3月20日の封切から2週間余り経った火曜日の深夜12時5分からの回を久々のバルト9で観て来ました。
1日4回の上映なので、結構人気な状態ですが、上映館数は比較的少なく、23区内で13館しかやっていません。(都内全域まで拡大しても19館ですので、決して多い方ではありません。新宿でもこのバルト9の1館だけです。
私がこの作品を観に行こうと思った最初のきっかけは、映画サイト上のこの作品のサムネイル画像が、目の隈がハンパない状態の北村匠海の表情のアップだったことです。殆ど廃人といった感じに見えます。関心がちょっと湧き、映画.comの解説を読んでみると、
☆抜粋↓
「市役所の生活福祉課に勤める佐々木守は、同僚の宮田から『職場の先輩・高野が生活保護受給者の女性に肉体関係を強要しているらしい』との相談を受ける。面倒に思いながらも断りきれず真相究明を手伝うことになった佐々木は、その当事者である育児放棄寸前のシングルマザー・愛美のもとを訪ねる。高野との関係を否定する愛美だったが、実は彼女は裏社会の住人・金本とその愛人の莉華、手下の山田とともに、ある犯罪計画に手を染めようとしていた。そうとは知らず、愛美にひかれてしまう佐々木。生活に困窮し万引きを繰り返す佳澄らも巻き込み、佐々木にとって悪夢のようなひと夏が始まる。」
☆抜粋↑
とあり、北村匠海はその佐々木守という生活保護担当の市役所職員であることが分かりました。熱い夏、例えば『渇水』のように、決め事を粛々と執行することが求められるオカミ系の現場担当者の狂気と紙一重の精神状態は、時々物語化されるモチーフです。それが以前からずっと社会的問題になり続けている生活保護関係のネタなら、面白くなるであろうと思えたのと、解説文の内容から、久々にイヤミス系の作品を観るのも悪くないかなと思えたことがあります。
私は北村匠海のファンでも何でもなく、つい最近まで彼は殆ど認識さえできないような対象でしたが、昨年の鳴物入りで始まったドラマ『アンチヒーロー』を観ていた関係で、準主役級の彼を認識できるようになったばかりでした。そこの劇中での彼は若くて無用に正義感が溢れ、空回りを重ねるような弁護士でした。
その番組をTVerで観ていて結構気に入ったので、TVerの関連動画で数本あった出演俳優座談会のようなものも観てみました。主役を務める長谷川博己を始め、大御所感この上ない野村萬斎、さらにベテラン木村佳乃がそつなく面白い話題を順当に進める中、全く空気も読めず、振られたこともきちんと理解できず、あからさまに日本語の知識も限られていて、敬語を間違ってみたりと、バカ丸出し状態だったのが北村匠海でした。そのフォローをこれらの先達にさせて気を遣わせてばかりの状態でした。
これらの数本の動画を観て、「勘違いの人」というイメージしか持てず、『TAKAYUKI YAMADA DOCUMENTARY 「No Pain, No Gain」』を観てから嫌悪しか湧かなくなった山田孝之への評価と、長さはだいぶ違いますが同方向のベクトルを感じるようになりました。そんな残念な状態の彼が、無能で誘惑に負ける公務員を演じるなら、寧ろ素で行けるのかもと期待させるサムネイルだったのです。
(最近たまにトレーラーを目にしていた『世界征服やめた』とかいうよく分からない低予算映画が彼の初監督作品という話を聞いた時に、件のベクトルがやや伸びた感じがしました。案の定、某山田孝之の多くのプロデュース作品同様、及第点の評価さえ程遠い状況の認知度や興行収入の作品であったように認識しています。)
そうした意味での奇妙な関心の湧き方をさせた後にこの作品の情報を更に読み込んでみて、監督が城定秀夫であることが分かりました。有名作『アルプススタンドのはしの方』はDVDで観ましたが、その後、映画館で『ビリーバーズ』『よだかの片想い』『夜、鳥たちが啼く』『セフレの品格』二連作を観て、どれも相応に高評価で、観逃してしまった『嗤う蟲』もDVDが出たら必ず観ようと思っています。また、ウィキや映画サイトを見て知りましたが、この監督は『ビリーバーズ』に続き私が大好きな山本直樹原作の『YOUNG & FINE』の脚本製作も行なったようで、来る6月27日から上映されることも知りました。観なくてはなりません。
