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経営コラム SOLID AS FAITH 第600話発行記念特別号 第五弾
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目次
1 ご挨拶
2 604話 『続・既成の新事実』 =励起粒子(05)=
3 非雇用化の背景(04) 労働市場の縮小
4 非雇用化導入時の留意点(05) 制度の浸透
5 非雇用化のメリット(05) ロイヤルティの向上
6 シリーズあとがき
7 MSIグループの仕入完了報告(抜粋)
8 次号予告
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☆注意:お読みになる際には、枚数がかさみ恐縮ながら、プリントアウト
の上お読みになることを、心よりお勧め申し上げます。
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1 ご挨拶
御愛読御礼申し上げます。第600話発行記念特別号シリーズ『励起粒子』
全5話をお届けしています。このシリーズのテーマは「非雇用化」で、今回
は最終話です。
これまでに四回に亘って一部の社員を個人事業主に変えるという組織運営
手段を説明してきました。個人事業主に対する業務委託契約や業務請負契約
をしようとすると、雇用とは見做されないような労働提供をしてもらわねば
ならなくなります。ところが、中小零細企業は作業がきちんと標準化されて
いたりマニュアル化されたりしていないケースが多いので、(それが柔軟で
機動的な対応を生み出す素地ではあるのですが)外部のアウトソーサーに業
務の「一部分」を任せることが困難です。
付加価値の低い単純労働をしてもらうならアルバイトやパートのスタッフ
の方がよく、わざわざアウトソースする必然性がありません。自社の強みを
支える円滑なオペレーションを理解しているアウトソーサーは、自社の経験
豊富な社員になってもらうのが結局早道です。「一部の社員を個人事業主化
する」のは、実はこうした自社で育てスキルや知見が十人分にある社員だけ
を個人事業主化することを指していて、経験が浅く自社の業務を俯瞰するこ
とができないような段階の社員まで全部一律に非雇用化するということでは
ありません。
松下幸之助は嘗て「松下電器は何をつくるところかと尋ねられたら、松下
電器は人をつくるところです。併せて電気器具もつくっております。こうお
答えしなさい」と言ったと言われています。今回のシリーズで解説している
一部社員の非雇用化を中小零細企業が行なうと、その企業組織は実質的に人
づくりばかりを行なって、社員達を卒業させていく組織になります。
卒業した社員は完全に消えていなくなるのではなく、自社の業務を共に支
える小さな提携事業者になっていくということです。社員を外部に出しても
通用する社員にするまで育てることが前提になっていますから、松下幸之助
の「人づくり」よりもかなりハードルが高い挑戦になりますが、それを行な
うメリットはたくさんあります。
今回の600話発行記念特別号のシリーズで、そうした企業運営のイメージ
をご理解いただけたら幸いです。シリーズ最終話の今回は、『続・既成の新
事実』をお届けします。第315話『既成の新事実』で、「2024年に企業が消
滅する」とした神田昌典の説を採り上げました。
勿論、企業は消滅していませんが、神田が指摘した社会動向は現実の社会
に散見されるようには思えます。『既成の新事実』の答え合わせのような内
容としてまとめてみました。元々規模が小さい零細事業者がさらに零細化し
た状況や、大手企業や中堅企業を卒業した人々が、ICなどと呼ばれることも
ある個人事業主化するのであれば、神田の予言は「一部社員の非雇用化」の
形から大きく離れたものではないように考えられます。本文に対するご意見
・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期
は5営業日!!
