『ナニカ…』に続いて同じく下北沢の映画館にそのまま留まって続けて観て来ました。6月の最初の日曜日の午後7時55分からの回です。映画.comで見てみると、下北沢と吉祥寺で各1館1日1回の上映。それ以外は川崎で1館(こちらも1日1回の上映)で、全国でもたった3館でしか上映されていません。吉祥寺は同日『104歳、哲代さんのひとり暮らし』を観に行って満席だったパルコ地下の映画館です。
シアターに入ろうとすると、スタッフがこちらが見せたペラペラのプリントアウトのチケットに重ねるように何か紙片をくれました。「鑑賞特典です」とのことで見てみると、出演女優ひとりのチェキ臭い写真でした。(チェキ大ではありますが、紙に印刷されています。)後で調べてみてこの女優は中山ひなのということが分かりました。
シアターに入ると、観客は当初私以外に20代の女性1人しか見当たりませんでした。私はシアター全体が見渡せるよう、前回の『ナニカ…』の際と全く同じ席である最後列の端に座っていましたが、彼女は私と同じ最後列のど真ん中辺りに座っていました。キャップを目深に被りマスクをしていて、上は仮面ライダー一号のようなラインの入ったジャージで下はスエット風の出で立ちで、一般的には映画を観る風体ではありませんが、下北沢ならではという感じにも思えます。
その後、暗くなる直前に私と同年代ぐらいの男性が1人加わりシアターの中央辺りに座りました。そして映画本編が始まった後、20代ぐらいの女性がさらに1人加わって、私も含めて合計4人の観客でした。
封切が5月2日でほぼまる1ヶ月も経っており、パンフも制作されないマイナー作品なので致し方ない状況かと思いますが、全国たった3館で1日1回でこの状況はかなり残念な感じが否めません。
私がこの作品を観に行こうと思ったのは、自分が高校時代に修学旅行に行っていないからというもほんの僅かな動機になっているかもしれません。私は奨学金二本とバイトの掛け持ちで自費で高校に在学していたので、無理して普段より余計な金を貯めて行くほどに修学旅行に価値を見出せませんでした。担任教師の多少の説得もあったような記憶がありますが、親が「自分で考えて決めたらよい」と言ったので、そのまま行かないことにしました。
(その代わり、当時大流行していて紅白歌合戦にさえ登場したノーランズの札幌公演を高い電車賃を掛けて北海道の片田舎から観に行ってきました。「ノーランズはこれっきりかもしれないが、京都・奈良の寺社は後でも観られる」と判断して、実際、就職後の20歳のGWにバックパック3泊4日の超貧乏旅行で京都・奈良を堪能してきました。)
高校の修学旅行を描いた映画作品は幾つかありますが、どれもかなり誇張されていたり、ギャグ化されていたりして、現実的な描写はあまりありません。(コミックなら高校生が主人公の長編漫画において必須のイベントなので、さらに膨大な数に上ると思いますが、特に印象に残っているエピソードのものはないように思います。)それに対して、この作品のネット上の作品情報から醸し出されるテイストからは、何となく多少なりとも現実感ある高校生の修学旅行が観られるのかなと思い至ったのです。
取り分け、ほんの数年前に私が人生で初めて訪れた広島が修学旅行先だったので、関心が数割ほど上乗せになった感じがします。
あとはこの作品の企画・脚本を担当したのが、私がかなり好印象を持った劇場鑑賞作『ハケンアニメ!』の脚本担当者であることも動機の主要素です。映画.comのあらすじ紹介には以下のように書かれています。
[以下抜粋↓]
クラスに友人がいない加山糸は修学旅行前の班決めで、同じく誰とも組むことができずにいた5人と一緒に班を組まされ、班長まで任されてしまう。メンバーは、自己中心的な馬場すみれ、ガリ勉タイプの新川琴、自慢話ばかりの五十嵐大輔、気が弱すぎる山田ちえ、そして不登校の飯島祐太郎。修学旅行先の広島で、ギクシャクしながらも班行動が始まり、6人それぞれの行きたい場所を順番に周ることに。バッティングセンターやSNS映えするカフェを巡るうちに、彼らの間に少しずつ仲間意識が芽生えはじめる。しかし、あることをきっかけに思わぬ事態が起こり……。
[以上抜粋↑]