そのような監督なので、本作にも期待感が増しました。さらに、脚本を担当したのは向井康介と言う人物で、手掛けた作品の中には『松ヶ根乱射事件』『もらとりあむタマ子』『愚行録』『ある男』『マイ・ブロークン・マリコ』が含まれています。これらはすべて私が結構好きな作品群で、取り分け『愚行録』は私の好きな邦画50選に食い込んでいる作品です。さらに期待感が増しました。
ここ最近の鑑賞の中で、イヤミスと言うなら、『先生の白い嘘』が(そのセックス系のシーンの撮影のありかたを巡って関係者でもなければ業界人でもない人間がバカみたいに騒ぎ立てて、余計くだらないイメージを増幅した部分も加わって)クズ男一人に振り回される一教師の話であったためか、物語そのものにもイマイチ不発感がありました。その意味で、今回は出てくる人間がほぼほぼみんなクズ的な話のようだったので(パンフには「登場人物は全部クズかワル」と書かれています。)イヤミス系作品として楽しめるかと思ったのでした。レビューなどを読んでも、「救いがない」的なコメントが幾つも見つかりました。
114分という2時間近い尺の作品です。
シアターに入った際には私以外に2人しか観客がいませんでしたが、その後、シアターが暗くなってから次々に観客が増え、私以外に7人となりました。そのうち男性は4人、女性は3人でした。私もいれて合計8人の観客ですが、2人連れの客が2組4人いて、2人連れ客比率50%という驚異の高さです。2人連れ客は全員同性同士で、男性2人連れと女性2人連れ各々1組です。年齢層は低い方に極端に偏っていて、私が間違いなく最高齢だったと思います。暗くなってから入ってきた観客も多い上に、エンドロール中にどんどん立ち去る観客が多かったので、年代は勿論、性別の認識さえもやや怪しい感じがしますが、男性は20代後半から30代前半ぐらい。女性は多分すべて20代と言う偏り方です。
この映画の何が若者にウケて、こうした極端に偏った年齢層の(しかし性別では偏りがほぼ存在しない)観客が集うのか全く分かりません。平日の深夜過ぎの時間帯にこの辺でふらふらできる層と言う条件の段階で既に或る程度の絞り込みが成立しているという風にも考えられますが、それを言えば他の上映作品でも本来同じ構造になるはずです。
所謂、映画そのものに関心がある訳でもない、宿泊場所として映画鑑賞の席を選んでいるような、日雇い系の人々も、バスタの長距離バス発車時刻までの暇つぶしをする人々なども混じり込んで不思議ない時間枠であるように思えますが、現実はそうなっていませんでした。
エンドロール終了を待たずに去る観客が半分程度を占めるという事態から、宿泊目的客は当然そのような行動をとらないと考えられますし、この映画をそれなりに理解した上で楽しもうと赴いた人々もそのような行動はとりにくいと仮定すると、早々に去って行った人々は、あまり深い理解もなくわざわざ観に来て落胆したりしたような人々であったと考えることができそうです。
単純に(例えばもっとイヤミス的な重たさを期待していたのに)思ったものと違ったとか、ヤクザ系の人物も登場することが分かっていたので、もう少々バイオレンス寄りだと思っていたのに、そうでもなかったとか、(制作サイドが「全員クズかワル」と言っているぐらいですから)お目当ての俳優が登場はしていても冴えがなく、汗ばみ汚れて人生に只々疲れ追い詰められていくだけのような感じで、観るに堪えない…などなど、各種の理由で、エンドロールまで座っている価値を見出さなかったということのように私は推測しています。
来ていたうちの男性2人連れは、概ね社会に適合はできているものの結構オタク系に寄っている感じの20代後半から30代前半の人々で、ロビーにいる際にも私が座っているベンチの付近に立って、ポスターが貼られている『かくかくしかじか』について原作者や原作コミックについて熱く語っていましたので、本作も当然エンドロールの終わりまでしっかり観て席を立っていました。そういう人々も存在はしていたということが分かります。
パンフによると、原作では主人公はシャブにハマって堕ちて行くと言う話のようですし、同様に原作では、主人公に生活保護の申請を却下される万引き主婦とその幼い息子は無理心中で死んでしまっているようです。劇中では前者は愛美との愛とセックスに溺れて行くと言うことにされていますし、後者は無理心中を図った後に二人とも一命を取り留めています。
