501 遅参者の発見 500話発行記念特別号 =回路明察= ft/特別原稿 『ヨロズヤの考える「オーナー経営者」』 =日日是考日~師匠が教えてくれた4つのこと~=

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経営コラム SOLID AS FAITH 500話発行記念特別号 第二弾
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目次 
1 ご挨拶
2 501話 『遅参者の発見』 =回路明察(2)=
3 特別原稿 『日日是考日~師匠が教えてくれた4つのこと~』
  第二話 『ヨロズヤの考える「オーナー経営者」』
4 『萬屋日和』 「会社の萬屋 企画改善請負本舗」からのPR
5 MSIグループの仕入完了報告
6 あとがき
7 次号予告
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☆注意:お読みになる際には、枚数がかさみ恐縮ながら、プリントアウトの上
お読みになることを、心よりお勧め申し上げます。
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1 ご挨拶

 御愛読御礼申し上げます。501話です。

 先月末日には無事『経営コラム SOLID AS FAITH 21周年記念特別号 後
篇』を発行することができました。大手企業の人間疎外の本質を科学上の新
発見から説明し、その大手企業を主たる「社会」と想定して議論される「女
性の社会進出」や「女性のキャリア形成」の諸論の欺瞞について考えてみま
した。

 弊社ブログの『MSI-TALES』はコメント機能を抑制してありますので、見ず
知らずの方に直接感想を書き込んでいただく場面は起こり得ません。インタ
ーネット上のどこかにこの内容のスレが立って大炎上を起こしていたとして
も、弊社がそれを知ることはほぼないものと思います。お会いしたクライア
ント企業経営者の方々は、ジェンダー系の差別主義者と思われるのを恐れて
いるのかもしれませんが、ダンバー数について感想をお聞かせ下さることが
多かったように思います。折しも不妊治療への保険適用がニュースになって
います。アンチミューラリアンホルモン検査で分かる「卵子の在庫」などが
どのように議論されるのかは注目に値します。

 前号に続くシリーズ『回路明察』の第二話目は「インサイト営業」と言わ
れる用語の無意味さについて考えてみたものです。端的に言ってインサイト
は無意識の演算回路であり、その演算結果そのものですから、人類が無意識
を最初から持ち合わせていた以上、優れた営業行為は多くの場合、無意識に
働きかけるものであったはずです。既に人が古代から住んでいる「新大陸」
を発見したとコロンブスが喜んだように、遥か以前から存在している営業行
為の一部のパターンに対して「インサイト営業」を発見したとするのは、愉
快な行為ではあります。
 
 ただ、勿論インサイトに働きかける営業行為や販売行為の「型」の有用性
は軽んじられるべきものではありません。前号の『続・無知の商品化』から
四話全体をお読みいただいて、インサイト・マーケティングの本質を見極め
ていただければ幸いです。
 
 また、4回シリーズの特別原稿は「会社の萬屋 企画改善請負本舗」の奥
田美幸による、4話シリーズ『日日是考日~師匠が教えてくれた4つのこと~』
です。第2回の今回は独立以来奥田が相対してきたオーナー経営者について考
えてみた内容となっています。オーナー経営者は当コラムでも、敢えて言う
なら、主人公ともいうべき描写の対象です。それを通常号のようにエピソー
ドにより描くのではなく、奥田の認識に沿った分析が書かれています。普段
と一味違うソリアズ記念特別号をお楽しみください。

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その501:遅参者の発見 シリーズ『回路明察』(2)

 後に「ペルソナ・マーケティング」と呼ばれるようになった、事業のター
ゲット顧客を精緻に決め込む手法。2000年頃に小谷喜八郎先生から「アパレ
ルでは、モデルを決め込むから『モデリング』と呼んでる」と教えられたの
で私は今でもそう呼んでいる。米国の大学で学んだマーケティング論でもタ
ーゲット顧客の設定は重視される。しかしこれほどの緻密さを要求されるこ
とはなかった。勤務先で当時担当していた新規事業開発に応用してみたら、
チラシのレスポンスも営業のクロージングも一気に改善した。その“発見”
を広告代理店のプランナーに話したら、「だって。それ皆がやる王道だから」
と呆れられた。
 
