=================================
経営コラム SOLID AS FAITH 11周年記念特別号
『不忠の咎』
=================================
目次
1 まえがき ?特殊な世界?
2 或るセミナー企画の現場
3 鉄則の因習
4 もし浜 ?もしも商店経営者が浜崎あゆみの大ファンだったら?
5 ソリアズの中の店舗
6 視覚化する道程
7 何が店舗経営を駄目にするのか
8 あとがき ?私の当り前?
=================================
☆注意:お読みになる際には、枚数がかさみ恐縮ながら、プリントアウトの上
お読みになることを、心よりお勧め申し上げます。
=================================
1 まえがき ?特殊な世界?
久しぶりにクライアント企業の社員の方々と一緒に、大型書店を訪れた。勉
強会で使用する書籍を見繕う。最初はマーケティングの基礎知識。「マーケ
ティング」とのラベルが付いた棚の周りを徘徊しながら書籍を数冊取って見て
は棚に戻すこと数分。次は顧客満足。「マーケティング」の棚の一部にそれが
あった。クライアントさんが、顧客満足の分野ではホテルの事例も欲しいと言
う。「業界別」と題された棚のホテルの仕切り板を探す。
次はMDについての書籍。その仕切り板はない。探し回って、「店舗経営」
と言う棚の一部にほんの数冊、マーチャンダイジングを文字が背表紙に見つ
かった。内容は、アパレル業とスーパーばかり。バイヤーの基礎知識と位置づ
けられている。他に見つかるのは、「インストア・マーチャンダイジング」と
「VMD」に関する書籍。基本的なMDの入門書が見つからない。探すうちに、
ビジネス書の新書などのシリーズや分野毎にシリーズ化された入門書の中に存
在することが分かった。
25歳にもうすぐなるという頃に、大学教育を受けるために留学する決心をし
た。インターネットのない時代。片手では持てないぐらいに厚く重い辞書のよ
うな目録に全米の大学のデータがまとめられていて、その中から志望する大学
を絞り込む。場所を西海岸三州と決めると、クリスチャンのみを受け入れる大
学などを省く。次は希望する専攻の有無で絞り込む。学部で見ると「経営」は
あちこちに見つかる。その四分の一ぐらいの頻度で現れる「経営」を名称に含
む専攻は、「農業経営」と「ホテル経営」。一般の「経営」からわざわざ切り
分けられて、別枠で捉えられることの多い農業とホテル業。この二つが一般の
「経営」学から分離されて個別に教えられることが多い理由は、分からないま
まに今に至る。
今日、ビジネス書売場に佇んで、店舗経営に関わる書籍を探そうとすると、
農業とホテル業の不思議を思い出す。店舗経営は一般的な経営に含まれていな
い。多くの大手書店でそうなっている。棚のラベルで業種単位に成立している
のは、「店舗」ぐらいしかない。
製造業が繁盛しても、卸売業が繁盛しても、個別のジャンルの書籍は出ない。
しかし、店舗だけは繁盛すると繁盛店経営ノウハウがジャンルとして成立する。
そのジャンルの書籍には繁盛店の在るべき姿が描写されている。他の棚にある
経営論と、店舗経営における繁盛の原理はまるで無関係であるかの如くである。
店舗経営には一般的経営が適用されないのか。適用するとどのような問題が生
じるのか。
*** *** *** *** *** ***
この答えを見つけないままに、普段誰もがよく訪れるが故に頻出する店舗の
話題に一般的経営論らしきものを適用し続けて来たのが『経営コラム SOLID
AS FAITH』です。今回の11周年記念特別号では、定番の零細組織の経営論の
切り口で、零細店舗の経営を考えるとどうなるのかについて色々とまとめてみ
ました。
=================================
2 或るセミナー企画の現場
「30人以上いる受講者をマイクロバスに詰めて、受講者の店を見て回るだと。
何を馬鹿なことを言っているんだ。じゃあ、聞くが、受講者は思い込みの在る
べき論から既に脱しているのか。例えば、受講者に居るか居ないか知らないが、
俺が豆腐屋を見るとするわな。豆腐屋がどうやったら効率の良い生産方法を採
用したことになるのかも、衛生管理がどのようになるべきかも分からずに、そ
の現場を見て何か学びは起きるのか。それを自分の店の何に活かせるというこ
となんだ。
おまけに、その豆腐屋も受講者なんだろう。その豆腐屋は、自店はどんなお
客様のどんなニーズに応えることを狙って営業しているのかをまとめてあって、
見学に来た他の受講者に滔々と説明することができるのか。説明する側も分か
っていないことをどうやってその業界のド素人の他の受講者が理解できるんだ。
良い所、小学生の遠足の感想作文のようなもんで、『みんな一所懸命働いてい
て見習わなきゃ駄目だと思いました』とか言うのが精一杯じゃないのか。
ついでに言うと、バスで回って、30人も入れるような店舗があるのか。みん
な零細店ばかりの筈じゃないか。『商業界』のキャッチは凄いと言って、『店
は客のためにある』とか教えていて、来店客を締め出すほどの、金にもならな
い受講者を大勢店に詰め込んで、迎える側の受講者は自分の店が見本に選ばれ
たとばかりにしたり顔で、有難いお客さんをそっちのけで、たいした練習もし
ていない、その場凌ぎの下手くそな説明をすることになるだけじゃないのか」。
元弟子が地方都市の商店主ばかり集めた商工会議所主催の連続セミナーの企
画運営を行なうと言うので、その企画を手伝うこととなった。打ち合わせでは
次の回の運営方法が議論される。受講者は店主を長く勤めてきた人々。どこか
