579 ネオテニー以前 =荒ぶる神々=

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経営コラム SOLID AS FAITH 第579号
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 ご愛読ありがとうございます。第579話をお届けします。

 3月も中盤に入りました。年度末です。電子帳簿保存法やらインボイス制
度の混迷が続く中、零細事業者の申告作業が続いているかと思います。一般
に12月末と3月末にかけて倒産・廃業が増えますが、今年は先述のような経
理作業の複雑化、通称武漢ウイルス禍向けの経済対策の終焉、経営環境全般
の複雑化など、諸々の理由が重なって、倒産・廃業件数はより多くなるとの
推測が聞かれます。

 経営活動、事業活動そのものの難易度が上がった結果、今までの経営活動
の継続を断念するという「あきらめ型の廃業」という言葉もよく聞くように
なりました。以前は会社組織でサラリーマンをやっていくことができない人
間だから楽な自営業を選択したと、創業を振り返る零細事業者のお話を聞く
ことがありましたが、彼らが自嘲気味に言っていた「バカでもできる気楽な
商売」は今やなかなか見つからなくなっています。

 端的に言うと、事業経営の難易度の水位が急激に上昇し、これまで経営の
知識や色々なリソースも不足している中でやってきた経営者は溺れかけるよ
うになったということかと思われます。そうした状況を先日第586話『床上
浸水』という話にまとめてみました。数ヶ月後の配信をご期待ください。

 3回シリーズの『ホルミシスの魅惑』を終えて、前号の『持ち物検査』一
話を挟んで、今回からは2回シリーズの『荒ぶる神々』が始まります。中小
企業庁は国内の中小企業の経営支援の施策を毎年策定して実行しています。
施策のメニューは膨大でその時節にあった内容を一定条件下の補助金支給や
融資、免税などの制度に組み上げて予算をつけています。

 それらの施策の背景意図について担当官僚の各々の詳細説明を聞くと、そ
の背景が透かし見えてきます。今回のシリーズでは2023年に発表された施策
群の二つを吟味してみることとしました。今回の第一話は成長経営について、
次回の第二話はエクイティ・ファイナンスについての内容です。

 日本の中小零細企業はどのようにあるべきか、そしてその社会的・経済的
な存在意義は何であるのか。そのようなことを中小企業庁の掲げる施策を題
材に一緒にご一考ください。ご意見・ご感想をお待ちしております。頂戴し
たご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!

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その579:ネオテニー以前 シリーズ『荒ぶる神々』(1)

 また年に一回の中小企業診断士登録更新研修に参加することになった。
2023年8月の或る土曜日。経産省の偉い方は「中小企業の成長経営の実現に
向けた研究会」の中間報告書について説明していた。この会は成長企業の創
出の支援策を検討したのだという。
 
「地域の中小企業が『100億企業』(売上高100億円以上の企業)など中堅企
業に成長するとき、高いレベルで外需獲得、域内経済牽引、賃上げに貢献。
経済成長を実現する上で、こうした成長企業の創出が必要」と配られた資料
に明言されている。現在、売上高100億円以上の企業は国内に1.4万社存在し
企業数全体の0.4%に過ぎず、過去10年以上遡っても、売上高1~10億円から
100億円超に成長した企業は178社しかないと資料は述べる。

 違和感が湧く。消費が飽和しレッド・オーシャンだらけの日本で売上100
億円を上げようとすれば、高い確率で海外市場を目指さねばならない。その
際、相応に高い確率で消費地である海外に拠点を作り、いつか販売の軸も製
造の軸も海外に移る。国内からこうして海外に広がっていく企業群が増えて
も、トリクルダウン理論によって日本経済は広く遍く潤うのだと、グローバ
リズム信者は言い続けてきたが、それは虚妄と判明している。
 
 100億円企業ともなれば中小企業というよりも中堅企業以上と考えるべき
と経産省の管理者も述べた。超巨大規模の多国籍企業群とローカルの中小零
細企業に挟まれた中堅企業のマーケティング戦略は困難を極める。超巨大規
模の企業群には弱者の戦略を、中小零細企業群には強者の戦略を同時並行で
採用しなくてはならない。組織の内部も人数が増えれば、徐々に階層化が進
み、機動的な動きができなくなってくる。多様な顧客に向き合わねばならな
くなると、そのニーズも把握しにくくなってくる。結局中小零細企業の基本
戦略である高い顧客満足度と高い機動性の両者を失っていく。それを組織の
円熟と呼ぶのか。
 
 ネオテニーは動物で観察される、性的に完全に成熟した個体であるのに非
生殖器官に未成熟な、つまり幼生や幼体の性質が残る現象。遺伝子が殆ど同
じ人類とチンパンジーの進化の道が分かれたのは僅か600万年前。それでも
両者はなぜこれほど違うのか。脳の学習能力は脳が完全に成熟する前にピー
クに達する。幼年期間が長い人類はネオテニーによって、進化の機会を得た
と言われる。幼く未発達なことは変化の可能性を大きく秘める。
 
 中小企業経営者向けビジネス誌の編集部に居た頃。取材で訪ねた零細企業
の社長の多くは、売上が増えるに越したことはないとは思いつつ、組織を拡
大することや事業を大きくすることに殆ど関心を持っていなかった。小さい
サイズなら、肌理細かく顧客にも向き合え、肌理細かく従業員も把握できる。
彼らは量よりも質を選び今の規模に留まると宣った。

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『世界のニュースを日本人は何も知らない 4』 谷本真由美 著
■『死は存在しない 最先端量子科学が示す新たな仮説』 田坂広志 著
■『恋愛工学の教科書 …』 ゴッホ 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 MSIグループ 市川正人
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次号予告:
 第580話 『官製せどらー』 シリーズ『荒ぶる神々』 (3月25日発行)
 中小企業庁が考える施策の一部の妥当性を検証してみる2回シリーズ『荒
ぶる神々』の第2回目は中小企業のエクイティ・ファイナンスについて考え
た内容です。

(完)