349 仲良きこと =1984年の人々=

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経営コラム SOLID AS FAITH 第349号
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 ご愛読ありがとうございます。第349話をお届けします。

 8月に入って、札幌と東京を行き来するドル箱航空路線でも、夏休みの旅行
と思しき親子の旅行者を多く見かけるようになりました。暑い日はまだまだ続
きますが、高温多湿の気候がお気に入りの弊社代表の市川には、一年で最もノ
リノリで仕事ができる季節が続いています。

 前号のご挨拶でも触れた15周年記念特別号のコンセプトは、『Congenital
Auto-cruisers』と決めました。前野隆司博士による受動意識仮説は、アン
ケートによる客様満足度調査や安易な社員動機付け策の実施に疑問を呈してき
た弊社の考え方を、極めて上手く説明できる理論構成です。他の書籍を読むと、
2010年に書籍で発表された受動意識仮説は、その後、実験によって様々な面か
らの検証が進み、原理として正しいことが明らかになってきたようです。その
受動意識仮説を中心に据え、幾つかの書籍の内容を合わせて考えてみようと
思っています。詳細はPR欄をご覧下さい。

 今回の第349話からは、『1984年の人々』と題した二回シリーズをお届けし
ます。1975年に『文藝春秋』誌上に発表された『日本の自殺』は文明の没落が
どのように進行するかを分析した文章です。当時、その内容を高く評価した土
光敏夫が周囲の人々にコピーを配ったと言われています。読んで考えたことを
まとめてみました。第1回は完成した組織の風土が組織構成員をどのように変
えていくかを考えてみます。本文に対するご意見・ご感想をお待ちしておりま
す。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!
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その349:仲良きこと =1984年の人々(1)=

「これ。スタッフの楽園っちゃ楽園ですが、職場って、こう言うもんなんです
かね」。
 私がぼそり呟くと社長は目を見開いて私の顔をじっと見た。この会社は私鉄
沿線の駅前商店街で飲食店を二店運営している。店主兼任の社長の人材観は優
れていて、採用も育成も、この規模の組織では異常と見えるほどに注力してい
る。揃ったスタッフ達はニコニコ働いている。一体感もあり、責任感もある。
任せておいて安心のスタッフと誰が見ても分かる。店舗ごとにスタッフのリー
ダーがいる。しかし、その牽引力は特に目立たず、皆が考えて働いている結果、
店舗が毎日そつなく運営されている。
 
 母国に仕送りをすると言っていた大卒の中国人スタッフがいたが、最近辞め
た。働くことに前のめりで、向上心もあり、店舗のオペレーションを早々に覚
えては、次は何をしたら良いかと社長によく尋ねて来ていた。中国の大学を出
たからには、本国ではかなりの知的エリートだったろう。彼が辞めた理由を社
長は他のスタッフと合わなかったからと分析する。合わないものを無理に合わ
せる必要はあったのか。そして、合わせるなら、どちらに合わせるべきだった
のか、疑問に思った私に、社長は「この店は意欲あるスタッフが仲良く働く職
場と言う感じなんだ」と説明した。
 
 グループ一九八四年による『日本の自殺』を最近読んだ。中に出てくるスペ
インの哲学者、オルテガ・イ・ガセットの文章が思い出される。
「あまりに組織されすぎた世界に生まれ、そのなかで便宜だけを見い出し、危
険を感じないタイプの人間は、ふざけて暮らすよりほかに行動できないのであ
る。環境によって甘やかされているのである」。

 ふざけて暮らす人々にはパンとサーカスを与えるのだと同書は説明している。
非正規社員が多い職場を抱える多くの中小企業の経営者に理想の職場の要素を
尋ねると、返って来る答えに似通ったものは多い。不満が大きく出ない程度の
給与、ちょっとした福利厚生、そして、和やかな職場の人間関係。これらは皆、
ハーズバーグの二要因論によるところの、磨耗が時間の問題とされる衛生要因
ではなかったか。

 ハーズバーグの二要因論によれば、長く人をやる気にさせる動機付け要因に
は、生易しい“承認”もある一方で、“成長”や“達成”、さらに“責任”ま
で揃っている。ローマ帝国の崩壊から高度成長に翳りが見えた1974年の日本ま
で、文明の没落を読み解いた『日本の自殺』。一旦、パンとサーカスが確保さ
れると、人間は今更、七面倒な“動機付け要因”など受け付けないものなのか
もしれない。
 
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☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
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【MSIグループからのPR】

本年10月末日発行!
15周年記念号の企画大枠が決定!
コンセプトは『Congenital Auto-cruisers(先天的自動操縦装置)』。

14周年記念号で紹介した書籍の著者群は10人。
そのうち未だ言及が為されていないままになっている
前野隆司が唱える衝撃的な受動意識仮説の内容から
人についての企画を立てる弊社の事業の
変更余儀なくされた部分を描いてみます。

15年目以降のソリアズに頻出するであろう、
受動意識仮説の考え方を、
関連書籍の内容を参照しつつ、
分かりやすくまとめてみたいと思っています。

また、詳細が決まり次第、随時お知らせ致します。
ご期待下さい。

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14周年記念特別号 http://tales.msi-group.org/?p=635
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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『脳には妙な クセがある』 山口果林 著
■『バカが多いのには理由がある 』 橘玲 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
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次号予告:
 第350話 『無邪気な時代』 シリーズ『1984年の人々』(2)
 (8月25日発行) 
 発表以来話題の論文『日本の自殺』についてのシリーズ『1984年の人々』の
第二回。今回は、後継者の甘えや油断について考えてみます。

(完)