で植え付けられた繁盛店のイメージが頭の中に厳然とあって、それに捉われて
自店をどうすることもできなくなった人々。店舗を見限る客は、店主の持つ理
想の繁盛店など想像だにしない。自分のニーズが満たされないと察知するや、
早々に踵を反す。
バスツアーをしても、誰のために何をどのように提供している店なのかの構
造を理解して見なくては意味が無い。100均の店長に向かって真顔で、コスト
を掛けて人材育成をして挨拶の徹底をした方がよいと、どこかで聞き齧った知
識を元に発言しそうな人々。仕方なく、グループ単位に分かれて見学を幾つか
の店で並行して行なうことにして、一店あたりの時間を延ばし、受講者各々が
よく考えられるようにした。さらに、店舗側の受講者には店舗のモデル顧客像
とそのニーズを念入りに説明させるように変更して、商工会議所が手配し終わ
っていたバスでツアーを敢行することにした。
結果、多くの気付きがあったとは言うものの、自分が思う売れる店と“ココ
が違う”というポイントを上げる受講者が頻出したらしい。受講者の頭の中に
は長年の店舗経営の経験や書籍の情報などからこれが正しい店作りだという在
るべき姿ができあがっている。ターゲットとなる顧客像を見学先の経営者から
聞いてもなお、もっと誰もが使いやすい店作りをするべきで、もっと広く宣伝
活動をするべきなどの意見が多数出されたと言う。
ほうらみろ。と言っている訳にも行かず、次の打ち合わせでは、その建て直
しを謀りつつしつつ、もともと商工会議所に提出した計画にある内容との整合
を探る。眼前の来店客が何故に自店に足を運ぶかと考えることよりも優先され
る、どこかの誰かが考えた在るべき商店経営。元気な店作りと謳った筈の連続
セミナーは、お客様無視、現場度外視の「在るべき店舗経営論」の打破が主目
的となっている。
「商店主たちは、豆腐屋には豆腐屋の、ハンコ屋にはハンコ屋の当り前のやり
方があると思っている。そう言う意見が、今となっては殆ど商店街から淘汰さ
れつくした家具屋の業界団体の会報に当り前に書かれていた。家具を買わない
人が増えたわけじゃない。ただ零細小売店を皆が省みなくなっただけだ。お客
様のニーズを追いかけ、お客様のニーズを追い越し導くことができなくては、
淘汰される。そういう危機感をまずは受講者に植え付けろ。フランフランもア
フタヌーンティーも、雑貨屋と電話帳に分類するには違和感がある。スタバも
ただの喫茶店と思う人は少ない。自分は何のセレクトショップを始めたいかと、
受講者に迫るぐらいじゃなきゃ、ニーズを意識するなんて無理なんだ」。
こんな会話が延々打ち合わせでは続いている。
=================================
3 鉄則の因習
零細店舗経営者を縛る経営常識はどこから来たのか。
知人のコンサルタントに連絡を取ろうかと、数人を頭に思い浮かべる。彼ら
の経歴に思い至って、彼らへの連絡の手を止める。彼らは全国的に名を馳せる
幾つかの大手小売業の出身者であった。大手小売業、特にその先駆者であった
大型スーパーマーケットの巨大チェーン。商圏分析の合理的手法による売上予
測に基づいた出店計画。巨大な規模によるバーゲニングパワーを活かした仕入
れで生まれる圧倒的で画一的な品揃え。POSレジによる売上分析。膨大なマ
ニュアルによる人員教育。当時体系立って見えた店舗経営の在り方をそれらの
大手チェーンで経験した人々が、その経験を売り物に独立したのが多くの小売
業コンサルタントではなかったか。
製造業でも卸売業でも、小売業やサービス業ほどに海外視察ツアーは行なわ
れない。日本のスーパーマーケットの黎明期。経営者の自伝などを読むと必ず
登場する、米国巨大小売業の現場視察。チェーンストア理論で標準的なオペレ
ーションを実現する店舗を数多く整然と展開する手法を見て、衝撃を受けたと
ほぼ例外なく書かれている。チェーンストアを展開する手法の衝撃。これが国
内の店舗経営の原体験になっているように思えてならない。それが、規模の大
小に関らず、ランチェスター戦略論で言う処の「確率戦」を避けるべき零細小
売店にまで浸透している。暴論かもしれない。しかし、現実に、チェーンスト
アの運営理論の書籍を手繰ると、零細店舗店主の言葉が間違いなく散見される。
○品揃えは豊富にして、お客さまに豊かな暮らしを提供する
零細小売店の限られた資金と棚面積で、ライン・アイテムのどちらを増やし
た所で、大型店を圧倒するような魅力が出せる訳がない。今時、百貨店に行っ
ても、品数が豊富で幸せに感じるなどと言った声などそう聞かない。モノで溢
れかえっている、昔「ウサギ小屋」と呼ばれた住居に、モノをさらに押し込ん
だ状態を指して、「豊かな暮らし」を実感する消費者は、あまり残っていない。
サービス店でのサービスメニュー充実と言うことでも、サービスは人が提供す
るものである以上、メニューが複雑になると、提供する側も混乱し、サービス
品質も下がりやすくなる。お客もメニューの相違を理解しにくくなる。
○店舗立地は誰もが通いやすい幹線道路沿い
東名阪と一部政令指定都市周辺以外では、既に人口が減り始めている。収入
の限られている若年層は車さえ必要不可欠なものと捉えていないのか、少子化
のせいであるのか、自動車免許取得数は減少していると言う。地方のロードサ
イドSCに行くと、30代前半の男性を助手席に乗せて60過ぎの女性が車で駐車
場に乗り付けている光景も珍しくない。必ずしもロードサイドが好立地とは言
えない。今後、よりそうではなくなる公算が大きい。零細小売店には競合が発
生しやすいので広域商圏を前提とした幹線道路沿いはむしろ不利とも言う。
ゼロから出店するのなら、ターゲットとするお客が多い所が望ましい。それ
