605 ルンバのステップ

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経営コラム SOLID AS FAITH 第605号
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 ご愛読ありがとうございます。第605話をお届けします。

 今年1月の後半から始まった600話発行記念特別シリーズの全五話のお届け
を無事に終えることができました。世の中では「諦め型倒産」が増加してい
ますが、その一つの原因は雇用の難易度が急上昇したことと考えられます。
それに対する一つの対策として、柔軟で組織運営の負荷の低い「一部社員の
非雇用化」の方法論が、シリーズのテーマでした。

 橘玲は被雇用の立場を人生のダークサイドと呼び、独立起業がそこから逃
れる主たる術と主張しています。彼のレバタリアニズム的な思考に拠ればま
さにその通りでしょう。被雇用の立場は「政府に丸裸にされる」人生の選択
肢であると見ることができます。ならば、企業の方も雇用人材を抱えること
は政府の雇用に関わる縛りに従う道と言えなくもありません。そんな中で、
組織運営への政府の関与を減ずる方法論の一つが「非雇用化」であることは
明らかです。「非雇用化」の具体論やメリットをご理解いただくきっかけに、
今回のシリーズがなることがあれば幸甚です。
 
 トランプの関税政策が発表され、世界経済が不況の真只中に投げ込まれる
と大騒ぎになっています。しかし、関税は日本にだけ課されるのではないど
ころか、米国の主要貿易相手国の中では日本の関税率は低めです。おまけに
元々日本の物価は「安い、安い」と言われ続けている昨今で、一時期に比べ
ればまだまだ円安ですから、他国に比べて寧ろ米国で売りやすくなっている
ことさえあるかもしれません。
 
 日本人の多くに見向きもされない製品群を作っては、それを「輸入しない
のは不公平だ」と論う単純脳には恐れ入りますが、世の中で騒ぐほど、日本
への直撃は少ないかもしれません。ただ、ほんの数年前までのグローバリズ
ムがまるで嘘のように、ブロック経済化が進行しています。国内市場の開拓
深耕に中小零細企業は真剣に取り組まねばならなくなるでしょう。それを経
営環境上の脅威ではなく機会にすることができるよう、経営努力を払わねば
なりません。漫然と存在している企業群は淘汰されるか諦め型倒産をしてい
ただくことになるかもしれません。生き残りに挑む中小零細企業のお手伝い
をしたいと考えています。
 
 今号は『ルンバのステップ』と題して、日本の経営概念である高「現場力」
の組織の自律型社員育成についてお届けします。海外の経営学でも「創発」
だの「ティール組織」だのが議論されるようになりましたが、中小零細企業
レベルに普及することは全く考えられていないようです。日本の中小零細企
業での自立型組織の作り方について考えてみました。ご意見・ご感想をお待
ちしております。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!

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その605:ルンバのステップ

 単店経営のクライアントからご依頼をいただくことがある。多くは経営者
夫婦がアルバイト数人を使ってオペレーションを回している。経営者夫婦が
総てに目配りして何とか毎日が大過なく終わる。職住は極めて近い。夫婦二
人、場合によってはそこに先代夫婦も加わって、目を離すことができない緊
張感あるオペレーションが毎日続き、過去五年住居と店舗がある区から一歩
も出たことがないという経営者夫婦のケースさえある。
 
「いやいや。まずはご夫婦の労働時間をきちんと測って総労働時間に組み入
れてみてください。家で晩ご飯を食べていても夫婦が顔を合わせると仕入の
話をしたりすることもあるでしょ。そういうのも全部業務の打ち合わせとし
てカウントするってことですよ」。
 生産性の話が出た。人時生産性を大雑把に測定してみたら、妙に数字がよ
い。その数字はアルバイト数人の総労働時間で粗利を割ったもので、夫婦の
膨大な労働時間が含まれていなかった。職住近接の夫婦の労働時間は長く、
到底アルバイトの比ではない。

 私が「オーナー一族労働集約型企業ですね」と思い付きで言ったのが、余
程印象に残ったらしく、その後も彼らは事ある毎にその言葉を口に出してい
た。

 こうした状況は店舗に限らない。社員数人を抱える零細組織でも散見され
る。社長はいつまでも楽にならない。起業したての若く元気なうちはハード
ワークも心の支え。だが高齢化し患ったりすると、自分なしでは進まないオ
ペレーションは重荷でしかなくなる。辛い毎日を自分は耐えるが、後継者に
引き継ぐのは忍びなくなる。
 
 人を育てなくては何も解決しないのは間違いない。手っ取り早く、今時の
育成方法を調べると、「怒らず叱らず、まずは任せてみる」だの、「褒めて
伸ばし、否定しない」などの脳天気な話ばかり見つかって、やってみると大
抵ロクな結果にならない。社員が退職して取り返しがつかなくなることさえ
ある。そんな零細組織の相談が来る。

「あはは。今まで社長の指示でできる範囲のことをやるだけだったのに、そ
んな魔法のように、人間が変わる訳ないじゃないですか。社長も私よりちょ
っと若いだけなので、鉄人28号を知ってますね。鉄人は『立て、鉄人』とか
一挙手一投足を細かく指示しなければまともに動きません。御社の社員はず
っと鉄人並みだったってことですね。いきなり全自動のターミネーターみた
いになる筈がありません。せめて単純なルーティーンを一応大過なくできる
ルンバみたいな存在をまずは目指して、社員教育するぐらいのステップがき
っと必要なんですよ。まずは半日指示ナシぐらいの目標設定ってことでしょ
うね」。
 私が大笑いして言うと、大抵そうした社長は憮然として「ルンバねぇ」と
口籠る。

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次号予告:
 第606話 『蛍雪の類』 (4月25日発行)
 リスキリングのブームが延焼して、今度は、物事は須らく大学院で学べと
いう海外の学歴偏重主義の受売りが流行り出しました。職業知識の学び方に
ついて考えてみます。

(完)