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経営コラム SOLID AS FAITH 21周年記念特別号
『自然派宣言』
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序(前後篇共通) 『ザ・コンサバ・ライフ』
前篇 『日本のありよう』
第一章:変種のチンパンジーの類、そして、その先
第二章:能天気な人々の末路
第三章:不備だらけの理性と素人の目標
第四章:妄想の職業選択
前篇 あとがき
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☆注意:お読みになる際には、枚数がかさみ恐縮ながら、プリントアウトの
上お読みになることを、心よりお奨め申し上げます。
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序(前後篇共通) 『ザ・コンサバ・ライフ』
自分が所有しているものを、どんな風に使っても、それが合法で、おまけ
に公序良俗にも反していないのなら、特に大きな問題がありません。持ち主
が自由にできます。では、農業用のトラクターの持ち主が一人いました。ま
だ成人する前に相続でもらっていて、農業を継いでもいません。トラクター
の持ち主になりましたが、「俺は消防団員になりたいんだ」と言って、トラ
クターにドラム缶か何かを据え付けて水を入れ、消防車代わりに使っていた
ら、どうでしょうか。どんなふうに使っていても本人の自由ですが、効率も
悪いでしょうし、余計なコストもかかりそうですし、仮に他の団員は消防車
を持っていたら、それと伍して消防活動をするのにはかなり無理があること
でしょう。それでも、そうしたいのなら、それは本人の勝手です。
構造主義という言葉があります。大雑把に言ってしまうと、世の中には
「構造」というものが存在していて、それによって私たちの考え方やモノの
見方や、行動そのものも規定されている…といった考え方です。例えば、母
国語で考えをまとめる以上、母国語で表現できない考え方はもともと発想の
中に浮かぶことがほとんどありません。普通こういったことを意識しません
が、私たちは「構造」によって決められたことの範囲を抜け出ることが非常
に困難なのです。困難なことに挑めば、そこには必ず無理が生じます。トラ
クターで消防活動をする人間は、かなり色々な無理が必要であることでしょ
う。
人間には色々な「構造」が覆い被さっています。その最たるものが、遺伝
子的に決まっていることや脳の働き方などです。人間が今の形になったのは、
諸説ありますが、概ね200万年前ぐらいです。ホモ・ハビリスと呼ばれる、
初めてのヒト属の生物種の段階からです。それ以前に存在していた、チンパ
ンジーから明らかに分岐して人間に近くなった猿人と異なり、ホモ・ハビリ
スは石器も使っていました。私たちはクロマニヨン人らの新人類の末裔と考
えられていますが、その新人類の登場でさえ20万年前です。
私たちの文明が成立したのは、概ね紀元前5000年前ぐらいです。つまり、
私たち人類の歴史をクロマニヨン人の時代から計算すると、文明が存在して
いるのは歴史のラスト3.5%に過ぎません。私たちの体の構造が決まってから、
文明生活をしている期間を計算すると、0.35%にしかならないのです。仮に
人類の歴史を1年と計算すると、前者は二週間にも満たない時間です。そし
て、後者は大晦日1日ちょっとの時間でしかありません。ほとんど丸一年を
通じてカラダとしては最適化された生活をしていたのに、最後の一日で、突
如として違うことをやろうとしても、無理が生じるのは当たり前と誰もが気
付くことでしょう。
『経営コラム SOLID AS FAITH 21周年記念特別号』は、『自然派宣言』と題
して、私たちのカラダ全般の仕組みや長く続いた太古の社会の仕組みに、逆
らうことの少ない現代社会での生き方を色々と考えてみます。それは、手放
すことのできないトラクターを持っている以上、農業をやろうという、普通
に考えて最も無理のない生き方なのです。
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前篇 『日本のありよう』
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第一章:変種のチンパンジーの類、そして、その先
☆☆
日本は超先進国である。
世界は日本化する。
いくらでも例を挙げていくことができる。
脱軍備、脱武器輸出、脱宗教、脱イデオロギー、経済第一、清潔第一、勤
勉第一、平和第一、少子高齢化、女尊男卑、民主主義、自由主義、家族主義、
省エネ、巨大都市、教育の普及、知識と文化の尊重…等々、多くのことを日
本はすでに実行している。(中略)
女尊男卑もある。日本は男女同権が遅れているなどは冗談ではない。ほん