も配達メインの店などなら、別に人通りが多くなくてもよく、商圏人口さえあ
ればよい。注意すべきは競合他店がいないような地区でも今時通販や共同購入
に依存する家庭も多いこと。いずれにせよ、零細店舗が「誰も」に好まれる必
要は一切ない。「客を選ぶ店が客に選ばれる店」と言う経営者もいる。
既存店がヒト気のない不便な場所に立地していて、移転資金も儘ならない零
細店舗ならば、ターゲットニーズの絞り込みを前提とした差別化の徹底が一番
に思いつく。差別化を極めれば極めるほど、ニーズは限定されるが、物理的商
圏は広がる。大型SCの中にあっても尚、SC来店客とは全く来店客がだぶっ
ていない繁盛店も存在する。(単にトイレや駐車場施設の利便性と場所の示し
易さのメリットだけでSC内に居残っていると言う。)不便な土地での、法人
相手の組織票目当ての商売もある。不便な土地は地価も賃料も安い筈なので、
そのメリットを享受したビジネスのやり方も模索できる。
○マネジメントは詳細なマニュアルによりフォーマット化する
偏見かもしれないが、零細店舗で採用できる多くの人材の質は高くない。マ
ニュアルで行動を統制しようにも、マニュアルの文章理解が儘ならないことも
珍しくない。大体にして、少ない店員の間で、本当にいちいちオペレーション
をマニュアル化する意義さえ疑われる。レジ操作や戸締り手順など、必須のも
の以外は、寧ろ店主から店員へ口伝の反復強化をベースとした方が効果的に思
える。
店員を性悪説で捉えると、マニュアルを詳細に決めれば、それ以外は自分の
職掌や責任範囲ではないと考えさせることになりかねない。小さな組織で起こ
ることはすぐさま全体に影響を与える。一人ひとりが主体性を持ってどのよう
な事態にでも対処できるように指導した方が望ましいように思える。
お客の顔を見失いやすい大手企業組織だから、「強者の戦略」として紋切り
型の考え方が必要になる。顧客を個別に認識してそのニーズに肌理細かく対応
する「弱者の戦略」では、殆どが害になりこそすれ、益になることが少ない。
また、今となっては全世界的に見ても最上級にモノがあふれている日本におい
て、旧態依然たる価値観に支配されていると言わざるを得ない面も散見される。
最近では、このようなチェーンストア経営の理論の限界を見抜き、幾つかの
新たな店舗経営の流れが既に書店を賑わせている。大まかに分類すると…
○お客様の感情のありように着目する感情マーケティング的アプローチ
○商品やサービスの記号化により、付加価値を増大させるアプローチ
○米国の一部サービス業のホスピタリティの在り方に着目するアプローチ
ぐらいに見受けられる。
これらのいずれも、売上向上や利益向上に大きく貢献する可能性を持つが、
多くの場合、販売戦略よりも販売戦術レベルの改善策の案出に有効な程度。こ
れらのアプローチから生み出される戦略・戦術の全ては、その店のターゲット
顧客像とその典型的ニーズを明確に把握していなくては実現し得ない。その意
味で、一般的経営論から縁遠いと思われる店舗経営者にとって、唱和し、謡い
踊れば功徳が現れるような類の救済ではない。
=================================
4 もし浜 ?もしも商店経営者が浜崎あゆみの大ファンだったら?
どうも、店舗経営には一般的経営論が適用されていない。または、適用する
べきだと思われていない。と言うようなことを考えてきました。では、その一
般的経営論とはどのようなものであるのか。これも大手書店のビジネス書売場
に答えを求めると、一目瞭然に答えが出ます。コーポレート・ガバナンスやC
SR、IFRS経営などなど。とても零細企業組織の運営には関連付けにくい
テーマがずらり並んでいます。
サラリーマン時代に、零細企業のオーナー経営者に向けて各種テーマのセミ
ナーを企画していましたが、彼らに歓迎されるのは身の丈にあった具体的で結
果に近いテーマです。例えば、「凡事徹底」。例えば、「無駄取り」。例えば、
「やる気のある社員づくり」といった具合です。「一人の人間として当たり前
のことをやり続けることが、そのままあるべき企業経営になる」とインタ
ビューする私に話した経営者は数多くいます。確かに、凡事徹底も、無駄取り
も、やる気を出すことも、子供の躾の延長線上のテーマです。
書店には、ドラッカーの金言がまとめられたという書籍が並び、ドラッカー
の言葉を女子高生がクラブ活動に反映させる物語、通称「もしドラ」が大ヒッ
トした結果と言われています。ドラッカーの金言と呼ばれるものは、あまりに
抽象化され、あまりに有り触れていて、私は魅力を全く感じません。多分、書
籍を読むどころか、直接の文通相手だったダイエー創始者の中内功も説得力を
感じなかったのでしょう。社会的影響さえ無視できない大破綻劇に至りました。
「人として当たり前のことをするだけで経営はどんどん磨かれる」。
何人もの経営者が教えてくれたことをそのまま解釈すれば、何らかの宗教の
教えに従っても、論語や六韜に従っても、村の長老の教えに従っても、経営は
まともになる筈です。現実に、そのようにして業績を伸ばす企業経営者は多数
存在します。ドラッカーを読んで、人として当たり前のことを知る女子高生が
いるなら、女子高生が生き方を学ぶカリスマの言葉から、当り前の「消費者感
覚」がまさに必要な筈の店舗経営を学ぶこともできるかもしれません。
*** *** *** *** *** ***
【社長業】
「市川さんは私たちのことを経営者って言うじゃないですか。家族とアルバイ
ト以外に常用の社員がいるわけでもないし。店はたった一店。こんな状況で経
営者って言われてもね。私たちの問題は、市川さんが言うよりも、もっと低次
元な話でしょ。経営者としての覚悟を問われてもしょうがないような気がする
