317 死すべき技術 =応急処置=

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経営コラム SOLID AS FAITH 第317号
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 ご愛読ありがとうございます。第317話をお届けします。

 花粉の飛散が漸く収まってきました。今年は幸いなことに花粉の影響をあま
り受けないで夜桜見物ができました。夜遅くに以前暮らしていた祖師谷の街並
みを歩き、目が充血することもなく気が楽だったので、20歳の頃に住んでいた
仙川界隈まで足を伸ばしてみました。

 道路整備など大きな変化は各所にありましたが、30年近く前とほとんど変わ
らない店が多数残っていることには感嘆させられました。残念ながら、第231
話『スポットの褪色』に登場した甘味処は消えていましたが、商店街は往時の
賑やかさをかなり保っていたように思います。
 
 地方経済や首都圏などでもロードサイドの商圏は縮小が見られるようになり、
懐かしの駅前商店街には人が還流していると言う言説は聞いています。それが
どの程度起きているのか私には分かりませんが、その還流した人々に対して魅
力ある商業集積が多く残されることになったらよいと思います。
 
 今回の第317話は、死すべき技術としての経営を考えるシリーズ『応急処置』
の最終話です。タイトルもそのまま『死すべき技術』です。なぜ経営は死なね
ばならないのか。その理由を突き詰めていくと、かなり明確な答えに行き当た
ります。今までのシリーズ一話から三話でほぼ明らかになっている答えを、ぽ
んと投げ出すように簡単にまとめてみました。あまりに当り前すぎて自分でも
拍子抜けしてしまうほどです。
 
 しかし、PR欄にあるような内容を一所懸命強調しなくてはならないほどに、
リンクトインで垣間見る世界では、以前経営は当分死にそうにない大怪獣です。
ガラパゴス化と言う言葉も携帯電話以外であまり聞かなくなったのは、死を予
見しのた打ち回る組織統制の醜悪が世界でも気づかれてきた証左なのか、単に
日本人が忘れっぽい国民性であるからなのか、私にもよく分かりません。ご一
緒にそのようなことをお考え戴ければ幸いです。本文に対するご意見・ご感想
をお待ちしております。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業
日!!
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その317:死すべき技術 シリーズ『応急処置』(4)

「こちらの勉強会では、市川さんはあんまり話さないんですね」と同行してい
る弟子が、勉強会の休憩時間に私に耳打ちした。この会社の勉強会は開始から
数年メンバー変更があまりない。開始当初には議事録の書き方までいちいち手
取り足取り教えて共有化と標準化を繰り返した。ビジネス書の選び方を教える
ために丸善に全員を連れて行ったこともある。毎週訪問して勉強会を継続して、
今では仮に私が遅刻しても実効上の問題は殆どない。
「こっちも上を目指してと思ってきたけど、どうも単に要らなくなる日も近い
のかもしれないよね」と私が苦笑すると、こんなに社員さんから歓待されてい
るのにと弟子が驚く。

 死すべき技術について、最近嵌っている増田悦佐氏の書籍で学んだ。
「他のすべての科学は進歩しているというのに、統治だけはむかしのままだ。
いまでも、三、四千年前からほとんど向上していない」との米国第二代大統領、
ジョン・アダムズの言葉から説明は始まる。この言葉に言及する書籍『愚行の
世界史』を彼が更に引用している。政治の統治は、結局組織統治。なぜ統治は
進歩しないのか。増田氏は仰天の結論を「とっぴな発想に見えるが」と言いつ
つ披露する。

「理想状態の社会では統治は必要のなくなる技術だからこそ、人間は統治の技
術を進歩も発展もさせないできたのではないだろうか」、「その日がくるのは
たぶん、遠い将来のことだろう。だが、ひょっとすると自分の孫子の代には実
現しているかもしれないし、自分が生きているうちかもしれない。だから統治
の技術を一生懸命に磨くことはない」。

 彼によると、警察の犯罪予防は太古の昔から変化していない。大抵の凶悪で
悲惨な犯罪は警察のノーマークの人間が起こす。本当に豊かで平和な社会にな
る以外に、「全くの処置無し」の状況は収まらない。これに対して、火災予防
は着実に進歩している。人々が豊かで平和に暮らせる社会になっても失火のリ
スクは付き纏うので、社会投資は元が取れるものとして安心して行なわれてい
ると説明される。そしてマネジメントは警察型の技術であるから、「マネジメ
ントに携わる人間も、自分の仕事がいずれは死すべきものだということを、頭
の片隅に入れておいたほうがいい」と推奨するのだ。

「商品やサービスを買おうと思っている人は存在しない。商品やサービスを買
った結果が欲しくて、仕方なく買っているだけだと思わなきゃ駄目です。甘党
には見えなさそうな中年のサラリーマンがケーキを買う理由を考えてみて下さ
い。レビットのドリルの話でもいいですよ。自分が買う時のことを考えれば、
あんまりにも当り前で誰しもすぐ分かる筈のことなんです」。今日もクライア
ントの勉強会で経営の当り前を強調した。

 経営の基本は凡事徹底とよく聞く。凡事を普通にできるだけで組織統治は実
現する。そこに特別な技術は要らない。本当は必要ではないものを売る商売は
世の中にたくさんある。自分の商売もその一つと10年を過ぎて漸く気付いた。
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☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
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【MSIグループからのPR】

リンクトインのディスカッションで、話題騒然!
弊社代表の英語の問題発言を集めたアーカイブ・ブログ。
『MSI-LEX(LinkedIn Excerpts)』。

代表的な投稿をリストアップしてみました。
時々文法ミスも見つかりますが、ご容赦下さい。
英語の苦手な方にも、肩慣らしで楽しんで戴ければ幸いです。

● Hear One & Understand Ten
 まさに直訳そのまんまですが、「一を聞いて十を知る」日本人の行動に関し
ての解説があったので、自分も意見を述べてみました。
 http://tales.msi-group.org/?p=532

● Japanese-Style Hospitality
 日本の輸出産業としての「おもてなし文化」と言うような話があったので、
日本型のホスピタリティとは何であるのかについて意見を述べてみました。
 http://tales.msi-group.org/?p=562

● Globally competitive Japanese industry?
 日本から輸出できる産業とはどのようなものであるのかが、議論されていま
したが、MECE的な整理が為されていなかったので、ガーっとまとめて見せ
てみました。
 http://tales.msi-group.org/?p=558

● Fax machines still live!
 先進国中唯一のファクスを後生大事に使っているおかしな国日本というよう
な話があったので、バリバリに反論してみました。
 http://tales.msi-group.org/?p=577

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 合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
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次号予告:
 第318話 『浅知恵』 (4月25日発行) 
 シリーズ『応急処置』の番外編として用意した話です。死すべき技術として
の経営の中核は組織統制の技術でした。しかし、組織内の人間のみならず世の
中全体が変わるのなら、経営の他の部分も根本から不要になる可能性がありま
す。そんなことを考えてみました。

(完)