597 洋風奴隷

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経営コラム SOLID AS FAITH 第597号
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 ご愛読ありがとうございます。第597話をお届けします。

 今号を含めて今年の発行もあと2回となりました。年の瀬が迫っています。
年の瀬より1ヶ月弱遅れて、今度は当コラムの600話に到達します。1年間に
24話発行しますので、約4年で100話進みます。番外の長い特集をお届けする
毎周年記念特別号と異なり、毎100話発行記念特別号は通常号と同様のシ
リーズにその関連記事を付ける形で、数話にわたってお届けするのが慣例と
なっています。

 600話発行記念特別号は社員の非雇用化をテーマにして、全5話をお届けし
ます。シリーズタイトルは『励起粒子』。インフレの進行や過剰な労働規制、
そしてライフスタイルの多様化など、さまざまな要因から中小零細企業が雇
用を維持することが困難且つ不経済になりつつあります。非雇用化には社員
を業務委託の個人事業主にする方法の他にも、単に自社や関連会社の役員に
する方法や、既存の社員を派遣社員の立場に移行するなどの方法も一応存在
します。しかし、今回のシリーズでは社員の個人事業主化にフォーカスした
5つのコラムと解説をお送りする予定です。2ヶ月半に及ぶ連載にご期待くだ
さい。
 
 今回の号は『洋風奴隷』と題して、海外での非正規雇用の労働力について
考えてみることにしました。本来当コラムは国内の中小零細企業の経営につ
いて考えるコンセプトなので、少々本来の姿から逸脱した内容ではあります
が、クライアント企業の方々と話をしていて、このような話がほとんど知ら
れていないので、敢えて一話にしてみることとしました。

 国内で非正規雇用というと、派遣労働者やパート・アルバイト社員などの
立場を想像します。今回のコラムで紹介する海外事例は、通常の労働者とは
異なる、法定の最低賃金を大きく下回る賃金で働く人々のケースです。日本
の中小零細企業の生産性が低いと非難する向きがありますが、(勿論、これ
のみが要因である訳ではないものの)こうした労働力が大量に「他の先進国」
と呼ばれる国々には存在することは知られるべきであろうと思われます。
 
 こうした国々の格差の統計の底辺に本文に登場するような立場の人々がき
ちんと含められているのかさえ、かなり怪しいように思われます。それでな
くても日本に比べて激しい格差が存在する国々の、法定最低賃金さえもらえ
ない労働者群についてご一読ください。
 
 25周年記念特別号でも触れましたが、日本の中小零細企業の啓蒙・育成、
動機づけまで含めた「雇用」のありかたが、間違いなく大きな社会貢献であ
ることが理解できるのではないかと思えます。ご意見・ご感想をお待ちして
おります。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!

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その597:洋風奴隷

 米国の「三振法」について知ったのはだいぶ前。この法律の内容は名前の
野球用語ほど明るくない。死刑または1年以上の禁錮の刑が科せられる重罪
の前科が二回以上ある者が三回目の有罪判決を受けたら、三回目がどれほど
微罪であっても終身刑を科される法律。
 
 この法律は1990年代から広がり始め、米国の半数以上の州に存在する。最
近あまりに厳罰が過ぎると緩和が検討されつつあるものの、大きな変革は為
されていない。その影響もあってか米国の収監人口の多さはよく知られてい
る。人口は3億人程度なのに常時約220万人が収監されていて、全世界の囚人
の2割以上が集中している。日本の収監人口を改めてネットで探すと、高い
時でも8万人、現在は4から5万人の範囲で、2ケタ違う。
 
 最近読んだ増田悦佐の2015年の著書『いま、日本が直視すべきアメリカの
巨大な病』にはそうした米国の囚人の話が登場する。彼らの日給は93セント
から4ドルの範囲で、最大値の4ドルでさえ当時の法定最低賃金一日分の半分
に満たない。これらの囚人労働力を大手企業が率先してフル活用しており、
「ボーイング、スターバックスコーヒー、ヴィクトリアズ・シークレット
(セクシー・ランジェリーカタログ販売最大手)といった企業が含まれてい
る」と書かれている。米国の就業者数は1億5000万弱。多くは低賃金に喘ぐ。
企業はこれらの被雇用者に対して賃金以外の各種コストをも負担せねばなら
ない。一方囚人は賃金以外すべての管理コストを税金で賄える。率先して活
用しない方がおかしい。
 
 こうした雇用上人と見做されないような待遇の労働力は他の先進国にも広
く見つけることができる。EU全体に一時期毎日3万人という単位で流入して
いた難民の多くは今でも法定賃金外の安い労働力として酷使されているらし
い。中国でも農村部の人々の賃金は都市部の人々の10分の1以下と書くネッ
ト記事もある。『戸籍アパルトヘイト国家 中国の崩壊』なる書籍もあるほ
どに、実質的な差別政策と見るべきらしい。
 
 ニュースでは日本の生産性は低く、日本の賃金は低く、取り分け中小零細
企業が足を引っ張っていると頻りに喧伝されている。確かにそれらは上がっ
た方が望ましいが、毎年参加している中小企業診断士の登録更新研修で、
「我々診断士が中小企業の生産性を上げ、賃金向上を実現して、日本経済の
遅れを取り戻さねばならない」などと聞くと辟易する。
 
 増田悦佐の書籍には米国では物価上昇について行けない庶民が通常のスー
パーマーケットを去り、ディスカウント・ストアで食品を買い漁るようにな
り、さらにはそれも困難になって日本でいう100均に群がり出したことが統
計で分かると書かれている。それも2015年のこと。よく聞く「他の先進諸国」
は人と見做されない人々の労働に支えられている。

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『やまとなでしこの性愛史: 古代から近代へ』 和田好子 著
■『「安いニッポン」が日本を大復活させる!』 武者陵司 著
■『不条理な会社人生から自由になる方法 働き方2.0vs4.0』 橘玲 著

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 MSIグループ 市川正人
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次号予告:
 第598話 『燃えつきた地図』 (12月25日発行)
 後継経営者が見当たらず廃業する中小零細企業が増えています。オーナー
一族の次世代の動機付けについて少々考えてみました。

(完)