んですよね」
♪(コーラス略) 君はこの世にひとり
(コーラス略) 君の代わりはいない
(コーラス略) それでもためらうんなら
(コーラス略) それこそ君次第♪
『Startin’』
【差別化】
「新聞やテレビを見ていたら、宣伝は溢れているじゃないですか。それに今時、
インターネットにだって色々な宣伝があって、モノはそこら中で宣伝されて、
実際に買える訳ですよ。そういうことができない零細小売店って、やっぱり駄
目じゃないですか」
♪他の誰かと君を比べてみたところで
基準が違うし何の意味もない♪
『Startin’』
【ストア・コンセプトの決定】
「市川さんは、お客さんのニーズを常に考えろ、お客さんをよく見ろっていい
ますけど、お客さんは色々な人達で、それこそ千差万別で、言ってくることも
その都度まちまちな訳ですよ。何を狙って、何をしろって言うことなのか本当
にわからないですよ」
♪答えなんてない 誰も教えてくれない
もしどこかにあるとしたら 君はもう手にしてる♪
『Startin’』
【効果的販促】
「派手なセールとかやる店があるじゃないですか。業界の分かっている人間か
らしたら、あざといやり口も多いですし、人気取りしたって、一過性のものじ
ゃないですか。お客さんに来てもらうってことや、喜んでもらうって、そうい
うことじゃないような気がするんですよ」
♪守りに入らないで攻撃的に魅せてみて
可能だとか不可能だとかどこの誰のものさし♪
『Sparkle』
【顧客の囲い込み】
「自分の店には魅力がないことは露骨にわかるじゃないですか。だって、新し
くできた同業の店の前を通ったら駐車場にうちの常連さんの車があったりする
んですから。限界を感じますよ」
♪どうして私じゃないのって滑稽でくだらない問い掛けなんてしないけど
私が見た事ないようなあなたがそこには居てただただ遠くに感じたの
こんな気持ち一体なんて言ったらいい♪
『is this LOVE?』
【経営の存続】
「正直言って、やれることは少ないですし、大手の店やチェーンの店みたいに
できたら、そりゃあ楽だろうと思いますよ。売上は増えることがここ数年全然
ありませんね。業界紙で見たってこんなもんですよ。うちだけがまずいって事
じゃないようですからね。零細小売店は消えてしまえってことなんでしょう」
♪満たされない想いがもしあるのなら
それは君自身の手で創られたもの♪
『talkin’ 2 myself』
【スピード経営】
「朝、店を開けるじゃないですか。それから店の中から、通りを行き交う人達
を見ているわけですよ。暇ですよ。本当に。何をしようか困ることも忘れるぐ
らいに毎日そんな感じで、どんどん追い詰められているのに、店の外にはそん
な私のことなんか気にもしないでいつもどおり人が歩いている訳ですよ」
♪眺めるだけじゃ始まんない君のものにはならない
いつまでそこでそうやって指をくわえているつもり♪
『Sparkle』
【後継者問題】
「子供に店を継がせる?そんなことは全く考えたことがないですよ。こんな全
然稼ぎにもならないような店をやって行くことを喜んでやるような奴は子供じ
ゃなくても居ないでしょ。何とか借金を重ねて10年ちょっとやってきましたけ
ど、そろそろ持たなくなってきました。切なくなってしまうので、あんまり考
えないようにしていますが、隣近所の閉店の貼り紙を見ると、うちの近い将来
を見るようですよ」
♪何を求めて彷徨うのか。旅路の果てに何が見たい?♪
『talkin’ 2 myself』
*** *** *** *** *** ***
PVが面白くて録画してあった音楽番組から選んだ四曲からだけでもこれほ
どに示唆的な言葉が見つかります。私にはドラッカーの金言よりも、余程直観
的に感じられます。他の曲にも多分、このような言葉は多々含まれているので
しょう。経営に行き詰まったら、浜崎あゆみを聞いている人は意外に多いのか
もしれません。一聴の価値は十分にあります。
=================================
5 ソリアズの中の店舗
第2項「或るセミナー企画の現場」に登場した元弟子は、件の商店主ばかり
を集めた連続セミナーの企画に当たって、人口に膾炙する店舗経営論でもなく、
一般的経営論でもなく、零細店舗の経営論を模索することになりました。その
際に参考になったと言うソリアズのバックナンバーを幾つか挙げて貰いました。
*** *** *** *** *** ***
第4話『情報開示』
市川が好んで訪れる「茶の葉」という緑茶専門の喫茶店が登場する。私も見
学に訪れた事があるが、なるほど不要な情報やサービスは一切なく、静かに茶
を楽しむのもよし、私のような好奇心を満たしたい客には丁寧な茶葉の説明を
してくれる。
店舗の売上向上の手伝いをしていると、信頼性を高めるために、顧客とのコ
ミュニケーションツールとしてブログで日々の行動を公開したがる経営者が非
常に多い。最近はtwitterなどももてはやされ、ビジネスの勝ち組になろうと
多くの方が飛びついている。しかし、日々の店主の行動を知ったところで信頼
性は高まるのであろうか。結果売り上げにつながるのだろうか。求めてもいな
いものをこれ以上開示する必要性はどこにあるのだろうか。顧客のためにと行
なう視点のズレを突いた一話。
http://tales.msi-group.org/?p=41
第24話『海を囲む砦』
マーケティングの教科書にある顧客「囲い込み策」であるポイントカード、
クレジットカード、メンバーズカード。経営者は顧客が見えなくなった、ロイ
ヤリティーが昔ほど当てにならなくなったと教科書通りの対策に走る。結果と
して、繁盛している商店街のポイントカードは成功し、衰退する商店街のカー
