18周年記念特別号 vol.2

=================================
経営コラム SOLID AS FAITH 18周年記念特別号 vol.2
=================================
全体目次

vol.1
はじめに
第1章 消えて行く大手企業
第2章 死すべき技術 ~師匠と弟子の問答集~ 前編
第3章 就労観の変化と組織運営
第4章 ポスト・ワーク・ライフ・バランス 『これからの生活』

vol.2
第5章 死すべき技術 ~師匠と弟子の問答集~ 後編
第6章 ソリアズの中のICたち
第7章 IC向け生命力テスト
第8章 零細企業とICの未来
あとがき (市川正人)

=================================
経営コラム SOLID AS FAITH 18周年記念特別号 vol.1から続く…
=================================
☆注意:お読みになる際には、枚数がかさみ恐縮ながら、プリントアウトの上
お読みになることを、心よりお勧め申し上げます。
=================================
第5章:死すべき技術 ~師匠と弟子の問答集~ 後編

-経営の技術が中小零細企業では要らなくなってくるというのは、何となくわ
かってきました。では、そこで実現しやすくなる「自由な働き方」の方につい
て、話を戻してみたいんですが…。

「会社全員がやるべきことをやる。それは、多分、みんなが互いに互いの能力
と作業の負荷の状況とかを把握しあっていて、みんなで拘束し合う必要がない
組織だと言いました。それはいいですよね」

-はい。だから法的な拘束である労基法のような決め事の必要性さえなくなっ
てくるということでしたね。

「多種多様な人材、多種多様な働き方、多種多様な在職動機を持つ凡事を徹底
できる人々が、社員もICも関係なく集まって、売上も利益も生み出せる組織。
そういった経営の技術が要らない組織と仕組み作りが、今後の中小零細企業で
は必要となってくるのだと思います。具体的なケースで考えてみましょう。優
秀な社員が出産や親の介護といった仕事以外のなんらかの理由で社員として働
くことを継続することが難しくなった時に、育ててきた社員を失うのは会社に
とっても不利益ですし、スキルを伸ばしてきた本人にとっても不幸ですから」

-優秀な社員を囲うためには、育休や介護休暇なども利用する手もあるかと思
いますが。

「もちろん、そういう選択もできますね。場合にもよりますが、社員を辞めて
個人事業主となり、優先させなくてはいけない別のことと調整しながら、引き
続き可能な範囲で会社に貢献し続けるという選択をしたい人も多かれ少なかれ
いると思います。そしてまた社員として働けるようになったら、社員に戻るも
よし、個人事業主のままでいて、空いた時間は別の会社の仕事をするもよし。
会社側だけでなく働き手にとっても自由度がぐんと上がるのではないでしょう
か」

-確かに両者にとってwin-winな感じがします。最後にもう一つ教えてくださ
い。市川さんは、みんながきちんとやるべきことをやる理想の社会って本当に
やってくると思いますか?

「やってくるというか、すでに日本はかなりまともな人が増えて理想の社会に
なっていると思います。会社を経営するのにこれほど楽な国はないでしょう。
もちろん例外もあるでしょうが、一般的にこの国の人は、時間を守る、秩序が
ある、人のことを慮る、公共のルールを守る、善意で行動する傾向があります。
よく「昔はよかった」とか言う高齢者がいますが、治安や貧困などの面で見れ
ば、確実に今のほうが良いはずです」

-確かに海外の国々と比べると日本はかなりまともですよね。バスだいたいち
ゃんと時間通りに来ますものね。来ないとしてもいつくるかわかる仕組みにな
っていますし。

「そうですよ。落とした財布が遺失物預かりに現金もクレジットカードも入っ
た状態で届けられていたと、外国人観光客が感激する国ですよ。あと、勉強好
きなのも強烈な特徴です。留学時代の友達が来日して夜に会った時にその日の
仕事を聞かれたので、「食堂の店主にホスピタリティの構造を説明して、その
ネタ本のビジネス書を読んでおくように課題を出してきた」とか言ったら、腰
を抜かすほど驚いていました。「ダイナーのボスは本を読むのか!」って言っ
てました。そういうことですね」

-留学時代の友達って、アメリカ人ですよね。日本はそんな風な特徴があるん
ですね。他にも、経営技術が要らなくなるような要因ってありますか?

