400 生業感覚 400話発行記念特別号 =相違と多様= ft/特別原稿 『ワーキングプア・ママという選択肢』 =アラウンド・ソリアズ おんなの生きる道=

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経営コラム SOLID AS FAITH 第400話発行記念特別号 第一弾
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目次 
1 ご挨拶
2 400話 『生業感覚』 =相違と多様 (1)=
3 特別原稿 『ワーキングプア・ママという選択肢』
  =アラウンド・ソリアズ おんなの生きる道 (1)=
4 MSIグループの仕入完了報告
5 あとがき
6 次号予告
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☆注意:お読みになる際には、枚数がかさみ恐縮ながら、プリントアウトの上
お読みになることを、心よりお勧め申し上げます。
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1 ご挨拶

 御愛読御礼申し上げます。400話にとうとう到達しました。

 1年に24話ですから、4年で約100話。そして約16年で400話。計算の通りなの
ですが、意外に苦にならずここまで来られました。どちらかと言えば大枠の中
小零細企業の経営論から具体的事例へと軸足を移し、さらに、ネットの時代、
新たに読んだ書籍からの学びは出典にこだわり…と。そんなこんなの創刊当初
からの少々のテイスト変更で400話がそれほどの苦労なく書き上げられました。

 不思議なもので、一度もネタに困ることや原稿書きに追われることなくここ
まで来ることができました。今となっては、ソリアズ書きは日常の一部です。
ただし、この感慨には小さな例外があります。それは記念特別号です。何度出
しても、年に一度以下の非常に低い頻度で書きまとめることになる記念特別号
は、企画の捻出に苦慮します。
 
 今回の400話発行記念特別号の企画を検討し始めたのは今からまる一年前。
その頃シリーズで連載していた『これからの生活』をもっと掘り下げてみたい
と考えたことから始まりました。『これからの生活』は所謂「女性ネタ」です
ので、単純に私の持論を振り回すのではなく、ソリアズが描写する中小零細企
業経営における女性の立場を女性の手で描いてもらおうと考えました。
 
 そこで、お願いしたのが、プロのライターの石原さとこさんです。実は、石
原さんは、第288話『龍火の毎日』に登場した私の知人の紹介で知り合いまし
た。企画を打ち合わせること数回。企画を練ること数ヶ月。もともと、この企
画は、『龍火の毎日』に登場する私と石原さんの共通の知人「M嬢」のその後
を描くことが第一の企画として決定し、それ以外の二本の企画をどうするかが
なかなか決まりませんでした。
 
 紆余曲折を経て、石原さんの目線でソリアズにまつわる女性の色々な話を描
くと言う、各話を一つのコンセプトに無理矢理括ろうとしがちな私には考え付
かない、ゆるやかなまとまりのシリーズ『アラウンド・ソリアズ おんなの生
きる道』が完成しました。
 
 3話の特別原稿とセットにするべく、私の方でも、私なりのシリーズ『これ
からの生活』の深掘り版のシリーズである『相違と多様』を完成させ、2つの3
話シリーズから1話ずつセットで届ける形の目処が立ったのは、発行2ヶ月前
のことでした。特に『アラウンド・ソリアズ おんなの生きる道』については、
極力石原さんの考えを尊重して、ソリアズにかつてなかった文章表現や切り口
を活かすように心掛けました。
 
 第一弾は、『相違と多様』からは『生業感覚』と題して女性取締役の少ない
理由探しを、そして、『アラウンド・ソリアズ…』からは『ワーキングプア・
ママという選択肢』と題した「M嬢」の物語をお届けします。普段と一味違う
ソリアズ記念特別号をお楽しみください。

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第288話『龍火の毎日』 http://tales.msi-group.org/?p=476
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2 その400:生業感覚 =相違と多様 (1)=

「ああ。辛いっすよ。今ウチの社員で行かせられる人間がいないので、週7で
クライアントのセンターに詰めているんで、人生辛いっす。社長って名乗るの
一回やってみたくて会社作ったけど、全然楽にならないですよね。男でも女で
も、バリバリ寝ないで働くなんて奴いないでしょ。仕事ってそう言うもんだと
思ってしないとダメなのになぁ」。
 クライアントのプログラミング現場の監督をする会社の女性社長が、嘆息し
ながら私に告げる。個人事業で仕事をしていた頃は、稼げば全部自分の収入。
会社を作ってみたら、貯金も底を衝き、資金繰りに奔走することになった。漸
く獲得したのは、自分が週7日間現場に詰める仕事。