劇中で主人公は童貞ないしは童貞に近いぐらい性体験が少ない男性であることが生活保護を不正に受給しつつシャブの売人(プッシャー)をしている男におちょくられる場面などを通して強調されています。それも愛美との関係に溺れてしまい、セックス動画を撮られて脅されるようになっても、愛美と離れることができないままの主人公の価値観を描写する材料となっているようです。ただいずれにしてもシャブ中になってしまうのに比べたら随分マイルドな設定に変わっています。
無理心中もパンフに拠れば最後に全く救いがないのも難があるかと思ったというようなことが監督・脚本・原作者の長い対談の中で語られています。これもまたマイルド化と捉えることができる判断ですが、寧ろ、過剰に生温くなっているように思えます。概ね原作が書かれた時期に比べて、現代の空気に合わせた判断と言うようなことが言われていますが、私には原作のエッジの効いた世界観をただ鈍らせただけの改悪に感じられます。こうしたことも、早々にシアターを後にする観客達を生み出した一因かと私には感じられます。
それなりに複雑な物語です。ただ主軸の所で言うと、愛美にセックスを強要していた高野を脅迫してどんどん生活保護受給を認めさせ、その受給者から金を巻き上げる算段をした金本でしたが、高野の行為が女性職員の宮田とその後輩の主人公佐々木にバレていることが発覚し、脅迫が成立しないと金本は一旦計画を見送ろうとします。ところが、金本の手下の山田(前述の生活保護偽装受給者にしてシャブのプッシャー)は、自分を担当している佐々木を高野の代わりに愛美と関係させ、佐々木を脅せば金本に知られず稼げると考え、計画を実行に移すのでした。
最初は愛美も佐々木を騙す気満々でしたが、佐々木が純粋に自分を救おうとしてくれていることに気づき、(且つ、童貞的な感じで、彼女に全然手を出してこないことを誠実に感じて)佐々木に惚れ込み、脅迫用の動画を撮ることなく、山田には「佐々木が誘いに乗って来ない」と言いつつ佐々木と関係を持つことになって行きます。
ところが、山田(と愛美)がやっていることが金本にバレ、金本は愛美を娘の美空を連れ去って売ると脅して、佐々木とのセックスの動画を撮らせます。動画隠し撮りという愛美の裏切りによって、佐々木は金本が市役所に送り込むホームレスを実質審査なしでどんどん生活保護受給者にしていくことになり、追い詰められていくのでした。
一方で主軸のストーリーと関係なく、シングルマザーの佳澄の存在も描かれます。どんどん生活が困窮する中、万引きを重ねて依存的になって行きますが、それが露見して低賃金のパート仕事まで失ってしまいます。生活保護の申請に漸く訪れた時、担当したのは金本に脅されて廃人のようになった佐々木で、「安易に来るな」と恫喝されて、市役所を去り、数日後に幼い息子と無理心中をします。
警察にそれを取り調べられて佐々木はすべてを清算すべく、台風の吹き荒れる日に愛美の部屋に行き、そこに居た愛美と共に死のうとします。愛美も一旦は同意しますが、監視役だった山田に妨げられ、揉めている最中に金本と愛人の莉華が来ます。狭いアパートの一室で騒ぎはさらに大きくなり、包丁を持って揉み合っているうちに莉華の腹部に包丁が深く刺さります。それで騒ぎは狂気を帯びてきた所に、関係者への復讐のために高野が乗り込んできます。さらにそれを追って、女子職員の宮田まで現れます。
宮田が高野の不正を暴こうと最初に動き始めたのは、本人が言っていた職員として「潔癖であることが最後の武器なので、不正を許してはいけない」というのは建前で(彼女の高野への執着度合いから、劇中中盤でほぼほぼその話は見えてくるのですが)本音は彼女が嘗て高野と不倫関係にあったという話であったことも露呈します。(つまり、妻子持ちの高野は、当初宮田と不倫をしていて、その後、愛美に乗り換えたことになります。愛美との件がばれて妻子には去られますが、そこで愛美とも切れた以上、宮田は高野を自分の所へと戻らせようと画策していたのでした。)
