13周年記念特別号

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経営コラム SOLID AS FAITH 13周年記念特別号
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目次
1 前口上
2 現場回想の一幕
3 ファミレスでIT投資俯瞰の一幕
4 Facebook 導入意向の会社事務所の一幕
5 ITコンサルタント退場の一幕
6 組織規模とIT投資 思案の一幕
7 金繰り算段の一幕
8 IT小普請承り アイソリューション口上看板
9 終幕

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1 前口上

ソリアズをご覧の皆様、こんにちは。合資会社アイソリューションの山口佳
織と申します。300話発行記念特別号に続き13周年記念特別号を、今回はほぼ
一本丸ごと書かせていただくという、非常に重大な任務を授かりました。

私が中小零細企業のIT・マーケティング支援をドメインとし独立してから、
もうすぐ半年が経ちます。市川との出会いは2011年4月。とある方の紹介で、
超実践塾という市川が講師をしている塾のプレセミナーに参加したことがきっ
かけでした。当時の私は独立しようと考えておりましたが、右も左もわからな
い状態でした。そんな私を市川は弟子として迎えてくれました。

私は元々中小零細企業での勤務経験しかなく、ITを切り口にした中小企業観
と言っても、当時勤めていた会社と同等の活用状況の会社が大半だろうと高を
括っていました。しかし、鞄持ちとして複数企業に同行しているうちに、中小
零細企業の平均的なIT導入の実態は、どうやら私の認識とは違うということに
気付きはじめます。導入が進んでいないから悪いというわけではなく、企業毎
に経営資源を投入する先も異なり、必要とするIT導入のレベルも異なると実感
しました。

当初は「市川の言っていたことはこういうことか」と後から気付くことが多
かったのですが、最近ではお客様企業の状況に「まあ、そういうことだよね」
と思うことも増えてまいりました。師・市川の深慮さには及ばないまでも、で
きの悪い弟子なりの市川化が進んでいるように感じています。的外れな答えを
する私に対して、市川は打ち合わせの度に懲りることなく新しい知見を刷り込
んでくれました。時にはその内容の重たさに「うう」と唸りながらも頭を抱え
て悩むこともありました。しかし、その成果が徐々に現れてきたかと思ってい
ます。

市川との打ち合わせでは、中小零細企業に関わる個人事業主として、仕事に
対する考え方や世の中に対するものの見方について指摘を受けることが非常に
多くあります。案件の進め方や内容についても『元弟子』の立場を濫用して頻
繁に相談しています。

そのような日常の真っ只中、「そういえば中小零細企業のIT活用の具体的な
部分までに踏み込んでいる資料ってあまりないよね」という市川の呟きを発端
とし、弟子入り期間最大の課題であった「中小零細企業におけるIT導入の切り
口」と、最近よく聞かれる「で、いくらくらいでそれができるの?」という疑
問にお答えする機会をいただきました。この半年間の私の仕事の集大成のよう
な文章です。IT導入を再考するにあたり、今回の文章が僅かばかりでもお役に
立てますと幸甚です。

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☆1~13周年記念特別号:
バックナンバーはこちらでお読みになれます。
http://tales.msi-group.org/?cat=12
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2 現場回想の一幕

予定通りにならないことが、むしろ『予定通り』である。
“人生の繁忙期”と自称する時期を経て、そういうものだと理解した。語り尽
くせない程のイレギュラー的状況が重なり、上司から栄養ドリンクの差し入れ
を貰いながら半年近く終電帰りの生活を送った。その最中に母が急逝したもの
だから、公私共に想定外の多忙さだった。その時に、予想外のことがあっても
状況を受け入れて、その上でどのように対処するかを考えることを学んだ。そ
んな訳で、毎朝、課の朝礼で宣言する「本日の終業予定時刻」は、あまりあて
にしていない。

私は新卒で、正社員が約20名、パートタイマーが約80名の中小物流企業に入
社した。IT系専門学校を卒業したため、当初の配属はシステム課。しかし正式
配属と同時に唯一のシステム課員が退職することが決まったため、教育できな
いという理由でなし崩し的に発送先データを加工する部署に配属された。デー
タ処理業務と、最終的に3名になったパートタイマーの業務管理や部署改善、
内線一本ですぐに駆けつける便利な社内のパソコン先生役が業務の大半だった。

