600 安全マージン =励起粒子= 600話発行記念特別号 第一弾

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経営コラム SOLID AS FAITH 第600話発行記念特別号 第一弾
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目次 
1 ご挨拶
2 第600話 『安全マージン』  =励起粒子(01)=
3 非雇用化の概要
4 非雇用化導入時の留意点(01) 対象業務形態の抽出
5 非雇用化のメリット(01) 離職リスクの低減
6 関連情報 個人事業主に関する当コラム記事紹介
7 MSIグループの仕入完了報告(抜粋)
8 次号予告
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☆注意:お読みになる際には、枚数がかさみ恐縮ながら、プリントアウト
の上お読みになることを、心よりお勧め申し上げます。
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1 ご挨拶

 御愛読御礼申し上げます。第600話発行記念特別号シリーズ『励起粒子』
全5話のお届けを始めます。このシリーズのテーマは「非雇用化」です。

 毎年恒例で年初にお世話になった方々にお送りしている寒中見舞いの
2020年度もので、「雇用は“ムリゲー化”しつつある!」という話を致しま
した。
 
 最低賃金はどんどん上がる一方で、同一労働同一賃金で賃金の基準が歪み
ました。対象者の職種や年齢、体力などに関わらず、残業時間には一律の上
限が決められ、働きたい社員さえ休ませなくてはならなくなりました。有給
休暇取得が義務化されて、休んですることの予定のない人間にさえ、会社か
ら声がけして休ませなくてはならなくなりました。身体面・精神面両方の健
康管理義務も会社にあるとされています。まるで社員は自分で自分を管理で
きない無能者のような扱いです。
 
 雇用でそうした「無能者」扱いの社員を抱えることの難しさはどんどん膨
らんでいて、社員という形以外の労働力の活用のメリットが相対的に増えて
います。第600話発行記念特別号は、中小零細企業が雇用以外の労働力活用
を図る方法を検討します。

 考えもなく「違法です」と決めつけられ易い非雇用化をよりよく理解いた
だくために、『励起粒子』のコラム本体に加え、非雇用化導入が必要になっ
た背景や導入時の留意点、非雇用化のメリットなどの解説記事も追加しまし
た。やや短めの周年記念特別号と言った感じの少々長文になっています。全
編通して600話発行記念特別シリーズをお楽しみいただけましたら幸いです。
本文に対するご意見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感想などへ
のお返事の目標納期は5営業日!!

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2 第600話 『安全マージン』  =励起粒子(01)=
 
「そう。この表の中身を全部できるようになってもらうの。上に書いてある
横軸が年数ね。長くても6年ぐらいで全部教えてできるようになってもらう。
入社時点で22歳。8年で30歳。30歳になると未経験の仕事には転職しづらく
なるから、28とかのタイミングで何かの機会に面談するから。そして、転機
はここ1年ぐらいだからと教える。辞めて欲しい訳じゃないけれど、身に付
いたスキルを会社の外で活かす選択肢には気づいた方がよいと思う」。
 私は合同説明会の会場でブースに残った学生に、噛んで喰わせるように説
いた。

 この会社では入社してから習得するスキルを表にまとめて、入社予定者に
説明することにしている。社会人の基礎マナーや事業に直接関わる業務スキ
ル以外に、PC操作は勿論、マーケティングや管理会計の基礎、5Sの基礎など
も仕込むことになっている。ウェブ系知識を含め、ICT活用の項目は毎年微
増する。それを教えるのに最大6年。その間に元を取り終えて、本人が希望
するなら退職の選択肢もあると教えることにしている。

「そうですね。一応『デキる』と考えられる人材は辞めるでしょうね。元々
労基的な発想に私は無理があると思います。労働系の法律は社員が無能で自
律ができない人という前提で作られているじゃないですか。放っておくと騙
されて働き過ぎるから、労働時間の上限も決められている。休んでも特にや
ることもないと思っている社員にも有給休暇を強制的に取らせる。健康管理
も会社が面倒を看てやらなければならない。手間暇がかかるのが当たり前に
なって、自律なんて考えることもない。自分の給与額と自分の価値をまとも
に考えたこともない。こんな社員の想定が就業規則のデフォルトなんじゃな
いですか。それじゃあ、勘違いにせよ『デキる』人材は辞めるのが当たり前
ですよ。過保護なんだから」。

 別の会社の社長が沈鬱な顔をしているので理由を聞くと、立て続けにまあ
まあ良い人材が3人辞めたという。沈鬱なのは、この3人の退職が非現実的に
映るから。ネットの取引でFIREを目指すと言いだす者、MLMで起業できそう
と言いだす者、暫く旅に出たいという者。多分3人は自らのキャリアの価値
を大きく毀損するだろう。
 