大嵐の風雨と雷鳴の中、愛美が幼い美空を抱えて外に逃げ出します。それを追って金本が走り出て、さらに金本を殺し決着をつけるべく高野が走りだし、愛美を守るために佐々木も夜の闇の風雨叩きつける路上に出ます。宮田も高野を連れて一緒に暮らすべく高野を追って来て、高野に抱きつきむしゃぶりつくようにキスをして復縁を迫ります。逃亡した山田と重傷で瀕死の莉華以外は幼い美空まで含めた主要な登場人物はすべて夜の路上に雨に打たれ泥にまみれながらもつれ合い殺し合うシチュエーションになります。これがこの作品のクライマックスです。
この嵐の中の諍い・殺し合いを超えていきなりエンディングになります。山田は行方不明。宮田は市役所の職場に居て、金本と高野は逮捕。莉華はパチンコ店に再び入りびたり、負傷して後遺症が残ったままの足を引きずって歩く佐々木は市役所かどうかはっきりわかりませんでしたが清掃員になって働き、古く薄汚れたアパートに帰ってきます。映ってはいませんが、そこには愛美と美空がいるようでした。また、佳澄と息子も商店街で買い物をしている姿が描かれています。元々社会に居場所のなく、揉めた後には金本にも追われる立場と考えると、居なくなるのが山田の「立ち位置」であると考えられなくはありません。とすると、山田も含め、全員がまあまあの落ち着きどころに落ち着いたエンディングです。愛美と美空にとってはかなりのハッピー・エンディングと見ることさえできそうです。全然イヤミスではありません。
これなら、イヤミスと言うジャンルには括れませんが、作品群の最後は登場人物皆で諍いを起こしたり乱痴気騒ぎになることが結構ある筒井康隆の小説を原作とした(つい最近劇場で観たばかりの)『敵』の方が余程救いのない物語だと思います。比較的最近観た『Cloud クラウド』だって、人に妬まれ恨まれた主人公が人生の再スタートを切って終わりますが、その新しい人生は地獄のような希望のない世界です。いやな感じの終わり方です。それに比べて本作はなんだか中途半端に生温く、微妙な勧善懲悪型ハッピー・エンドに軟着陸しています。
何か(物語構成としてではなく)作品全体として精彩を欠くような、ピンボケのイメージを醸し出す主要因の一つには、主演級の二人のピンボケ感があるように思えてなりません。二人のうちの一人は先述の、佐々木を演じる北村匠海です。パンフでは絶賛されていますが、私には(本人の意向に拠るのか演出方針に拠るのかよく分かりませんが)どうも演技が極端すぎて、大味で雑に感じられます。
もう一人は愛美を演じている河合優実です。
私が彼女をまあまあきちんと認識できるようになったのは、『線は、僕を描く』だったと思います。その直前に劇場で観た『PLAN75』の彼女やその直後にDVDで観た『ある男』の彼女を一応認識できるようになりました。『線は、…』の感想で私はこう書いています。
☆抜粋↓
「やや目立たない役ですが、主人公の理解者である女子大生を演じているのが、河合優実です。この女子大生姿を見て、「どこかで見たな」と思っていましたが、パンフを見て『PLAN 75』で倍賞千恵子が死亡に至るまでのケアを担当するコールセンターのオペレーターの女性と分かりました。前回は深刻な役回りでしたが、今回はキャッキャしているものの、主人公の陰の部分を知っていて明るく振る舞う気遣いがきちんと表現されている好演でした。」
☆抜粋↑
と相応の好感が有ったことが分かります。ところが、その後に観た彼女は私にとっては超駄作映画である『四月になれば彼女は』のチョイ役でした。こう書いています。
☆抜粋↓
「この作品には仮称長澤メンヘラ獣医の妹役で河合優実が登場します。休憩時間には喫煙で憩うハスッパな感じの、大分姉とは人生の軌道が違いそうな妹です。ウィキでも「2022年は計8本もの映画に出演し…」と書かれ、私も劇場で観た『PLAN75』、『線は、僕を描く』などでその存在を認識できるようになり、さらにDVDで観た『ある男』でも気づき、その上比較的最近までTVerで観ていた大反響のドラマ『不適切にもほどがある!』でも準主役級の大活躍の河合優実の活躍を、鑑賞直前にネットで見た映画情報で彼女の出演を知ってから少々期待していましたが、登場は1場面だけでした。」
☆抜粋↑