「ああ。あと、SNSの浸透で世の中的にも不正や悪いことができない環境にな
ってきていますよね。日本の社会はもともと衆人の目が気になる社会だと思う
ので、そこに、SNSで評価や意見が不特定多数に対して公開されてしまうと、
万が一、信頼を失うような行動をした場合、恐ろしいペナルティーを負ってし
まいますよね。人間関係が希薄な感じの文化ならSNSが発達しても、日本ほど
にはダメージがないと思いますけど。逆に言うと、日本で暮らすことは外国で
暮らすのに比べて息苦しくなっているってことかもしれません」

-確かにそうですね。技術が発達して豊かさが実現したらしたで、何か息苦し
かったり、物足りなく感じたりすることもありますね。

「例えば、もし宝くじで1億円当ったとしても、瞬間風速的に大買い物はでき
るでしょうが、今の日本では人生が大きく変わることはないでしょう。下手に
大買い物をすると、その後の維持費とかがとんでもなくなってしまいますし」

-確かに…。豪邸を買ったら、その後、掃除するだけでさえ、大変なことにな
りますね。

「ネットで言われる「自宅警備員」が増える一方で、賃金を上げても求人がま
まならない企業が増えているのは、単純な構造で見ると、カネに困っている人
が減りつつあるからと考えざるを得ません。本当に喰うに困るようなら、自己
実現だの、自分探しだの、喧伝されるようなことをやっていられないはずです
から。あくまでも一般論ですけど、余程とんでもないことがない限り、今のま
までいいと多くの日本人は思っているはずです。それくらい日本という社会が
理想の状態に近づいてきているのだと思います」

=================================
第6章:ソリアズの中のICたち

 近年、流行る傾向のある働き方として市川はICをあげている。それらの働き
方が流行る傾向があってもきっちりと定着したトレンドにならないのは、やる
人たちがぐうたら逃避しているだけだからだと指摘する。本章では、長年ICと
して企業から仕事をもらい続け、実績を積み重ねている市川がソリアズ内で描
写したICが陥りやすい失敗事例をピックアップし、筆者の自戒の念を込めて紹
介していきたい。

失敗事例1:『ラスト・リゾート』(第134話)より
「雇われず、雇わない選択」と題されたIC「独立請負業者」の展示会に、そん
な言葉がない時代からICとして働く市川が赴く。会場にいたのは市川より遥か
に高齢の人々でその多くが営業の請負を指向している。「経験・スキル・人脈
が揃っていて、売るスタイルができているから、究極の即戦力。だから、全く
営業教育が要らない。御社の商品を契約初日からすぐに売り歩ける」とのパン
フの言葉に自信を深めるIC候補の人々。それでは、なぜ彼らの古巣の会社は、
彼らと手を切ったのか。一つの疑問の答えは提示されていない。

教訓1: 会社という後ろ盾に変わる何かを自分で備えるべし

 会社を辞めたタダの人が自動的にICになるわけではない。もはや後ろ盾とな
る会社がなくなった以上、ICは過去の自分の経験に酔いしれていても、残念な
がら仕事の依頼はやってこない。展示会にいたIC候補の人々は、前の仕事を失
った時と何かが変わっているのだろうか。ICの道を進むなら、守ってくれた会
社に代わる何かを自分で携えないと売れるようにはならない。

失敗事例2:『小商いの姿』(第383話)より
 仕事の紹介を生み出すという異業種交流会に誘われて参加した市川。そこで
知り合った女性メンバー達は、皆大手企業やその子会社での総合職の経験者。
子育てが一段落して働こうと思った時、時間の制約が少なく、スキルが活かせ
る仕事として彼女達が選んだのは個人事業。仕事を求める彼女達に「大手の看
板でする仕事と個人事業主の仕事の受注では話が全然違いますし。で、自分で
もきちんと売れない商売を、会の固定メンバーに何度説明した所で、うまくい
く可能性は低いでしょう」とピシャリと市川は助言する。