 私が「会社を作った動機が不純だからですよ」と言うと、「社長になったら
普通稼げると思うじゃん」とJKのような反論。「会社は仕組みで稼ぐのが本来
の姿で、当てにならない奴でも当てにするし、当てにできるように育成するの
が組織だから」と言えば、「だって、残業代要らないですって感じで働く奴な
んか全然見つからないよ」と愚痴を言う。「結局、ピンで稼げば優れた職人で
も、社長業には向いてなかったってことですよ」と見捨てると、「だから、ど
うすればいいのか助言してよ」と言い募る。会うたびに繰り返される会話。

 翌日、20年来の知り合いの女性弁護士に会うと、近頃よく話題になっている
らしい女性役員の数の話題になった。「全然、役員なんていないじゃん。おか
しいよね。女性の役員登用しないんだよ。差別。男性社会のヒエラルキーを、
端っから登らせないから、こういう結果になる。そう思わない?」と彼女は息
巻く。

 私が周りの中小零細企業を見渡すと、女性の社長はそれなりにいる。中堅企
業クラスでは後継社長が多いが、社長なのかフリーランスなのか微妙なマイク
ロ・ビジネスを仕切っている女性なら、男性より多いのではないかと思えるぐ
らいだ。

「自分なりのビジネスを持っている社長とか代表社員のような女性なら山ほど
いるよね」。と私は口を開いた、自分の周囲の女性経営者を思い出しながら続
けた。

「わざとらしい理念とかミッションとかで釣られない所を見るとさ、女性って
さ、オトコより圧倒的に現実的でしょ。信用できる人間を選び抜く感じが強い
よね。できない人間育てる仕組み作って組織回すのを“雇われの身”でやるこ
とに意義感じるんだろうか。信頼できない有象無象の責任を取らされて、得る
ものも少ない割には、時間やら何やら犠牲になるものも大きいのが大手の役員
さんでしょ。なら、小さな商売でも自分で納得行くようなことを始めちゃうっ
て女性が多いと想定した方が、仮説としては有効だと思うけどね」。

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3 特別原稿 『ワーキングプア・ママという選択肢』
 =アラウンド・ソリアズ おんなの生きる道 (1)=

 ある女性社長は、部下を全て男性にしていると聞いたことがある。何でも、
男性は一度強く上下関係を教えこめば、後は自然と、上司である彼女に従属し
続けることに何ら疑問を抱かないから、だそうだ。逆に、女性は相手が所謂
「上の立場」であろうと「嫌いなものは嫌い(だから従わない)」ということ
がままあるから使いにくい、というのが彼女の持論であったと思う。

 こと私自身、好き嫌いが激しいという自身の性質は、(特に「嫌い」にカテ
ゴリしてしまうと)仕事をする上ではあまりロクなことにならないのだが、好
きになった相手はそんな自分にとって、20年以上の社会人生活でたった3人しか
巡り合っていない。その「大切な相手」の一人がM嬢。第288話『龍火の毎日』
に登場する主役女性だ。

 編集ライターの仕事の取引先の女性で、陳腐な言い方だが彼女の醸し出すオ
ーラが好きだった。穏やかで、ユーモアがあり、それでいて根っこの部分から
女であることを隠そうとしない潔さが、今まで会ったどんな働く女にもなかっ
たからだ。仕事ぶりだけでなく恋愛にも情熱的な姿が、自分にない部分だった
からかもしれない。

 前置きが長くなってしまったのだけれど、彼女とは私が出版社を辞めてから
も細々と付き合いは続き、今に至る。何より市川さんを引き合わせてくれたの
も彼女なのだ。前述の記事は彼女が29歳の時のことだが、現在彼女は33歳に
なり、嫁ぎ遅れたままの私と、結婚し子供を産んだ彼女。環境はこの数年で目
まぐるしく変化したが、当時の記事を振り返ってもらった。