ここに書かれている『不適切にもほどがある!』は、全然流行していないのに「ふてほど」が流行語大賞になるぐらいの人気ドラマで、そこで聖子ちゃんカットのヤサグレ女子高生を演じたことで河合優実は注目されたように思います。しかし、私には彼女の周辺で阿部サダヲや吉田羊、仲里依紗などのベテランがガッチリ物語を進行したから成立しているドラマであって、彼女の貢献は他の同年代の女優でもできた程度のことではないかと思えてなりません。なぜそう思えるかと言えば、多分、彼女がその時点までに演じた中で、最も極端な背景と性格を持ち、分かり易いキャラだったのではないかと思えるからです。極端な役柄を演じるのは(私の拙い演劇部経験から言っても)非常に楽です。
同様のことが、NHKのドラマ出演で現在酷評されている橋本環奈にも言えます。私は橋本環奈について『バイオレンスアクション』の感想でこう書いています。
☆抜粋↓
「さらにもう一つ、最もつらい点があります。それはエロくないだけではなく、橋本環奈がずっとイマイチであることです。私は橋本環奈が嫌いではなかったはずで、寧ろ、高評価をできる作品群がたとえば、DVDで観た『銀魂』シリーズや『暗殺教室』シリーズ、さらに『キングダム』、『斉木楠雄のΨ難』、『新解釈・三國志』などかなりたくさんあります。なぜこれらの作品の橋本環奈が魅力的なのかと今回改めて考え至りました。多分、それは、全編を通して普通の人ではないキャラ設定の役だからなのだろうと思えます。どの役もまともな人間ではありません。辛うじて『斉木楠雄のΨ難』は女子高生ですが、ずっと、オモテウラの違いが激しく自己中心的で猪突猛進の異常なキャラです。まして『暗殺教室』などは人間でさえありません。『キングダム』の彼女は性格や思考はまともですが、外観がミノムシです。
(中略)ただ、その後も橋本環奈は「奇跡の一枚」という写真で見出された外観や一瞬の表情が「1000人に一人の逸材」であり続けたということなのかもしれません。素材としてシンプルな美しさを持つ分、載せる役柄に明確なアピールポイントがあれば、それが活きる…というだけのままに留まっているように思えてなりません。だからこそ、なで肩のシルエットがガッツリ見えるファッションもピンクボブのヘアースタイルも、可愛らしさやセクシーさに殆ど貢献することが無く、彼女を一度倒して戦闘不能にまで追い込んだ城田優も彼女を連れ帰って拉致し、凌辱の限りを尽くそうなどとは全く思い至らなかったのでしょう。」
☆抜粋↑
橋本環奈に比べて、河合優実は外見上も華がありません。1000人に一人の美少女でもありません。極端な特徴のあるキャラを演じるのであればまだ何とかなりましたが、そうではないと必然的に辛い状況になってしまいます。彼女が幼い子の面倒を看るシチュエーションになるのは『あんのこと』以来です。その『あんのこと』も奇跡的なまでの駄作の勘違い映画です。若いシングルマザーやDVと極貧に喘ぐ少女は一応極端な特徴がある部類の役の筈ですが、その程度のキャラのエッジでは、彼女がそれを消化しきれていないのがアリアリと表出します。全然、薄汚くもなければだらしなくもなく、『あんのこと』でも本作でも不本意なセックスを重ねる役ですが、セックス描写自体が貧困なのです。
本作では彼女が激しい気持ち悪さを感じつつ脅されて金のために高野に抱かれるセックス、好意から自分から佐々木に求めるセックス、佐々木を裏切り陥れるためのセックスの最低でも三種類のセックスが存在しますが、彼女の表情や言動、息遣い、指や四肢の動き目線などに、少なくとも私は多少の相違ぐらいしか感知できませんでした。『ハチクロ』の頃などの初心さから、突如どこかの時点で羽化したが如く格段に艶っぽくなった蒼井優などの覚醒を見習ってほしいものだと思えてなりません。(『東京喰種トーキョーグール』・『彼女がその名を知らない鳥たち』・『ロマンスドール』など見応えのある蒼井優が見つかります。)
同様のことは『あんのこと』にも言えるので、『先生の白い嘘』の記事の中の「(インティマシー・コーディネーションは必要でも)インティマシー・コーディネーター不要論」を展開した際に、河合優実の濡れ場演技に言及しています。
☆抜粋↓
「先日観た『あんのこと』で杏が日常的に売春をしているのに、全くセックス・シーンが登場しないのは、主演の河合優実のイメージ・コントロールが理由ではないかと私は思っています。彼女の次作『ナミビアの砂漠』でもインティマシー・シーンは多々あるようですが、どうも肌の露出は限定的なままのようです。(特に私がそれを見たいから書いているのでは決してありません。)だとするのなら、本来、インティマシー・シーンの演出がどうなるべきかは、現場でグダグダ役者本人の意見や合意も得ながら膨大なコストをかけて進めるものではなく、出演以前の段階でマネージャーがきっちり確認してあり、インティマシー・シーン撮影の現場でもマネージャーが許容する枠の中で監督があるべき形を追求するだけのことではないかと思われます。」