教訓2:まず自分の商売をきちんと自分で売れるようになるべし

 集客のための仕組みを利用するのもいいが、他力本願ではいけない。ICとし
てやっていく以上、大手の看板はもはや使えないことを自覚し、自分の商売を
自分で売る覚悟をしなくてはならない。そうでなければ他人もその商売を売る
ことなどはできない。

失敗事例3:『未知の全力』(第413話)より
 ヒット曲の歌詞に若手人材の人生観や労働観を見る市川。彼らの主張は時に
理解し難い。人間は積み上げたものを壊すことも身につけたものを取り払うこ
ともできない。代わりに、それらを現実に適応させていくことは可能である。
若き個人事業主志望者数人に起業の実際を話す会に、フェイスブックで「いい
ね」を4桁集めた“意識高い系”の “社会に役立つ新たな仕事”で喰って行け
ない参加者が含まれていることを知り、やみくもに全力を尽くそうとする若者
達の存在を再確認する。

教訓3:堅実に今までに積み上げたもの、身につけたものを活かして商売を進
めるべし

 フェイスブックをいくら充実させても、現実のお客様の満足度は一つも上が
らないし、お金を払うお客様が新規に現れることも、ほとんどない。それで、
「自分は、ブランディングをきちんとしているのに、その価値が分からない馬
鹿が多すぎる」など考えつつ、仕方なく市川の意見を聞きに来たりする若者が
稀にいるとか。下手な自らのブランディングに余計な時間をいくら費やしたっ
て、それは無駄な努力でしかなく何も売れない。

失敗事例4:『PU(永遠の失業者)』(第279話)
 半年ぶりに訪れたクライアント企業の広い事務所には、見慣れない顔が多々
あった。勤務態度が悪く能力の低いハズレの派遣社員を入れ替えたとクライア
ントの部長はいう。派遣社員や請負労働者はハズレが多いと思われがちだが、
現実には、立場が弱いだけに、能力が高くないと簡単に仕事がなくなる。「請
負業者である私も一寸先闇の“永遠の失業者”ぐらいに思って気を引き締めな
きゃと、この前も派遣村を見に行って思ったばかりだったんです」と、市川は
部長との会話を締めくくる。

教訓4:ICも凡事徹底できていないと簡単に淘汰されることを常に意識して行
動すべし

 ICが増えてきているが、その商売の姿勢は概して「ゆるい」ないしは「ぬる
い」ことが多い。その原因はそれらの人々がプロダクト・アウト発想で、当り
前のことができず、過去の仕事経験の枠から抜け出られないでいることなどを
市川は指摘する。ICは派遣社員と同様に立場が弱い。お客様にハズレの烙印を
押されてしまったら、簡単に仕事はなくなってしまう。生き残るためには相応
の正しい努力が必要となる。

***

「正しい努力」はソリアズの号のタイトルにもなっている。家族総出の寝ずの
経営努力が報われることがないと嘆く印刷会社の社長の話。その印刷会社のグ
ループの会長が市川に言った「どんだけ努力したって、金をくれるのは相手さ
んなんですから。相手が嬉しい努力だけが、努力だって決まってるってのに、
まだ奴は分かってないんですよ」と言うセリフが沁みる。(『正しい努力』
(第184話))

「ゆるい」・「ぬるい」経営者が自分の中小零細企業組織をどんどん腐らせて
いくなら、一人で社長も社員も兼ねるICは、より一層「ゆるい」・「ぬるい」
経営に急速に犯されやすい存在であるはずだ。第7章では「ゆるい」・「ぬる
い」経営のIC版を具体的に考えてみる。

=================================
ICを描くソリアズなど
 ■第134話 『ラスト・リゾート』
  http://tales.msi-group.org/?p=186
 ■第383話 『小商いの姿』
  http://tales.msi-group.org/?p=797
 ■第413話 『未知の全力』
  http://tales.msi-group.org/?p=949
 ■第279話 『PU(永遠の失業者)』
  http://tales.msi-group.org/?p=453
 ■第184話 『正しい努力』
  http://tales.msi-group.org/?p=238