パートタイマーの出社後、グループ毎の朝礼で作業分配と本日の予定を伝え
る。今日の予定の中で一番ウェイトの高いものは、同じデータ処理を20回以上
繰り返す大量のラベル出力。郵便制度の変更により必要となった郵便物の識別
番号を、一度システムで処理後に、テキストデータを開き手作業で付与してい
る。システムの修正依頼書を提出するも、同様の細かな修正案件に対応しきれ
ず、手作業で急場を凌げるものは後回しになっていた。

各自が作業に取りかかった所を安心して見ていると、千葉にある物流センタ
ーから電話が掛かってきた。嫌な予感を抱えながら電話に出ると、想像通りの
内容を告げられた。
「係長、主任から2番にお電話です。千葉センターのPCの調子が悪いみたい
ですよ」。 上司にそう告げると、「またか」と苦笑を浮かべている。千葉セ
ンターには、PCに詳しい人材がいない。電話を取り次ぐとVCNビューワを立ち
上げ、該当のPCを遠隔操作しながら対応し始めた。

一息ついた所で、今度は私の内線が鳴る。
「山口、今忙しい? 悪いけどちょっとこっち来てくれる?」。
声の主は、企画営業課の課長。ポスターの発注数を算出したいのだが、いろ
いろな条件が組み合わさっているので良い数式を教えて欲しいとのことだった。
ifが幾つにも絡み合う複雑な式をExcelに記述すると、思った通りの結果が出
たようで、お菓子という臨時ボーナスをもらった。

自席に戻ろうとすると、今度は先輩に呼び止められる。プリンタのトナーが
なくなったので、交換して欲しいと言う。
「これがあのプリンタのトナーなので、ここをこう開けて交換してくださいね」。
彼女に対して何度目かの説明を繰り返すが、「うん、うん」と頷く先輩の表
情には、理解の光は灯っていない。事が済むと「ありがとう!」と眩しい笑顔
を浮かべて去っていった。

その後、席に着くまでに「メールの添付データがうまく開けない」、「こう
いう処理をしたいんだけど、もっと良いやり方ない?」などのやり取りを繰り
返し、ようやく落ち着いて時計を見るともうすぐお昼だった。
「山口さん、朝言ってた仕事終わらせといたで。他に何かすることある?」。
あちこち行く私が捕まらなかったからか、席に着くと同時にパートタイマー
が業務報告をしてくれた。午前中に手が付けられなかった仕事をお願いすると、
「ええで」と快諾してくれた。貰ったばかりのお菓子を頬張りながら「今日も
頑張ろう!」と心の中で呟いて、PCに向かった。

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3 ファミレスでIT投資俯瞰の一幕

「この前、中小零細企業のIT投資のあり方を学ぶために、大手のIT投資がどう
であるかを知っておく必要があると言ったでしょ。今から挙げる2つのソリア
ズを読んで、今度感想を教えてよ」。
独立前、2週に一度の頻度で打ち合わせの時間を市川に割いて貰っていた。
とあるファミレスで彼は表情を変えずにそう言い放った。

一つは第2話『生活のリズム』。 http://tales.msi-group.org/?p=39
ERPの導入に関する記事だ。ERPとは、業務効率化を目的とし導入されるパッ
ケージソフトで、導入に際し、まずはコンサルタントによる業務の標準化を行
なう。ある書籍によると、コンサルティングの期間は1年以上掛かると言われ
ている。

業務効率化のためのIT投資とは、極端に言ってしまえば定型作業をボタン一
つで行なえるようにすることだが、柔軟な業務対応をすることで他社と差別化
をする中小零細企業のビジネスモデルに、大手企業と同じIT活用方法が当ては
まるのだろうか。

また、このソリアズの最後は「一般論で良いと言われようとも、独自の方策
を取る」との主旨が書かれている。市川の考えによると、5ナイの中小零細企
業は、持ちうる経営資源を集中的に投下して差別化を進めるべきとのことだ。
費用を掛けて行なう以上はIT活用も差別化に繋げる必要があるという。中小零
細企業の差別化を目的としたIT活用は、最新のパッケージソフトや、有名企業
が成功した事例を素直に踏襲することではないと言いたいのではないだろうか。