ドは携行されなくなる。導入以前にできることはなかったか。
海岸で昔から変わらず行なわれる堤防遊びを見て、不変ではない海の波に対
して策をこらしていくことで、蓄積されるノウハウや強固になる堤防と経営者
の策を重ね合わせる。目の前に広がる海=顧客は果てしなく広がり、されど気
を抜けば堤防をするりと抜けていく。顧客が求めていることは、ポイントカー
ドやクレジットカードで僅かなお得感を感じることだろうか。それ以前に、自
店が選ばれるようになるための努力を行なったのか。安易に売り手都合の施策
を取り入れる経営者に疑問を投げかける一話。
http://tales.msi-group.org/?p=61
第104話『こなれた忠告』
知り合いの社長から、紹介者がいなければ受診できない足裏マッサージを紹
介される。予約電話はぶっきらぼう、入口も看板も分かりにくい立地。マッサ
ージが始まると、足裏のマッサージを介して血液型、食生活歴、性格までズバ
ズバと言いあてられる。果ては、適性の職業まで言われ、現在の仕事について
も忠告が飛ぶ。
マッサージ治療院といいながら、施術後の感想は主商品も付加価値も分から
ず、電話帳のどこに分類したらよいかも分からない。この治療院の事業ドメイ
ンは、しかし紹介される客の間でしっかりと受け継がれてきている。有難いこ
とに店の商品とそれに付随する付加価値までも決めてかかろうとする事業者が
多い。商品はこれでサービスはこうと、決められるほど顧客心理は単純なもの
であろうか。顧客が付加価値を決め、それを求めて紹介が続くマッサージ治療
院が心地よく期待を裏切っている。
http://tales.msi-group.org/?p=155
第212話『ベスト・エフォート』
チェーン展開する店の視察をしたところ、ローカライズして店長の裁量で運
営されている店舗では、基本的なVMDが全くできていない。店舗展開を進め
る別の企業に行くと、同じく業績悪化の要因が店長に権限を与えすぎたことで
あるらしいと分析する声が聞かれた。今では計数管理から販促企画まで本部の
了承を得るようになっている。その分野であれば頭では理解しているはずの店
長でも、業務としては完遂できない。それがローカライズの弱点となって表れ
ている。
チェーン店が成功する要因として、ローカライズにより地域密着点を作るこ
とがあげられる。しかし、人の心理が介入すると、チェーン店としての成功体
験が阻害してローカライズという名ばかりの惰性経営に陥ってしまう。「でき
ることはやっているはずなんですが、お客は増えないんです」。商店主から良
く聞かれるセリフでもある。
http://tales.msi-group.org/?p=303
第231話『スポットの褪色』
京王線沿いの商店街では30年近く経ってもほとんど店も街並みも変わらず、
営業を続けている。ある甘味屋では従業員が変わってもメニューもほとんど変
わらず、味も変わらない。一度伺っただけでも、幅広い顧客層や内装から、変
わらず顧客に選ばれ続けている様子を肌で感じることができる。
実は、この回は私が同行しているのだが、店舗の見学に行くというのに話題
になっている表参道ヒルズに行かないことに疑問を感じていた。しかし、平日
でも日々の生活用品を求めて人が行き来する姿を目の当たりにして、最も必要
とされるものを変わらず提供し続ける本来の商店の存在意義と、その計り知れ
ない的確な努力を感じるのでした。
http://tales.msi-group.org/?p=352
このようにソリアズの中で紹介されているエピソードを振り返ってみると、
売れる店とは顧客が本当に求めていることを提供し続けている店舗。その求め
ていることが提供されているか否かは、提供された後に顧客が結果的に判断す
るものであり、店舗は求められるものに対する感性を研ぎ澄ませることで、他
にはない独自のサービスや商品、また付加価値を作り上げるもののようです。
求めていることとは当然のことながら年齢や職業、性格やライフスタイルなど
によって異なります。それらを見極めて経営の手を打ち続けていってこそ、感
性も鍛えられるものでしょう。
多くの商店やショッピングセンターではこれらを無視したような売り手都合
の状況が、私にさえ簡単に見出すことができます。確かに顧客が来ないと嘆く
理由も、平日閑散としている理由も簡単に見つかります。では、なぜこのよう
な事態が起こってしまうのでしょうか。
その理由を、チェーンストア店舗経営論に代表されるフォーマット盲従姿勢
の普及と業界慣習の浸透侵食により、経営者が考えなくなっているからと市川
はよく説明します。「頭を使わない経営者が多い結果がこの有り様」。厳しい
指摘のようですが、商店主の方々と共に講座を行なっていると、ひしひしと実
感する事実です。
=================================
6 視覚化する道程
お客のニーズを軸にした零細店舗経営はどのようにしたらよいのか。「店は
客のためにある」と言うは易く、具体的ステップは五里霧中。仮に決めて取り
掛かっても、店員間で共有するのはさらに困難。そこで、弊社でお手伝いする
零細店舗経営者にもできる「客のための店づくり」のプロセスを簡単に紹介。
【S。ついでにO少々】
経営戦略や営業戦略を考えるとき、大抵の教科書では最初にPEST分析や
SWOT分析を行なうこととなっています。ランチェスター戦略論で言う処の
「弱者」以外の何物でもない零細店舗の経営において、SWOT分析のWOT
を分析することに殆ど意味はありません。
できることはどうせもともと限られた強みを徹底的に使いまわすことしかあ
りません。強みを活かして局地戦で確実に勝つのが「弱者の戦略」の要諦です。