=================================
第7章:IC向け生命力テスト

 山口揚平氏は、著書『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』
の中で、「信用を築くために大切なのは、エゴを減じることや謙虚さを養うこ
とである。優秀さとは能力と謙虚さの掛け算なのだ」と言っている。もともと
エゴの塊である筆者には非常に耳が痛い。ただ、彼の言っていることが間違っ
ていないことは私にも分かる。私が知る、人に頼られているな、信用されてい
るなと思う方々は皆、自分は二の次で、周りの人達には謙虚さをもって接して
いるのである。

 本章では筆者が修行をしていく中で市川から伝授された、ICとして地に足を
着けて食べていくために心掛けるべき大切なことを紹介する。まずは基礎編。
これは本格修行開始時に言い渡されたことである。7項目あったので、筆者は
これを「弟子七か条」と呼ぶことにした。

<弟子七か条>

1.いただける仕事は合理的な理由が十分にない限り、基本的に受ける

2.いただける仕事を対応できない合理的な理由が存在する場合は、必ず対案を
提示して、こちらからノーを決して言わない。相手から『それならば、仕方な
いから、今回はいいです』と言わせる

3.いただいた仕事は、必ず、先方の期待をやや上回る成果を付けて完遂する

4.いただいた仕事は、自分の将来に役立つと思われる“何か”が発生するよう
にする

5.その仕事を自分に期待した人物には、その仕事に対してのアクションに出る
のと並行(=事前・事後に)して事態を適宜報告する

6.その仕事を自分に期待した人物の期待を下回る事態が発生した場合には、そ
の“下回り度合い”の数倍の印象を残す何かで埋め合わせる

7.上述の仕事に対する姿勢に対して、自分と自分にまつわる人・モノなどのあ
りようから、疑念を抱かせることを決してしない

***

さて、突然ですがここで問題です!!
以下の各ケースにおけるY子の行動は正しいでしょうか。上述の「弟子七か条」
を行動の指針とする前提でお考えください。

<ケース1>
 クライアントの社長から「お客様満足について社員たちに教えてくれない
か」と頼まれたY子。手持ちの仕事がいっぱいで気持ちに余裕がなかったため、
「ちょっと今難しいです」と答えた。

正解:正しくない
解説:第1条、第2条に抵触しています。忙しいからといって断ってはいけま
せん。
「お依頼いただきありがとうございます。今月は既に案件がいっぱいで時間が
取れないのですが、開催が来月以降になってしまっても大丈夫でしょうか。」
などと打診しましょう。

<ケース2>
 毎月お客様の工場を訪問し、ムダ取り・5S的観点から工場を観察しA4用紙
2~3枚程度のレポート作成し、社長に報告をするというお仕事をいただいたY
子。気合いを入れて臨んだ初回、余力もあったのでレポートの他にパワポのプ
レゼン資料も作成し社長の前でプレゼンテーションを行なった。

正解:正しいが、一部注意が必要
解説:第3条はお客様満足について言及しています。お客様満足は、お客様の
欲しいものを提供しただけでは生まれません。お客様満足を発生させるために
は、お客様に良い驚きを与える必要があります。ゆえに、お客様の期待をやや
上回る成果を付けて完遂する必要があるのです。ただし、あまりにも期待を大
きく上回る成果を出すと、その時はいいのですが、次回以降も同等レベルのこ
とを期待され結果的に自分の首を絞めることになりかねません。お客様との末
長い関係を維持するためには「やや」というのがポイントなのです。

<ケース3>
 お客様の若手社員に「相手を動かす質問技法」を二日に渡りレクチャーした
Y子。初めて教える内容だったので、タイトなスケジュールの中かなり入念に
勉強し準備をした。おかげでなんとかレクチャーも無事完了。ふ~、これでこ
の案件も終了!

