316 充填方法 =応急処置=

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経営コラム SOLID AS FAITH 第316号
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 ご愛読ありがとうございます。第316話をお届けします。

 東京では花粉が飛散し、ここ数年お決まりの目の痒みと充血に悩まされてい
ます。吸引はマスクで或る程度防げますが、目に入ってくるのは目を細めるぐ
らいしか対策がありません。ゴーグルのようなメガネもありますが、メガネを
二重にかけるのが嫌で3D映画も見ないことにしているのに、花粉如きであの
ようなメガネをかけてなどいられるか、などと変な意地を張っています。抗ヒ
スタミン剤の錠剤と目薬が手放せない季節はまだもう少々続きそうです。

 前回の「会社がなくなる話」については数人の方から「会社はやっぱりなく
なるんですか」と言うようなお声掛けを戴きました。平素からの当メルマガへ
のご関心に感謝申し上げます。会社がなくなるのか否か。前号の文章でも述べ
た私の考えは、なくなると言われる論旨に多少は共感するものの、消滅の憂き
目に会うのは、どうも大手企業が中心と言う風に思えるということでした。書
籍で紹介されるNPOの長所は、私には寧ろ中小零細組織において顕著にさえ
思えるからです。あの内容を社員の方々と議論できる組織があったら、素晴ら
しいことだと思います。
 
 シリーズ『応急処置』の第三弾の今回は『充填方法』と題して「机のない社
長」のありようを中心に据えて、自律型社員で満たされた組織について考えて
みました。「死すべき技術としての経営」と言う考え方を知ってから、結果的
に自分の仕事はその死を速めることであろうと自覚するようになりました。組
織がどこかの段階で狭い意味での「経営」、つまり「組織統制」を必要としな
くなる日が来る。その実現が事実上見えてしまった組織の有様を描いてみた内
容です。お楽しみ戴ければ幸いです。本文に対するご意見・ご感想をお待ちし
ております。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!
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その316:充填方法 シリーズ『応急処置』(3)

 飲みに行こうと、私を一年半前に採用した零細出版社の社長は言って、私を
賑わう夜の街の一角にある隠れ家のような寿司屋に連れて来た。中小零細企業
のオーナー経営者向けのビジネス誌を出版するこの会社に私は修行のために編
集者として入社して、一年後当初予定の通り、新規事業開拓の仕事を独りで行
なうことになった。上司は社長一人。週に一度程度、報告から始まり細部まで
議論検討をする時間を持っていた。

 会話が途切れた時、酔っている彼は「大分先のことになるが、俺の次の社長
になる気が有るか、突然だが一応考えてみてくれ」と言った。私が驚く間も無
く、彼は自分が社長になるなら、どんな社長になりたいか聞かせてくれと私に
迫った。

「一年前に何回も取材させて戴いた、机のない社長が理想です」と私は答えた。
 その社長には、会社のどこにも机がなかった。まる二日間お邪魔して私が見
た社長は、外に出掛けた社員の空き机を転々としつつ、書き物などをして毎日
を過ごしていた。自分が陣取った机の隣席の社員の電話に耳を澄まし、「大変
な連絡ありがとう。今のは取引先さん?」などと労いながら社員の考えを尋ね
た。会議の場でも一切指示をしない。幹部に「どうすればいいと思うのか教え
て欲しい」と尋ねてばかりいた。

 社長の心情を「孤独」・「不安」・「猜疑心」と想定して記事を書くと売れ
る。そんな自社ビジネス誌をこの社長は読んでいない。幹部以下平社員に至る
までが経営を学ぶために読んでいると言う。「市川さんて、先々月の号に編集
後記を書いていた人ですよね」とお茶を出す若い女性が言うと、そうそうと何
人かの社員が後ろで頷いている。この会社はもう何年も求人広告を出したこと
がない。退職者はなかなか発生せず、口コミで入社希望者のリストまである程
の人気。私の取材に対応する若い女性担当者は、「社長は何でも任せてくれる
ので、入ったばかりの社員でも物凄い重責を感じますよ」と説明する。関係書
籍やファイルが山を為す机に向かう笑顔の中の眼差しは鋭かった。
 
 私の理想の社長像を聞いてすぐ、「ああ、あの社長か」と食べる手を止めて
社長は呟いた。「ああ言う組織の作り方をおまえが知っているのなら、そうし
てみるのも良いだろうな」。
 
 大好きなミンツバーグの『戦略サファリ』を熟読した。彼自身が分類される
ラーニング・スクールでは「リーダーシップの役割は、あらかじめ計画的な戦
略を作り上げることではなく、新たな戦略が出現するように、戦略的学習のプ
ロセスをマネッジすることである」と書かれている。
 
 そこにある「創発」の概念をググると、「内なる叡智の出現を受け入れる」
とするU理論など色々登場する。私の知る多くの組織の構成員から叡智が出現
したことは殆どない。理想への道程には多くの学びと真摯な努力が伴うことだ
ろう。湧いた叡智に従うべきと説く人は多いが、普通の人々からの叡智の湧か
せ方を知る人は殆どいない。
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☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
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【MSIグループからのPR】

リンクトインのディスカッションで、話題騒然!
弊社代表の英語の問題発言を集めたアーカイブ・ブログ。
『MSI-LEX(LinkedIn Excerpts)』。

代表的な投稿をリストアップしてみました。
時々文法ミスも見つかりますが、ご容赦下さい。
英語の苦手な方にも、肩慣らしで楽しんで戴ければ幸いです。

● Hear One & Understand Ten
 まさに直訳そのまんまですが、「一を聞いて十を知る」日本人の行動に関して
の解説があったので、自分も意見を述べてみました。
 http://tales.msi-group.org/?p=532

● Japanese-Style Hospitality
 日本の輸出産業としての「おもてなし文化」と言うような話があったので、
日本型のホスピタリティとは何であるのかについて意見を述べてみました。
 http://tales.msi-group.org/?p=562

● Globally competitive Japanese industry?
 日本から輸出できる産業とはどのようなものであるのかが、議論されていま
したが、MECE的な整理が為されていなかったので、ガーっとまとめて見せ
てみました。
 http://tales.msi-group.org/?p=558

● Fax machines still live!
 先進国中唯一のファクスを後生大事に使っているおかしな国日本というよう
な話があったので、バリバリに反論してみました。
 http://tales.msi-group.org/?p=577

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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
下のアドレスにご意見・ご感想を頂ければ幸いです。
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次号予告:
 第317話 『死すべき技術』 シリーズ『応急処置』(4) (4月10日発行) 
 死すべき技術としての経営を考えるシリーズ『応急処置』の最終話は、タイ
トルもまんまに「経営はなぜ死すべき技術」であるのかの種明かしです。お楽
しみ下さい。

(完)