587 島耕作の楽観 =危うい認知=

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経営コラム SOLID AS FAITH 第587号
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 ご愛読ありがとうございます。第587話をお届けします。

 とうとう今年も後半戦に入りました。暑い夏が訪れます。体調管理に十分
にご留意の上、ご自愛ください。

 通称武漢ウイルスの疾病噺を漸くあまり耳にしないようになってきました。
あれほどリモートにしてみたら業務の生産性が上がるなどの言説が流布した
のに、通勤時間帯の電車の混雑はほぼ以前の通りに戻っています。高い手数
料もものともせず、あれほどライフスタイルを変革したと喧伝された食事の
宅配サービス群も、路上で配達者をあまり見かけなくなってきました。
 
 確かに風が吹く屋外にあるのにバス停の待ち行列の人々の間隔はやや広が
り、空気感染や飛沫感染を意識した距離感になって、徒に列を長くしていま
す。確かに米国のグレート・レジグネーションほどではないにせよ、何とな
く無業者志向は強まって人手不足は深刻になりましたし、ギグ・ワーカーだ
のノマドだのの「辛うじてIC」の人々が周囲に多少増えているように感じな
いでもありません。しかし「ニューノーマル」と騒がれたライフスタイルは、
少なくとも見える範囲では以前とあまり変わり映えするものではありません。
 
 通称武漢ウイルスは空気感染や飛沫感染は殆どなく、接触感染によって広
がることがかなり前から分かっていましたが、あちこちに触ってウイルスだ
らけの手でスマホに頻繁に触れれば、スマホをウイルス培養のシャーレにし
ているのと同じと、普通は分かるはずですが、電車内でスマホにベタベタ触
り続ける人はあまり減っていません。
 
 結局、世の中の当り前はあまり変わらず、中小零細企業にとって経営環境
はVUCAのままであるという意味で、変わっていません。経営体質の弱い企業
からじわじわと淘汰されて行き、お客にとっての一定レベルの効用を維持し
続けることができた企業には、消えた企業群が持っていた市場が賞金のよう
に転がり込みます。お客のためにある企業経営。そんな当たり前のことをよ
り先鋭に追求するべき時代になったように感じています。
 
 今回から二回のシリーズで工場見学について考える『危うい認知』をお届
けします。シリーズタイトルそのまんまのテーマで、人間は分からないもの
を認識することができないという事実を踏まえると、レイ・パーソンに対す
る工場見学や社内見学の企画などは時間と労力を投じて行なう無意味な見世
物になりかねません。効果的な工場見学ツアーについてお尋ねいただいたこ
とから、このシリーズ二回が生まれました。第一回の今回は高齢者になった
最近の島耕作のエピソードをネタに読解力を絡めた話にしてみました。ご意
見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感想などへのお返事の目標納
期は5営業日!!

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その587:島耕作の楽観 シリーズ『危うい認知』(1)

 酒造会社が本格的に米国進出を図ろうとニューヨーク州郊外に建設した工
場が稼働を開始した。そのお披露目を訪れた社外取締役島耕作は工場を見学
し、米国ワイン市場に比して日本酒市場は矮小であると説明される。そして
ニューヨーク市内の酒店での試飲コーナーを明日一緒に見に行こうと社長に
誘われる。『社外取締役 島耕作』の中のエピソード。
 
 島と社長がコーナーを見ていると、パーカーを羽織った肥満体型の女性が
試飲するが、「あまり香りがしない」と不満を顕わにして作り笑いで去って
行く。「まあ、一般のお客さんはあんな感じですよ」と社長は苦笑し島に言
う。
「富裕層には知的好奇心が強い人間が多いので馴染みのない味には関心を示
します。逆に私見ですが収入が少ない層の人達は新しい味に保守的で初めて
食べる食品や酒類はなかなか受け容れられにくい気がします」。
 
 島は「なるほど日本酒はアメリカ人にはまだまだ“新しい味”の飲料なん
ですね」と社長に応じた。確かに「新しい味」と社長が前日にも言っている
が、「まだまだ」ではない。
 
 或る日私はクライアントの町工場の社員に、自社の採用募集に応募してき
た就活学生の会社説明の段取りを説明して貰った。「まずは工場見学をした
ら、一目瞭然でウチの会社でどんな感じで働くかのイメージが湧きますよね」
と彼女は言う。多分違うだろう。

 私には多くの小規模な製造現場は薄汚く見える。オフィスなどに比べ全体
が薄暗く、機械は油ぎって薄黒く、タコ部屋のように感じる。段ボールやポ
リケースなどが雑然と置かれていると、割れ窓理論的にだらしない人々の作
業しかイメージできない。私が初めてこうした現場に赴いたのは、フィルム
メーカーのマーケティング担当として自社ポスターの印刷現場を視察しに行
った際だろう。フィルムをパッケージに手作業で詰める内職屋も薄暗く、そ
こで黙々と働く人々の表情は明るくなかった。こうした印象を私は記憶して
いる。

 今はクライアントの製造現場が、零細製造業の現場の中で抜きんでて5Sが
進み、安全も配慮され、ムダ取りの視点でもよく考えられていると知ってい
る。その目で見て、優れた現場であると私は思っている。それでも当時の扉
を開けた第一印象を常に反芻している。

 学ばなければ人間は多くの価値を認識しない。子供の読解力は育った家の
経済状況に緩い相関があると知られている。経済格差も教育格差も開く一方
の米国では今後ますます日本酒の良さを分かる知的好奇心を持ち合わせた人
間は減っていくだろう。中小零細企業は付加価値を高める努力をすべしとよ
く言われる。その付加価値を理解するための評価軸を相手に前以て教えてお
くのが誰なのか寡聞にして知らない。

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『災厄の絵画史』 中野京子 著
■『スマホを捨てたい子どもたち…』 山極寿一 著
■『日本のシン富裕層…』 大森健史 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 MSIグループ 市川正人
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次号予告:
 第588話 『薄暗い工場』 シリーズ『危うい認知』 (7月25日発行)
 シリーズ第二回は特に一般の人々を対象に工場見学を行なう場合の学びや
感動の生み出し方について具体的に考えてみます。

(完)