正解:正しくない
解説:第4条に抵触しています。どんな仕事でも経験したことは実績となり、
自分の糧となります。その場限りの仕事の仕方はせず、手順をまとめる、ツー
ル化する、気付いたことをまとめておくなど後に活かせる形にして残しておく
作業も合わせて行わなくてはいけません。そうしておけば、次に同じような仕
事をする時、効率良くその仕事を行なうことが可能となります。目の前の仕事
は後の仕事の仕入れと思い、やりっぱなしは止めましょう。

<ケース4>
 Y子は、師匠が紹介してくれた美容院の店舗診断を行った。美容院のオーナ
ーにも無事に結果を報告し、無事案件終了。その1週間後、師匠に報告の連絡
を入れるのを忘れていることを思い出したが、事前に訪問する日程もお知らせ
してあるし、今更だし「便りがないのはよい知らせ」ということでまあいいい
かとやり過ごした。

正解:正しくない
解説:第5条に抵触しています。仕事を期待した人とはお客様だけでなく、そ
の紹介者も含みます。速やかに師匠に仕事が終了したことを報告しましょう。
万が一、報告を忘れて時間が経ってしまったら、第6条に準じて埋め合わせも
しましょう。

<ケース5>
 多忙で身動きが取れない社長に代わって、パートナー企業開拓のための折衝
代行を引き受けたY子。社長から開拓したい会社のイメージの説明を受け、ひ
とまず3社と候補先のリストをもらった。早速アポ取りから折衝試みたものの
条件面折り合わず全て交渉不成立。運が悪かったなと開き直り社長に交渉が上
手くいかなかったことを報告した。

正解:正しくない
解説:第6条に抵触しています。相手があることですし、条件面が折り合わな
いとのことなので折衝が上手くいかなかったのが必ずしもY子の落ち度とは限
りません。しかし、社長の期待(パートナー開拓)を下回る事態が発生してい
ることには変わりありません。上手くいかない理由は何か考えまとめるとか、
次なる開拓候補の会社を探して社長に提案するなど“下回り度合い”を数倍の
印象で埋め合わせる対策をすぐに考えましょう。

<ケース6>
 Y子はお客様とのアポへ行こうとしたところ、たまたま近所に用事があると
いうので、夫にお客様先まで車で送ってもらうことにした。

正解:注意が必要
解説:第7条に抵触する危険性を秘めています。個人事業主であるということ
は、畢竟自分自身が商品です。「この人本当に大丈夫かな?」とお客様に思わ
せてしまうようではいけません。常に緊張感を持ち、自分がお客様にどう見ら
れているか、アンテナを張っていなければならないのです。そのためには、持
ち物一つから細心の注意を払う必要があります。同じ理由で安易に自分の家族
をお客様に紹介することもおすすめしません。万が一お客様に対し家族が挨拶
もままならなかった場合、お客様は疑念を抱き兼ねません。自分にまつわる人
をお客様と接触させるのであれば、その人に相当の教育を施してからにしま
しょう。

***

 「弟子七か条」一見簡単そうだが、これをきちんと徹底するのは容易なこと
ではない。市川にとって当たり前のことが習慣化されていない筆者は、恥ずか
しながらこの七か条が守れずにその穴埋めばかり時間が取られてしまっている。
それもまた修行、師匠に指摘してもらえるうちにできる限り多くの失敗を繰り
返し(本当は失敗しないに越したことはないが)、失敗から学び、体に習慣と
して埋め込まねばならない。

 並行して、ICとしての心掛け応用編も習得中である。ちなみに応用編とは、
極力現場に足を運ぶ、極力会って話をする、相手(お客様、時には協業者)の
発行するWebページや書籍などをよく研究し相手の価値観を理解する、自分の
資料を相手に渡す(何かの時に思い出すきっかけになるため)、自分に宿題を
課す(次回会う理由を作るため)、クレーム処理は最優先にする、見たもの・
聞いたことを興味深く人に語れるような状態にしておくなどだ。

 ICも零細企業と同様、いや、それ以上に、ランチェスター戦略でいうところ
の弱者の法則を徹底する必要がある。ネットで調べるなど誰でもできることば
かりやっているだけでは残念ながら儲からない。自分一人という身軽さを十分
に発揮して、頭をよく使い、地道に足で稼がねばならない。

