601 デアデビル =励起粒子= 600話発行記念特別号 第二弾

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経営コラム SOLID AS FAITH 第600話発行記念特別号 第二弾
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目次 
1 ご挨拶
2 第601話 『デアデビル』  =励起粒子(02)=
3 非雇用化の背景(01) 企業組織の小規模化
4 非雇用化導入時の留意点(02) 汎用的な知識・スキルの充実
5 非雇用化のメリット(02) 経費節減
6 関連情報 『死すべき技術としての経営』シリーズの紹介
7 MSIグループの仕入完了報告(抜粋)
8 次号予告
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☆注意:お読みになる際には、枚数がかさみ恐縮ながら、プリントアウト
の上お読みになることを、心よりお勧め申し上げます。
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1 ご挨拶

 御愛読御礼申し上げます。第600話発行記念特別号シリーズ『励起粒子』
全5話をお届けしています。このシリーズのテーマは「非雇用化」で、今回
は第二話です。

 超大手企業が初任給に30万円以上を出すと話題になり、春闘ではまた大幅
なベアを実現するなどと言われています。しかしこれらは日本の全法人数
300万以上のうちの1%にも満たないような大企業のお話です。そこから給与
を貰っている人々も全被雇用者の2割程度という計算結果もあります。それ
らの人々に仮に1、2割高い給料を支払うことになっても、それが最終的に全
国津々浦々の中小零細企業の収益に「トリクルダウン」するなどとは、なか
なか考えにくい状況です。

 中小零細企業にとっては寧ろ最低賃金の上昇の方が現実的な人件費上昇を
招く要因となっているでしょう。最低賃金は年率3%程度上昇し続けています。
中小零細企業でも新卒採用を行なっている企業は少数派ながらそれなりの数
存在します。新卒者の初任給は時給換算にしてみると最低賃金にかなり近い
金額になっていて、数年後には法律に抵触する金額になりかねません。

 このような人件費上昇が続く限り、雇用はどんどん難しいものになってい
くことが見えています。モノの値段は上がればその分何かが良くなるという
のが一般的な考え方です。インフレ分をどのように捉えるかは別として、取
り急ぎ、値が上がる以上、何かが良くなっていることを期待するのが普通で
す。

 人件費が上がったときに、人材のパフォーマンスが高まるとか、あからさ
まに何か良いスペックになるとか、そういうことは人材については期待薄で
す。仮に高単価の人材が以前よりも社内に揃うなら、より少ない人材で以前
以上の収益を上げられるようになっていなければならないことになります。
ICT活用による省力化や合理化、各種のムダ取り、やり方はいろいろありま
すが、あまり検討されない一つの方法が今回のテーマ「非雇用化」です。
 
 前回のシリーズ第一話でも説明した通り、自社の業務をよく分かっている
人材しか合法の範囲の非雇用化をすることはできず、全社組織を丸ごととい
う手法は今シリーズでは想定していません。ですので、「社員の部分非雇用
化」という方がより妥当な表現かもしれません。第二回の今回は、よく検討
することもなく、「社員の部分非雇用化」をただ「違法だ」と決めつける、
よくある経営者の誤謬にフォーカスした内容を『デアデビル』というタイト
ルでお届けします。本文に対するご意見・ご感想をお待ちしております。頂
戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!

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2 第601話 『デアデビル』  =励起粒子(02)=

 タイトルが疑問形の『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』
を書店で手に取って、目次に答えを探してみる。第一章は『論理的・理性的
な情報処理スキルの限界』。分からんではない。さらに第三章『システムの
変化が早すぎる世界』が示唆的。趣旨を確かめるべくページを捲る。ビジネ
ス環境変化が激し過ぎて、法律や制度が追いつかないので、そこに隙間がで
きる。それは合法か非合法かもまだグレーで、世の中の評価がまだ定まって
いない領域。ファースト・ペンギンほど大仰でもない。そんな場面はよく見
つかる。
 