の一例だが、女性の天皇はいるが、アメリカにはまだ女性の大統領はいない。
明治憲法以来、天皇は男性でなければいけないと決まっているが、これは欧
米の影響により後退したのである。
昨今はグローバル化の波が押し寄せたので、「日本は普通の国になろう」
と言っているが、かえって後戻りするようなこともしている。
■『21世紀、世界は日本化する』 日下公人著
☆☆
好奇心と集団への帰属本能が無理なく共存するという幼児的な特色は、中
国人、日本人、東アジアに住む諸民族、さらにイヌイットからなるモンゴロ
イドに強く現れる特徴だ。クライブ・ブロムホールも「しかし世界には、私
たちの種にみられる幼児的特徴を一部のみならず、ほとんど残らず備えてい
る人種もいる。一部の内部器官まで生涯にわたって未成熟なままなのだから、
彼らがいかに幼児化方向に進化してきたが知れるだろう。これがモンゴロイ
ドである」(ブロムホール、『幼児化するヒト』)と断言している。
中でも日本人こそ、西欧的個人主義の袋小路を大した考えもなく、なんと
なくぶち破ってしまった「新人類」なのだ。たとえば、戦後日本のスターた
ちの多くが、中世的で未成熟という特徴を共有している。そして日本は、欧
米人から見ればどう考えても子供のメディアでしかないマンガ・アニメに熱
狂するおとなが世界一多い国だ。(中略)
欧米知識人から見たら、論理的思考能力さえない子ども同士が「ああでも
ない、こうでもない」とお互いに助け合い、足を引っ張り合いながら、全体
として思想とか、心情とか、ましてやイデオロギーとかいった剣呑なしろも
のは敬遠し続けてきたのが、戦後日本の成功の最大の秘訣だった。
■『日本型ヒーローが世界を救う!』 増田悦佐著
★★★
ネオテニーと言う現象があります。「動物で観察される、性的に完全に成
熟した個体でありながら非生殖器官に未成熟な、つまり幼生や幼体の性質が
残る現象のこと」です。人類とチンパンジーの遺伝子はほとんど変わらず,
進化の道が分かれたのも600万年前で、生物全体の歴史上、それほど昔では
ありません。それなのに、なぜ人類とチンパンジーはこれほどかけ離れた存
在になったのか。その答えも、ネオテニーにあると言う説があります。
「脳の学習能力が最高となるのは脳が完全に成熟する前であり、人間はネオ
テニーによって身体の幼年期間が長くなり、脳が発達する機会が増えたこと
が人類の進化に結びついた」と考えることができるというのです。
そして、叡智が多くの著書に満ち溢れている増田悦佐によれば、その進化
を経た人類の中でも、特に日本人はネオテニー化がすすんでいると考えられ
ると言われています。
どうも、グローバル化の方が退嬰化の道で、寧ろ、海外が日本に合わせる
べきなのではないかと思えてきます。
そう言えば、脱宗教のありかたを描いた『捨てられる宗教…』(島田裕巳
著)でも、脱宗教と長寿の面から成立する「死生観」そのものにおいて日本
の先進性が説明されていました。意外にガラパゴスも結構なのではないで
しょうか。
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第二章:能天気な人々の末路
☆☆
「「幸福のホルモン」呼ばれるセロトニンを脳内で運ぶトランスポーターの
能力を決定する遺伝子の分布が、地域によって異なることを発見した研究か
ら導き出された仮説ですね。脳内のセロトニンの濃度に大きな影響を与えて
いるトランスポーターと言う遺伝子には、伝達能力が高いL型と低いS型があ
り、人類はLとSを組み合わせたLL型、SL型、SS型の3種類のいずれかを持っ
ています。LL型から順にセロトニンの脳内濃度が低くなっていきます。研究
では、3種類の型の分布は、大きな地域差があり、日本人はSS型が約7割で、
LL型は2%と世界でもっとも少ないことがわかりました。(中略)セロトニン
の脳内濃度が高いと、楽天的になり、低いと神経質で不安を感じやすくなる
と考えられています。このことから、日本人は不安を感じやすく、うつ病や
自殺が多いのは、この遺伝子が原因なのではないかという仮説が提出されま
した。(中略)
だとすると、東アジア系の学力が高いのは、不安感が強いからだとはいえ
ませんか。将来が不安だから努力を怠らない。ゆえに学校の成績がよく、社
会的にも成功しやすいのではないでしょうか。」
「その性向は、最近、アメリカの心理学者アンジェラ・リー・ダックワース
が唱えている「グリット」そのものですね。それは 日本語の努力、根性、
忍耐、情熱にあたるような概念です。ダックワースは、「グリット」こそが
社会的成功のために必要な能力だといっていますが、すでに日本人は「グ
リット」を十分に持っています(中略)皮肉なことに日本人は幸福が感じら
れないから、何とかより幸せな社会を作ろうと、「グリット」を発揮し、た
くさんの自殺者をだしながら、人類始まって以来、最も平和で豊かな「幸福