もう一つは、第38話『完成の結末』。 http://tales.msi-group.org/?p=79
中小零細企業で利用されているオフコンについて言及されている。別企業か
ら業務を引き継ぐ際にオフコンを購入したが、本体価格も高く、システム保守
費用も高い。操作性も悪く、処理能力は業務上必要としている能力の遥か上を
行く。IT導入を目的とした結果、システム会社に言われるがまま購入してしま
ったのだろう。

中小零細企業では、一度完成したシステムであっても、刻々と変わるクライ
アントの要望に応えるために、否応なしに手作業での対応を行なっている。

大手企業には、ITの専任担当どころか、所謂「情シス部門」が存在し、IT
機能を子会社化している企業もある。使用上の不具合や不明点は、聞けば答え
てくれる人が必ずいるし、修正や不具合にもすぐに対応してもらえる。

システム会社は大手企業のニーズを察知してパッケージソフトを開発し販売
するが、人・モノ・金・技術・情報すべてが揃っている大手企業と、所謂5ナ
イの中小零細企業が同じパッケージソフトを使ったり、PCの環境を一人一台に
整えたとしても、うまく業務に活用できないのではないだろうか。業務に合わ
せようとカスタマイズしようものなら、莫大な費用が掛かり、その費用を回収
する頃にはまた違う部分で変更する必要が出てくる。

中小零細企業のIT投資とは、目の前のお客様の要望に応えるための、単なる
手段の一つとして位置づける必要があるのではないか。

翌々週、市川と再度ファミレスで向かい合う。感想を伝えると、面白そうに
笑って「大分分かって来たね」と言う。
「何度か話したことがあるけど、中小零細企業は人による差別化を行なうべき
だったよね。そう考えると、中小零細企業が取るべきIT投資の方針も分かるん
じゃないかな?」。
最後まで答えを言うことなく、次の話題に進むのだった。

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4 Facebook 導入を望む会社事務所の一幕

こちらです、と店舗の奥にある階段を3回ほど登った頃、“事務所”と手書
きで書かれた看板が飾ってある木の扉が目の前に現れた。 ドアノブに手を掛
けて恐る恐る扉を開けると、「おお!」と社長が手を挙げた。
「まあ、お茶でも出すから座っててよ」。
複数店舗を持つ小売業で、店舗間の連携が良くないからどうにかして欲しい
と頼まれたのは、今から半年前。案件が無事終了したので挨拶に、仕事を紹介
してくれた友人と共に“本社”に初めて赴いた。

きょろきょろと事務所内を見回すと、デスクは3つ。それぞれにPCが備え
付けられている。事務所内には社長と奥様、女性従業員が一人。奥様は経理を
担当していて、女性はその他の事務をしているパートタイマーだと説明を受け
た。

確かに、この状況であれば、「業務効率化のために必要だと言われたので、
店舗毎のメールアドレスを取得した」という理由がよく分かる。事実上、外部
の方とやり取りをするのは社長だけであり、店舗毎の発注はウェブ上のシステ
ムか電話で済ませてしまうとのことだから、社長の使うメールアドレス1つ以
外は今まで必要なかったのだろう。

次の業務に関わる打ち合わせを社長としている脇には、「インターネットを
使いたい」と、LANケーブルを抜き差しして渡し合う奥様と事務担当者。この
人数だから支障はないのだろうが、社内LANというものが構築されてないらし
い。簡単に社内LAN について説明をすると、「そんなことができるのね!」と
驚いていた。

各店舗に作業をしに行ったときのことを思い出す。
ある店舗では、機器設置のためにCDドライブを開けようとすると開かず、先
端の尖ったものを使い無理矢理こじ開けた。また、別の店舗では設定を適用さ
せるために再起動をしたところで、PCが立ち上がらなくなってしまった。それ
を見越して新しいPCを用意して向かった店舗では、移管のために今のPCで使っ
ているファイルを従業員に聞いても、「必要なデータが分からない」の一点張
りだった。更にはネット回線の契約書も、どれがどの店舗の分か分からず、
ADSL接続の店舗にフレッツ光接続の設定書が用意されていたこともあった。