「1人ぼっち」からの造語である「6人ぼっち」というタイトルがそのまんまのストーリーであることが紹介文からも想像されますし、観てみて分かった物語全体も全くその想定を裏切らない内容でした。
この6人の「ぼっち」の高校生を演じた役者達は、全員、高校生よりやや上ぐらいの年齢のようで、ネットでざっと見ると概ね20歳から25歳までのレンジに居るようでした。全員、どこかで見たような気がするのに、全く思い出せない状態で、その点では鑑賞中も何かずっと歯に食べ物が挟まったような感じでスッキリしませんでした。画像記憶ができない人間なので余計かもしれませんが、パンフレットのないこの作品を、帰宅後ネットなどで色々調べてみても、何で観たのかが分からない人物が過半数でスッキリしないままです。ざっくりまとめると以下のような感じです。
映画.comに「クラスに友人がいない加山糸」と書かれていますが、実際には「考えすぎてノリの悪い人」という感じの実質的な主人公で、野村康太と言う男優です。私は彼が数度脇役として登場しているドラマ『ホスト相続しちゃいました』を桜井ユキ見たさに結構じっくりDVDで観たはずなのですが、彼の役をウィキで読んで、どうにか「ああ、問題児の新人ホストか」ぐらいしか思い出せません。『身代わり忠臣蔵』にも出演していますが、私は多少誘惑は感じた程度で結局劇場鑑賞にもDVD鑑賞にも至りませんでした。
「不登校の飯島祐太郎」と紹介されている男子は、実際には表向き学年一の優等生に裏で散々虐めに遭って自殺を考えている内向的男子です。吉田晴登と言う男優です。私がDVDで観た映画で比較的高評価であった『蜩ノ記』『トワイライト ささらさや』『疾風ロンド』に出ていたようなのですが、全く記憶がありません。やや釣り目気味ですが、劇中では鈴木福に見える時があります。
「自己中心的な馬場すみれ」との紹介の女子は、一応芸能事務所に所属もしているYouTuber系アイドルの卵といった感じの位置付けで劇中でフォロワー3万人と言っていますが、演じている三原羽衣と言う女優も実際にYouTuberであるとウィキに書かれています。6人の中で一番見覚えがあり、帰宅して調べてみるまで一番気になっていたのですが、昨年末までTVerでガッツリ観てはまた繰り返して観るを繰り返し、今は早くも登場したブルーレイを買うかどうか迷っている実写ドラマ『ウイングマン』のザシーバだったのでした。人間体で登場したのは1話だけで、登場2話目の変身後にいきなりウィングマンの新技で撃破されますが、結構印象に残っている役です。人間体の彼女は黒津と言う役名でした。私が劇場で観た作品でも『死刑にいたる病』に出演していたようですが、ウィキに役名も載っていない状況なので、私も全く記憶の手繰りようがありません。
「自慢話ばかりの五十嵐大輔」とされている男子学生は、ちょっと表現が違う気がします。私には劇中で「空気が読めず空回りを重ねているのに、イケてる感じになりたい鬱陶しい男子」という感じでした。松尾潤という男優が演じていますが、この人物には現時点でウィキもないようで、プロダクションのプロフィール・サイトによれば、私も熱狂した劇場鑑賞作『沈黙の艦隊』にヤマト乗組員の一人として出演しているようなのですが、全く記憶がありません。
「ガリ勉タイプの新川琴」は、文字通りまんまのメガネ女子です。劇中では(やや面長ではありますが)一見、『先生の白い嘘』の奈緒に酷似しているように見えることがあります。取り分け映画前半では役が誇張されるあまり、ずっと単語帳を持っていたり参考書を持っていたりして、流石に不自然感全開で、少なくとも私から見ると最も現実感がない登場人物でした。鈴木美羽という女優が演じています。井上真央好きの私が結構ハマってDVDでじっくり観たドラマ『明日の約束』に出ているようですが、全く思い出せず、劇場で観る候補には上がっても優先順位が低く観なかった『なのに、千輝くんが甘すぎる。』や物語コンセプトは一応優れているのにあまりに不評ばかりで到底観る気がしなかった『THIS MAN』などに登場しているようですが、当然作品ごと観ていないので知る由もありません。しかし何か引っかかると考えてみましたが、辛うじて彼女のウィキ情報から考えられるのは、(ウィキに拠れば20社以上の実績があるほどに)多数出演しているCM関係で観ているのかもしれませんし、『王様のブランチ』のリポーターで観ているのかもしれません。ニコラのモデルも勤め、その中で、今不倫疑惑と『かくかくしかじか』のヒットで話題の永野芽郁とも嘗てユニットを組んだこともあるという話なので、私が認識するよりかなり知名度が高い人物なのかもしれません。、