 そう言えば、私が畏敬の念を抱くパチンコ店チェーンの社長は、「この業
界は管轄行政である警察の裁量が大きくて、射幸性一つ取っても、同じポス
ターが或る所轄ではOKで、川向こうに隣接する所轄では煽り過ぎで撤去にな
る。大枠の判断基準は一応あるが、具体的にOKなのかどうかはやってみなく
ては分からない。だから幹部や店長達には『黄色信号はアクセルを踏め。グ
レーゾーンは踏み込んでみろ』と言っている」と嘗て宣った。
 
 アートで学ぶ美意識。件の第三章では未だ判断基準が世の中に成立してな
いビジネス領域で、経営者が自分の事業の打ち手の好悪を判断するのも美意
識を学ぶ目的らしい。

 労基の「雇用裁定」には九つの判断基準があり、それらを総合的に鑑みる
と言われている。過去のケースを見ると、特に重視されるのは「業務遂行上
の指揮命令を受けているか」という意見をよく聞く。日々の業務の場面で、
業務遂行上の指揮命令を受けていれば雇用された社員。業務についての契約
に従って自律的に動いていればアウトソーサー。

 働くのがアウトソーサーばかりなら、報酬の支払には消費税が発生する。
同じ数の社員を雇っているケースに比べて消費税の納税額が大きく減じる。
おまけに、保険だの年金だのの法定福利も一切発生しない。煩雑な給与計算
もなければ、残業時間量も有給消化日数も全く管理しなくて良い。多くのメ
リットがある。建築業界や保険業界で類似形態はある。

 或るガールズ・バーで女性スタッフの経営者がドラスティックなコスト節
減策を尋ねるので、有能なスタッフ限定の非雇用化のアイディアを教えたこ
とがある。有能なスタッフをきちんと育て、日々の指揮命令が不要な状態を
作り、他の8条件も極力満たすような契約にすることが条件。勿論、本人へ
の説明も十分に必要と念を押した。生まれる利益は育成制度やキャリア・コ
ースの整備を適切に行なった会社への報酬と考えることさえできる。
 
 後日、「弁護士にその話をしたら違法行為だと言われた」とその経営者か
ら非難のメールが来た。この手法の採用条件に経営者の高い美意識を付け加
えるべきだったと反省する。

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3 非雇用化の背景(01) 企業組織の小規模化

 今回から非雇用化がなぜ必要とされやすくなったかについて4回に分けて
説明します。

 統計などで具体的に傾向が明らかになっている訳ではありませんが、企業
組織は小規模化するのが少なくとも国内ではトレンドになるものと思われま
す。政府やその片棒を担ぐ御用学者・御用識者は、零細企業は生産性が低く、
人材育成も儘ならないので、統合をM&Aという形で進め中堅企業になって行
けば、賃金も上昇するとよく言います。しかし、実際の中小零細企業を見れ
ばかなり非現実的です。

 寧ろ、VUCAの時代、一部の生き残りに成功した多国籍企業群を除けば、中
堅企業以下、圧倒的多数派の企業において組織規模を縮小した方が、事業運
営は楽になります。幾つか巷間に知られた根拠があります。
 
 一つは本当によく耳にすることが多い「価値観の多様化」です。ライフス
タイルや生活のバリュースタイルが多様化し、キャリアや人間関係なども、
購買態度もかなりバラバラになりました。多様化すれば個々の市場規模が小
さくなります。つまり、大手企業では対応しにくくなるということです。大
きな市場が消えて極端に言うとニッチ市場が乱立しているような状況になれ
ばなるほど、総じて企業は多様な市場に対応するために小型化しなくてはな
りません。
 
 また、先述のVUCAの時代への対応という問題もあります。突如、インフル
エンザよりも低毒性のウイルス禍で街のロックダウンが検討されたり、地震
・台風などの天災が襲ってきたり、外国人が大挙して押し寄せたり、拙速な
インボイス制度の導入など経営手法そのものが変わったり、経営環境の激変
が続いています。こうした変化に対応するには、組織規模が小さい方が圧倒
的に楽です。組織が小さいと機動的に且つ低コストで変化できるからです。
 