   ***   ***   ***   ***   ***

「ワーキングプア」、そんなことばかり考えていたような気がします。
 好きなことを追いかけて、それを職業にできているだけで感謝しなければな
らない、そう自分に言い聞かせていました。ただ、好きなことを仕事にすると、
好きなものも好きでなくなります。
 
 仕事を辞め、両親のいる地元に戻り子供を産み、助けを借りながら育児をす
る、そんなことができていたら良かったのかもしれません。でも、自分のやり
たいことを東京で追いかける、その現実は捨てきれませんでした。
 
このときから5年、状況の変化が大きくありました。結婚して子供ができたの
です。しかしながら、仕事は編集職を継続しています。そして、新たなる課題
が出来ました。「時短勤務ワーキングプア(私が勝手に名づけました)」です。

 時短勤務制度を利用はさせてもらっているものの、その時間に業務が終わら
ず帰宅後や休日も子供が寝たスキを見計らって仕事をすることです。当然時短
なので給料は3分の2、でもその報酬に見合った業務量ではありません。いや、
厳密にいうとその業務量なのかもしれません。しかし、編集の仕事は終わりが
あり、終わりがありません。どこまででもできてしまう底なし沼のようなもの
です。

 結局、育児と仕事と家事に追われ自分の時間を捻出するのはより困難になり
ました。子供というかけがえのない存在がいる今、「やりがい」や「キャリア」
は二の次になりました。果たして正社員として、この苦しい状況を続けていく
ことに何の意味があるのか―。働きながら子育てをしている女性が、このよう
な苦しみと戦っていることは珍しくないと思います。今後の課題は山積してい
ます。
 
   ***   ***   ***   ***   ***

 リスクヘッジとしての出産・育児について記されていた記事から5年。長い
目で見ると、おそらくそれは正しく、また現状がこの先何年も続く訳ではない
だろう。だがしかし、離れて暮らす親には頼れない、家事育児は女の役目、会
社の制度も時短勤務以外の補助はない。職種は異なれど、多くの女性が子育て
をしながらフルタイムの勤務は難しく、子育てにお金がかかるのに、そのお金
を捻出するための仕事をする時間が決定的にない……。まさに、長いスパンで
の人生設計が難しく、目先の困窮がそのプランを塗りつぶしてしまう状態と言
えそうだ。先の女社長のような立場であれば、仕事と母の両立も叶うかもしれ
ないが、大半の女性は仕事復帰したくても出来ず、もしくはしたくなくてもせ
ざるを得ず、したところでロクな稼ぎにならない、というジレンマに陥るので
はないか。

 働くという選択肢を選んだ時点で(また、選ばざるを得なかった時点で)男
のように働けない女という性は、程度の差はあれ、負荷に対する経済的メリッ
トがあまりに小さい。困窮とセットの労働など、誰が進んで選ぶだろうか。仕
事を持つ母親を取り巻く環境は、独り身である私が見ても過酷に思える。

 勿論、彼女だけが特別な訳ではない。だがそれにしても、かけがえのない子
供という存在を得た対価として、仕事のやりがいや自分自身のキャリアを捨て
ざるを得ないのが現実であるならば、国が音頭をとる「女性の登用・活躍」と
いう言葉ですら薄っぺらなものにしか思えない。さて、大切にしたいと思う働
く友達に、私は何ができるかを考えてみるものの、いまいち良い案が思い浮か
ばないのもまた、事実なのだ。

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第288話『龍火の毎日』 http://tales.msi-group.org/?p=476
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4 MSIグループの仕入完了報告

 2013年10月31日に、ソリアズのネタとなっている書籍をテーマに14周年
記念特別号を発行したのをきっかけに、その次の通常号から付け足した「MS
Iグループの仕入完了報告」。ここには、その号の発行に先立って半年以内ぐ
らいに読んだ書籍を紹介することとしました。
 
 当初は読後の感想をつけようと思ったのですが、あまり内容を重たくすると、
企画として維持できないように想い、通常号では単に書名と著者名のみ紹介す
ることにして今に至っています。今回の400話発行記念特別号では、初めて感
想を簡単につけてみることにしました。