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■第315話『既成の新事実』 http://tales.msi-group.org/?p=582
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2 第604話 『続・既成の新事実』 =励起粒子(05)=
「2024年に会社はなくなる」。
2012年の著書『2022-これから10年、活躍できる人の条件』の中で神田昌
典は衝撃の予言をしていた。でかい図体で、コンプライアンスだの自然環境
保護だの、ワーク・ライフ・バランスから健康管理まで、ありとあらゆる要
求や糾弾に備えるだけで企業は疲弊する。息苦しい企業組織は衰退し、淘汰
され、2020年代にはNPOによる産業化が進展するという。そして2024年は過
ぎ去って、企業組織は今でも日本の内外に多々存在する。
第315話『既成の新事実』に登場するこの説は、主に公開企業を意識した
ものだったろう。会社はなくなっていないが、多国籍企業から中堅企業まで
VUCAの中で苦労は絶えず、経営は以前にもまして困難を極めているのではな
いか。
零細企業では昔から構成員への利益の分配を投げ出し、合法の範囲で社会
の糾弾から無縁で、経営的逼塞も少ない。昇進も昇格も限られた小さな組織
で、社員は遣り甲斐だの頼られ感を喜びに毎日を過ごし、経営の地道な工夫
のために学びと成長を求められる。「諦め型倒産」さえ選ばなければ、高機
動性・差別化の徹底と規模縮小でそれなりに生きていける。そう考えてみれ
ば零細企業も神田の言うNPOと実態は大して変わらない。
多国籍企業は海外に逃げていたがグローバリズムの終焉で逃げ場もかなり
少なくなった。多種多様な市場文化や規則・規制に対応するのが困難で、そ
の数を減らしているようにさえ見える。国内に留まる上場企業はコンプライ
アンスで利益を削られ、競争は激化し、市場は縮小して踏んだり蹴ったり。
中堅企業は大手と零細の挟み撃ちで淘汰が掛かり、おまけに優秀な人間も限
られていて、機を見るに敏とはなかなか行かない。
ミンツバーグは会社組織の形態を5つに分類して見せた。その説を1冊の書
籍全部で解説している。大学時代の或る学期、組織心理学の教授はこの書籍
を延々紐解いてみせ、私はミンツバーグの描く組織のリアリティとその筆致
にのめり込んだ。5分類の最初は「シンプル・ストラクチャー」。一人の人
間が自分の手足となって働く者達を直接指揮する形態。5つの中で、最もリ
スクが高いが、最も機動性が高く、変化に柔軟に対応できる。
大手企業は事業毎・機能毎に分社して「選択と集中」を行ない、機動性を
高めていると言う。経営危機に陥った企業の再建の一手も「選択と集中」で
ダウンサイジングが必須。VUCAの時代。日本の企業組織全体にダウンサイジ
ングの圧力がかかる。企業の大多数は零細企業。全ての企業が一様にダウン
サイジングを図るなら、零細企業は個人事業に収斂していくのが道理。多く
の企業から優秀な人材が浸み出す様子を夢想する。
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3 非雇用化の背景(04) 労働市場の縮小
非雇用化が必要とされるようになった背景要因を考えてみます。今回は第
4回目で、「労働市場の縮小」について振り返ってみます。
失業者以外に無業者の人口が増えています。人口減少が被さってきますの
で、労働力は不足するばかりです。「どこの会社も魅力を感じない人材」、
または「仕事の選り好みをしてミスマッチがそのままの人材」であることが
多い長期失業者。「働けない」、または「働く気がない」無業者。こうした
人々とは対極にいるのが引く手数多なスキルや知見を持つ人材です。そのよ
うに言うと、すぐ専門性の高い特定スキルを持つ人材が想定されますが、必
ずしもそうではありません。納期を守るとか提案や報告を当たり前にすると
か、そういった汎用的なヒューマン・スキルがきちんと身に付いているだけ
でも、特に中小零細企業においては引く手数多な人材になることでしょう。
こうした当たり前のことが当たり前にできる人材も非常に稀少になってき
ており、よく言われる通り、デキる人材に仕事は集中します。そうした部分
を高く買い求めつつ、他社ともそれを共用することが、「デキる人材」の労
働力の確保の上で、一つの大きな選択肢になってきました。
人口減少が激しい地域ではこのような傾向がより顕著に現れます。元々人
口が3万に満たないような市町村では人々を雇用する企業そのものが少なく、
雇用されていずに幾つかの仕事をアルバイトや業務請負の形で並行して行な