☆抜粋↑
現実に(『ナミビアの…』はまだトレーラーしか観ていませんが)『あんのこと』や本作、そして『ふてほど』にさえかなり時間を掛けたベッドシーンが一応存在している所を観ると、(まるで最近『奇麗な、悪』で書いた瀧内公美のように、)脱げることも売りになりつつあるようにさえ思えますが、少なくとも、私が現状知っている限り、ブラさえ外したことがありません。最近劇場で観た『敵』にも彼女は出演しており、イタダキ女子の女子大生の役で主人公の元大学教授からまんまと300万円を騙し取っていますが、流石イタダキ女子だけあって、服を脱がずにことを遂行しています。(繰り返しになりますが、私がそれを見たいから書いているのではありません。)彼女についてはその後、未だにバルト9で上映していることを今回知った『ルックバック』の主役の声優であることを知っていますが、この作品をここまでのロングランになる名作たらしめているのは、主にスクリーン上の事象の表現のことの方であろうと私は認識しています。
これから『佐々木、イン、マイマイン』や『八犬伝』などもDVDで観る予定で『由宇子の天秤』も(DVDが出ていないのですが、)観られれば観たい映画の候補の一つではあるものの、彼女が嘗てに比べ全然精彩を欠く存在に私には見えます。
主役・準主役のこれらの二人を取り囲む俳優陣の方は、かなり練りの入った人物が目立ちます。メインストリームの話に関与していないものの、木南晴夏の演技は突出しています。本当に居そうな極貧のシングルマザーです。私が木南晴夏を「発見」したのは、『勇者ヨシヒコ』シリーズです。シリーズ第三作はかなりだれていましたが、彼女観たさが殆どの動機で、何とか最後まで見通しました。
劇場で観た『シャイロックの子供たち』の記事でチョイ役で出演していた彼女についてこう書いています。
☆抜粋↓
「映画を観てみて大発見だったのは、木南晴夏です。それも前半ではかなり存在感があります。何と言っても『勇者ヨシヒコシリーズ』のムラサキで、かなりファンになりました。しかし、如何せん、主演級になることが少なく、映画の出演作もテレビドラマなどに比べると少ないので、あまり観ることがありません。辛うじて、映画ではその後、名画『その夜の侍』の居酒屋バイト女や『エイプリルフールズ』のハンバーガー屋のおかしなバイト店員、そして、『グッドモーニングショー』のテレビ局社員ぐらいが辛うじて記憶にあるぐらいです。ドラマでは、『トッカン-特別国税徴収官』の惚けた井上真央の主人公に妙にライバル心を抱く税務署職員、本人の得意のクラシックバレエの技を活かしたダンサー役の『“新参者”加賀恭一郎「眠りの森」』とかが、まあまあ記憶に残っています。
いずれにせよ、結構ファンであるのになかなか観ることがありません。私の好きなタヌキ顔と言うよりもどちらかという猫顔ですが、ムラサキのキャラとして気に入っているのだと思います。(パンフに書かれた彼女のプロフィールの中に、『勇者ヨシヒコ』シリーズが出演作品として言及されていないのは非常に残念なことです。)少なくとも、タヌキ顔全開でかなり好きなのに、なかなか動く所を見ることがない山崎真実よりは発見しやすいという程度です。そんな木南晴夏を偶然発見できたのが、なかなかの拾い物感です。ダンナの玉木宏はよく見るのに、彼女の方はなかなか観ることがないので、喜び一入です。」
☆抜粋↑
そのダンナとは別居の噂や離婚の噂が流れていますが、いずれにせよ、私は木南晴夏のファンを自覚しています。その後も、一応のベッドシーンまで存在する『おいハンサム!!』はシーズン1&2両者のDVD-BOXまで持っていますし、ドラマで言うと『闇金ウシジマくん外伝 闇金サイハラさん』の相沢の妻でラーメン屋のオカミや、面倒な話で揉めて視聴者都合ガン無視でDVD化もされない幻の名作『セクシー田中さん』の最高の主役、さらについこの間まで放送されていて話題だった『ホットスポット』の口の悪い主婦など、どれも肌理細かく役柄が創り上げられていて、観ていて飽きが来ません。