 ICはとにかく信用商売。市川はフェイスブックなどで見かける気軽に起業を
勧める風潮を危険視し、勘違いしたICを量産してしまう害悪だとまで言う。そ
の市川に数々のノウハウを伝授してもらっているが、その教えはテクニックと
いうよりも、むしろ柔道や剣道などと同じ「道」の類の教えのように思えてな
らない。IC道、あるとしたら私はまだ2級か3級ぐらいだろうか。年末には初段
くらいになるよう、ピッチをあげつつ地道に稽古を続けることとする。

=================================
第8章:零細企業とICの未来

 かつて神田昌典氏は、2024年に会社はなくなると言っていた。でかい図体で、
コンプライアンスだの自然環境保護だの、ワークライフバランスからキャリア
形成まで、ありとあらゆる糾弾に備えるだけで企業は疲弊する。息苦しい企業
組織は衰退し、淘汰され、2020年代にはNPOによる産業化が進展するという説
である。

 ソリアズでは第315話『既成の新事実』に登場するこの説は、あくまでも株
式公開している企業に当てはまることで、市川の主たるクライアントである零
細企業にとっては、どこ吹く風といった話である。零細企業では昔から構成員
への利益の分配を投げ出し、合法の範囲で社会の糾弾から無縁で、経営的逼塞
も少ない。昇進も昇格も限られた小さな組織で、社員は遣り甲斐だの頼られ感
を喜びに毎日を過ごし、経営の地道な工夫のために学びと成長を求められる。
そう考えてみれば零細企業も神田氏のいうNPOと実態はほとんど変わらない。

 グローバル企業は海外に逃げる。国内に留まる上場企業はコンプライアンス
で利益を削られ、競争は激化し、市場は縮小して踏んだり蹴ったりという状態。
中堅企業は大手と零細の挟み撃ちで淘汰が掛かり、おまけに優秀な人間も少な
く機を見るに敏とはいかない。そんな中、零細企業はその場その場に自らを適
応させながら、ギリギリ生き残ることになる。そして、その零細企業と共生関
係になるのが、(あくまでも優秀な)ICの人々なのである。

 実際のところ、社員10人くらいまでの零細企業においては、最低3ヶ月先が
読めればなんとかだいたいやっていける。さらに、きちんと経営(凡事徹底)
していれば生き残りの確率がぐっと上がる。この生き残る零細企業にスタンダ
ードを合わせていられるICである限り、ICとしての未来も明るいだろうと市川
は実体験から語る。

 ICという言葉自体はそう古くはないが、その働き方は実は以前から存在して
いる。ヤクルト・レディさん、保険屋さん、工務店の職人さん、最近だとクラ
ウド・ワークスで職を得る皆さんもICである。彼らをモデルとして考えてみた
とき、彼らの中で実際に成功している人々に共通している点があるはずである。
その成功の秘訣ともいえる共通点は、そのままこれからICとして食べていこう
としている人たちにも適用できることだろう。それが市川のいうスタンダード
を合わせるということでもあるに違いない。

 第6章と第7章で描いたICのありようが、市川の言う零細企業と共に歩む成功
するためのパターンなのだ。

=================================
■『既成の新事実』(第315話)
 http://tales.msi-group.org/?p=582
=================================
あとがき(市川正人)

 吉良が上手くまとめてくれた「組織統制技術」としての経営技術の緩やかな
消滅。読み返すと、ICの増加も含めて、かなり極端な未来予想で、自分でもす
ぐにこんな風な急激な変化が訪れるとは思えません。ただ、徐々にこのような
方向に進むのであろうとは確信しています。

 幸い(間違える人がよくいらっしゃいますが)弊社ウェブでも強調している
ように、経営コンサルタントではない私は、あまり影響なく暮らしていますが、
世の中的には、単に自分の経営観を話して聞かせるだけの所謂「コンサル」の
人々がどんどん食えなくなっているとそこかしこで聞かされます。まさに、増
田悦佐氏の予言通りです。

