10月末日の封切から1週間余り経った日曜日の午後3時半からの回を、札幌市内の元ビール工場の商業施設の映画館で観て来ました。今年1番最初の映画として『聖☆おにいさん THE MOVIE ホーリーメンVS悪魔軍団』を観てきた映画館です。すみっコ達の映画は今回が第4作目で、第1作から娘の影響で観て来ていますので、コンプリート目的で観に行くことに決め、娘と二人で観に行ってきました。
札幌市内には2つの上映館がありますが、札幌駅に覆い被さるようにある商業施設の映画館は1日3回の上映で午前中まで2回の上映を終え、残り1回は夕方遅い開始時間で都合が空いませんでした。そこで、今回のビール工場跡の映画館にしました。こちらは1日4回やっていますが、今回観た15時半からの回でさえ、1日の中で最終上映回です。子供連れが観に来る映画なのでそう設定されているのでしょうが、朝一番が7時50分からという早さで、子供連れが日曜日の朝早くから映画を観に来るという状況が、今一つ想像できません。
この映画の上映館は東京では都内には28館あり、新宿では1館ですが、池袋など1立地に複数の上映館があるケースもありますから、かなりの人気作であるのは間違いありません。現実に新宿のピカデリーなどでは、映画館に至る入口からのホールでのデジタルサイネージにすみっコ達を何度も多角的に大写しにするようなプロモーションを長く展開していました。上映回数も新宿ピカデリーなどの多い館では1日4~5回ぐらいになっていたりしますので、札幌の映画館でのこの作品の評価は相対的にやや低めとみることもできそうです。
この映画館の1日4回の上映のうち、最初の3回は通常上映ですが、私達が観た最終回は「デビューdeシネマ」と銘打たれた分類になっており、「小さな子供連れでも映画館デビューしやすいように配慮された上映会」とネットには書かれています。実際にシアターに入ってみると幼児を連れた親子連ればかりで、全部で大人が20名ぐらいに対して幼児がほぼ同数いたように見えました。単独客は見渡した限りゼロと言う、過去にあまりない体験でした。
大人の方は両親セットが意外に多く、次いで、母が子供を連れて来ているケース、そして、数組単位ですが、父が子供を連れて来ているケース、さらに1、2組ぐらい、祖父母のいずれかといった年齢の人物が幼児を連れてくるケースなどといった構成でした。連れられている子供は皆幼く、未就学児童ばかりのように見えました。成人している組み合わせは私達だけであったように思えます。
鑑賞日の前日の土曜日に観た『王様のブランチ』の週間TOP10ランキングで、この作品は初登場第4位になっていました。前作(第3弾)はまあまあのヒットで、上映がそれなりに長く続いていました。このシリーズは第1作目が「舐めていたら、号泣の物語だった」など衝撃の出来栄えで、ロングランを果たし、それが第2作で失速し、主人公達に何か合っていないようなシュールな物語にアクションをシーンまで加えた第3作でやや盛り返したように思えていました。それを受けての第4作は再び期待感が盛り上がっていたように感じていました。
映画.comの紹介文章は以下のようになっています。
[以下引用↓]
サンエックスが展開する人気キャラクター「すみっコぐらし」を劇場アニメ化した「映画 すみっコぐらし」シリーズ第4弾。
すみっコの町では雨の日が続いており、揚げものコンビ「とんかつ」と「えびふらいのしっぽ」の体がじめじめになってしまう。そんなある日、空から突然誰かが落ちてくる。すみっコたちが心配して駆け寄ると、それは空の王国からやって来た「おうじ」だった。おうじによると、雲の上は深刻な水不足になっているという。雲の王国のピンチを救うため、すみっコたちはおうじとともに空へ向かい、大冒険を繰り広げる。
ナレーションを務めるのは、これまでのシリーズでもおなじみの井ノ原快彦と本上まなみ。3DCGアニメ「ピングー in ザ・シティ」「グレゴリーホラーショー」などのイワタナオミが監督を務め、劇団「ヨーロッパ企画」に所属する俳優・脚本家の角田貴志がシリーズ1作目と3作目に引き続き脚本を担当。
[以上引用↑]
まるで『そらのおとしもの』の設定のように、すみっコ達の住む街の上に天上の王国があって、そこから王子が落ちて来ます。(キャラ設定上、王子の表記は「おうじ」ですが、固有名詞では本来ないものと思いますので、この記事では漢字表記にしておきます。)それを追って、すみっコ達に対するみにっコ達のような存在に見える、羽の生えた「おつきのコ」が現れ、物語はどちらかというとすみっコ達の話より、おつきのコに見守られた王子の冒険譚が主軸になっています。すみっコ達は、王子の冒険が自分達の街の降り続く雨を止めることにもつながると考えて王子に同行し協力するだけという立ち位置になっています。