本作での生活に疲れた感はハンパありません。頬がこけて目にはガッツリ隈。老け顔のメイクでもここまで上手くいくもんではないような気がしますが、考えてみると、『勇者ヨシヒコ』シリーズでもゾンビ化する呪いがかかったり、『セクシー田中さん』でもバケモノじみた厚化粧をしていたりします。疲れて個々の動作が鉛の中を動くようになっていたり、電気を止められて、突如暗くなったぼろアパートの一室で(子供の視線も意識しつつ努めて平静に、しかし)来るものが来たという絶望感を漂わせながら、無駄と分かっていてもブレーカーを入れようとしたり、子供を公園で遊ばせながら、PETボトルに公園の蛇口から入れる水の流れを呆然と見ていたり、とんでもない名演技が炸裂しまくります。
幻になってしまった主演作『セクシー田中さん』でその彼女が交際にも至らない微妙な関係性を築いていた相手が毎熊克哉で、今回は愛美の胸を揉みしだく高野を演じています。元々芝居を作る側だったことなどが、ウィキを見ると書かれていますが、私はあまり彼を観ることがありませんでした。しかし、認識するごとに全然違う性格や設定の人物を綺麗に演じ分けています。私が知っている本作以外の彼の出演作は、先述の『セクシー田中さん』の気難しいけれども真面目で奥手な会社員、『どうする家康』の家康を裏切り武田に寝返ろうとして、瀬名と信康を誅殺しようとする岡崎城代の大岡弥四郎、山本直樹原作の映画『ビリーバーズ』で副議長の恋人として現れ、結果的に教団から逃避行を企てる幹部の第三本部長と、かなりバラバラですが、芸達者にも、きっちりその場にフィットしている感じです。今回でさらに役のふり幅が広いことが見せつけられたように思います。7月には問題作の『桐島です』の公開が控えています。トレーラーで見る彼の外見が指名手配書の桐島本人にあまりに似ていて驚かされます。また彼のバリエーションの広さを見せつけられそうです。
同じようなふり幅の広さで言うと、イカレたヤクザ的な存在(ヤクザというには組の存在が見えませんが、ピンサロ経営やシャブの販売をする傍ら、生活保護ビジネスを仕掛けたりもしている存在)を演じた窪田正孝も、今回は私が知る中では劇場で観た『Cloud クラウド』に続き殺人も厭わない狂人感を見事に醸し出しています。私が彼を初めて認識したのは、『古代少女ドグちゃん』シリーズですが、その後映画の『東京喰種トーキョーグール』ぐらいまで彼の存在に気づきませんでした。
これまた山本直樹原作の『ファンシー』の主役を翻案されたキャラながら見事に好演した際に私は劇場でそれを見て感想にこう書いています。
☆抜粋↓
「この男優を私は最近DVDでよく観た関係で、少なくとも苗字を覚えることができました。『ナニワ銭道』で主人公を演じた役者がW共演の窪田何某をメイキング映像で「クボタ」と何度も三人称で呼んでいたからです。偶然、DVDで前後して『東京喰種トーキョーグール』を観て、続編のDVDも借りようかと思っていたところだったので、私にはこの男優のイメージがどうも『東京…』のそれでかなり固定していました。
今回はマスクやゴーグルで顔を隠していることが多く、『東京…』のイメージは固定したままに、窪田何某と認識する機会も少なく、自然にペンギンとして受け止めることができたように思います。ウィキで見ると、私が結構ハマった『古代少女ドグちゃん』シリーズの準主役ですし、それ以外にも映画館で観た『はさみ hasami』や『予告犯』、DVDで観た『るろうに剣心』、『エイプリルフールズ』、『銀魂2 掟は破るためにこそある』などにも出演していることが分かりましたが、全く記憶にありませんでした。」
☆抜粋↑
その後、DVDで観た『劇場版 ラジエーションハウス』、『マイ・ブロークン・マリコ』辺りまでは、ギリギリ私が彼を認識できましたが、何となく彼の外見から想像されるタイプの役柄が多いように思えました。しかし、劇場で観た『初恋』とDVDで観た『ある男』の二つは腹筋バリバリのボクサーです。『初恋』の記事で私はこう書いています。
☆抜粋↓