社長の話を聞くと、「今度はFacebookを使った情報共有をしたい」とのこと。
作業の工程を組むために、PCに詳しい人が何名くらいいるか聞いてみると、言
葉に詰まってしまった。中小零細企業に、PCに詳しい人材が入社するかどうか
は運次第。入社したとしても、近視眼的ではなく、俯瞰的に活用方法を考えら
れる人材なのかも運次第。継ぎはぎだらけで今必要なもの・やりたいことを取
り入れた結果、知恵の輪状態になっているのだと、強く感じるのだった。

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5 ITコンサルタント退場の一幕

※この物語はフィクションで、実在の人物、団体とは関係ありません。

或る日、クライアント企業の社長からご紹介頂いた企業に訪問した。社員数
は30名で、在庫を持たずにサービスを提供している企業で、製造業でいう設備
投資の代わりに、IT投資をしているのだという。その規模の企業としては珍し
く、専属のシステム部門を持つも、定着率が悪く、付け焼き刃的対応を繰り返
していた。その現状把握をした上で今後取るべき方策の相談に乗って欲しいと
のことだった。以前、知人の紹介で月80万円のITコンサルタントと契約した
のだが、「状況が細かすぎて手に負えない」と匙を投げられてしまったのだと
いう。

[社長の主張]
「言いたいことは分かるんだ。ウチでも細かすぎて自社で手に負えないから外
部に頼んだ訳だしな。でもプロなら、手を付ける前にできるかどうか分かりそ
うなものだけどなあ。結局半年お願いしてできたものは、何に使うかよく分か
らない作りかけの表だけだよ。続きをやらせようにも、ウチの社員じゃその後
どうしたら良いのかも分かっていない。ウチよりも大きな規模の企業のITコン
サルタントを主に行なっていた人だから、こんな滅茶苦茶な状況では割に合わ
なかったんだろうな。かといって、これ以上の報酬を払うことも難しいしね。
勉強代だと思って納得しているよ」。

[コンサルタントの主張]
「システム開発部門があるから或る程度の協力も見込んで引き受けたのに、聞
いても分からないという返事ばかり。システムの変更を私が知らないうちに行
なうし、プリンタも急に壊れて買い替えたりする。本来は、ちゃんとしたシス
テム変更の手順や、プリンタの耐用年数なんかも考えて年度予算に買い替え費
用を計上して、計画的に買い替えるものです。社長に今後のIT導入計画を聞い
てみても、分からないという。御社側で理解できず、協力の体制もないのでは、
いつまで経っても安定的な状態になんてなる訳もなく、資料なんて完成しませ
んよ。他の人がやっても同じ結果になる。この会社では、リアルタイムで現状
把握をするなんてできっこないですよ」。

[まとめ]
スタート段階では同じゴールを見ていた筈なのに、なぜ彼らの意見はこれほ
どまでに食い違ってしまったのか。
コンサルタントとしては、或る程度のIT環境を整えるのは依頼元の企業であ
って、自身はそのサポートや、手の回っていない部分の業務請負に過ぎず、コ
ンサルタントの考え方を理解し、可能な限りの実作業をして結果を出すのはク
ライアント企業側であると捉えていた。
一方で社長は、ITのプロであるコンサルタントが全ての結果を必ず出すもの
だと認識していた。環境を整えて欲しいと言うコンサルタントの要求にも、具
体的に何をしたら良いかが分からなかったのだ。どちらの主張も理解できるが、
お互いの役割について認識の違いがあったために、うまく行かなかったのだろ
う。

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6 組織規模とIT投資 思案の一幕

大手企業と中小零細企業が同様のIT投資をしてはいけない理由を、今までの
章で述べてきた。では、中小零細企業とは具体的にどのような部分が異なるか
ら大手企業は新しい設備や技術を率先して投入するのだろうか。

大手企業では、業務プロセスの効率化に向けてのIT投資に注力している。経
営を効率化するため、部門を問わない全社共通のシステムであるERPパッケー
ジ導入から始まり、営業効率向上やネットワーク構築コストを削減するために、
インターネット経由でどこからでも保存しておいたファイルが閲覧できるとい
う、クラウド・コンピューティングも導入されている。

また、ハードウェアについても、一定のサイクルで入れ替えることが前提と
なる。例えば、最新版のOfficeを使うために、新しいOSのPCを導入するなど、
継続的に投資することを見越して整備されている。