な社会」を作ってしまったのですね」
■『文藝春秋SPECIAL 2017夏』 橘玲・安藤寿康談
☆☆
心理学者のレノムとキャンターは、過去のパフォーマンスに対する認知と
将来のパフォーマンスに対する期待によって、楽観主義・悲観主義をもとに
した4つのタイプ分けをしている。その中のひとつである防衛的悲観主義と
は、これまで実績があるにもかかわらず、将来のパフォーマンスに対しては
ネガティブな期待をもつ心理傾向を指す。いわば、勉強でも仕事でも、これ
までそれなりの成果を出しているのに、今度はうまく行かないかもしれない
と悲観的になるタイプである。
一般に、防衛的悲観主義者は成績が良いことが多くの研究により証明され
ている。悲観的だからこそ慎重になり、用意周到に準備する。将来のパフォ
ーマンスに対して不安があり、楽観的になれないことが、成績のよさにつな
がっているのである。
■『伸びる子どもは○○がすごい』 榎本博明著
★★★
『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』は、マイケル・ムーアがヨーロッ
パ各国を巡り、米国よりも優れている文化や慣習、社会制度に対して「米国
はこれを侵略する」と宣言しては、それらを米国に採り入れようと主張する
非常に面白い構造の映画です。不思議なことに、優れているとされる事例に
登場する欧米の人々の働く姿に、「努力する」、「向上する」といった考え
方や姿勢は皆無でした。
「カイゼン」という言葉が経営用語として先進国に広まっていますが、その
手法そのものの採り入れが成功裡に進んでいる事例は海外ではあまり多くあ
りません。そういったことも、橘玲が指摘するように、セロトニン・トラン
スポーター仮説で説明がつくように感じられます。
ポジティブな発想やポジティブな言葉遣いが、欧米で普及したポジティブ
心理学に影響されて日本でも殊更に強調されるようになりました。しかし、
それは欧米でも既に批判に晒され始めていることが、ガブリエル・エッティ
ンゲンの『成功するには ポジティブ思考を捨てなさい…』などを読むと分か
ります。
さらに、「不安」を成功に結びつけていると考えられる多くの日本人に対
して、「自信を持て」とポジティブな発想を吹き込むと、かえって成績が悪
くなることさえ実験的に確認されているというのです。安易に自信を持たせ
ることや物事を楽観的にとらえるように薦めることは、相手の人生を害する
行為である可能性があること分かります。
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■『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』
http://tales.msi-group.org/?p=819
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第三章:不備だらけの理性と素人の目標
☆☆
受動意識仮説を知ったのは、全くの偶然だった。書店で前野隆司の『脳は
なぜ「心」を作ったのか』の目次に眼を通して、その衝撃の主旨が分かった。
前から四分の一ぐらい読み進んだ頃に描かれる、1980年代の米国UCSFの神経
生理学者のリベット教授の実験から、本の内容は急展開を始める。リベット
教授は「頭蓋骨を切開したある被験者の随意運動野に電極を取り付け、人差
し指を曲げる運動に対する運動準備電位を計測した」。
「運動準備電位とは、読んで字のごとく、運動の準備を無意識に始めるとき
の脳内の指令信号だ。(中略)だから、脳内に運動準備電位があがってから
しばらくすると指が動き始めることになる」。
この実験の結果の驚きで、前野隆司の文章も口語に変わる。
「奇妙なようだが、心が「動かそう!」という「意図」を「意識」するより
も前に、「無意識」のスイッチが入り、脳内の活動が始まっているというの
だ。心が「動かそう!」と思うのがすべての始まりなのではなく、それより
も前に、無意識下の脳で、指を動かすための準備が始められていると言うの
だ。そんなばかな」。
詰まる所、意識は、何一つ決めてもいなければ、判断もしていないと前野
隆司は言う。すべては無意識が行なっている。意識はその結果をみて、自分
がやったこと、自分が決めたことだと錯覚の中で満足しているだけだと。
■『経営コラム SOLID AS FAITH 15周年記念特別号』 市川正人
☆☆
第246話の『近道の判断』を書き終えても尚、「順算と逆算」の考え方が
気になって、頭の中で反芻している。天才棋士羽生善治の思考を描く『先を
読む頭脳』を繰り返し手にしてみる。不慣れな場所に行くには、目的地と言
う目標を決め、地図などを見て、道順を逆算する。一方、慣れた行き先なら、
いきなりどの道を行くか判断できる。熟達者や上級者は目標設定からの逆算