■『子供のまま中年化する若者たち…』 鍋田恭孝 著
 以前買った新書に挟まっていた同新書の新刊広告を見て買いましたが、とて
も頷けるところが多い書籍でした。「若者」と一括りに何でも語るのは、価値
観の多様化した現在、以前以上に危険かもしれませんが、少なくとも社会や組
織に不適応を生じる若者の症状や心理を鋭く突いています。
「理不尽がなくなってしまった社会」に原因を求めている部分などは、『下流
志向』の労働主体から消費主体に若者がシフトしたことと原理的には全く同じ
ですが、そのようなことが再確認できることも、この書籍の魅力です。

■『ガイドブックには載っていない 沖縄の裏の歩き方』 神里純平 著
 沖縄観光に資するための書籍は多くても、その経済のあり方や県民の考え方
にあからさまに言及した書籍はあまり多くありません。沖縄の大学から新卒学
生を遠隔採用できるか否かを検討した際に購入して読んだ書籍です。
 2013年の著作ですので、地域の具体的な情報はかなり現実からずれてしまっ
ている部分もありますが、そこに描かれる沖縄の本質は、観光ルートから一歩
逸れて目を凝らすとあちこちに見つかるものでした。

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5 あとがき

 人口が2万人に満たない米国オレゴン州の村にある大学に学士留学していた
折、時々、「日本の女性は差別されている」と言った言説について尋ねられる
ことがありました。今でも、そのような見解を言う欧米人は結構存在しますし、
日本人でさえ、声高に女性の社会進出が遅れていると騒ぐ人々はそれほど苦労
なく見つかります。

 私は、どうもこの手の言説があまりにも近視眼的で白痴的な考えに聞こえて
なりません。まず、アホ臭く感じるのは、何でも性別の対比構造に集約しよう
と言う考え方です。女性でも、社会に進出して稼ぐことにあくせくするのは真
っ平御免と言う人々は山程存在します。特段の必然的理由がなくても派遣OLの
登録を希望する女性が膨大な数存在することでも明白です。大卒女子の正社員
就活でも人気職種は、間違いなく一般職の事務職です。

 逆に、会社に入って働くことに背を向けているどころか、自宅警備の仕事に
勤しむばかりの男性も、ネットで見る限り、かなり多数存在することが分かり
ます。これでどこが「女性差別」なのかよく分かりません。問題と言われるこ
との存在に取りあえず疑いはないとしても、本質的な課題設定の軸が大きくず
れていると感じざるを得ません。

 さらに、社会に「進出」すると言う表現自体がよく分かりません。家で子供
を育て、家事をすることも、きちんと行なえば、会社で仕事をするどころでは
ない知見やスキルを必要とします。会社に勤めることが社会に出て、人間的に
暮らすことであり、家事に勤しむことは奴隷的な立場に留め置かれることと言
うのは、一体どういう発想なのか私には分かりかねます。気が狂っているとし
か思えないおかしな発想です。

「社会」はどこにでもあるのであって、どこにでも作れるものであるはずです。
どこかに線が引かれていて、その線を越えると「進出したこと」になるという
発想が意味を成していないと私は考えています。

 私はそんな考え方からシリーズ『これからの生活』や今回の『相違と多様』
を書いてみました。社会学的見地から見ても、大手企業の組織はその構成員
各々を疎外しがちです。人材紹介に携わっている頃、大手企業の退職者の言動
からその疎外感を強く感じることがよくありました。中小零細企業群には、
個々の組織構成員の価値観やスキルに沿った、仕事や職場のあり方を用意して
いく可能性が大きく広がっているはずです。

 そのような私の考え方が、今回の企画を通して、長年の読者であろうあなた
に少しでも伝わることがあれば、とても嬉しく感じます。ご愛読に御礼を申し
上げると共に、今後のお付き合いもお願い申し上げます。

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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
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インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して
 発行しています。
 (http://www.mag2.com/ ) 
毎月10日・25日発行 盆暮れ年始、一切休まずもうすぐまる17年。
そしてとうとう400話到達!

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6 次号予告
 シリーズ『相違と多様』の第二弾は、『写真の人々』と題して、地方で否応
なく進む中小零細企業のダイバーシティの実態を描いてみました。ご期待下さ
い。

(完)