『イソップの思うツボ』

 封切から2週間少々経った9月上旬の水曜日の午後、多分初めてだと思われる品川の映画館に行って観て来ました。当日、ネットで見た上映館は23区内で6館ほどでしたが、不思議なことに、そのうち2館は既に8月末で上映が終了していました。なぜそれらの館もリストアップされるのかがよく分かりません。残り4館の中に新宿も含まれていましたが、1日1回の上映の時間が予定に合わず、品川まで足を伸ばすことになりました。

 普段入らない品川駅西側のモールはお祭り騒ぎのように混雑していて、入口では(新宿ではポケット・ティッシュを配っているのをよく見る)『全裸監督』のキャンペーンで内輪が配られていたので、1枚貰って映画館を探しました。

 リストアップされた上映館すべて1日1回の上映状態で、鑑賞の機会は風前の灯と言った状況です。15時45分の回に初めての場所なのでかなり余裕をもって到着しました。マルチプレックス・シアターにしては随分と殺風景なロビーからシアターに入ると、観客は私も含めて6人しかおらず、男女半々の3人ずつ、年齢構成は男女共にかなり上に偏っていました。

 私がこの作品を観に行くことにしたのは、「上田慎一郎監督ら『カメラを止めるな!』の製作スタッフが手がけた、オリジナル脚本による青春ストーリー」と映画サイトに紹介されていたことです。『カメラを…』、通称『カメトメ』は、それなりに話題になっており、私の周辺でも観た人々は多く、よく「『カメトメ』観ました?」と聞かれました。しかし、私は単純にゾンビ映画がどうも好きになれないことから、全く関心が湧かないままに『カメトメ』をパスしています。そこでせめて、同制作陣の別作品を見てみようと思い立ち、ずっと、この『イソップの…』を観に行く機会を作ろうと思っていました。月末月初の相対的な繁忙と上映回数の少なさが相俟って、全然行けないままに封切から2週間が過ぎたら、上映終了の気配がアリアリと湧いてきて、慌てて観に行ったものです。

 鑑賞者のレビューで見ると、「インディーズ感バリバリで、非現実的なストーリー」などの比較的パッとしない評価が並んでいます。極めて低評価でもなく、しかし、決して感激感動を呼んだということもない…と言った感じで、レビューアーがこの作品をどう評価しようかと悩んでいる感じが浮き出ています。多分、『カメトメ』ファンが続編に対する期待満々に観た結果なのではないかと思えました。

 上映館数もやたらに少ない(インディーズ作品なのかどうか、私には定義的によく分かりませんが)マイナー映画であるのは間違いありませんから、「インディーズ感」がバリバリなのは当然のことです。それを言ったら、『カメトメ』だってインディーズ感バリバリであるところがウケた映画であろうと私は想像しています。「非現実的なストーリー」と言うのも、ドキュメンタリー映画でもなければ、普通は大なり小なり映画は非現実的なものです。それを言ったら、それこそ、『カメトメ』のように日常生活の端っこに簡単にゾンビが闖入してくる方が余程非現実的です。

 私も色々な映画で物語の辻褄が合わないことが気になったりします。また、登場人物の性格設定から無理があると感じた言動などは結構気になります。しかし、それらは、そういうことが了解されている映画での「綻び」であって、物語全体に対しての「非現実性」などであることはあまりありません。

 その点、この映画を私はかなり面白く観ることができました。「非現実的な物語」はその通りですが、ぶっ飛び加減で言うと、『罪とか罰とか』のぶっ飛び具合に比べると全然ぶっ飛んでいませんし、『乱暴と待機』や『腑抜けども悲しみの愛を見せろ』などの本谷有希子の映画などに比べると物語はストレート・フォワードで分かりやすく、『変態だ』や『愛を語れば変態ですか』のようなモロにインディーズ・インディーズしたエグさもありません。そしてもちろん、『東京無国籍少女』のような作り手の自己満足のために作られたような、観る者を置き去りにするイミフな展開もなく、非常に好感の持てる作品です。比較的マイナーな映画の中で私にとっての印象は『亀は意外と速く泳ぐ』が近いように感じます。

 この映画には三人の女子大生ぐらいの年齢の其々に魅力的なヒロイン3人が登場しますが、誰一人として私は見た記憶がない人々です。中でも一番露出の多い当初地味な女子大生の美羽役を演じる石川瑠華は、実質、一人二役と言っても良いぐらいの役割で快演しています。一応、後で全部の話が収束する群像劇っぽくなっていますが、偶然の産物ではなく、実は、裏で裏社会の人間が書いた台本(本当に台本を書いている所がツボです。)に従った多層構造の狂言でした。その点が、登場人物は絡み合うものの物語的に退屈なだけの『ヘイジャパ!』よりは遥かにマシですが、できれば『パルプ・フィクション』級、せめて『エイプリルフールズ』ぐらいにはまとめて欲しかったようなレベルの物語ではあります。それを「おおっ」と見入るものに仕立て上げているのは、彼女の貢献による部分が非常に大きいように思います。

 たった87分の映画ですが、中盤を越えた所で『ヒメアノ~ル』のように、いきなり派手なタイトルバックが挿入されて物語の転調をきちんとイメージさせたり、シーンごとにカメラワーク的に印象的な映像をスタートに配置するなど、結構スタイリッシュで、スピード感もあり悪くありません。初めてこういうケースを見たように思いますが、一つの物語なのに三人の監督がいて、パンフレットに拠れば、頻繁に議論をしながら制作にあたったようです。それらの論点の多くは、パンフレットを読んでから思い返してみて、「ああ、なるほどな」と頷けるものが多いように思えました。『カメトメ』は観ていなくても、きっとこういう面白さがあるということなんだろうなと(実際はどうか全く分かりませんが)思える面白さが間違いなくありました。DVDは出るなら買いです。

追記:
 映画館を後にすると、品川駅前に出てくる途上の建物では何かアニメ系のイベントがあったようで、男女、少々ゴス系またはパンク系の服装の目立つ若者が長蛇の列を成していました。以前、『ザ・ファブル』を観た際に新宿ピカデリーで見た膨大な数の人々にも驚かされましたが、アニメがクール・ジャパンのコンテンツであるということ強く認識させられます。