のプロセスなしに、いきなりあるべき行動がとれる。確かにこの対照は周囲
に多々存在する。
太陽光発電機器を売る会社の会議に参加した或る日の午前。役員が年度末
までの今月一ヶ月で、社員の一人ひとりが自分の目標を決めて、真剣にそれ
に取り組もうと呼びかけている。やると決めたら、なんとしてもやると言う
目標は、上司から押し付けられるのではなく、自分で言って決めてこそ意味
があると説明されている。翌日の赴いた化粧品販売の会社では、販売員が集
まる研修会の企画を練る。参加した販売員にまずは夢を語らせようと幹部が
提案する。自分は何がしたいのか、真剣に考えて、夢が叶った自分を想像し
てもらう。そしてそれを実現するために頑張るのが大事だと説明される。
数字を決めたら、真剣に考えるので自ずと方法論が浮かび上がると言う主
張はよく耳にする。顧客ニーズに対する適切な方法論を決めたら、自ずと数
字はついて来ると思っている私は、自分の仕事で数字目標を持ったことがな
い。ただただ、クライアントとの関係性の重要性を常時意識するようにして
いるので、やるべきことは幾らでもある。
数字目標同様に私には夢もない。食っていくことができて、読みたい本が
読めて、見たい映画が見られる。好きな新宿の街を徘徊できる。それ以上欲
しいものも特にない。こんな私に役割を期待して、お仕事を下さる方々は奇
特な方々と心得ているので、期待より多少は余計に応えられるよう、役割を
果たし続けている。
■『経営コラム SOLID AS FAITH 第248話 彷徨予防』 市川正人
★★★
『15周年記念特別号』で述べたように、人間は意識によって判断なんかして
いないようです。無意識の中に既に蓄積されていることがプログラミングと
して、まさに無意識的に処理されているだけです。意識で思考し判断してい
るように感じるのはまったくの錯覚です。『自分を知り、自分を変える…』
(T・ウィルソン著)によれば、無意識は処理能力において、意識の27万倍
の速さです。(既に適切なインプットが蓄積されていれば)無意識の判断の
方が圧倒的に、限られた情報から意識的に(=合理的に)考えられた答えよ
りも正確であるのは論を待ちません。
目標から逆算して今の行動を決めた結果は、一見合理的に見えますが、そ
れは、考えもせず無意識が自然に選び出した答えに比べて遅くて不正確で、
場合によっては誤っていることも多いのです。端的に言うと、目標設定して
行動するのは素人の証拠ということなのです。
欧米発の科学は理性主義で、合理的に考えようとすると、モデルを作るな
どして、情報量を削り、単純化する必要が出てきます。それは現実の複雑系
から乖離した思考様式です。元々「ああでもあり、こうでもある」ようなフ
ァジーな東洋思想の多くは、無意識の高速大量処理の結果をそのままに受け
止めやすいものとも考えられるのです。
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■『経営コラム SOLID AS FAITH 15周年記念特別号』
http://tales.msi-group.org/?p=710
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■『経営コラム SOLID AS FAITH 第248話 彷徨予防』
http://tales.msi-group.org/?p=388
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第四章:妄想の職業選択
☆☆
スタンフォード大のクランボルツ教授が唱える計画的偶発性理論について、
二冊ほど書籍を読んでみた。Planned Happenstance Theoryと言う英語の名
称の方が、なんとなく意味がピンと来る。個人のキャリアの大部分は本人が
計画できないどころか、予想もしないような偶発的なことによって決定され
るとし、その偶発の中でもプラスに働く作用を持つものを意識的に自分の
キャリアの中に発生させていくのが、良いキャリア形成と言う主旨。キャリ
アプランや既存の職業適性をほぼ完全に無視したキャリア形成の思想には非
常に共感できる。
米国人特有かと思われる楽天的な視点も多い。「失敗に囚われるのではな
く、失敗を活かそう。むしろ積極的に失敗しよう」などの主張はご愛嬌。
「自分が決めて努力を重ねて得た仕事だからと言って、その努力の投資の囚
人になってはいけない。“苦痛の終身刑”を拒み、その場からすぐさま去る
べき」と、苦労して大学院に行ったのに、その専攻の職業を捨てたキャリア
の事例などを紹介する。事例の人々は、「そうして私は成功したのです」、
「私は今とても幸せです」と臆面もなく言って締め括る。
キャリアプランを否定して、構造主義的な見地は採っても、社会的贈与の
概念は採用しない自己中心的なキャリア観。渡辺和子の『置かれた場所で咲