一方、中小零細企業では、業務効率向上のためのERPパッケージ導入を考え
た時、1年弱を要するという導入コンサルティングの費用が確保できないとい
う問題にぶち当たる。万が一その問題をクリアできたとしても、中小零細企業
の実務というのはクライアントに合わせた細やかな対応で差別化を図るため、
既存のビジネスモデルに合わせた柔軟に対応できるようなシステム活用が求め
られる。全体を標準化したシステム活用が果たして有効なのだろうか。

クラウド・コンピューティングの活用についても、サイボウズなどのスケジ
ュール共有を目的としたグループウェアであれば僅かながらも利用価値はある
かもしれないが、零細企業なら、会議の日程調整などは口頭で確認した方が早
いのが実状であろう。営業に関わるシステムについては、クライアント毎に多
種多様な対応を求められるため、標準化することは難しい。また、ハードウェ
アについても、新しく購入したPCやサーバ、プリンタなどは、耐用年数を過
ぎて保守部品がなくなると言われても使えるうちは使い続けるのが中小零細企
業だ。

この違いを、単に中小零細企業が5ナイだからだと決め付けるのは早計であ
る。莫大な費用を投じて大手企業がIT活用促進を行なう理由の一つは、先般で
も触れたように、企業のグローバル化に伴い、全世界で共通のシステムや環境
が要請されることだろう。仮に海外進出していない企業であっても、最低限、
業界標準の環境は整えておく必要がある。「大手企業なのだから、普通は…」
と言った実態なき評価に晒されがちであるからの必然だ。もっと直截的に言う
なら株価維持のためだろう。

また、中小零細企業では十八番の人材による差別化は、大手企業では人数が
多過ぎて有効に働かない。それであればITに投資して、誰にでもできる作業に
標準化してしまう方が、総合的に安く済み、且つ安全である筈だ。

このように、大手企業がITに関わらず、設備投資に予算を割くのは、単純に
「資金が豊富だからできる」ということではない。会社を運営する上で、組織
規模があまりに大き過ぎて取り得る手段が限られてしまう。その中の最善の対
応を、日々重ねているだけに過ぎないと解釈することができる。

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7 金繰り算段の一幕

「IT投資は幾らぐらいお金をかければ良いのか」という質問をよく頂きます。
一般論では売上高の3%などという数字が出ていますが、中小零細企業が必
ずしもその公式に当てはまるかというと、そうではありません。
今回は、その問いに対する回答をまとめました。

[大手企業のIT投資の検討]
大手企業では、年間の予算算出時に、社内のPC購入時期から一般的な耐用年
数を割り出し、故障率はどのくらいあり、該当年度に社内のPCを何台くらい買
い換える必要性があるか、パッケージソフトの新バージョンは、導入する場合
幾らになるかなどを考えています。
また、新しいソフトを導入する際は、費用対効果の算出を行ない、投資価値
を判断します。費用対効果の検証は作業に掛かる経費をそれぞれシステム導入
前、システム導入後(予測)、システム導入後(実際)の費用を算出し、予測
と実際を照らし合わせ、なぜ異なる結果が出たのかを考えていきます。

[IT投資額の算出方法]
日本の大手企業のIT投資平均額は、諸説色々ありますが一般的には売上に対
して1~3%ほどです。業種や海外進出の有無により投資すべき比率が変わる
とも言われています。
IT投資と一括りに言っても、詳細には戦略的投資と事業継続投資の2種類が
あります。前者は差別化要因としてのIT活用、後者はインターネット接続費や
場合によっては人件費も含めた業務運営上最低限必要となるIT維持費という
ことで、3:4の割合で投資されると書籍にはあります。

[中小零細企業への適用試算]
年間売上3億円規模の中小零細企業に当てはめたとき、仮に3%のIT投資予
算を行なったとして900万円。更に投資分類を行なうと、戦略的投資で400万
円、事業継続投資に500万円を充てることとなります。これでは、中途のプロ
グラマなどを専属で雇う余裕はありません。
業務上使っているシステムについても、どの程度処理の変更が発生するかを
見極めないと年度始めに予算など立てようがないのですが、クライアントの要
求で業務フローさえ柔軟に変化させねばならない中小零細企業では、今年どれ
ほどの変更が発生するかなど、到底目処が立たないのが実際の所でしょう。

