580 官製せどらー =荒ぶる神々=

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経営コラム SOLID AS FAITH 第580号
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 ご愛読ありがとうございます。第580話をお届けします。

 零細店舗や零細工場の入口脇に求人のポスターが貼られているのを見かける
ことがあります。それらのうち少なくない割合で提示されている賃金が都道府
県ごとの最低賃金未満の違法状態だったりします。じわじわと引き上げられる
最低賃金を意識せずに人手不足に喘いでいるのでしょう。違法状態は勿論解消
せねばなりませんが、最低賃金を辛うじて上回ったところで、大きく求人応募
が伸びる訳でもありません。

 ポスターや貼紙で応募者が来るなら採用のコスパは非常に良いですが、本質
的な採用コストは人材の選考や受容れ、さらにその後の育成や定着のプロセス
で膨大に発生しています。ですので、採用を考える前に、「なぜ今まで人が辞
めたのか」、「どの仕事が人手を必要としているのか」、「そもそも現在の業
務はこのまま続けて良いものか」などの幾つかの検証を行わないと、採用から
育成・定着の高いコストをどんどん無駄にし続ける結果になってしまいます。
 
 ネットの記事を見ていると、執拗に日本企業の生産性が悪く、特に中小零細
企業が足を引っ張っているとの主張が繰り返されているように見えます。それ
が必ずしも本当ではないことは、第541話『三分の理』で扱った通りです。ま
た低いのを肯定するのだとしても、その低さには理由があり、それが諸外国に
比べて日本の社会・経済の望ましい部分を支えているということも見過ごされ
がちです。ただ確実なのは、生産性を引き上げて行かねば上昇を続ける人件費、
もしくは、人を雇うことにまつわる総コストを負担し続けていくことが困難で
あることです。人の雇用に当たって諸々の検討をすべきであるのは間違いない
でしょう。
 
 2回シリーズの『荒ぶる神々』の2回目は、政府の中小企業対策の中の一つの
目玉として位置づけられている中小企業向けのエクイティ・ファイナンスの推
進です。前回の『ネオテニー以前』では中小零細企業の規模の拡大を徒に進め
ようとする施策に疑問を呈しましたが、今回もエクイティ・ファイナンスを進
めるメリットなどを検証してみたいと思っています。ご意見・ご感想をお待ち
しております。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!

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 ■ 第541話『三分の理』 http://tales.msi-group.org/?p=2506
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その580:官製せどらー シリーズ『荒ぶる神々』(2)

 また年に一回の中小企業診断士登録更新研修に参加することになった。2023
年8月の或る土曜日。経産省の偉い方は「中小エクイティ・ファイナンスに係
るガバナンス検討会」の検討結果を説明していた。エクイティ・ファイナンス
が中小企業を資金・経営・事業面から支援し、その成長を支える機能を有する
点に、この会は着目したのだという。
 
 今このテーマが採り上げられる根拠の説明が何やら心許ない。通称武漢ウイ
ルス禍やデジタル化、グリーン化など中小企業を取り巻く経営環境の厳しい変
化の中で、事業承継は難航し、中小企業が既存事業の延長線上にない比較的リ
スクの高い事業活動(挑戦)に取り組むことになっているらしく、それがエク
イティ・ファイナンスを要請するらしい。
 
 この研修の別のパートでは中小零細企業群が民間金融機関からの受けたゼロ
ゼロ融資の返済に四苦八苦している様子が報告されている。それでも、中小企
業が挑戦的な取組みをするにあたって借入だけでは資金調達として不十分な場
合があるという。融資の資金は返済困難なので、今度は返済の必要がないエク
イティ・ファイナンスがお薦めということか。
 
 説明はさらに進み、エクイティ・ファイナンスでは、一般に、出資者からの
経営・事業に関する様々なサポートが受けられ、ガバナンス構築や強化が可能
になるともいう。借りた資金さえ返済に苦労するような中小企業に、既存事業
とは全く異なる未知の新規事業を高リスク無視でやらせて、そこに返済は要ら
ぬと資金を投じて、経営や事業に色々と容喙するような物好きは一体誰なのか。
この説明の中にはその言及がなかった。
 
 一般に船頭が多ければ船は山に登る。2018年の『週刊ダイヤモンド』の特集
『オーナー社長 最強列伝』では、オーナー経営者は長期的視野で事業を行な
い機を見て大きなリスクさえ引き受ける判断を下す攻めの経営ができるので、
ROAが一貫して非オーナー企業を上回るとデータ付きで説明されている。私が
知るファンドが買収した中小零細企業は、ほぼすべて転売をされるうちに雲散
霧消した。リスクに強いのはオーナー経営の方だろう。
 
 私の知人から面白い話を聞いた。或る中小零細企業のオーナー社長がキャバ
クラに行って、何かの士業の資格を取得したばかりというキャバ嬢と意気投合
した。日々の経営の苦労を分かってくれて、機転が利き、あっという間に大人
アリのパパ活に移行した。そんな或る日、彼女が会って欲しい人がいると食事
会をセッティングしたのはM&Aコンサルタントで、日本の中小零細企業を中
国人投資家に売り払うのが生業だったらしい。
 
 中小企業向けエクイティ・ファイナンスの官製笛で踊る人影が漸く微かに見
えた。

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『徳川家康合戦録 戦下手か戦巧者か』 渡邊大門 編著
■『孤独とセックス』 坂爪真吾 著
■『経済指標読み方がわかる事典 …』 森永康平 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 MSIグループ 市川正人
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次号予告:
 第581話 『トマトの追随』 (4月10日発行)
 60歳以上の人口構成比は上がり、大手企業在籍者が退職後に零細企業に職を
求める場面も増えています。そのような状況で起きやすいミスコミュニケーシ
ョンの一つのパターンについて掘り下げてみます。

(完)