きなさい』的な覚悟も、内田樹の言う、誰に褒められる訳でもない“雪かき
仕事”の陰徳も、全く感じられない。
■『経営コラム SOLID AS FAITH 第358話 門出の宣誓』 市川正人
☆☆
電気ストーブが煌々と光る真正面に背中を置いて、キーボードを叩いてい
ると、深夜のしじまを破ってざくざくと外から音が聞こえる。2013年1月14
日月曜日。祝日に上京してみると、モノレールの車窓の外は猛吹雪だった。
街中に雪が残っている。メールを草稿箱に保存して、外に出てみる。作業員
が黙々とシャベルで雪を道脇に除けている。単なる野次馬の私が、道を通っ
てじろじろ見ていても、夜陰でもはっきりと分かるぐらいの笑顔を浮かべて、
「すいません。ご迷惑を掛けています。こちらをお通り下さい」と案内した。
考えてみたら、ゲリラ豪雨の直後にもこのような人々が同じ辺りに居たよう
な気がする。
激しい雪や豪雨が彼らのせいではないことは誰しも分かる。それでも、彼
らに早く片付けるよう不満を述べる者や不都合を論う者が存在する故の、彼
らの快い応対だろうか。人に気付かれない仕事。やって当り前と思われてい
る仕事。私はそんな仕事に勤しむ人々が視界に入ると、注視しないではいら
れない。世の人々の動機付けは何に対しても「承認欲求」ばかりだと、様々
な書籍の言説が指し示す。その領域外に位置するであろう彼らの動機付けは
常に気にかかる。
■『経営コラム SOLID AS FAITH 第337話 雪かき仕事』 市川正人
☆☆
“You have a talent. But it comes with sacrifice. Believe me. And
it’s time for you to realize. The talent. It doesn’t belong to
just you anymore.”
才能を持った者は犠牲を払うべきだ。才能は自分自身のものではないのだ
から。なかなかアメリカチックで考えさせられる。しかし、才能無き者は覚
悟も犠牲も要らないのだろうかと、つい考えてしまう。才能の有無に関わら
ず、求められる役割を犠牲を払ってもやり遂げること。それは、この国にお
いて誰しもにとって当たり前のことではなかったか。
神様から与えられた「ギフト」たる才能。それには犠牲と責任が伴うと聞
けば、だったら、そんなものは要らないと私なら思う。押し付けがましい一
神教の神様は信じていず、ギフトも端っから計算に入れず、ただただ眼前の
やるべきことをやるのが社会という前提なら、それもそうかと受け容れられ
る。
■『経営コラム SOLID AS FAITH 第427話 続・雪かき仕事』 市川正人
★★★
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違いが、働き方改革の進展ととも
に議論されるようになりました。ジョブ型雇用は契約によって本人が望む仕
事をずっとやり続ける雇用の形です。そのように聞くと、好きな仕事ができ
て理想的であるように感じられます。しかし、新しい仕事にチャレンジする
機会もありませんし、他部署に異動することもありません。チャンスを与え
られて自分も知らなかったような能力が伸びることもないのです。おまけに、
その仕事が無くなれば、社内異動はなく、会社を辞めるしかなくなります。
当然、雇用は相対的に不安定になりやすくなります。
第三章でも述べた通り、目標設定をするのは幼稚な発想です。自分の仕事
も「目標」のように定義すれば、自分の可能性を狭める結果になるのです。
人間の能力は伸びるもので、その場で期待される役割を果たすべく、成長を
重ねるべきとするメンバーシップ型雇用の方が、中長期的に見て優れた人材
を育て上げる機会を、会社にも働き手自身にも多くもたらすことでしょう。
マルクスは労働者が時間や肉体を使って働き、対価を得るのが当然と主張
します。そこには、いやいやする仕事しか存在しません。対価が承認や成長
などの「動機づけ」であっても同じことです。動機づけをしてもらわなけれ
ば働く意義を見出さない人間のさもしい発想と見ることもできます。
社会が常に活動していて、自分はその小さな一部である以上、報酬の有無
や多寡に関係なく労働は当たり前のものとして存在します。会社や個人が事
態をどのように解釈しようと、その構造の束縛は常に存在しているのです。
計画的偶発性理論の主張や、近年勢いを増した構造主義の主張を見ると、
漸く欧米の思想も当たり前の労働の構造に気づき始めたように思えなくもあ
りません。
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■『経営コラム SOLID AS FAITH 第358話 門出の宣誓』
http://tales.msi-group.org/?p=724
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■『経営コラム SOLID AS FAITH 第337話 雪かき仕事』