「気が弱すぎる山田ちえ」は、気が弱いのは結果であって、寧ろ自己肯定感ほぼゼロ的な女子です。設定では父が仕事で追い詰められ自殺したと劇中で本人が語っており、よく言えば引っ込み思案、悪く言えば軽度の自閉症のような感じです。前述のチェキ様カードを貰ったのが彼女ですが、中山ひなのという女優が演じています。先述の三原羽衣同様に、かなり見覚えがあり、ずっと引っ掛かっていましたが、ウィキで見て「ああ、なんだ!」と納得しました。TVerで結構ハマって観ていた『ギークス ~警察署の変人たち~』に登場する狂言通り魔事件の犯人にして、狙った対象の殺人ギリギリまでに追い込むような、このドラマ全話の中でもかなり凶悪な犯人女子でした。ネット・ニュースで見ると、SNS上の感想に「中山ひなのちゃんの演技力が高かった。また見てみたい役者さん」との感想があると書かれていますが、警察署内での会話で追い詰められ豹変し本性を顕す姿が、結構ヤバい感じでした。
そんなこんなの後から調べてみて多少スッとする部分があるものの、かなりモヤモヤした状況で85分の全編を鑑賞しましたが、結構面白いです。面白いというよりも、リアル臭い高校生の描写がそれなりに評価できる感じに思えるのです。
映画.comの紹介文にある通り、最初はクラスの班分けで余ってしまい佇んでしまった5人を担任が「お前らで一班な」のように強引にまとめた結果で(さらに、修学旅行の中で自殺を試みて自殺の影響の大きさによって虐めの告発を完結させようと考えている不登校男子が修学旅行当日に加わって6人になりま)すが、主人公と言える男子の直向きな姿に徐々に全員が絆されて、「6人ぼっち」を相互に認識するようになって行きます。
私もこの登場人物達の心情にはそれなりに共感できます。今から振り返ってもほぼ全く楽しい思い出が出て来ず、友人と言えるような学生も殆どいない状態の学生でした。
20代前半までは(田舎の人々から、意味不明ながら、)「病気の問屋」と言われるほどに、病弱で、病気と怪我を多数し、命にかかわるようなことも数度ありました。病気は隔離が必要となる伝染病だけで、二つもかかり、累計半年以上を隔離病棟で過ごしました。骨折だけでも、頚椎骨折(二回)、頭蓋骨陥没(一回)、自動車に足を踏まれて足の甲の複雑骨折(一回)、顎骨折(一回 今でもレントゲンではヒビが入っているのが確認できます。
それ以外にも、砂浜で砂に埋まった割れたビール瓶が足を貫通したり、階段付近で切り紙をしていて転落し、頬骨をハサミが貫通したり、港で転落して救助に近づいてきた漁船に轢かれたりなどしていますし、高校では結核が二度目に発症して直すのに2ヶ月ほどかかっています。もともと母子家庭でお世辞にも裕福ではなく、高校は先述の通り自費で行っていたので、「自分の金で買っている教育サービス」と認識するようになり、おまけにもともと死んでいて不思議なく、病気とその後遺症で、普通の人と同じようには暮らせないという強い認識があったので、当時流行っていた『BE BOP ハイスクール』のリーゼントの不良学生より、よほど精神的には、やさぐれていたように思います。
ですから、日常がただ無目的に機械的に過ぎて行っているように感じていましたし、また、そうある方が面倒なことが起きなくてよいぐらいにさえ思っていたかもしれません。そうした私も理解できるような高校生達が、現代の高校ではどのように過ごしているかのパターン・モデル別生態描写と言う風に見て、なるほどと頷けたように思えます。
クラスでの事前の班分け作業のソシオグラムをあからさまにする残酷さや旅館での枕投げでさえイケてる学生のグループの中でやる行事であることなど、今も昔も変わらぬ要素もあれば、ぼっち状態が交流も何もない自由行動初日の最初に、取り敢えず皆でグループLINEを作ろうとすることや例のアイドル卵女子がずっと動画を撮り続けたり、スナップ写真を撮る際にもより良い出来を求めて連写を多用したりなど、イマドキを知る部分もあります。
