9月19日の封切から丁度3ヶ月経った水曜日の早朝、8時25分からの回を観て来ました。封切時から大人気で『王様のブランチ』でも2ヶ月程度興行成績トップテンのランキングに居座り続けた快作です。私は他に寿命の短そうな観たい映画作品があるのでそれらを優先して観ていましたが、気づくととうとう新宿バルト9でも1日1回の上映にまで人気が翳っていました。それでもかなり強力なアニメ作品だと思います。一方で『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章』が7月18日に封切られ、各種の記録を塗り替えつつ、世界的大ヒットを巻き起こし、今やジャパニメーションと言えば「キメツ」というほどになっているさなかに封切られ、それで3ヶ月人気を維持するのは尋常なことではありません。
上映館数だけで観るなら、新宿だけでも歌舞伎町の超高単価劇場が「外国語字幕版」を上映しているのを含めると、マルチプレックス4館揃い踏み状態が続いています。大人気です。しかし、各館で客足の減退は強く認識されている様子で、全館1日1回の上映になっています。上映館数が急減する気配を感じ、慌ててバルト9に足を運ぶこととしたのです。上映時間だけでみると、朝が苦手な私が7時起きをしてまでバルト9に行かなくても、午後の上映がピカデリーやゴジラ生首ビルの映画館などであるのですが、久々に映画鑑賞の梯子をする良い組み合わせがあったので、敢えて気合を入れてバルト9に行くことにしたのです。
梯子の組み合わせは『セフレの…』でシリーズ第4作です。こちらの方は封切から僅か1週間しか経っていませんが、既に1日1回のかなり危うい状態です。この『チェンソーマン…』と二つ合わせて上映状況がかなり危うい作品二本の一気観を実現するべく思い立ったのでした。本作を観終ってインターバル約40分でもう一つのお目当て『セフレの…』が始まるスケジュールでした。
私は原作コミックも含めたこの作品がとても好きと言うほどではありません。嫌いというほどでもなく、どちらかというとニュートラルな感じの作品でした。『週刊少年ジャンプ』で連載していた『公安編』しか知らず、その後は全く追い掛けていませんし、アニメも全く観たことが無いまま今回の映画鑑賞に臨んでいます。物語も血飛沫全開で悪魔や魔人などの設定、さらにその能力の特殊さなど、見るべきものがたくさんあるものとは思っていますが、それでも、大ファンというほどのことにはなりませんでした。
それがやや変わった切り口から関心が高まることになりました。コミックで出ていて、映画化された『ルックバック』を知ったことです。その出会いは結構唐突でした。『ルックバック』の感想記事に以下のように書いています。
[以下抜粋↓]
私がこの作品の存在に気付いたのはその封切直前で、どちらかというと、唐突にその存在が近日上映予定作品の何かのリストに発現したといった感じに思えました。またその映画紹介のサムネイル画像が独特の画質です。全く詳細情報のない『君たちはどう生きるか』などもその情報の無さ故に話題になりましたが、そういった独自感ではなく、絵そのもののタッチや構図がかなり独自なのです。
このタッチの独自さは、イラストを自分で描く楽しみのない私には技術的に何が違うか全くわからず説明できないのですが、後にパンフレットを読んで、多分この点に関わる部分らしき説明を見つけ、素人ながらなるほどと納得したのでした。構図の方は少女二人の並んだ顔のドアップです。それもこちらを見ているのではなく、何か下方をワクワクしながら見つめているような歓喜の表情のドアップで、タッチの独自さと相俟って、非常に印象に残ります。
そしてこの少女たちの顔をよくよく見ていると、どこかで見たことのある作者のものであると分かり、頭の中を色々と検索し、それが『チェンソーマン』のものであると気づきました。イラストのサムネイルを見つめて数分の間のことですが、とても長く感じられました。私も連載中の第一シリーズはそれなりに読み込んでいたのですが、同作者の新作が毎週の『週刊少年ジャンプ』で目立った告知もないままに始まっていたのかと疑い、すぐにこの作品を映画.comでクリックしました。そこにあった説明は以下の通りです。
「「チェンソーマン」で知られる人気漫画家・藤本タツキが、2021年に「ジャンプ+」で発表した読み切り漫画「ルックバック」を劇場アニメ化。「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」や「君たちはどう生きるか」などさまざまな話題のアニメに携わってきた、アニメーション監督でアニメーターの押山清高が、監督・脚本・キャラクターデザインを手がけ、ひたむきに漫画づくりを続ける2人の少女の姿を描く青春ストーリー。
学生新聞で4コマ漫画を連載し、クラスメイトからも称賛されている小学4年生の藤野。そんなある日、先生から、同学年の不登校の生徒・京本の描いた4コマ漫画を新聞に載せたいと告げられる。自分の才能に自信を抱く藤野と、引きこもりで学校にも来られない京本。正反対な2人の少女は、漫画へのひたむきな思いでつながっていく。しかし、ある時、すべてを打ち砕く出来事が起こる。
ドラマ「不適切にもほどがある!」や映画「四月になれば彼女は」「ひとりぼっちじゃない」などで活躍する河合優実が藤野役、映画「あつい胸さわぎ」「カムイのうた」などで主演を務めた吉田美月喜が京本役を担当し、それぞれ声優に初挑戦した。」
