で断念しました。(レビューで読む他人の作品評価はあまり気にしていませんが、レビュー内に出てくる事実関係などの情報は、まあまあ参考にしています。)これと同様に『つゆのあとさき』もかなり関心があったのですが、渋谷でしか観られず、上映回数も少ないので断念しました。
加えて、関心度がかなり高かった『ディア・ファミリー』も、ずぶの素人が人工心臓開発に挑む物語で、その開発が娘の死を回避できるか否かという物語に、NHKの『プロジェクトX』的な魅力を感じていたのですが、調べてみると、まず人工心臓開発は断念されたことが分かりました。それでは娘を救う何か別の方法を考え付いたのかというとそれもなく、娘は死亡してしまうと知りました。ではどこが感動の物語なのかと思ったら、娘の病気には効果のないIABPバルーンカテーテルを開発し、それはそれで多くの人々を救った話だと分かりました。
死に向かう病床で娘はその発明品が病院で採用された報を聞くたびに、また命が助かると喜んでいたという話が、ギリギリの感動話ですが、実はそのIABPバルーンカテーテルは、発明されたのではなく、米国製が既にあったものの日本人の体に合わない状態で使えないものであったため、その日本版を作ったということと分かりました。つまりゼロから開発した話ではないのです。
この物語の現場であり今尚IABPバルーンカテーテルなどの循環器系の装置・用具を製造している東海メディカルプロダクツ社のサイトにはそのような開発エピソードが書かれているのも読みました。勿論この商品開発が多くの人の命を救ったのは間違いなく、その成果は素晴らしいものと思いますが、当初目標をやり抜き達成するという私が当初抱いていた『プロジェクトX』的なGRIT感が薄い物語と理解できて、急激に関心が薄れました。この作品も相応の大作・話題作ですので、DVDは発売されるものと思いますので、DVD鑑賞に回すことにしました。
その他にも日米オタクカルチャー的視点で関心のあった『Ike Boys イケボーイズ』も期待したクオリティを持っていないことが分かったりなど、5月下旬から6月中旬にかけての候補作がどんどん消えて行き、その中で残った候補作が先日観た6月7日公開の『違国日記』で非常に価値ある作品でした。他にも同日公開の『あんのこと』を近日中に鑑賞する予定を立てつつ、まだ時間が残されていると思われる今後の作品の上映状況をチェックしてみると、6月21日公開なのに7月上旬のうちに上映館数も上映回数も激減している候補作を見つけました。それが本作『映画 おいハンサム!!』でした。
新宿ではまだマルチプレックス系3館で上映を維持しているものの、上映回数は各館で1日2回程度になっていたのです。慌てて、『あんのこと』を一時棚上げし、本作を観に行くことにしました。それが封切から2週間余り経った7月最初の日曜日の新宿ピカデリーの夜9時35分からの回でした。当日ピカデリーでは1日2回の上映です。
『王様のブランチ』では初回登場5位にランクインしていたが、翌週には9位に落ちています。初登場時のランクの高さから考えて、上映回数の少なさは最初からのことではないものと思われます。とすると、不人気が露呈し拡散するなどの何かの要因で、急落したのではないかと考えられます。
実際にシアターに入って見ると、終電時間帯に掛かりかけている時間枠とは言え、観客動員は非常に悪く、私も含めてたった4人しかいませんでした。私以外の3人は30代ぐらいに見える女性1人と20代後半ぐらいに見える男女のカップル1組でした。
私がこの作品を鑑賞候補リストの結構高い優先作品に位置づけたのは、TVer観ていた2、3本のドラマの一つに本作のドラマ版のシーズン2(この作品のウィキをまねて、以下、S2)が入っていたからです。それを見るきっかけもほぼ偶然のことで、当時、これまた開始前にネットで話題だった『セクシー田中さん』を偶然ネットの広告で知り、『勇者ヨシヒコ』シリーズ以降、久々に木南晴夏の名コメディエンヌぶりを堪能していましたが、それが終わってしまい、木南晴夏の他の作品をTVerで探してみたら、この作品に行き当たったのです。調べてみて、ここ最近劇場で観た名作『零落』で注目したMEGUMIが出演していることを知り、俄然、観なくてはと思い立ったのでした。
この作品の魅力は色々ありますが、それはほぼS1の方のDVD-BOXの以下の説明文で言いつくされています。
「■2022年上期満足度No.1ドラマ!