 さらに、各種の規制の状況を見ると、規模の小さい企業を例外としたり規
制を緩く設定したりするなどのケースは非常に多く存在します。つまり、企
業規模を小さくした方が、各種の規制に制限されにくいのです。持ち株会社
を軸に事業体を別々の会社の集合体にしたり、FC制をとって「ジー」と
「ザー」を別にしたりと、大きな事業を小さな組織体の集合とするケースな
どもあります。多くのホテルや百貨店、SCなども名称は同じでも各施設が別
法人となっていることがあります。
 
 このように大手企業でさえ組織を小さくするメリットを享受しています。
まして元々小さな企業であれば、組織本体を小さいままに維持しつつ、非雇
用化した元社員を、自社に対する高ロイヤルティの外部事業者としてしまう
メリットは大きいのです。

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4 非雇用化導入時の留意点(02) 汎用的な知識・スキルの充実

 非雇用化導入時の留意点を全5回で5点に分けて紹介します。今回は2点目
です。

 非雇用化の仕組みの導入に当たって、9条件の「業務遂行上の指揮命令を
受けているか。」や「業務に時間的・場所的な拘束があるか。」などをクリ
アするには、広い業務知識・スキルが必要となります。

 指揮命令が必要ないぐらいに、つまり、経営者の代行者・代弁者として業
務が行なるぐらいに、自社の経営理念や経営方針といった事柄を体得してい
る必要があります。業務に時間的・場所的な拘束がないようにするには、通
称武漢ウイルス禍下で一気に広がったリモート勤務なども含め、相応のICT
を使いこなすスキルが必要になります。

 こうした知識・スキル群を偶然備えている人間だけを非雇用化の対象とす
ると、非雇用化がなかなか進展しません。ですので、こういった事柄を社内
の育成体制で既存社員に身につけさせ、所謂「デキる社員」を多数生み出し
てから非雇用化を推進することになります。

 そのような面倒なことをするぐらいなら、元々業務委託で働く人材を募集
して契約したらよいという意見もあります。現実に今時の求人情報を見る
と、以前とは異なり、雇用契約ではなく業務委託契約の人材募集の広告も多
数存在しています。しかし、こうした人材は、その人柄や考え方、知識・ス
キルレベルが未知であるため、相応のリスクがあります。カレーハウスCoCo
壱番屋の社員を店舗オーナーにする制度の事例などを見ても、自社の組織の
一部の雇用の枠を外す方が、手間や時間が掛かりますが効果が確実です。

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5 非雇用化のメリット(02) 経費節減

 非雇用化のメリットを全5回で5点に分けて紹介します。今回は2回目です。

 前回は「離職リスクの低減」のメリットを挙げました。どちらかというと
あまり気づかれにくい非雇用化の大きなメリットです。それに対して今回説
明する経費節減は経営者なら誰もがすぐに想像するメリットです。

 前回の号でも言及した通り、消費税の節税が可能となります。対象となる
人材の既存の給与額や個人で賄うことになる社会保険などの試算をして本人
に不利にならない条件を提示すべきですが、それでも一般には元々会社が負
担していた人件費と雇用関連費用一式の合計よりも出費は小さくなることが
殆どです。つまり法定福利費に相当する額が圧縮され易いのです。
 
 出社回数を減らすような働き方を選べば通勤手当に相当する支払も減らせ
ます。見える仕事とそれにまつわる経費を明らかにすることが結果的に支払
金額の有効性を高めます。また、漠然とした福利厚生メニューを人事系企業
から定額制で購入し続けているケースもその必要性が薄れます。福利厚生的
な要素は単純にカットできると考えるのではなく、本人にとって意味のある
ものを厳選して実現に協力するべきですが、そうした運用をするだけでもコ
ストは確実に減ります。
 
 研修なども本人の業務に必要なものを本人が選び自分で受講して、それを
質の高い業務として実現させた際に、見合う報酬引き上げを行なえば良いで
しょう。元々「デキる社員」が非雇用化の対象なので、必要な研修などの見
極めも簡単であるはずです。少なくとも漫然と階層別研修を行なうような時
間もコストも大幅にカットできます。
 