弱点を今更補っている余裕はないので、Wを列記するだけ無駄です。
同様にどうにもならないことは考えても無駄です。(英語ではOTは、アン
コントローラブル・ファクターと括られています。つまり、思い通りにならな
い項目と言うことです。必ずしも外部要因と言うことではありません。)せめ
て、極近い時間内に発生する、何か乗れそうな良い話や、ことを起こすのに良
いタイミングのみ、一応、Oとして記録に留めると言う所でしょう。OTがど
うにもならない項目なら、PESTなど全くどうにもなりません。零細店舗で
は(Pで想定される業界関連法の変更などがあれば別ですが)分析無用です。
経営的に追い詰められつつある零細店舗の店主(=経営者)は、自店のSを
見出すことに一苦労します。Wはとめどなく書き連ねることができます。Sは
自店に数少なく残る常連客からの褒め言葉などから、デフォルメして捻り出す
こととします。
【ターゲットとする顧客像】
ターゲットとする顧客像を設定して貰います。零細店舗の店主は、大抵、店
には色々な人が来るから分からないと言い出します。経験値では、少々大きめ
に設定した商圏の人口が10万人を切るような地区で、同業とみなせる競合店が
殆どないような場合を除いては、基本的にこの設定を無理にでもして戴きます。
取り急ぎは常連客数人に共通するようなイメージでも、こんなお客さんにこれ
からはぜひ来て欲しいという理想の顧客像でも構いません。
前者の場合、あくまでも架空の人物として設定することが肝心です。現実の
常連客をターゲット顧客と設定すると、その顧客に固有の属性やニーズ、言動
などが全て一般化されてしまうことになります。後者の場合は、必ずその商圏
に売上を作るに十分存在すると想定される人物像にして貰います。
人物像の設定は、極力具体的にして貰います。それはアニメなどのキャラ設
定のようにして戴くのが一番です。設定内容に矛盾や不自然さがないように練
り込んで貰います。設定結果を数人で共有できるか否かが、一応のチェックポ
イントです。例えば、財布を忘れたサザエさんが店でとる行動について、番組
を一定期間以上見た人間なら誰しもが頷ける答えがほぼ見つかると言うような
完成度を目指します。
ターゲット人物像の設定を人格やライフスタイルなどについて綿密に行なっ
た後、忘れずにやるべきなのは、このターゲット人物像に情報が入ってくるル
ートの設定です。例えば、「時事ニュースをどのようにターゲット人物像は知
るのか」や、「買いたい服を最終的に決める際に誰の意見を参考にするか」な
どと考えると、答えが用意できます。
【ニーズの決め込み】
ターゲット人物像のニーズを設定します。このニーズは、最初は自店が満た
せるものという制限の中で考えるのではなく、一般的なレベルまで拡大して考
えます。どのように言語化するか迷った時には、各種の動機付け理論から使え
る言葉を適宜引っ張り出すと良いでしょう。 動機付けの要因とは、満たされ
るニーズの切り口をまとめて抽象化したものでしかありません。例えば、ハー
ズバーグの二要因説なら、動機付け理論の中に、「達成」や「承認」などの言
葉があります。これらに対する欲求そのものがニーズと言うことです。
大枠でのニーズが固まった所で先述の人物像を見返し、そのニーズが満たさ
れてなくて困る、その人物像の生活の場面を考えてみます。そうすると、具体
的なニーズを想像することができます。例えば、「周囲の人との関係性に基づ
いた承認をかなり求めている人」と言う想定ならば、職場では、同僚や後輩な
どから、自分のセンスを褒めて貰ったり、言動に対して感謝されたりすること
は、大きな喜びであることでしょう。このように幾つかの生活場面ごとのニー
ズを想像した所で、自店の商品やサービスの強みによって満たせるニーズとそ
の満たす方法を案出します。このうち、前者の満たせるニーズそのものの方が
設定すべきターゲット人物像のニーズです。後者の満たす方法の設定のうち、
大枠の方向性の設定が次項のストア・コンセプトの設定と言うことであり、詳
細設定がその次のミクス設定です。
尚、ニーズ設定において、アンケート結果やヒアリング結果をデータとして
用いる例をよく見ますが、弊社ではその類の方法論は採用しません。人間、自
分のニーズなど殆ど自覚的ではなく、ニーズは無意識のうちに言動に表れるも
のだと考えているからです。ですので、顧客に表現を迫るのではなく、観察の
中からニーズを設定するようにします。
弊社での顧客ニーズの把握に関する考え方は、弊社サイトのこちらをご覧下
さい。
「差別化と顧客ニーズ」
http://www.msi-group.org/MSI-Differentiation-vol2.html
【ストア・コンセプトの練り上げ】
ストア・コンセプトは、自店が「どのようなお客の、どのような(生活場面
での)ニーズを、どのような方法で満たすことで、喜んで戴く」という定義で
す。この時に、業界慣習や業界常識、既存の商慣習などに捉われないような広
い設定をすることが重要です。
例えば、既存店が紳士靴店である時、物理的には靴屋であっても、 “地域の
ビジネスマンが、なかなか相談する相手も居ない自分のセンスアップについて
考える時間と空間を提供する店”と定義することができます。靴選びの前に、
座ってじっくり専門誌などを見て考えるスペースに案内されることがあっても
よいでしょう。別に靴だけがスタイルを決める訳ではないので、コーディネー
ト提案を重視しつつ、ベルトやネクタイ、傘などを、少しずつ品揃えに加えて
行ってもよい筈です。また提供するのが物である必要もないので、スーツの着
こなしセミナーやフランス料理店でのマナー講座などを常連客に案内してもよ
いでしょう。