伊藤家のお茶の間エンターテインメントが待望のディレクターズカット版にてリリース!
ドラマ「おいハンサム!!」は、家族×食×恋をテーマに描き深夜ドラマにもかかわらず熱狂的な話題を呼んだホームコメディ。
国内最大級の映画やドラマ、アニメのレビューサービス「Filmarks」が発表した2022年上半期国内ドラマの満足度ランキングにてNO.1を獲得!
また創り手が自ら審査委員となって優れた作品を選ぶATP賞で、「第38回ATP賞テレビグランプリ」ドラマ部門の奨励賞を受賞するなど、
視聴者から批評家まで幅広い支持層から大絶賛された「おいハンサム!!」が根強い声に応えて待望のBluray化!
地上波放送より未公開シーンを追加したエピソードを含むディレクターズ版を収録!
■吉田鋼太郎が演じた父親役の名(迷)演説がSNS等でも話題沸騰!
3人娘・母親役を演じた個性豊かな女優陣の競演も必見!
主演を務めるのは舞台・ドラマ・映画と第一線で活躍する、唯一無二の実力派俳優・吉田鋼太郎。
大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK総合)、『おっさんずラブ』(テレビ朝日)などの話題作で、様々な役柄を演じてきた吉田が、
本作では男を見る目が全くない3人娘に振り回される父親として主人公・伊藤源太郎役を演じる。
3人娘には、今最も旬な個性豊かな女優陣が出演!
木南晴夏、佐久間由衣、武田玲奈が、性格は全く違うがそれぞれ幸せをつかもうと生きる3姉妹を演じる。
さらに、全てを超越したキャラでその演技が大絶賛されたMEGUMIが母親役を務めた。」
S1についてはGEOのDVD宅配レンタルで鑑賞しようと思い立ちましたが、あまりの作品人気と6月に生じて全く解消の見込みが立っていないようであるGEOの(発注から10日以上待たされる)配送遅延状態などの障害で、結局、劇場版の本作鑑賞までにS1を見ることが叶いませんでした。結局私のこの作品についての知識はS2をTVerで観ただけの範囲にとどまっている状態で、劇場版の本作を観ることになったのです。
この劇場版は時系列も発表順そのままで、S1、S2、劇場版と事実関係が連なっているようです。(少なくとも私が知っているS2と劇場版の関係はそうなっています。)ただ連なっていると言っても、特に大きなイベントが起きる訳でもなく、何かの謎解きが完了したり、過去の因縁が解き明かされたりするような展開とは一切無縁の “物語とも言えないような登場人物たちの日常がダラダラと描かれる作品” なので、特にS1を観ていなくても、物語を堪能するのに不便はありません。
そうした状況で観た劇場版は酷い出来栄えでした。日常感が無くなっているのです。S2で描かれる世界は現代版の『サザエさん』とでもいうような日常の積み重ねです。おっちょこちょいや勘違い故のちょっとした出来事は細々と発生しますが、そこにいる登場人物達は敢えて言うならフツーの人々です。特に「ハンサム」と娘たちから称される店舗コンサル会社の重鎮で、家でこそステテコ姿でいたりしますが、言動はまともそのもので、娘達を「伊藤家家族会議」と呼ばれるリアル・オンライン混成の会議に召集しては、彼の考える倫理観・道徳観を分かり易く述べたりする人格者です。
店舗コンサルの商売柄、消費行動由来の教訓なども多く、私も商売柄それなりに学びがある内容です。彼の家族会議における「演説」も説教臭さと冗長さをギリギリ回避する程度に上手く収まっており、父の言葉に娘達が涙するようなシーンもあるぐらいです。倫理観・道徳観・人生観などを一つの軸にした日常を描くという意味では、往年のドラマ『寺内貫太郎一家』などの方が立ち位置は近いかもしれません。いずれにせよそう言う作品です。