 当該人材は個人事業主となるので報酬の支払いには消費税が発生します。
支払消費税が増えることになりますから、申告時に納める消費税の縮小する
効果も生まれます。その状況で本人は個人事業主となり雇用されている状態
よりも事業経費計上の余地が広がり、各種税や健康保険料の低減が見込まれ
ます。つまり本人にとっても最終的収入の上昇につながるのです。

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6 関連情報 『死すべき技術としての経営』シリーズの紹介

 2013年に『応急処置』という全4話のシリーズを発行しました。そのシ
リーズのテーマは「死すべき技術としての経営」でした。経営学の主軸は組
織統制ですが、その技術は究極的には無用になるのが良いという考え方で、
社会全般が進歩しているのなら、早晩(組織統制という意味での)経営技術
は必要なくなるというものです。

 第317話『死すべき技術』の該当部分を抜粋してみましょう。
 
 死すべき技術について、最近嵌っている増田悦佐氏の書籍で学んだ。
「他のすべての科学は進歩しているというのに、統治だけはむかしのままだ。
 いまでも、三、四千年前からほとんど向上していない」との米国第二代大
 統領、ジョン・アダムズの言葉から説明は始まる。この言葉に言及する書
 籍『愚行の世界史』を彼が更に引用している。政治の統治は、結局組織統
 治。なぜ統治は 進歩しないのか。増田氏は仰天の結論を「とっぴな発想
 に見えるが」と言いつつ披露する。
 
「理想状態の社会では統治は必要のなくなる技術だからこそ、人間は統治の
 技術を進歩も発展もさせないできたのではないだろうか」、「その日がく
 るのはたぶん、遠い将来のことだろう。だが、ひょっとすると自分の孫子
 の代には実現しているかもしれないし、自分が生きているうちかもしれな
 い。だから統治の技術を一生懸命に磨くことはない」。
 
 彼によると、警察の犯罪予防は太古の昔から変化していない。大抵の凶悪
 で 悲惨な犯罪は警察のノーマークの人間が起こす。本当に豊かで平和な
 社会になる以外に、「全くの処置無し」の状況は収まらない。これに対し
 て、火災予防は着実に進歩している。人々が豊かで平和に暮らせる社会に
 なっても失火のリスクは付き纏うので、社会投資は元が取れるものとして
 安心して行なわれていると説明される。そしてマネジメントは警察型の技
 術であるから、「マネジメントに携わる人間も、自分の仕事がいずれは死
 すべきものだということを、頭の片隅に入れておいたほうがいい」と推奨
 するのだ。

 経営技術が死ぬ前提には、意図的に統制された組織に拠らなくても、社会
の人々が自由に豊かに暮らせる状態があります。そういった人々は組織の中
で自律的に働くのでも、組織の外でフリーランスになるのでも、組織と太い
つながりを持ちつつ業務委託の個人事業主として働くのでも、選択が可能な
ぐらいに十分な見識や知識、スキルを備えていることでしょう。それを自社
において局所的に実現して行くという発想が、今回のシリーズで述べている
「社員の部分非雇用化」なのです。

シリーズ『応急処置』

■第314話『その人の分け前』
 http://tales.msi-group.org/?p=576
■第315話『既成の新事実』
 http://tales.msi-group.org/?p=582
■第316話『充填方法』
 http://tales.msi-group.org/?p=589
■第317話『死すべき技術』
 http://tales.msi-group.org/?p=593

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7 MSIグループの仕入完了報告(抜粋)

■『妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話』
 山中浩之 著
 https://amzn.to/40R6VQs
■『「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか』
 林(高木) 朗子・加藤忠史 共著
 https://amzn.to/3WSTdeN
■『「人口ゼロ」の資本論 持続不可能になった資本主義』
 大西広 著
 https://amzn.to/3WQZMyi

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8 次号予告

 第602話 『扶養家族』 励起粒子(3) (2月25日発行) 
 新卒採用に当たって奨学金返済の肩代わりさえ福利厚生メニューに加えら
れるようになりました。膨張する福利厚生について考えてみます。

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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 MSIグループ 市川正人
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(完)