 顧客どころか人間全体は、どんどん複雑さを増している。西洋では本来全
能の神が作ったものなのに、あって当然の合理性も理性もかなり怪しいと判
明してきた。マズローの欲求もフロイトの無意識も研究が進んだ遺伝される
形質も、全部混じり込んで人間の無意識はぐちゃぐちゃになった。複雑なも
のに向き合う時、科学的アプローチはシンプルなモデルに取り敢えず置換す
ることにしている。だから、マーケティングでも、よく分からない顧客のモ
デルを作ることは必然なのだと後で私も理解した。
 
「市川さんも知っての通り、今この瞬間に遊技しているお客様の数はすぐ分
かるんですよ。けれども、台を移動する人やすぐ帰る人もたくさんいる訳で
すから、来店者数なんて入口に顔認証システムでもつけなくては把握できな
いんですよ。登録会員の男女構成比ならすぐ分かりますけど、実際の来店者
の中の男女比は全く分からないんですよ」。
 或る日パチンコ店店長と女性客の取り込みについて議論していて、店長が
来店客の性別構成比もよく分かっていないことに気がついた。私の詰問に店
長は弁解を始めた。接客業と本人達は自称し、店内で現実にお客に接してい
ても、パチンコ店関係者が重視しているのは台を操作するお客の手だけで、
体全体の年齢も性別も殆ど認識していないようだった。
 
「インサイト営業」と言う営業手法が話題になっている。以前の流行は「ソ
リューション営業」で、すでに顧客が認識している課題に対して解決策を提
案する。それに対して「インサイト営業」は、まだ顧客が気づいていない課
題やニーズをこちらが見抜いて提案する点で高度だとされている。「インサ
イト」は「人を動かす隠れた心理」のことらしい。

 隠れた心理ならマズローやらフロイトの時代から分かっている。お客様満
足が“良い驚き”を与えることである以上、驚き一つない既に認識されてい
ることばかり提案する「ソリューション営業」は全く選ばれないことになる
が、過去にそんな営業しかなかった訳はない。デキる営業担当者は「ソリュ
ーション営業」の時代でも未知の課題を普通に扱っていただろう。デキない
営業担当者の目覚めが「インサイト営業」なら、甚だ初々しい。

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3 特別原稿 『日日是考日~師匠が教えてくれた4つのこと~』
  第二話 『ヨロズヤの考える「オーナー経営者」』

ソリアズ読者のみなさま。こんにちは。会社の萬屋 企画改善請負本舗の奥田
美幸です。500話発行記念特別号のシリーズとして、前号から4話連続で原
稿を書く機会をいただきました。

題して、『日日是考日~師匠が教えてくれた 4 つのこと~』。独立をしてか
らまもなく半年が経とうとしており、師匠・市川から教わったことは4つに収
まるはずがありませんが、ヨロズヤとして事業を行なう際の「核」となる教
えを厳選しご紹介してまいります。2話目となる今号は、小さな会社のオー
ナー経営者の考え方についてまとめてみました。ぜひご高覧ください。

独立してから中小零細企業のオーナー経営者の方と接する機会が増え、その
中で伺ったことを元に、オーナー経営者の考え方やオーナー経営者の強み、
良いオーナー経営者の共通点をまとめたレポートを書かせていただく機会が
ありました。そのレポートでも言及していますが、理想的なオーナー経営者
の共通点は「長期的な視点で決断すること」「自律的な組織を作り上げるこ
と」「後継者を選び、自分の役割を委ねること」などであり、それらが理想
的な組織づくりにとっても重要な役割であることを師匠から教わりました。

世の中では「働き方改革」の実施やコロナ禍によるリモートワークの増加な
どの流れにより、以前にも増して起業することが推奨されており、助成金制
度の充実も図られているように感じます。そのような流れの中で、従業員を
雇わないまでも上述のようなオーナー経営者の役割を無視した”気軽な起業”
をする人が増えていると感じ、少々危機感を抱いてしまいます。