 労基法の檻の中には本当に「デキる」人材は殆ど育たない。ジョブ型雇用
で定義した本物のキレキレ社員が降臨することもない。小さな会社は手間暇
かけて人材をまあまあまともにするのが精一杯。そうした社員は拙い情報リ
テラシーで熱に浮かされて去って行く。

「やっぱり。労基法の檻の外の領域が必要ですよね。まずは役員。それでグ
ループ会社の社長。これなら今までの延長でしょう。フルタイムで働けない
なら、いっそ請負業者にするとか。そういう組織の外側の関係を作る必要が
ありますね」と件の社長に私は告げた。

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3 非雇用化の概要

 例えば、既存社員を昇格させて役員にすると、就業規則にもよりますが、
基本的にその既存社員は社員ではなくなります。自社やグループ会社の役員
にすることで、非雇用化が図れることになります。バブル崩壊後の大手企業
を中心に大リストラの嵐が起きていた頃、大手企業の一事業部を子会社化し
て派遣会社にしてしまい、その社員を本体である大手企業に派遣し直す形に
して、従前の業務に当たらせるというPEOなどと呼ばれた変わった手法もあ
りましたが、中小零細企業では一般的ではないでしょう。
 
 ただ、店舗などの場合は、既存のアルバイト・スタッフを派遣会社に登録
させて、派遣社員として従前の仕事をそのままやってもらうという荒業は、
小規模な店舗組織でも行われていますので、PEOの応用版とみることもでき
るでしょう。往年の大手企業の大リストラの際はかなり問答無用でしたが、
現在ではこうした非雇用化の手法を採るには当然ながら社員本人の納得と同
意が必要です。
 
 役員にするのでもなければ派遣社員にするのでもない、もう一つの手法が
あります。それは社員を業務委託の個人事業主にしてしまうことです。勿論、
これも社員本人の納得と同意が必要なのは論を待ちません。さらに、会社と
本人が納得していても、労基的に「雇用」と判断されると、遡って雇用形態
に戻す必要が出てしまいます。労基的な「雇用」と「業務委託(・業務請
負)」の境界は曖昧です。
 
 以下の9条件を総合的に検討して決めるとされています。
1) 業務遂行上の指揮命令を受けているか。
2) 報酬が(仕事の結果に対してではなく)
  労務に従事したことに対してか。
3) 業務(/仕事)の依頼に対して諾否自由がないか。
4) 業務に時間的・場所的な拘束があるか。
5) 労務提供の代替可能性は小さいか。
6) 業務用機材などの負担を企業がしているか。
7) 特定企業と専属的に労働しているか。
8) 就業規則などの服務規則が適用されているか。
9) 企業によって公的負担はなされているか。

「はい」が多いほど「雇用」寄りです。特に1番目の業務遂行上の指揮命令
の件は重要だとの考え方もあるようです。9条件を極力「いいえ」で揃える
形の働き方を実現する契約にすれば、その社員は「雇用」とは見做されなく
なるということです。それをきちんとせずに闇雲に「業務委託(・業務請
負)」に変更すると偽装請負の一種となって、違法状態になり、「雇用」に
戻されるリスクとブラック企業の汚名が待っています。

 第600話発行記念特別号が想定するのは合法の範囲の非雇用化です。「非
雇用化」と聞いて、短絡的に「それは違法です」と受け止めないように留意
ください。

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4 非雇用化導入時の留意点(01) 対象業務形態の抽出

 非雇用化導入時の留意点を全5回で5点に分けて紹介します。

 非雇用化の仕組みの導入に当たっては、9条件の「業務遂行上の指揮命令
を受けているか。」や「業務(/仕事)の依頼に対して諾否自由がない
か。」、「業務に時間的・場所的な拘束があるか。」などをクリアするため
に、自社の業務に詳しく、自分の裁量で仕事を進められるぐらいの知識・技
術を備えている人材だけを対象とする必要があります。誰でもどんどん非雇
用化できる訳ではなく、中小零細企業であれば、何かの肩書があるぐらいの
人材だけが対象になることでしょう。

 その人材の現状の業務を精査し、本人とも十分協議しながら、その人材が
業務委託の個人事業主になった場合、どのような業務をどのような形(業務
を行なう場所や時間長、時間枠など)にするかを決める必要があります。こ
うした業務は複数になるでしょうから、統合的に業務委託の契約に書き込む
業務内容を考えていくことになります。