っている人材は、特に珍しくありません。地元に貢献するという観点からも、
自社でそういった頼りになる人材を輩出し、自社が優先的にその労働力を得
つつ、地域の他の企業や組織にもそれを還元するといった発想は重要でしょ
う。
コミュニティ重視の経営がよく議論されますが、その一つの形は非雇用化
した社員との薄く広い繋がりがある組織であろうと思われます。また、今後
の社会の特徴は「所有するのではなくシェアすること」とも言われています。
であれば、中小零細企業はリース活用などの「資産の経費化」以上に、人材
を抱えない経営の形の方が議論されるべきでしょう。優れた組織人・職業人
の稀少化は間違いなく、組織に流動化を促す圧力となっているものと思われ
ます。
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4 非雇用化導入時の留意点(05) 制度の浸透
非雇用化制度導入時の留意点を全5回で5点に分けて紹介します。今回は5
点目です。
これまで非雇用化の制度を社内に構築する上での留意点として、「対象業
務形態の抽出」、「汎用的な知識・スキルの充実」、「自律向け知識・スキ
ルの充実」、「報酬体系の確立」の4点を簡単に説明してきました。最後の
今回は「制度の浸透」について考えてみます。
「社員の一部を非雇用化しましょう」と提案すると、経営者でも、「それは
違法だ」とか「それは社員を公然とクビにするということだろう」などと妄
言を語り出す人が沢山います。当然ながら、社員側であれば余計にそういう
誤解が生じやすいと考えるべきです。非雇用化する社員自身は勿論、その対
象にはなっていない社員も含めて、この制度がどのようなもので、会社にも
社員本人にもどのようなメリットがあるかを入念に説明して理解してもらう
ことが必要です。
元々非雇用化の対象となる社員は、業務遂行能力が高く、社内で人望もそ
れなりに高いことが多いでしょうから、制度導入後の初期の非雇用化社員数
人が、非雇用化のメリットを納得して、それを他の社員も「望ましい」、
「羨ましい」と認識するような状況が生まれるぐらいを目標にして、制度を
浸透させることが必要です。
またタニタ社のように書籍にして喧伝する必要はないでしょうが、何か後
ろめたい制度として外部に対して秘匿するのではなく、社内のキャリア・パ
スの一つの主要な選択肢として位置付けて、人材の採用時には普通に提示す
ることが重要です。このような外部への説明を行なう大前提には、社員や非
雇用化した個人事業主の人々の理解や納得がなければなりません。各種の研
修制度や産休・育休制度のように、自社の一つの制度としてきちんと浸透さ
せることが大事なのです。
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5 非雇用化のメリット(05) ロイヤルティの向上
非雇用化のメリットを全5回で5点に分けて紹介します。今回は5回目で
「ロイヤルティの向上」について考えてみます。
通常の社員が自社組織に対して抱くロイヤルティと、非雇用化して個人事
業主となった人材が自社に対して抱くロイヤルティを比べると、多くの場合、
後者の方が高くなります。このように言うと、「雇用されている社員の方が、
企業の組織に世話になっている部分が多いのですから、逆にならなければお
かしい」という反論されることがありますが、現実は個人事業主の抱くロイ
ヤルティの方が高くなりやすいのです。
雇用されている社員が日々働いている中で、自社が自分の健康保険や年金
の半分を支払ってくれていることに感謝するようなことはほぼないでしょう。
同様に、自社の売上に対して自分に払われる報酬がどれぐらいの割合になっ
ているかを理解しながら、売上向上、利益向上に邁進する社員も非常に少な
いでしょう。個人事業主になると、自分で健康保険も年金も負担することに
なります。自分の売上から経費を引いて残った金額から税金を払うことも毎
年意識して行なうようになります。
その結果、仕事を貰うことのありがたみが普通に理解されるようになりま
す。これが自社に対するロイヤルティが上がりやすい一つの要因です。もう
一つの要因は、既存社員の中で優秀な社員から非雇用化を進めることになり
ますので、非雇用化の対象になったことは優秀さの証でもあります。自分の
努力や仕事の成果が会社組織で認められていることが、非雇用化した“元社
員”の動機づけとなるのです。
また、或る程度、成果を出せる社員ならば、他社の仕事も少しずつ引き受
けるような事態が発生する可能性があります。非雇用化人材にとって他社か
らも認められ、報酬も増えることになり、さらに大きな動機付けが発生しま