http://tales.msi-group.org/?p=648
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■『経営コラム SOLID AS FAITH 第427話 続・雪かき仕事』
http://tales.msi-group.org/?p=1105
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前篇 あとがき(奥田美幸)
ソリアズをご覧の皆さま、こんにちは。
会社の萬屋 企画改善請負本舗の奥田美幸と申します。『経営コラム SOLID
AS FAITH』(通称『ソリアズ』)の『20周年記念特別号』と、通常号のPR欄
に連載している『萬屋日和』に登場しており、既にご存知いただいている方
もいらっしゃるかもしれません。
私は小さな会社での組織づくりや組織改善の実現のためのお手伝いを行なう
べく、2019年5月から市川の下で弟子修行を開始し、今夏に独立いたしまし
た。市川との出会いは2017年。私が新卒で入社した会社の人事部に所属して
いる際に、当時の上司が社内勉強会の外部講師として市川を招いたことがき
っかけです。このたび、有難いことにソリアズの『21周年記念特別号・前後
篇』のあとがきを担当させていただくこととなりました。
今回のタイトルである『自然派宣言』とは、遺伝子レベルで決まっているこ
とに逆らわず、人間として本来のあるべき姿でいようとすることを意味して
います。前篇ではそれを「アンチグローバリズム」というテーマの下、『日
本のありよう』と題してさまざまな切り口で述べています。
この文章の奥深さを理解したとき、雷に打たれたような衝撃を受けました。
大学で英米文学を専攻していたのですが、私自身も含め、周囲の人たちも英
語圏の文化や考え方に対する憧れや日本への劣等感を抱いている者がほとん
どでした。この文章を読むと、そのほとんどが幻想に近いものであり、今に
なって自身の無知さを痛感します。
本文にもありましたが、日本は海外と比べ、男女不平等、長時間労働、低い
幸福度など、さまざまな面において劣っていると批判的に表現されることが
多いと感じます。「日本は海外より遅れている、未発達な国」だと認識して
いる日本人も多いのではないでしょうか。日本人の遺伝子レベルの性質から
考えると、それらの認識から焦燥感を覚え、より一層の努力を続けるという、
ある意味、好循環の根幹になっているとも考えられます。
さらに SNS などの発達も含め情報化の発展により、だれでも簡単に情報を
手に入れられるようになったことで、日本でやっていないこと、知られてい
ないことは先進的なので取り入れるべきだと考える、これもある種の不安感
を抱きやすい故の行動ではないでしょうか。 今見えている文化の違いは、
脳の機能レベルでの質の違いにあると知り、日本が海外に比べ先進的な国だ
という認識が当たり前になったとして、すぐに追いつける国はほとんど存在
せず、しばらくは日本の一人勝ち状態が続くものだと考えられそうです。
私も今までの常識が覆され、本当に正しいことは何かを理解し、自身にとっ
て新たな常識として定着させるには、まだしばらく時間が必要となりそうで
す。後篇では今回とは異なった切り口で、『自然派宣言』について掘り下げ
る予定となっています。ぜひご期待ください。
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※ ご注意!!
サーバのエラーなどで読者登録が解除されてしまった方がいらっしゃる様
子です。当メルマガ通常号は毎月10日・25日に、周年記念特別号は(原則的
に毎年10月末日に休まず発行しております。発行状況のご確認は弊社ブログ
で行なってください。
また、まぐまぐからの連絡によると、一部フリーメール運営企業でサーバ
の受信量規制を行なっているケースがあり、その場合は大幅にメールマガジ
ンの到着が遅れるとのことです。
「届かない」、「再送希望」などの連絡は、まぐまぐの窓口である
「magpost@mag2.com」に、メルマガID(#0000019921)、タイトル(『経営
コラム SOLID AS FAITH』)、購読アドレス、再送希望の旨を記載の上、
メールにてご連絡下さい。
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発行:
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合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
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