 AI技術の発達と共に、核となっている代書機能の専業の社労士・司法書士・
行政書士・税理士などの「士業」と言われる人々の仕事も減少傾向にあります。
米国では弁護士も労力がかかる判例探しの業務はAIが既に取って代わっている
と聞いたことがあります。

 経営と言う技術は警察型の技術。組織の人々が小学生でも知っているような
当たり前のことを当たり前に行なうようになったら、経営と言う技術の必要性
は劇的に減少する。と言うと、吉良がインタビューで尋ねていた通り、そんな
にまともな人だらけになるのかと言う疑問が湧きます。インタビューでは、日
本は諸外国に比べ既にかなりまともであると私は回答をしています。それもあ
るのですが、別にそうならなくても良いのです。

 なぜなら、それほど遠くない将来、当たり前のことを当たり前にできない人
間は組織から放逐され、AIが取って代わるからです。「孫正義氏が大半の社員
よりPepper君の方が使える」と言ったと言う噂を聞いたことがあります。真偽
を確認していませんが、当たり前のことをするだけのPepper君を越えることが
できる人間しか組織にいられないなら、組織は当然、当たり前のことが当たり
前に為されるようになることでしょう。

 凡事徹底の簡単な四文字が、経営の多くの知見にとって代わる日。その知見
の中には、組織統制の分野のみならず、在庫管理や営業管理、財務管理や労務
管理など、各種の経営技術の少なからぬ部分も含まれているはずです。

「ナンバーワンよりオンリーワン」だのと『セカハナ』を歌って努力もせず承
認を求めることが、自分の未来を潰していく行為であることは、まともな小学
生なら知っています。ならば、人間同様に企業も努力して差別化要因を作り上
げる必要があるのも自明ですから、マーケティングの差別化も特に学ぶ必要が
ありません。大体にして人口が減少している地域では、市場をセグメンテーシ
ョンすること自体が、見込み客の母集団のサイズを小さくしてしまうので、収
益を成り立たせなくしてしまいます。

 零細企業組織においては、少数のロイヤルティの高いお客様にきちんと向き
合うことが必要十分なマーケティングの努力と思えますが、それも本文で述べ
た通り、本来人間として当たり前のことです。志や理念や座右の銘がなくても、
当たり前のことは普通にできます。零細企業でもそれが同じなら、どうせ大抵
「お客様満足」や「創造的仕事」や「迅速で活力ある組織」と言ったことを適
当にまとめただけの企業理念さえ、その必要性が薄れてしまうのです

 段々と必要なくなっていく経営の技術。そんな中、零細企業よりもさらに零
細なICの一人として、凡事徹底に邁進して行きたいと思います。

=================================
※ ご注意!!
 サーバのエラーなどで読者登録が解除されてしまった方がいらっしゃる様子
です。当メルマガ通常号は毎月10日・25日に、周年記念号は毎年10月末日に休
まず発行しております。発行状況のご確認は上述の弊社ブログにて行なってく
ださい。
 また、まぐまぐからの連絡によると、一部フリーメール運営企業でサーバの
受信量規制を行なっているケースがあり、その場合は大幅にメールマガジンの
到着が遅れるとのことです。
「届かない」、「再送希望」などの連絡は、まぐまぐの窓口である
「magpost@mag2.com」に、メルマガID(#0000019921)、タイトル(『経営コ
ラム SOLID AS FAITH』)、購読アドレス、再送希望の旨を記載の上、メール
にてご連絡下さい。
=================================
発行:
「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
下のアドレスにご意見・ご感想を頂ければ幸いです。
 bizcom@msi-group.org
このメールマガジンは、
インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して
 発行しています。
 (http://www.mag2.com/ ) 
通常号は毎月10日・25日発行
 盆暮れ年始、一切休まず まる18年。

マガジンID:0000019921 (ナント、たった5ケタ)
★全バックナンバーはまぐまぐのサイトで掲示されております。
 http://blog.mag2.com/m/log/0000019921
★講読の登録・解除はこちらのURLでお願いします。
 http://www.msi-group.org/SAF-index.html
=================================