師匠は、オーナー経営者を大きく三つのタイプに分類できると教えてくれま
した。第一層は、自分の商売を「経営」という形で認識しきちんと考えてい
る人で、前述のレポートで「理想的なオーナー経営者」として言及していま
す。第二層は専門知識や技術を十分持っていて稼ぐことはできていますが、
「経営」という観点で自身の商売についてあまり考えたことのない人。そし
て、第三層は自分の好きなことやできることでなんとなく起業し、一所懸命
にやっていると思い込んでいる人。まさに前述した”気軽に起業した人”が
ここに当てはまると考えられます。各層の差異は「(個人としての)ビジネ
ス遂行能力」と「経営観」の有無によるものとして捉えることができます。
これら二つを持ち合わせていないと、オーナー経営者としての覚悟が十分で
あるとは言えず、組織の存続も非常に困難となる可能性が高いと考えられま
す。

ヨロズヤは、大手とは異なる切り口で生き残る戦略が必要な”小さな会社”
に特化した経営の企画請負業として、人や売上、生産性などの観点から会社
を良くするための仕組みづくりをお手伝いします。クライアント様のビジネ
ス・モデルを的確に理解し、売上向上のために接客プロセス改善の社員勉強
会を実施したり、社員採用の質的向上の企画を行なったりするなど、独立し
てから既に多数のお仕事のご依頼をいただきました。振り返ってみると、そ
のいずれの企画もやはりオーナー経営者の方がご自身の商売を「経営」とい
う観点で考える必要性を感じて下さったからこそ、実現したのだと感じてい
ます。一度実現し成功体験を味わったクライアント様は総じて、組織全体が
良い方向に向かっていきます。

そのようなヨロズヤの事業をフル活用していただけるであろう、第二層のオ
ーナー経営者の方に戦略性のある経営の視点をお持ちいただけるような働き
かけができれば、これほど嬉しいことはないと考えています。小さな会社の
オーナー経営者の方が抱くであろう「何かしら現状を変えなければならない
と思っているが何から手を付けて良いかわからない」というお悩みに対して、
ヨロズヤなりの処方箋を打ち出すことで、より良い組織づくりのお手伝いが
できればと思っています。

師匠から教わった「オーナー経営者」の考え方を知った当初は理解に苦しみ
ましたが、小さい会社であるほどオーナー経営者の考えがそのまま会社の経
営方針であり、今ではクライアント様を理解する上で欠かせない当たり前の
ものとして受け止められるようになりました。

シリーズ2話目となる今号も最後までお付き合いいただき、誠にありがとうご
ざいます。次回はマーケティングの考え方を軸とした「師匠が教えてくれた
こと」についてお話ししていきます。

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4 『萬屋日和』 「会社の萬屋 企画改善請負本舗」からのPR

「会社の萬屋 企画改善請負本舗」の奥田美幸です。
姉弟子がオーナーを務める株式会社DBジャパンで
立上げ支援をしていた図書館司書向けの
オンライン教育サービスがまもなく販売開始です。

●株式会社DBジャパンのウェブサイト
 https://www.db-japan.co.jp/

社長の三膳様からも大変嬉しい言葉をいただきました。
詳細は以下からご覧ください。
https://kaisha-yorozuya.support/testimonial/miyoshi/

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5 MSIグループの仕入完了報告

 前号に続き、500話発行記念特別号の4号では、感想付きで比較的最近読ん
だ書籍3冊を紹介します。

■『残酷な進化論』 更科功 著
 真面目に人類の進化について論評してみる内容の書籍です。内容は真面目
なのですが、なぜか「人類は『人類が進化の頂点にいる』と思い込んでいる」
という著者の前提があり、それを繰り返し否定しようと試みているのが不思
議な書籍です。人類を指して「万物の霊長」などという表現もありますが、
そんな風に思っているのは聖書で神から世界を統べるように言われたと思っ
ているような人々だけではないかと思います。

■『続 定年バカ』 勢古浩爾 著
 偶然手に取った『ぶざまな人生』以来、かなり好きになった著者です。会
社員人生を引退して以降、ヒマになった老人の心境を描く書籍が増えました。
『ぶざまな人生』もそうですが、非常に共感できる人生観・社会観が描かれ
ています。この作品の後、『それでも読書はやめられない …』も読みまし
た。今度は自分の読書歴の回顧した内容でした。テーマが何でも筆致が軽快
で楽しく読めます。