【ニーズ充足のミクス書き出し】
ミクスと言うのは、同単語の違う読み方で、ミックスです。つまり混ざった
状態のことですが、なぜかマーケティング用語としては、ミクスと表示するこ
とがよくあります。先に設定したターゲット人物像のニーズを満たす一群の方
策の混ざり合った状態です。マーケティング・ミクスの古典的代表例は、マッ
カーシーの4Pです。あまりにも有名なので説明は割愛しますが、非常に完成
度の高いミクス設定のカテゴリーです。
4Pが編み出された頃、流通におけるチャネル・キャプテンの殆どはメーカ
ーでした。4Pも自ずとメーカーが使いやすい言葉で詳細が定義されています。
例えば、「流通」と訳されることの多いplaceは、メーカーから最終消費者にま
で届くプロセスにまつわる要素を括ったカテゴリーですので、物販店に応用す
ると、店舗立地や営業時間、内装や店舗設備、棚配置などが皆含まれる筈です。
このように、本来の4カテゴリーの意味の翻訳を行なえば、物販店でも一応問
題なく使うことができます。
それでも、サービス店舗や飲食店などでは、使いにくいという問題が残って
しまいます。例えば、productをリフレクソロジーの店で考えると、勿論、施
術そのものは間違いなく入るのですが、4Pの場合、promotionの一部に含ま
れる店員による接遇も、productの一環とした方が自然です。そこで採用した
いのが、4Cです。
4Cでは、productのカテゴリーは、customer valueとなっており、これな
ら先のリフレクソロジー店を含むサービス店舗にも連想がしやすくなります。
正確に言うと、物販店のproductから商品関連の設定要素を連想するよりも、
サービス店がcustomer valueに何が設定要素として含まれるかを想定する方が
(4Cが抽象的である分)難易度が高いので、「連想がしやすい」のではなく、
「連想の幅が広いので加工に便利」と言う方が正しいかもしれません。つまり、
4Pより4Cの方が、サービス店舗にはお薦めですが、設定項目を想像すると
言う作業プロセスの難易度は4Cの方が高いということです。
4Pが「売り手目線」であることに対して、4Cは「買い手目線」などと特
徴づけられ、消費者重視の優れた分類のように説明されていることが多いよう
ですが、4Pであっても現実にきちんと売れるように設計するとすれば、間違
いなく買い手のニーズや意向、行動パターンを汲まなくてはなりませんので、
特に4Cに一般的優位点があるようには思えません。
長く物販店には4Pを適用できるものとしてきましたが、やはり、メーカー
向けの設定項目を店舗にアレンジするのには多少の無理は伴います。そこで、
MDの基本項目を4Pの代わりに用いることも弊社では考えています。MDの
内容には仕入や品揃え、陳列など店舗でマーケティング上必要な項目は網羅さ
れているので、4Pのような語呂合わせはできず、カテゴリーも増えますが、
実効性は高くなります。また、飲食店の場合は、厨房の部分を受注生産型の製
造業と捉え、フロアをサービス業と捉えると、両方のマーケティング方針を4
Pと4Cの組み合わせで、より精度高く設計することができます。
極論すると、まるで全業種分類を行なっている電話帳の目次のカテゴリーが
毎年変わっていくことからも類推されるように、結果的にニーズ充足の構成要
素全部をMECE的に列記できれば、分類方法論は、4Pだろうと、(現時点で
そのようなものはないと思いますが)50Xだろうと、実効上何らの問題もあり
ません。弊社ではクライアント企業の方々に独自のカテゴリー分類を作成して
貰っていることもあります。
ミクスの内容が揃ったら、あとはキッチリ実行するだけです。
=================================
7 何が店舗経営を駄目にするのか
「ローリスクな仕事だと誰でもやるから、誰も高い報酬払ってくれないよね。
ローリターンな訳だ。じゃあ、ハイリスクはいつもハイリターンになるかな。
リスクって危なそうじゃん。例えば、ダイナマイト扱う作業あるよね。リスク
高そうじゃん。ハイリターンの報酬にあり付けるのは、ちゃんと扱える人だけ
だよね。素人がハイリターンだからって、火のついたダイナマイト持ってると、
そりゃドリフのギャグみたいには終わらないわな」。
(第202話『危険手当』より抜粋。 http://tales.msi-group.org/?p=269 )
企業活動から生まれる利益はリスクから生まれます。単純に高いリターンを
得ようと高いリスクを取ると高い確率で破綻します。高いリスクを取りつつ、
高いリターンを少しでも高い確率で得ようとすると、研鑽なり学習なりが必ず
必要になります。この極力リスクを抑制しつつリターンを得る営みがマネジメ
ントでしょうから、経営の本質はリスクマネジメントです。
経営の上での大きなリスクは何かと考えると、すぐ思いつくのが設備投資の
リスクです。製造業では、100円にもならない商品を製造するのに、数千万や
億単位の設備が必要になることがあります。リスクの高さは素人でも想像がつ
きます。このリスクを抑制しようとすれば、その商品に対するニーズを中心と
するマーケティング・リサーチが必要になりますし、資金調達の方法論も研究
が必要です。設備それ自体に対する知識も深く必要でしょう。これらを研究し
尽くし、長期間にわたる計画を詰めなくてはなりません。
零細店舗の経営上、このようなことを考える必要は殆どありません。設備投
資に関る話は、店舗の建物や店舗内設備に限られます。あとは仕入リスクだけ
です。どんぶり勘定で利益の多寡を度外視すると、仕入れたものを店頭に並べ
て、仕入値以上で売れば、一応粗利は出ます。
