620 押しの難度 =R6メリケン奇聞=

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経営コラム SOLID AS FAITH 第620号
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ご愛読ありがとうございます。第620話をお届けします。

今年9月から始まった6回シリーズ『R6メリケン奇聞(6)』もいよいよ最終回
です。このシリーズはタイトル通りに昨年令和6年10月の第二次トランプ政権
が成立する選挙目前の米国オレゴン州で見聞きした内容をまとめたものです。
地方都市や人口の少ない町村を訪れたので、米国の平均的な姿を見ることがで
きただろうと思っています。そして、米国の数少ない人口集中地帯である幾つ
かの大都市から伝えられるような極端な物価高や極端な格差、そして膨大な移
民を取り込んだ社会構造などは皆無であったものの、日本社会と比較したとき、
望ましくない方向の様々な事象を見ることができました。

これらを6つの切り口にまとめて描いたのが今回のシリーズでしたが、どう
も全体総括が為されないままに、ただ米国の状況を描き、本来の当コラムの中
小零細企業経営に関わる所まで消化できていないという思いが残りました。諸
般検討した結果、本年の当コラムの周年記念特別号(26周年記念特別号)とし
てまとめてお届けすることに致しました。

周年記念特別号は、創刊から数年間パターンが確立していない頃に幾つか例
外がありますし、前後編に分けて後編が11月末日に発行されたケースもありま
すが、基本的には第1号が発行された1999年10月31日から1年刻みとなっていて、
10月末日の発行を重ねてきました。今回は通常号での本シリーズが今月11月の
今号を以って終了することを受けて、1ヶ月先延ばしし、今月末日に発行する
ことと致しました。そのようにすることに決めてからだいぶ時間が過ぎてし
まってから、その旨の告知を失念していたことにふと気づきました。改めて報
告申し上げます。

実は今回見て回った米国の多くの社会課題の裏には国民一般全体に広がる低
読解力の問題が横たわっています。低読解力が広がってしまった後の社会や組
織の姿を見ることができるのが米国社会と考えることさえ可能です。日本は米
国に比べて平均値で言うなら遥かに高い読解力を国民全体が持っている国です。
しかし、その中においても、低読解力の人材は中小零細企業の内外に濃く存在
することになっています。つまり、中小零細企業の経営において、低読解力社
会の構造は知るに値する事柄であることになります。そんな総括を本号到着の
数日後にお届けします。是非お楽しみください。

さてシリーズ最終回の今号では、米国のハロワで眺められる米国の労働市場
についての発見を描いてみます。こちらもお楽しみください。ご意見・ご感想
をお待ちしております。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!

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その620:押しの難度  =シリーズR6メリケン奇聞(6)=

日本のハローワークに該当する組織が米国では統一された名称になっていな
いらしいことに、留学生活を終えて30年以上経って初めて気づいた。一応の訳
語は「Employment Development Center」。日本で仕事で初めて行く街で時間が
あると、そこのハローワークを訪ねることがある。そこに行くと街の性格や
人々のありようが結構よく分かる。そんなことを米国でもやってみたかった。

前回の米国旅行から15年ぐらい経って、2024年10月にオレゴン州の州都近く
に1週間ほど滞在した。ハロワは訳語のまんまでEDCなどと略されてさえいない。
建物の前で写真など撮っていると、私を追い越して母娘らしい二人がビルのガ
ラス扉を開けようとした。母は50代前半、娘は20代半ば。母子ともに腕や首、
額などの白い肌に凝った模様が目立つ。グリースでもワックスでもない脂塗れ
のねとねとした髪が縮れ上り服もホームレス同然なのに、母はペットらしい薄
汚れたプードルを抱えている。

扉のプレートには「PUSH」とあるが、母が犬を抱いて空いている片手で開け
ようとしても開けられない。娘は後ろで「shit」と吐き捨てた。私が気付いて、
「It says PUSH. So you gotta push the door.」と試しに言うと、「Oh,
hey! Thanks.」などと、母は歌舞伎の隈取のようなメイクで巨大化した目で私
を見て笑い、礼を言った。本当にPUSHが読めなかったのかもしれない。母娘は、
「あんた。今どき仕事を探すのは大変だろう」と私に言って、事務所に入って
行った。その刹那奥に見えた室内には母娘のような人々が多数淀んでいた。

無料の配布物をたくさん手にして退散した。資料の中にある州全体の求人状
況は衝撃的。主要な仕事が学歴別に大別されている。職業ごとに必要な学歴が
明確になっていて、学歴別職業群を跨いで重複している職業はない。各々に平
均年収と州内の空きポジション数が書かれている。ネットで喧伝される話と違
って、平均年収は日本のものに比べてそれほど高くない。職種と学歴と年収額
の三要素は完全に紐づいている。ならば年収を上げたければ授業料が高騰を重
ねる大学に入り直さねばならない。ジョブ型雇用の現実を見る。

マンガだらけの資料の一つに、「数学は役に立つ」というタイトルのものが
ある。数学を学ぶと選べる仕事の種類が増え、年収も増加すると延々説明して
いる。同シリーズで物理もある。なぜか「世界史が役に立つ」も「音楽が役に
立つ」もない。

内田樹は学びによって人間はモノの見方が変わり生まれ変わるという。私に
もそうした体験がある。会社の研修でさえ日常業務や経営環境の見え方が変わ
る。カネだけで動機付けされる仕事は学歴で決まるこの国で、あの母娘は人間
ではなかったのかもしれない。

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次号予告:
第621話 『籠の卵』 (12月10日発行)
本業集中や本業回帰は、取り分け経営資源の乏しい中小零細企業の事業展開
についてよく言われる言葉です。VUCAの時代の事業展開について考えてみまし
た。

(完)