10月18日の封切から2週間ほど経った日曜日の午後9時45分からの回を前回に続き、2日ぶりのバルト9で観て来ました。(実際には前回が金曜日の深夜12時過ぎであるので、本当は土曜日未明です。そのように考えると、本当は2日連続でバルト9に来ていることになります。)特にバルト9に来たくて仕方がない訳でもありませんが、前回も書いた通り、ここ最近バルト9から足が遠のいていたので、直近2回連続でも半年とか1年単位で見て以前に比べると大分ご無沙汰であるのは否めないでしょう。
バルト9を選んだのは、新宿ではここしか上映館がないからです。1日に3回上映されています。その観点では人気作ですが、都内では10に満たない館でしか上映されていません。おまけに洋画は基本的に字幕で見ることにしているのですが、都内でも木場の行ったこともない映画館でしか上映していません。それでも何とかならないかと検討してみましたが、木場の館は1日1回しか上映していず、往復時間なども考えると必要時間が長過ぎ、仕事の都合などで到底実現できませんでした。致し方なくバルト9の吹替え上映を観ることにしました。洋画の吹替え上映を観るのは一体いつ振りか分からないほどの珍しいことですが、敢えて吹替え映画を観てみる体験をすると、致し方なく肯定的に捉えることにしました。
建物に着いて1階のエレベーターホールで待っていると、到着したエレベーターはやたらに混雑していて、ゾロゾロと降りて来た客は全員女性でした。何かの映画が終わったタイミングにぶつかったのだと思いますが、それが何であるのか分からないままでした。帰宅後にバルト9の当日のスケジュールをチェックしてみた所、『ライブビューイング ミュージカル『刀剣乱舞』 祝玖寿 乱舞音曲祭』の観客であろうことが分かりました。
因みに『JUNG KOOK: I AM STILL』や『TAEYONG: TY TRACK IN CINEMAS』といった韓流スターのフィルム・コンサートのような作品群も『ボルテスV レガシー』とほぼ同じ時間枠で上映されていましたが、ロビーの混み具合で見る限り、客入りはかなり限られているようです。ゲキシネや幾つもの非映画作品の上映も行なっているバルト9ですが、それらがどれほどの収益に結びついているのかやや関心が湧きます。一方で私が8月に観た『ルックバック』が深夜12時近い時間から1日1回今尚上映されていることには驚かされます。『ルックバック』の熱烈ファン層の存在が窺われます。
終わりが終電時間帯に近いだけあり、大分観客は少ないだろうとは思っていましたが、チケット購入時にモニタを見ると上映時間30分前の段階で私以外に1人しかいず、シアター入ってみて最終的には私も含め男性4人しかいませんでした。かなり淋しい感じです。私以外の男性3人の年齢構成は20代から40代にかけてばらけており、全員単独客でした。30代前半っぽい男性がバックパックにデパートの紙袋と言う手荷物だったのに対して、他の2人は手ぶらに近い状態でした。私も含め全員が黒を基調とした服装であったのが印象的です。
シアターに入る前にグッズ・コーナーに行きましたが、パンフレットは既に売り切れていました。深夜時間帯にかかるとはいえ、終電時間前の終わりで、おまけに封切二週間でモニタ上で観たような状況ですから、到底大人気作品とは思えません。それでもパンフレットが完売しているのは元々用意された数量が極端に少なかったということではないかと推察します。
この作品は言わずもがなですが、日本の名作ロボットアニメ『超電磁マシーン ボルテスV(以下、『ボルテスV』)』の実写映画です。尺は97分しかありません。この作品は吹替えの話を先述したように、洋画なのですが、何とフィリピン製です。多分、人生で初のフィリピン映画作品だと思います。私がこの作品に関心を持った理由は、こうしたこの作品が創られることになった経緯が日本文化の一端が熱狂的に海外で受け容れられている証左を見てみたいと思ったことが大きいと思います。