ATフィールドのような心の壁が一進一退の中でじわじわと崩れ始めますが、極めつけが先述の自殺を試みる男子を皆で説得する場面です。ここで全員が本音を顕わにせざるを得なくなり、ぼっちを認める形の中で、連帯を果たします。その上で、残った自由行動の時間をその虐めの張本人の優等生を(わざわざ広島に来てまで)苛め返すというプロジェクトを立ち上げるのでした。この計画は途中で放棄されますが、結果的に優等生の立場を瓦解させる結果を招きましたので、やや出来過ぎ感のある予定調和的な展開ではあります。
こうして広島の街を舞台にした青春劇は終わります。その過程で、ガリ勉メガネ女子も歴女をカミングアウトして広島城について狂ったように語ったり、自己肯定感ほぼゼロの女子も最後に原爆ドームの筋向いにできた展望台で全員の写真撮影をすること提案して称賛されたりします。
終わって皆が日常のぼっちに戻るという展開になりかけた所で、例のYouTuber女子が撮りためた動画を編集し、「空気が読めず空回りを重ねているのに、イケてる感じになりたい鬱陶しい」男子が劇中の早い段階で「気に入っている」と言っていたイケている曲をバックにしたイケイケな動画を(多分小一時間もかからずに)創り上げ、全員に配信します。それをきっかけに全員で修学旅行が終わった当日に帰途を全員が取りやめ集まって楽しい記憶を反芻しようという展開で映画は終わります。
やや臭さはありますが、良い話だと思います。自殺だの引きこもりだのの学生も増えている中で、これを観てすべてのそうした若者の心が楽になるとは思えませんが、ただ日常の有り触れた些末な事柄の中に、生きる意義も自分の存在意義も生まれるのだということが、説教臭くなく示される秀作だと思いました。
例えば、この作品を女子高生数人がただ話し合うだけの、高校演劇派生映画『水深ゼロメートルから』に登場したようなクリシェの課題やら問題認識のわざとらしい盛り込みようと比べると、この作品の秀逸さが、その自然な表現であることがよく分かります。
私は数年前に「死ぬ前に一度ぐらいは国内で行っていない所をじわじわ見て回ろうか」的な発想で、戦争や戦後政治や色々な議論で登場する原爆記念館を始めとする広島(+尾道)弾丸1泊2日旅行をしてきたので、登場する場所が「ああ、あそこだ」とよく分かりました。
少なくとも広島市と言う行政単位で見た時、駅前のジュンク堂の在庫書籍の相対的な難易度の低さや、新たに進出した一蘭に不気味なほど長い行列を作る人々や、サラリーマンが集まる人気の地元大型居酒屋の低レベル接客と貧相な味付け、日清戦争時は実質的な日本の首都となり天皇までがそこに居た街としての文化遺産や産業遺産が殆ど観て取れないことなどから、その歴史文化的・社会的な姿勢というかコンセプトというか指向のようなものに、全く共感できず、再び行く価値を見出せないのが私にとってのこの都市です。
しかしながら、定番の観光スポットは勿論のこと、市電乗車まで含めた広島の典型的見所をカバーしたという観点でも、この作品はまあまあ楽しめます。DVDは出るなら買いでしょう。
追記:
同じ館で先に観た『ナニカ…』の際と同様に、下北沢地元の服や鞄の修理を行なう「あーる工房」という店舗のCMが流れ、それが映画鑑賞マナーの説明も行なう動画となっています。大手劇場などで(キューピーマヨネーズやらJTやらのCM以外にも)映画館と同一ビルの飲食店のCMが流れたりすることは観たことがありますし、一方でマナー解説が予告も兼ねて近日上映予定の作品と絡めて創られているのを観ることもよくあります。しかし、地元の単店が作った妙に素人臭いCMがさらにマナー解説になっているのを見るのは初めてでした。ビジネス用の鞄がかなり傷んで来ているので、持ち込む場所の選択肢の一つに「あーる工房」を加えてみようかと思い至りました。
追記2:
常時そこにある売場かと思っていた、入口脇のアクセサリー売場が、実はフリースペースに出展していた「出張店舗」だったことが分かりました。映画終了後シアターを出ると、店が消失してかなり景色が変わっていました。