天上の王国では水が涸れ、天上の王国で言う大地を形作る雲が徐々に消えて、王国存亡の危機が訪れています。すみっコ達の街では雨が降り続き(実はその雨が王国の雲から降り続いているので、王国の大地は縮小している様子です。)、みにっコのホコリ達はカビになってしまったり、近日中に開催が迫っているおまつりができなくなってしまうという問題が起きています。
天上の世界には王国そのもの以外の幾つかの雲の大地の地域があるようで、『BLEACH』の霊王宮のような構造に見えます。そのいくつかを巡り水の宮殿に行かなければ、天上世界の水供給問題を解決できないということが物語の前半で判明し、王子とおつきのコ、そしてすみっコ(+みにっコ)達がその冒険に挑むことになるのです。
一行は道程の道案内兼謎掛け的な箇所を5ヶ所回り、その各々で大きな宝石を手に入れます。水の宮殿からは水の供給がストップしており、そのしくみを再起動するには、集めた宝石を石板にはめ込む必要がありました。ところが石板は6枚あり、宝石が1個足りません。実は、王子の祖先にあたる初代の王様やその王族達が天上世界を作るに当たり、その水供給を確保するため、水の宮殿を作り、大事なカギとなる宝石を天上世界のあちこちに隠し、最後の核となる1個を自分達の王宮に置いておいたというのです。
そして、王宮で長年飾られてきた宝石は、その周りで父の王が繁忙で淋しい想いをしている王子を見つめて来ていて、また王子の方も宝石に魅入られ、宝石に話しかけるようになっていました。或る日、寂しさのあまり、涙する王子を見て、宝石はおつきのコに変化(へんげ)して王子に寄り添うことを決めたのでした。つまり、おつきのコが最後の宝石であったのです。おつきのコが宝石に戻って石板に嵌ろうとした際に、王子は今までの二人の絆故に、引き込まれ行こうとするおつきのコの非常に短い手を掴み引き戻そうとします。すみっコ達もみにっコ達も一致団結して、おつきのコを引き戻し、あろうことか引き込む力を止めるために石板を破壊してしまうのでした。
その結果、水の供給の再開の目途が立たなくなり、王子は王国の存亡よりもおつきのコとの絆を優先して滅びの時を待つ…、となるのかと思ったら、宮殿の地下階段を下りて行ったところに大きなバルブがあり、それを意を決して、王子とおつきのコが開くと、水の供給がめでたく始まるのでした。
何かおかしな物語で、色々な点で辻褄が合わないというか、合理的な説明が成立しません。例えばこんなところです。
■すみっコ達の街の長雨が天上の王国の大地が流れ出したものであることは分かったが、なぜ流れ出しが始まったのかが、全く分からない。
⇒天上の王国は雨を降らせることで流出する水を水の宮殿からの供給で補う構造になっているようですから、供給が止まれば存続できないのは分かりますが、なぜ雨が延々振り続くようになってしまったかの説明は全くありません。
■水の宮殿の配水システムと宝石の役割が分からない
⇒そもそも水の宮殿の配水システムがよく分かりません。なぜ今故障になり配水が止まったのかが全く分かりません。宝石は今までもあちこちに隠されていた訳ですから、配水システム維持のために必要なものではないことになります。とすると、宝石を集め直して嵌めると「再起動」するためのスイッチとして機能すると解釈できます。だとすると、再起動後は従前どおり宝石は不要になりますから、宝石を外して何処かで保管する必要があることになりますが、そんな設定にはなっていません。
■おつきのコを宝石として扱わないことの倫理的問題
⇒最大の問題は、宝石が配水システムの再起動スイッチだったとして、おつきのコはその宝石の一つですから、宝石に戻って石板に嵌るのが宿命であって、それに友情を優先させる王子も王子ですが、石板を破壊してまで、それを邪魔しようとするすみっコ達の行為は天上の王国民からしたら市中引き回しとか磔・獄門ものの大罪に当たるのではないかと思えます。
⇒もし前項の仮説が正しく、宝石群はシステム再起動の後、不要になるのなら、おつきのコも再起動の後、再度宝石からおつきのコに戻って幸せに暮らせば良さそうに思えます。
■水の宮殿の完全回復の不可能性
⇒石板を破壊してしまった以上、(それが単なる再起動システムでしかなく、配水システムそのものの維持運営には関係なかったとしても)水の宮殿は破壊され、本来閉めたままになっていたバルブを手動で開けることで配水を再開しています。つまり、何らかの配水システムの調整機能を破壊したまま、ダダ漏れに配水される状態をを作ってしまったように見えるのです。エンドロールの段階で、このシリーズお約束のその後の様子が描かれますが、何か水の宮殿での建築作業的な場面が登場しています。しかし、一般に考えれば、建築作業で配水システムは元に戻らないことでしょう。
その他にも、色々と突っ込みどころがあります。