[IT投資予算の体感値]
私が今までクライアントの皆様とやり取りさせていただいた中で体感するIT
の戦略的投資における価格感としては、月10万円程が目安だと思っています。
それも、単純に新しいシステムを作って終わり、ドキュメントを作って終わり
ではなく、その後自社でコストをかけずに運用するにはどうすればいいかとい
う点までカバーすることが必須となります。
有名メーカーが設計・構築したシステムでなくとも、AccessやExcelを使っ
て自社の業務に沿った内容で処理を自動化する仕組みを作り、変更が生じた際
は自社の社員がそれを直せるような状態にする。時間投資は必要となりますが、
自社でも運営・改善できるような状況を作ることこそ、長期的に見て差別化の
礎となるように思えます。

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8 IT小普請承り アイソリューション口上看板

“「誰かに聞きたい」「どうにかしたい」ITに関わる悩みを解決します!”
と、私はメールの署名に謳っています。時には「ITに関わる教育の仕事をし
ています」と自己紹介します。詰まる所、方法を問わず、抱えている悩みをIT
というツールを用いて解決し、社内で運用できる状態にするサービスの提供で
す。特に30名未満の規模で、自社にはITの専門家や詳しい人が居ない企業様
から、お引き合いを多く頂いております。
「親譲りの無鉄砲」で独立してからもうすぐ半年が経ちますが、それまでの間
に請け負わせて頂いたサービスの一部を僭越ながらご紹介させて頂きます。

■自社でも更新できるウェブサイトの作成

[社長の悩みごと]
見込み客からの受注拡大に向け、社内の活動や製品に関わる情報発信を、ウ
ェブで行いたい。しかし、現在のサイトは専用のソフトで作っており、更新で
きる人材も限られているため、今よりももっと気軽に、社員全員が更新できる
ようにしたい。

[この悩みに対する一般的なサービスと問題点]
ブログ形式で簡単に更新できるサイトを作成するサービスがあります。予算
感の問題が先立つ上に、「社員全員が更新作業をできるようにしてほしい」と
いう要望について、単純な操作方法以外のレクチャーは行なっていません。

[アイソリューションからのご提案]
限られた予算の中で制作を行うために、制作上の作業の大半をクライアント
企業の社員の方にお任せし、私は週に一度お伺いして、社員の方の理解度に合
わせ、制作上必要となる知識の講義とWordPress(※)というソフトの初期設
定のみを行ないました。

※ WordPressとは…
CMS(コンテンツマネジメントシステム)と呼ばれるものの一種。ブログの
ような操作で簡易にウェブサイトを更新することができます。

■ウェブ更新の請負作業と、活用方法の見直し

[社長の悩みごと]
管理しているブログ・ウェブサイト・Facebookページが複数あり、更新の操
作にも疎いため時間がかかってしまう。プロとしてのレイアウトの見せ方や、
記事のリライトまでを含めた運用を確実で迅速に行なって欲しい。

[この悩みに対する一般的なサービスと問題点]
アメブロやFacebookページ運用代行サービス自体は他にも存在しますが、
クライアントのITに対する苦手意識の改善のための説明や意識改革を、時間を
かけて行なう業者は滅多にないでしょう。

[アイソリューションからのご提案]
状況を伺うと、目的の重複する媒体が存在し、管理コストが増え、営業活動
に割く時間が少なくなっていました。活用方法や目的の見直し・再確認をして
頂くための意識作りと、一時的な業務請負を行ない、まずは最小限の手間で効
果が出るよう、見直しを行なっています。

■サイト上の情報分類の見直し

[社長の悩みごと]
サイトに掲載している情報量が多すぎて、どこにどんな情報があるか分かり
にくくなっている。また、会社組織も大きくし、イメージを変えて広く告知し
ていきたいため、閲覧者からの印象がよくなるように見直しを行なってほしい。

[この悩みに対する一般的なサービスと問題点]
ウェブサイトのユーザビリティの見直しということで、同様のサービスを提
供している企業はあります。本件はターゲットや運営目的が明確になっておら
ず、ヒアリングしながら企画部分の見直しも必要となり、経営方針や現状を踏
まえた上での診断を行なうため、一般のサービスを利用した場合はかなり高額
となることでしょう。