画像記憶ができない私にしては『チェンソーマン』の作者が合っていただけで及第点だと思いますが、全く知らない話でした。同じく『チェンソーマン』第一シリーズ好きの娘に話したところ、娘は既にこの物語の存在を知っているどころか、一巻完結のコミックまで持っていて貸してくれました。娘にとってはどうも佳作といった評価のようで、特にノリよく薦められた訳ではありませんが、私はこれが動いたらどんな風になるのだろうかとコミックの淡々と進む物語から映画を想像し、そして、それが1時間に満たない作品として完結する様子を想像してみて、観に行こうと決めたのでした。
[以上抜粋↑]
この『ルックバック』を観てみて、この作者に対する印象が『チェンソーマン』を通じて形成されていたものからかなり変化しました。端的に言うと、瑞々しかったのです。『チェンソーマン』の数あるエピソードの中でも、本作の『…レゼ篇』はまさに主人公デンジの恋、それも劇的な悲恋の物語です。それなら、大人気と話題の『チェンソーマン』の劇場作品を観てみる価値があるかなと思い立ったのでした。
シアターに入ってみるとざっくり数えて25人ぐらいの観客が居ました。総じて年齢層は低めで、かなり20代~30代に偏っています。2人組は3組居て、2組が20代の距離近めの男女カップル、1組があからさまに古き時代の典型的オタク層を絵にかいたような30代前半ぐらいに見える男性2人組でした。女性はこれらカップル2組の片方の2人以外に、30代ぐらいの女性単独客が3人、高齢で私と同年代ぐらいに見える女性単独客が1人だったと思います。それ以外はすべて男性単独客で、私を含めてオッサンどころかジーサンと括れそうな年代の男性単独客が4人いました。
映画.comの紹介文は以下のようになっています。
[以下引用↓]
2022年にテレビアニメ版が放送された藤本タツキの大ヒットコミック「チェンソーマン」の人気エピソード「レゼ篇」をアニメーション映画化。テレビアニメの最終話からつながる物語で、主人公デンジが偶然出会った謎の少女レゼに翻弄されながら、予測不能な運命へと突き進んでいく姿を、疾走感あふれるバトルアクションとともに描き出す。
「チェンソーの悪魔」との契約により「チェンソーマン」に変身し、公安対魔特異4課所属のデビルハンターとして悪魔たちと戦う少年デンジ。公安の上司である憧れの女性マキマとのデートに浮かれるなか、急な雨に見舞われ雨宿りをしていると、レゼという少女に出会う。近所のカフェで働いているというレゼはデンジに優しくほほ笑みかけ、2人は急接近する。この出会いをきっかけに、デンジの日常は大きく変わりはじめる。
テレビアニメ版に引き続きMAPPAがアニメーション制作を手がけ、テレビアニメ版でアクションディレクターを担当した??原達矢が監督を務めた。テレビアニメ版のオープニングテーマも世界的ヒットを記録した米津玄師が主題歌を手がけ、エンディングテーマでは米津と宇多田ヒカルがコラボレーションした。
2025年製作/100分/PG12/日本
配給:東宝
劇場公開日:2025年9月19日
[以上引用↑]
観てみると、やはり、想定以上にレゼとデンジの物語が心を揺さぶるものでした。特に前半は典型的アオハル的恋愛物語全開です。勿論、その流れは知っているのですが、アニメになるとその鮮烈さが際立ちます。雨宿りの出会い。慣れないコーヒーを大人ぶって飲むデンジとその脇に詰め寄って来て勉強をするレゼ。そして、『台風クラブ』着想を得たというこれまた定番の台風で校舎内に孤立したシチュエーションから、夜の二人っきりのプール。それも二人とも全裸のプール。そして夏の花火を見る高台。すべてが典型的アオハル恋愛物語の場面ですが、それをこれでもかと言わんばかりに組み合わせています。
その上、謎めいていてチャキチャキしたレゼは愛くるしく、私は元々チェンソーマンの中の女性キャラではレゼが一番人気でしたが、かなり気に入りました。後半は、花火大会の高台のキスで、レゼがデンジの舌を噛み切る衝撃の展開から、怒涛のバトルになります。しかし、そのバトルの決着は、デンジがチェーンでレゼを自分の身体に縛り付け海中に沈み、無理心中状態にするものでしたし、その後、変身が解けて二人は(ビームも共に居ましたが)海岸に打ち上げられ、そこでデンジはレゼに止めを刺さないどころか、一緒に逃げようとさえします。
レゼもデンジへの募る好意故に二人の逃避行を拒み、デンジを打倒して去ります。デンジは明日喫茶店で待っているとその後ろ姿に叫び、初めて会った日の喫茶店で待ち続けます。レゼは本来遠くへ逃げることができたにもかかわらず、デンジの言葉に心が揺らぎ、喫茶店に向かう途上の路地でマキマと天使の悪魔によって仕留められてしまうのです。後半も単なる怒涛のバトルには終わっていません。
倒れて死に行くレゼの目線の先には喫茶店の窓越しにデンジの後頭部が見えています。「私も学校行ったことが無いんだ」という今際の台詞が本当に悲しく響きます。せつない物語です。繰り返しになりますが想定以上です。
豪華な想定のパンフレットと、鑑賞特典で、コミックのお試し転倒ツールぐらいの厚さのある小冊子のどちらも、この作品の詳細を知ることができますが、この切なさを上手く言葉に収めているような文章が見つかりません。
デンジに喫茶店で迫ってくるレゼや、夜のプールサイドでおもむろに全裸になるレゼや、デンジを裏切れずデンジを遠くに見つめ息絶えるレゼなど、動き話すレゼだからこその魅力が満載です。DVDは文句なく買いです。