嘗て私は『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』というイタリア映画を観たことがあります。麻薬密売や窃盗に手を染める地元のゴロツキやチンピラの争いの中、川底に投棄された核廃棄物にカラダをどっぷりと浸けてしまった男エンツォが高い治癒力と馬鹿力を得て、最初は私利私欲のために力を使うものの、その後、好きになった女の今際の願いを聞き入れて、正義のヒーローとして活躍する話です。全く(ラストで主人公が顔に被る被り物のデザイン以外は)鋼鉄ジーグは登場しませんし、当然ながら巨大ロボットは勿論、何らかのメカも登場しません。それでもこの映画のタイトルは原題の直訳とのことですから、イタリアにおける鋼鉄ジーグ愛の盛り上がりは一応理解できました。
よくハワイでは『人造人間キカイダー』が大流行で、フランスでは永井豪のアニメ作品が大ヒットだと聞いたことがあります。なぜこのように国によって特定の別々の作品が大ウケするのか分かりませんが、フィリピンでは『ボルテスV』であるのだそうです。パンフレットが入手できなかったので、そこに書かれているであろう細かな経緯はわかりませんが、ウィキで『ボルテスV』の項目を読むだけで、その人気の絶大さが分かります。
幾つかそこに書かれているエピソードは殆ど信じられないレベルです。例えば、1978年(日本では1977年~1978年の放送)に放送された『ボルテスV』は最高視聴率が58%を記録したと書かれています。その理由として、「当時テレビアニメといえばアメリカ作品しかなかったフィリピンでは、子供たちにとって『ボルテスV』の登場は衝撃的な出来事」とありますが、なぜその最初の衝撃が『ボルテスV』であったのかなどは全く分かりません。他にも諸々の日本の優れたロボットアニメはあったように思えます。
その『ボルテスV』のあまりに熱狂に、反日的な動きが絡んでマルコス大統領が『ボルテスV』を放送禁止にしますが、革命が起きマルコス政権が倒れると『ボルテスV』の放送が再開されます。「ボルテスVを放映させるために革命が起き、マルコス政権が倒れた。」というジョークまであるようです。1999年に『ボルテスV』の再放送が始まると、またもや最高視聴率40%超えとなり大人気が復活します。主題歌を歌った堀江美都子がフィリピンでライブを行った際は、国賓並みの待遇を受けたと言われ、さらに、2006年、安倍晋三総理夫妻のフィリピン訪問時に、昭恵夫人が訪問した施設で若者たちが『ボルテスV』のエンディングテーマを歌ったとウィキに書かれています。異常な人気です。
そして、主人公を人名も合わせてフィリピン人に置き換えた実写版『ボルテスV』の制作が2020年に発表され、先行してまずテレビシリーズが創られることになったと書かれています。その放送開始は2023年ということのようでしたが、それがどのようになったのか、現時点のウィキには書かれていません。ただ、オリジナル・アニメは40話しかないのに、実写版テレビシリーズは全90話もあるとのことで、その始まり部分のエピソードが再編集されて映画となったのでした。それがこの『ボルテスV レガシー』なのです。
映画.comには概ね好ましいレビューが並んでいて、レビューアーの1人は本作鑑賞後に、オリジナル・アニメを改めて見直したと書いています。すると、『ボルテスV レガシー』の内容はほぼまるまるアニメの第1話~第2話をなぞったもので、あまりの忠実な再現ぶりに驚かされたようです。
私は一応『ボルテスV』のリアルタイム世代ではありますが、(『超電磁ロボ コン・バトラーV』、『超電磁マシーン ボルテスV』、『闘将ダイモス』の三作品を総監督の名前から「長浜ロマンロボシリーズ」と呼ぶことがあるようですが)先行作品『超電磁ロボ コン・バトラーV』を見ていて何か幼稚臭さに飽きが来て、その後のロボット・アニメを見ることが無くなって行ったように記憶しています。ウィキを見ると『ボルテスV』は前作では開拓できなかった大人の層までファンに取り込むことができたと書かれていますので、私はその波に乗り遅れただけかもしれませんが、いずれにせよ、私は『ボルテスV』を全く観ていません。『超電磁…』という言葉を聞くだけで、自然に脳裏に『超電磁ロボ コン・バトラーV』の歌の断片が流れます。