■『「欲しい」の本質: 人を動かす隠れた心理「インサイト」の見つけ方』
 大松孝弘・波田浩之 共著
 今回のシリーズ『回路明察』でも主題となっている「インサイト」につい
ての書籍です。宣伝会議が出しているだけあって、マーケティングの見地か
らインサイトについて構造的説明が為されています。ご説ご尤もです。ただ、
無意識の研究は急激に進んでいて、それらの研究結果との連関は殆ど述べら
れていません。多くの池谷裕二の書籍群の方が深い洞察があり、マーケティ
ング分野以外にも適用できる汎用性の高い内容に思われます。

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6 あとがき

 先日映画『ホテルローヤル』を観てきました。色々な見方があるものと思
いますが、北海道の地方都市にあるラブホテルの創業から廃業に至るまでの
事業の瓦解の記録と観ることも一応できる物語です。最後には、オーナーの
アラサー女性は淡々と廃業して車に乗って街を去って行きます。結果的に今
世間でどんどん増える傾向にある茹でガエル的な経営劣化の末の廃業のよう
に思えます。

 奥田による特別原稿『日日是考日~師匠が教えてくれた4つのこと~』の今
回のテーマはオーナー経営者像でした。「師匠から教わった「オーナー経営
者」の考え方を知った当初は理解に苦しみました」とあります。オーナーと
して事業を進める立場が、そうではない場合に比べて、如何に大きな責任を
伴い、如何に長い時間の流れの思考を必要とするかが、会社員思考そのまま
の頃の奥田には理解困難だったということなのだと思います。

 零細企業の経営は凡事徹底でほぼ全部片付きます。当たり前のことを確実
に行なうだけで当たり前に進みます。何も不思議なことも難しいこともあり
ません。自分がお客として店に行って欲しいものがなかったら何も買わない
のは当たり前です。ですから、自分が売る側なら、自分が売りたいものでは
なく、お客が買いたいものを用意する方が圧倒的に売れるのは当たり前です。
全く難しくありません。しかし、多くのオーナー経営者は我田引水な商品や
サービスを売ろうとして疲弊していきます。

 人が足りなくなれば雇わねばなりませんし、優れた人が雇えないなら、雇
ってから育成を自前でしなければなりません。これもどう考えても自明です。
それでも、人手不足でブラック労働を強いたり、杜撰な採用をして入社者に
まともな教育も行なわなかったりするオーナー経営者も結構います。

 起業はあちこちで持て囃されていますが、時代が複雑化する中、オーナー
経営者が突き詰めるべき単純至極な経営の原理は、寧ろ蔑ろにされ易くなっ
ているように感じられてなりません。

 それが個人一人の零細事業でも、始めるには諸々の資源投入が必要です。
簡単に言うと、カネとテマとヒマとチエが必要になるということです。止め
るのにはさらに資源投入が必要です。今流行りの「好き」を仕事に独立する
人は多く、先述の凡事徹底をせずに、只管好きなことだけ頑張って破綻しま
す。

 こんなことに人生の貴重な時間を費やすぐらいなら、巷間で言われる「好
きなことを追求する仕事」ではなく、猫も杓子も騒ぐ「持続可能な事業の形
の追求」を初めから狙うべきでしょう。そんなことに気づいた奥田の挙げた
理想の経営者のいくつかの条件は、かなり新鮮に感じられました。
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■劇場鑑賞映画作品感想ブログ『脱兎見! 東京キネマ』
『ホテルローヤル』 http://tales.msi-group.org/?p=2032
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
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毎月10日・25日発行 盆暮れ年始、一切休まずまる21年。
そしてとうとう500話到達!
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 『脱兎見!東京キネマ』もこちらで御覧下さい。
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7 次号予告
 シリーズ『回路明察』の第三弾は、『心象風景』と題して、「インサイト」
を前提とした遥か以前から存在するマーケティング手法について考えてみま
す。ご期待下さい。

(完)