宝石の一つを手に入れる「試練」の場面で、ウォーター・スライダー並みの巨大で急傾斜のボウリングのレーンのような所で、遥か下方のピンを倒すという展開がありますが、5球投げられるうちの4球で、完全スプリット状態の2本が残り、皆が絶望視したところ、すみっコのねこが魔法使いになっているので、魔法で球を巨大化させ、レーンを食み出すぐらいの大きさにして、残るピン2本をなぎ倒す奇策を披露しています。しかし、これができるのなら、第1球目でこれをやれば、ハラハラドキドキもなく、いきなり安易に成功していたはずです。
王子とおつきのコがバルブを開いた後、激流に飲み込まれ他の天上の地域への配水に乗って流されて行く場面で、すみっコのとんかつとみにっコのエビフライのしっぽが再び魔法で合体してエビフライドン(ドラゴン状の形態ですが、何故かとんかつが名前に全く存在感が残っていません)になり、飛行して彼らを助けるという場面があります。娘に拠れば、別に彼らがわざわざ魔法で合体しなくても、元々すみっコのしろくまはこの時点で飛行可能設定のようですし、とかげは本来ネッシー的な恐竜で、ぺんぎん?は本来河童なので水中活動が全く問題ないはずですから、彼らの方が手っ取り早く王子とおつきのコを救えたように見えるとのことでした。
さらに、普段、とんでもなく動きがのろのろし、判断も迅速にできないすみっコ達なのに、なぜかバルブ開けに行った王子とおつきのコを救出するためには、(描かれていませんが)妙に迅速に精緻な計画の下に救出場所を特定して待ち受けているのは何故かとか、色々と突っ込みどころは見つかります。
物語の破綻という観点で見れば、シリーズ4作の中で一番ひどい状態と見ることができるように見えます。特に第1作のすみっコ達の世界についていくことを選ばず、後から落書きで絵本の余白に書き込まれたひ弱なキャラが、自ら絵本の世界に残ることを選択するような、諦念と自己肯定の日本文化的価値観を前面に打ち出しているのに対して、今回の話ではおつきのコが自己犠牲を払って配水システムを再起動するのは必然であったように思えます。それが何か必死に避けねばならない非道のように描かれているのは教育上の問題さえ感じかねないほどの問題に感じられなくはありません。
一方で、シリーズ4作中で、すみっコ達の格好も様々なコンセプトで変化し、その都度、愛くるしい姿を見せてくれると同時に、行った先の世界も、天上の王国の周辺を進むたびに、不思議の国のアリスとかのようなファンタジー全開の世界観を披露してくれています。そうした見た目の優れた度合いから見ると、シリーズ最高傑作とも見え、少なくとも幼児には面白さ満点と言った状況かと思われます。
マーケティング戦略的に、ターゲットを子供に移したとか、そういうことなのかもしれませんが、少なくとも私にはシリーズの中では最低作のように思われました。上述のような見た目の秀逸さがあり、じっくり鑑賞するのではなく、BGVなどで流すような用途にはすみっコ作品の最高傑作であるかもしれません。68分の尺で「デビューdeシネマ」の薄暗がりの中、特に泣き叫んだりむずがるような子供もいませんでした。
ジャニーズ系の問題からか、第3作ではナレーションが本上まなみだけになっていましたが、今作では井ノ原快彦が再びナレーションに復帰して、妙に張り切っているため、声がかなり耳につきます。すみっコ達は何も台詞がなく(考えが僅かに文字で空中に出ることはあります)、本来何を考えているのか解釈しきれないような中で、ほんの僅か、補う程度にナレーションが入るというような記憶がありますが、本作ではかなり頻繁に特に井ノ原快彦の声が手取り足取り状況を教えてくれるような感じで、かなり気になります。
そうした意味でも、ボリュームを下げて、映像を純粋に流しておき、動く壁紙やスクリーン・セイバーとして眺める用途的価値が大きい作品に見えました。DVDは辛うじて買いかなと思います。
追記:
構造が複雑で見通しが利かず狭苦しく感じるロビーの人々の中に、まるで実写のスクリーンから抜け出してきたような『ゴールデンカムイ』のコスプレをしている人物が二人いました。アシリパと杉本です。さらにこの二人とは別に、コスプレなのかそういう趣味なのか分からない格好の女性が居ましたが、娘からロシア人のソフィアという猛烈おばさん役のコスプレをしている人であると教えられました。元々『ゴールデンカムイ』には全く関心がないので主要キャラのふたりを識別するのが精一杯でしたが、ソフィアの方も娘がスマホで見せてくれたアニメキャラの再限度が非常に高いコスプレであることを知りました。アニメでも第三期からの新キャラらしく、このキャラをコスプレで選ぶ選択眼が秀逸に思えます。
コンセッションの女性スタッフに聞くと、彼女もこのコスプレ来場者のあまりの完成度に話しかけてみたらしく、刺繡まで自分で行なった力作のコスプレであると本人達が言っていたという話でした。彼女によると、『ゴールデンカムイ』の応援上映が(私達の鑑賞よりもやや早い時間に)予定されていたらしく、それが目当てのお客であるという話でした。