そんな私ですが前述のような動機で、海外の日本文化愛の結晶を観てみるために鑑賞に及んだのでした。結論から言うと、多くのレビューアーが絶賛する通り、やたらに原作に忠実で、且つ、肌理細かに作られた作品でした。多くの登場人物が東南アジア系の肌の色の濃さなのに流暢な(しかし、台詞の表現的には結構ぎこちない)日本語を(吹替えなのですから当然ですが)ペラペラと話し、侵略宇宙人までもが同様に(やや収まりの悪い感じの)普通の日本語で地球侵略を議論するなどは、やはり多少違和感が残りますが、それでも優れた作品だと思います。
この吹替えの台詞の微かな不自然さは、吹替えそのものの問題なのではなく、寧ろ、オリジナル・アニメの中の台詞を極力踏襲しようとした結果、現代の時代感や話し方などに合わなくなってしまっている方が原因なのではないかと思えました。(原作を観ていないので分かりませんが、この実写版の忠実な再現ぶりを知った日本の配給側が、吹替えも忠実に行なおうと意識したとしても全く不思議ではありません。)
ボルテスVが第二波の侵略を直接基地に受けて、ピンチに陥った時、操縦チーム5人のうちの3人の母親である指令側の有力者が、ケガを押して(パイロットが全滅して乗り手のいなくなった)戦闘機で出撃し、敵巨大ロボ(ロボなのかどうか私はよく分かっていませんがビースト・ファイターと呼ばれるそれっぽい巨大な存在)に特攻をかけ自爆します。3人の少年達は自分達の無力さ故に眼前で母を死なせてしまうのです。このドラマ・パートがかなりまだるっこく描かれていて、おまけにこの母は当日が誕生日で、前日にサプライズで息子達に誕生日を祝って貰っていたりします。長いドラマ・パートは悲劇を盛り上げるためなのですが、少々中弛み感があります。実は、これも原作愛故で、原作の物語も全くそのような展開になっているらしいのです。
さらにメカの描写は驚愕のレベルで、特に多くのレビューアーが書いている通り、いきなり、日本語版の主題歌が流れる初めての合体シーンは、細部のメカの凸凹がどのように組み合わさってボルテスVになるのかが細かく分かるほどのディテールの凝りようです。神は細部に宿るとはよく言ったものです。メカの描写だけなら『パシフィック・リム』を大きく超え、『トランスフォーマー』シリーズをも超えているように思えます。さらに、ボルテスVは天空剣を振り回す殺陣のような動きをしますし、合体直後などの決めポーズなども存在するのですが、それがアニメどころではないカッコ良さに仕上がっています。十分に『ボルテスV』愛を感じるのです。
時代背景が違うので、主人公達はスマホなどを使っていたりしますし、基地内はどちらかというと最新の『スタートレック』シリーズなどの操作機器群がずらり並んだかっこよさですが、アニメを観ていない私でさえ、この基地内のシーンのカットなども多くはオリジナルに忠実に作られているのであろうと想像がついてしまいます。
よく日本のSFもので敢えてB級にして笑いを狙う作品群が存在します。例えば最近では『大怪獣のあとしまつ』などがそうでしょうし、かなり特撮的なできは良いですが、少々前なら『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』などもそうであるかと思います。(後者は何といっても現在の“世界の北野武”が巨大化してギララと戦うぐらいの話ですので…。)それに比べて本作は、大真面目です。ドラマが冗長なのも台詞が何かギクシャク感を残しているのも、全部大真面目の結果です。それでいて、先述の通り、『パシフィック・リム』や『トランスフォーマー』を超えるような見栄えです。当然ですが、毎年量産される日本の戦隊モノなどのクオリティを遥かに凌駕しています。
オリジナル作品を観ていない私でさえこれほどに楽しめるのですから、原作好きなら、最高に愉しく面白い作品であることでしょう。数少ない他の観客達がそのような愉しみ方でキャッキャ盛り上がっている感じがあまり感じられなかったのが、不思議と言えば不思議でした。例えば、『シン・ウルトラマン』や多くの特撮モノの実写コンテンツが創られますが、最近の『ゴジラ-1.0』の昭和チックなストレート・フォワードの面白さが、ロボット・アニメで再現できた素晴らしい事例であるように思えます。DVDは買いですが、90話もあるという実写ドラマの出来栄えも少々気になります。