 雇用ではなくなりますので、労働の時間長は本人の好きに決められます。
元々店長などの管理者的な立場にあったのであれば、違和感もあまりないこ
とでしょう。上限時間数も気にせず働くことができます。また、場所も自宅
で仕事をしても、出社しても、リモートで自社の社員に指示したりしても、
契約上決めた業務が完遂されれば問題ないので、本人も働きやすくなること
でしょう。

 例えば、店のリーダー格の場合、シフト作成は自宅で行ない、現場での指
導は店舗に出社し、打ち合わせにはリモートで参加する…と言ったような働
き方を具体的に本人がイメージできるようにすべきです。そうした自由な働
き方のメリットも本人に理解させつつ、対象業務とその実行の形のイメージ
を固めると良いでしょう。

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5 非雇用化のメリット(01) 離職リスクの低減

 非雇用化のメリットを全5回で5点に分けて紹介します。

 一つ目は「離職リスクの低減」です。非雇用化による「個人事業主化」は
自由な働き方が保障された形で働くことを意味します。本人にとってのその
ようなメリットがあるが故に、自社に対するロイヤルティが上がり、離職が
避けられるというようなこともあるかもしれませんが、ここでは会社側のメ
リットに着目します。

 雇用契約の場合でも、一応、働き方などを会社と協議して調整することな
どが可能ですが、それは例えば、育児や介護の必要な社員が残業を免れるよ
うにするといったケースぐらいです。正社員を辞めてパートとして働くとい
う変則的な方法もありますが、就業規則の範囲という制約があります。また、
そうした扱いはすべての社員に認められたものでなくてはならないのも大き
な制約です。

 会社がそのような調整をするのは、それなりに優秀な社員で引き止めたい
からということだと考えられますが、雇用の場合、ダメなら一般的に退職に
至ります。

 それに対して個人事業主化した人物なら、出社時間を圧縮したり、業務内
容を変えたり、他の会社から受託した業務も行なう傍らに自社の業務を行な
うなど、自由自在です。つまり、自社との関係性に飽きたり、何か他のこと
に挑戦してみたくなったりしても、現行の自社との関係性を細く維持しなが
ら、新しいことに取り組めるのです。

 雇用されている社員でも副業は原則的に自由ということになっていますが、
副業の方もアルバイトなどで雇用されていると、通算した残業時間の管理責
任などが生じ、非常に面倒なことになります。(他にも極端な例ですが、副
業中に労災に遭った場合を考えれば事の複雑さが分かります。)

 優秀な社員がいきなり退職でいなくなるというリスクを非雇用化は防ぐこ
とができるのです。

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6 関連情報 個人事業主に関する当コラム記事紹介

 非雇用化を図ると優秀な社員が個人事業主に変わって自社にサービスを提
供することになります。それは端的に言うと元々自社の優秀な社員がIC
(Independent Contractor)に形を変えて自社に対して労働することになり
ます。そう言うと、「いくら優秀でも、いきなり無理矢理独立させて上手く
行く訳がない」と仰る経営者の方々もいらっしゃいますし、本人からもその
ような不安を言われることがあります。

 いきなり独立させて勝手に仕事を探させるようなことがここで言う非雇用
化ではありません。「雇用」と「業務委託(・業務請負)」に形態の違いに
よって、業務の形はやや変わることでしょうが、基本的に元々手掛けていた
業務分野をそのままやってもらうことにし、収入なども保障すれば良いだけ
のことです。計量器で有名なタニタ社の事例などを参照すればわかりやすい
でしょう

 ICの事業の維持が困難になりやすい様子を描いたソリアズの号はいくつか
存在します。決してこのような個人事業主になることを指して「非雇用化」
を行なう訳ではありませんが、反面教師として役立ちそうなコラムを紹介い
たします。

■第134話『ラスト・リゾート』
 http://tales.msi-group.org/?p=186
■第279話『PU(永遠の失業者)』
 http://tales.msi-group.org/?p=453
■第383話『小商いの姿』
 http://tales.msi-group.org/?p=797
■第413話『未知の全力』
 http://tales.msi-group.org/?p=949

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7 MSIグループの仕入完了報告(抜粋)

■『引き裂かれるアメリカ 銃、中絶、選挙、政教分離、最高裁の暴走』
 町山智浩 他著
 https://amzn.to/42lNsKk
■『正義はどこへ行くのか 映画・アニメで読み解く「ヒーロー」』
 河野真太郎 著
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■『票読みのヴィクトリア 1 』
 鈴木コイチ 原作 / オキモトシュウ 漫画
 https://amzn.to/40eLWqo

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8 次号予告

 第601話 『デアデビル』 励起粒子(2) (2月10日発行) 
 シリーズの第2回は雇用裁定の条件について考えてみます。

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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 MSIグループ 市川正人
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(完)