「一つは、2月上旬に劇場で観た、山本直樹原作作品の『ファンシー』が山本直樹原作作品の中ではかなり秀逸な作品でしたが、その主演級の二人がこの作品でも同じ組み合わせで主演であることです。『ファンシー』の方は山本直樹の世界観を翻案した作品としては秀逸でしたが、この二人、特に女優の小西桜子は(スタイル的に)かなり無理のある配役でした。『ファンシー』の情報を得ようとするプロセスの中で、彼女のことをネットで見ると、ほぼ同時期に制作された作品として、この『初恋』が執拗に登場するので、少々関心を持ったことがあります。関心を持った理由は、私も時々夜な夜なツーリングする歌舞伎町の街が舞台となっている場面が多いことです。」
☆抜粋↑
今回の『Cloud クラウド』同様の悪役感は結構ハマっています。悪役で言うなら人間を超えた超悪役であるマーラを演じた彼を劇場で観た『聖☆おにいさん THE MOVIE ホーリーメンVS悪魔軍団』で観ました。馬鹿げたコメディものに上手く対応しつつ、人間界に馴染んでいるようで人間の滅亡さえ簡単に企てる不気味な存在になり切っていました。
こうした芸達者なメンツにがっちり周囲を固められると、北村匠海と河合優実が物語の中心でフォーカスがあっていないように見えるのでした。
しかし、蝉が容赦なく鳴き続け、黙っていても汗が噴き出すような夏の日に善と悪が混濁して狂って行く人々の姿と、そのどうにも避けられない破滅的な結末が訪れる嵐の夜。そのようなコントラストをきっちりまとめ、そこに芸達者な数人の役者を配した妙は評価できるように思えました。DVDは何とか買いです。
追記:
眼鏡の女性市役所職員の宮田を伊藤万理華が演じています。といっても、私は彼女の認識がほぼ全くありませんでした。ウィキなどで調べてみると乃木坂OBで、私が認識している中では、乃木坂学芸会的作品であり、定番的展開の感動が塗されている『あさひなぐ』の出演は当然として、DVDで吉岡里帆目当てで観たドラマ『時をかけるな、恋人たち』の無表情な未来人に加え、究極の羊頭狗肉作品の『まなみ100%』で病死する先輩の瀬尾さんでした。今回は一見大分普通の人ですが、うちに男を求め追いかける執念を秘めたなかなか面白い役でした。嵐の中の組み付くような接吻は結構画になっています。
また腹を刺されて重症になった莉華は箭内夢菜という女優が演じています。かなり体重が重そうな体型をしています。体型に見覚えがないのですが、顔が何かでよく見たことがあるような気がしていました。調べると、五輪イベントか何かの際のポカリスエットのポカリガールでした。同製品のCMはアイドルや女優の登竜門と呼ばれ、宮沢りえ・一色紗英・鈴木杏・綾瀬はるか・川口春奈・中条あやみなどが輩出されていますが、どうもウィキにもそのグループとして名が載らない扱いでした。上の記事本文でも登場した『バイオレンスアクション』で橋本環奈の予備校での同級生役を務めていたのが、ウィキを読んだ後に辛うじて思い出せましたが、体型はその時点から既に大分食い違っているように感じます。
この二人に対して愛美の娘を演じる佐藤恋和という子役は、やたらに引っ張りダコであるようで、記憶にありませんが私が劇場で観た『怪物の木こり』にも登場していたようですし、今度DVDで観たいと思っている『はたらく細胞』にも血小板役で出ているようです。
追記2:
木南晴夏で最近気づいたことに、バカリズム脚本で地味なウケ方で話題なったドラマ『ホットスポット』では口の悪い主婦を演じる彼女が行くスナックのママをMEGUMIが演じています。同級生という設定ですが、私が好きな『おいハンサム!!』シリーズではこの二人は親子です。(同様に、『ホットスポット』では夏帆と志田未来が同級生の設定で地方都市生活を満喫(?)していますが、この二人は『女王の教室』で年の離れた姉妹でした。)木南晴夏とMEGUMIだけを見ても、両作で全く違和感がありません。芸達者な人々は本当にすごいと思わされます。
追記3:
この映画を観てしまうと、以前からネットのDVDレンタルサイトのカートに入れっぱなしになっている『健康で文化的な最低限度の生活』を観なくてはならないという気分になってきます。元々は吉岡里帆狙いでカートに入れたものですが、ウィキで「作品の発表以降、(原作著者)柏木はケースワーカーの講演会に呼ばれ、作品が自治体職員の研修に使われるなどしている」などと読んでしまうと、余計に無意識の中でこの作品が浮上してきます。