す。その場合、自社の方も、その非雇用化した“元社員”が関係性を持ち続
けたい提携相手であり続けることに緊張感を持って臨まねばなりません。そ
うした関係性の構築が結果的にコンプライアンスを満たすことや自社の強み
を伸ばすことに繋がっていくのです。
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6 シリーズあとがき
ずっとまとめてみたいと思っていた「(一部)社員の非雇用化」を、600
話到達を機に全五話にまとめることができました。「地方公共団体が各地域
で開催する『起業セミナー』に集まる人々が始めたい仕事の大多数は“未経
験の飲食業”で、男性はバル、女性はカフェが殆ど」と知り合いの中小企業
診断士から聞いたことがあります。
激戦の飲食業ですから、(余程物件が悪くない限り)せめて廃業する所を
居抜きで引き継ぐなどした方が良いはずですが、なぜか多くの人はゼロから
未経験の仕事を立上げて辛酸を舐め、1年も続かずに廃業するような茨の道
を歩みたがるとのことでした。第599話『試運転不足』に書いた、経営者の
免許制まで必要かどうか分かりませんが、零細事業の定石をしっかり学び、
未経験の分野の事業の集客方法などを十分把握してから、ゼロからの立上げ
に臨んだとしても、かなりの高リスクな人生の選択肢であることでしょう。
それに対して、今回のシリーズで示した「(一部)社員の非雇用化」は、
個人事業主になっても、スタートで手掛けるのは今まで自分が居た会社の業
務です。職掌は変化するでしょうが、それも多能化を前提とした育成をされ
ていれば大きな障害になりません。自分が得意とする仕事や求められる仕事
の割合を徐々に増やして行き、ジワジワと他社案件受注の道を広げたりする
一方で、時間の制約はほぼなくなり、収入も就業規則の賃金規定の枠を超え
て少しずつ伸ばしていけるはずです。
嘗て『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい…』というビジ
ネス書がヒットしたことがあります。既存の事業を引き継ぐことはかなり低
リスクですが、それでもオーナー経営者になるには、それなりのハードルが
間違いなくあるでしょう。社員であるキャリア・パスと300万円で買える既
存零細組織のオーナー経営者を引き継ぐキャリア・パス。その中間に位置付
けられるのが「非雇用化」であろうと考えられます。
或る意味、「独立ごっこ」的な「非雇用化」の選択肢を弊社では「済し崩
し型独立」と呼ぶことがよくあります。高い起業の志を抱き、とんでもない
苦労を伴っても尚失敗する可能性が非常に高い起業など、見ようによっては
奇人・変人の歩む道です。フリーランスよりも安定していて、行なうべきこ
とも明瞭で、そのための知見やスキルも十分にある状態で始められる「雇用
されない選択」が、本シリーズのテーマです。
本文でも述べた通り、中小零細企業の最大の社会貢献として、オカミの定
義する七面倒な雇用の箍を外して、質の高い組織人・職業人を社会に輩出す
ることに取り組む企業が、これからの時代にもっと増えたらよいものと思っ
ています。
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7 MSIグループの仕入完了報告(抜粋)
■『Thisコミュニケーション 1』
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■『ルポ出稼ぎ日本人風俗嬢』
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■『「若者の読書離れ」というウソ 中高生はどのくらい、…』
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8 次号予告
第605話 『ルンバのステップ』 (4月10日発行)
都道府県庁の指定の最低賃金を大きく超える賃金を払っている正社員に低
付加価値の仕事をさせ、自分達は長時間労働で総てのオペレーションの維持
に忙殺されているオーナー経営者夫婦との会話をまとめてみました。
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
MSIグループ 市川正人
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毎月10日・25日発行 盆暮れ年始、一切休まず足掛け26年。
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(完)