[アイソリューションからのご提案]
サイトのターゲットや運営目的の見直しから、現状のコンテンツ制作目的と
照らし合わせながらカテゴリの再検討を行ない、各ページを分類し、不足する
情報は新規でページを作成するよう、ご提案させて頂きます。

今まで挙げた内容以外にも事例がありますし、似たような内容であっても細
かい部分まで見ると同一のサービスはありません。ITを差別化のツールとして
使いこなせるよう、企業毎に存在する経営上の制約(予算や人員、今後の経営
方針など)をふまえ、柔軟にお客様の状況に合わせたサービスを提供しており
ます。

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9 終幕

書店に行くと、Facebookなどを舞台にしたソーシャル・マーケティングの有
効性を説く書籍がやたらに目に付くようになりました。そして、そのFacebook
にアクセスすると、今迄、どのような実経験があるのか分からないような自称
「マーケティング・コンサルタント」の人々が多数居て、異業種交流会の場な
どで競って自説を披露していると耳にします。

そのような世界とかなり隔絶された所にいる筈の、中小零細企業である私の
クライアント企業の面々も、そのような可能性に目を向けようとしているのを
感じます。どう考えても、ソーシャル・マーケティングの手法が従来の広告手
法の完全な代替策になり得る訳もなく、良くて補助機能止まりであろうと、私
は思っています。そこへ不釣合いの期待感の下、貴重な経営資源の相当量を振
り向けるのには、余程の戦略的決断を要することでしょう。

大体、私のクライアント企業の多くには、そのような体制をきちんと組織の
目指す方向から踏み外さず維持運用できるような人材が殆ど見当りません。さ
らに、そのような情報発信を行なうために肝心な、受け手にとって意味があり、
差別化に資する情報コンテンツが圧倒的に不足しています。

同じIT投資をするなら、社内の業務の効率化に直結する独自の方法論をIT
ベースに置換・実現する方が大きく利益に貢献することでしょう。現実問題と
して、帳簿管理のシステムから一歩踏み出て、管理会計の初歩の実践により、
原価管理を怠らないとか、簡単な交叉比率はチェックしているなどと言う現場
管理者に私は会ったことがありません。やる気になってもシステム構築から始
まらねばならないからです。本文中のディスクドライブを(工具の方の)ドラ
イバを使って開けているような状態から、経理の数字の処理と分析など、想像
できる方が奇跡に近いことでしょう。

そんな現場感も理解しつつ、中小零細企業のIT活用とマーケティング適用の
両方の分野、そして特にその重なり部分を事業ドメインとして独立することに
なった、自称「無鉄砲娘」が現れた時、私は面白い可能性を感じました。独立
後、「これはCMSの運用することになりますね」と彼女が言うと、「うん。
それを自分でやってあげるんじゃなくて、先方の社員さんに教えてやってもら
うように進めて」と答えたり、「ブログのアップの代行の仕事を請けました」
と彼女が言うと、「ああ、いいね。全体コンセプトとそれに沿ったネタの提案
はマストだからね」と告げて、彼女を絶句させ続けてきました。

「犬も歩けば棒に当たるどころじゃない。こっちの商売に較べて、アンタの方
が商売のタネはごろごろ、そこら中に転がっている筈なんだから、仕事が取れ
ない訳がない」と数ヶ月間私は言い続けて来ましたが、実は先述の彼女の事業
ドメインも原型を提案したのは私なので、外れてもらっては困るというのが本
音でした。最近はそれを言う必要も無い程に、お仕事を戴けるようになって来
た様子です。その彼女の実体験を、ソリアズでは非常にレアなテーマであるIT
ジャンルの文章に、13周年記念特別号としてまとめてもらうこととしました。

ソリアズ本体への言及があまり見当りませんが、IT版ソリアズと呼べるよう
な、どろどろの現場感覚を容赦なく突きつけてくる文章が完成しました。病院
やホテルによっては階数や部屋番号で欠番になる13番目ですので、こんな異色
な特集号があっても良いのではないかと思って私自身楽しんで読んでいます。
長年の読者の皆様にもお楽しみ戴けたり、頷いて戴ける所があれば、幸甚です。

今後とも、末永いご愛読をお願い申し上げます。

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発行:
「企業から人へのコミュニケーションを考える」
合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
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