ところが劇場版を見ると、ハンサムな父は腹巻ステテコ姿でゴルフのドライバーを手に、半グレ的な男から求愛されている三女を救わんと街に出て行って、なかなか拾えなかったタクシーに乗って、パーティー会場への討ち入りを果たしていますし、そこの大量の第三者が居る場で演説をぶち、それをイカレた若者が聞き入るといった展開が終盤のクライマックスになっています。非現実的で過剰にギャグ的です。同様にその三女は別れ話が持ち上がる現在同棲相手とカフェで掴み合いの大乱闘を繰り広げたりしますし、長女もちょっとした驚きにギャーギャー騒ぎまくったりなど、S2で私が観たことのない非現実的ギャグ状態をそこここで展開するのです。
S2の登場人物達は『サザエさん』的な表現に収まる、地味で(今風に言うと)「ジワる」面白さを持っていたのに対して、劇場版は『寺内貫太郎一家』を大きく通り越して、志村けんや伊東四朗の家族コントの世界にまで届いている表現になってしまっています。これはこれで楽しめる人々もいるのかもしれませんが、私にはS2が持つ味わいを壊す暴挙に感じられてなりませんでした。
変なギャグを担当させられていないMEGUMIは好演が光り、S2でも明かされなかった少女時代のエピソードが出てきて鑑賞の価値を生んだり、それ以外のキャラも時系列的にS2以降の出来事が分かるという意味での価値は僅かにあるものの、到底S2と同列に楽しめる作品ではなく、ただただ唖然とさせられる作品でした。ネット上であまりこの点を指摘する声を読んだことがありませんが、特に探したいとも思っていません。ただ、私と同様の失望を抱いたドラマ版のファンも早々に居て、それが観客動員の急落の理由の一端ではないかと推量はします。
鑑賞当日は終電間近の時間枠で、鑑賞前には時間がなかったため買えなかったパンフを鑑賞後に買おうとしたらショップが閉まっていました。致し方なく翌日再度買い物ついで劇場によりパンフを購入しました。大判で写真もやたらに多い(まるでマーベルのヒーロー作品のパンフのような見栄えです)パンフにざっと目を通しましたが、この作品の魅力となりそうな何かの新しい要素や情報が目に入ることはありませんでした。
テレビドラマと劇場版作品の関係性には色々なバリエーションがあるように思います。最近では4月に『映画 マイホームヒーロー』、3月に『ウルトラマンブレーザー THE MOVIE 大怪獣首都激突』、『風よ あらしよ 劇場版』を劇場で観ました。『映画 マイホーム…』はテレビ版の物語の純粋な事後譚で、テレビ版を観ていないと全く分からない展開が分からず(テレビ版を観ていてもそうかもしれませんが)不明点が多々解消しないままに終わる内容でした。『風よ…』はテレビ版をつないで編集して映画にしたものという完全に総集編的な位置づけです。『ウルトラマン…』は前半と後半に映画が分かれていて、前半でテレビ版を総括し、後半で劇場版オリジナルの物語を描きました。
こうした色々なバリエーションの中で、登場人物設定が物語の進行と共に多少更新される以外に全く積み重ね感がない本作のテレビ版に、その事後譚を持ってきてもただダラダラと話が続き、何か大団円が訪れるべきではないことは誰でも分かることと思います。それを無理矢理に変なギャグめいた演出と非現実的な父の演説で盛り上げようとした安易さに企画段階での無謀と浅慮を私は感じ取れるように思えてならないのです。
時系列の全体の物語のピースにはなっているため、あまり再鑑賞の価値は認められないものの辛うじてDVDは買いかなと思います。それより先にS1がなかなかレンタルすることができない状態が続き、口直しに早々に観たくなって件のDVD-BOXを通販で購入することにしました。
☆映画『映画 おいハンサム!!』