利益実現への道程に横たわるもう一つ大きなリスクは回収リスクです。多く
の製造業や卸売業において、客先の会社の与信を徹底的に調査しなくては、不
渡り手形を掴まされてしまいます。手形を排しても売掛金回収リスクは殆どの
取引で付き纏います。
掛け売りをする店舗業態でなければ、基本的に零細店舗でこのような回収リ
スクを心配する必要はありません。商品を持ったお客やサービスを受け終わっ
たお客は、機械的にレジ前に現れ財布を開きます。サービス店舗や飲食店にお
いては、支払い能力のない人間にサービスを提供しないようにする努力は必要
かもしれませんが、それでも、製造業や卸売業の回収リスク管理に比肩するよ
うなものではありません。信用売りは文字通りクレジットカードで可能になっ
ていますが、カード会社にアウトソースしているので、自らに回収リスク管理
のノウハウが蓄積される訳ではありません。
ストア・コンセプトと言う経営方針の下、顧客ニーズ充足の各種の工夫や、
それ以外の各種の経営努力に向かう零細店舗も勿論あります。しかし、経営上
最大のリスクに対応することが迫られない結果、経営上の研鑽も努力も学習も
必須ではない業態に零細店舗はなりました。研鑽や学習が必須ではなく、敢え
て言えば選択性なのです。各種の業種・業態を横断的に扱う経営コンサルタン
トに聞くとほぼ確実に、店舗経営者(≒小売業経営者)の経営意識は、他のそ
れに比べ低いと言います。その理由はこのリスク対応が必須ではないことによ
ると言うのもよく指摘されることです。
零細店舗は、チェーンなどの形で複数店舗経営を目指すに至って、組織規模
が大きくなり、少なくとも投資リスク対策には目覚めます。しかし、回収リス
クは置き去りになったままです。回収リスクはお客の支払い能力の見極めによ
ってのみ回避できるのでした。回収リスクに追い詰められることのない店舗経
営は規模が大きくなっても、いつまでも、自店のお客を見極めることが必須に
なりません。これが店舗経営者にお客を観察する習慣が芽生えず、結果的にお
客のニーズにも鈍感になっていく最大の背景要因と見ることもできるのです。
=================================
8 あとがき ?私の当り前?
ソリアズの11周年に当たって、ソリアズに何度となく描かれてきた零細店舗
経営について考えてみました。大手書店に存在する「店舗経営」と言うビジネ
ス書のカテゴリーを見て感じた違和感に端を発し、その底流にあるチェーンス
トア経営とも、世の中の大手企業向けの一般的経営論でもない零細店舗経営を
探してみました。それは、私の知る零細企業のオーナー経営者が血を吐くよう
に語る、当り前に徹する零細企業経営論をそのままパパママ・ストアに適用す
る試みです。
零細店舗店主の言葉に頻出する経営課題は、客単価の低下などではなく、価
格競争による粗利低下でもなく、もっと破壊的な「客離れ」です。店主は一消
費者でもあります。自分が行きたくない店がどのような店であるかを雄弁に語
ることができます。しかし、多くの店主は、それらの疎ましい店と自店に如何
に多くの共通点があるかには考え至りません。
ロイヤルティを辞書で引くと「忠誠」とでます。自分に金をくれる有難いお
客に忠誠を求め、いざお客が離れ始めると、お客のニーズなどそっちのけで、
同業他店を見に走る。他店にも閑古鳥が鳴いていると、胸を撫で下ろし、他店
が繁盛していると、妬むか、外見上の方法論だけ猿真似しようとする。そうい
う店主に何度も会いました。
最近、依頼の多い幹部向けの研修企画のネタに盛り込む幹部の四つの資質。
「自責」、「機動性」、「危機感」、「仮説と検証」。普通の零細会社の幹部
でさえ求められる当り前の四つの資質のうち、一つでも揃えている零細小売店
店主にはなかなか会いません。
独立して10年が経ちました。独立前から発行している当コラムは11年目に到
達しました。商店街から姿を消した多くの店に共通する何かが自分にも芽生え
ていないよう、当コラムの原稿を書く毎に、クライアントへのメールを作成す
る毎に、そして、意味深い歌詞を含む曲を耳にする毎に、自分は大丈夫かとハ
ラハラするのです。
=================================
☆長文にお付き合い戴き、ありがとうございます。今後とも、当メールマガジ
ンのご愛読を賜れますようお願い申し上げます。
=================================
発行:
「企業から人へのコミュニケーションを考える」
合資会社MSIグループ 代表 市川正人
11周年記念特別号原稿作成協力:
会社の現場監督 合同会社 代表 市場真理子
下のアドレスにご意見・ご感想を頂ければ幸いです。
bizcom@msi-group.org
このメールマガジンは、
インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して
発行しています。
(http://www.mag2.com/ )
通常号は毎月10日・25日発行
盆暮れ年始、一切休まず とうとうまる11年。
マガジンID:0000019921 (ナント、たった5ケタ)
★弊社代表のコラムが色々満載。
ソリアズのバックナンバーも各号の全文が読める新設ブログ。
http://tales.msi-group.org/
★検索機能が便利。機能性を活かしたバックナンバー・サーフィンならこちら。
http://cyblog.jp/saf-list.php
★講読の登録・解除はこちらのURLでお願いします。
http://www.msi-group.org/SAF-index.html
=================================