229 力積の積算 =夢中夢=

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経営コラム SOLID AS FAITH 第229号
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ご愛読ありがとうございます。第229話をお届けします。

 今回の号は、シリーズ『夢中夢』の第三話です。
 ものを教えることを「仕込む」などと言います。仕込み方の一般的な方法論
は、周知の事実と私も思っていて、当り前の徹底を、研修企画などの品質向上
の手法として捉えてきたように思います。しかし、自分が習う立場になって、
新たな教え方に接すると、そこには学ぶべき点が横たわっています。
 
 習ったことを自分のものにさせるまでのプロセスの効率化は、中小零細企業
でも四年制大学新卒採用が楽にできるようになったこの不況下で、前にも増し
て模索されるようになったと感じています。そんな中の一つの「学び方」の発
見は新鮮でした。今回の号は、プロの振付師の先生による、「学び方」の指導
から気づいたことをまとめたものです。お楽しみ戴ければ幸いです。本文に対
するご意見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感想などへのお返事の
目標納期は5営業日!!
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 本文中に登場する映画『ユメ十夜』は、夏目漱石の『夢十夜』を原作とする
作品です。著者が見た十の夢の話が、各々短編にまとめられた名作です。第六
夜は、運慶が仁王像を彫る場面に出くわした夢についてのもので、当コラムで
は、第49話『コアの形成』に、夢の中の漱石の後日譚が僅かに登場します。
 また、映画『ユメ十夜』第六夜のダンスシーンは、その異色さ故に、各種サ
イトなどでも紹介されているようですので、宜しければご覧下さい。

●第49話『コアの形成』
 http://tales.msi-group.org/?p=90
●映画『ユメ十夜』第六夜ダンスシーンは、
 以下のサイトでは、「techno unkei」として紹介されています。
 http://dancemovie.seesaa.net/
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その229:力積の積算 =夢中夢(3)=

 私が映画『ユメ十夜』に登場する奇妙な踊りの振りを習得したいと思い立っ
たとき、その奇天烈な依頼を引き受けて下さったのは、ダンスの先生ではなく、
業界では有名な振付師の先生だった。初回の顔合わせの際に、先生は言った。
「私も、こんな依頼は初めてだから、どういう風に進めたらいいか考えたのだ
けれども、振りは、映画の中のままに100%一致しなくてもいいんだよね。ナン
チャッテで。映画の場面を見て、市川さんにもできる振りに再構成するね。で、
それを月に二回来て貰ううちの一回目で見せるからマスターして。それを覚え
て貰って、二回目で出来映えを見るから。あ、そうそう。振りは付けたら、付
けられた市川さんのものだから、私は忘れるからね」。

 唖然としたが、取り敢えず、練習の日程設定をしようとすると、今度は、
「月に二回は、あんまり離れていない方がいいなぁ。目標一週間以内に二回っ
て感じで極力設定してね。その方が、どんどん上手くなると思うから」と指示
される。
 
 レッスンの当日。速記のような記号を書きとめたノートを開き、先生はいき
なり振りを始めた。30秒分ぐらいを一気に踊って見せ、「じゃあ、パーツパー
ツ説明するから」と笑って言った。始めようとする先生を制して、私はもう一
度踊ってもらって、それをデジカメに収めた。パーツパーツで習ってメモを取
る。帰宅すると、デジカメの画像を確認し、iPODに編集して移す。移動中
なども繰り返し見て、イメージトレーニングする。
 
 振りを頭に叩き込んだ頃、一週間は過ぎて二度目のレッスンがある。二度目
のレッスンでは、振りを既に忘れている先生に、自分の振りを説明する。する
と、先生は「そこは、本当にそんな振りだっけ。私がそんな風にしたの?そう
かなぁ。それだと見映え悪いでしょ。こういう風じゃないの」などと、最初に
提示した振りを御破算にして、直そうとする。私が、劇中のオリジナルの振り
に言及して説明すると、先生は、「だったらこうしよう」とその場で、最適な
振りを決める。そして、次のレッスンまで一ヶ月間、その振りを反復練習する。
「自分のものになった振り」の重圧は否応なく圧し掛かって来る。五ヵ月後、
ほぼ全編の振りが、紛いなりにも通しでできるようになった。
 
 新卒向けのスキルマップを自社で構築するプロジェクトのその後を、クライ
アント先でヒアリングすることになった。話を聞くと、スキルマップを使った
教育は今までに較べて漏れがなく、速く、教育プロセスとしては文句なしだと
いう。しかし、対象者の新卒に直接聞くと、「詰め込み教育なので、大変だっ
た」、「もっと考えることや創意工夫の余地があったほうが良い」などと言う。
 
 私は怪訝な表情をして見せて、「自分のものにもなっていない知識や技術を、
あなたは創意工夫できるって言うことなんだ。すごいね。それは当然、会社や
現場から、喜ばれるような工夫である訳だよね」と尋ねてみた。
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☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
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【MSIグループからのPR】

最近、面白く読めた本が、幾つかあります。
書き溜めている当コラムのネタにも使われる可能性大ですので、
先行して主なものを紹介してみます。

『先を読む頭脳』
 羽生善治・伊藤毅志・松原仁 著
 新潮社
 新幹線での移動時にキオスクで軽い気持ちで買ったものですが、当コラムの
本号同様に、「学び方」に関して頷かされることが非常に多く見つかりました。

『マジで儲かる5秒前! 
 知らないあなたが大損しているタウンページ戦略法』
 主藤孝司 著
 ダイヤモンド社
 映画『バブルへGO!!…』、『花とアリス』、『秘密』の広末涼子が好きで
あることも少々影響してか、書店で思わず手にとってみました。ネット前提の
話が多いマーケティング系の書籍の中で、全く異色な論点で楽しく読めました。

『中国は日本を追い抜けない!』
 唐津一 著
 PHP研究所
 遥か以前に買って、流し読みをしただけに留まっていたので、読み返してみ
ました。ものづくりにおける「強さ」の源泉が何であるのかと言うことと、マ
スコミ情報などの偏向の実態について、再認識させられることが多いです。

『日本人はどこまで減るか 人口減少社会のパラダイム・シフト』
 古田隆彦 著
 幻冬舎
 サブタイトルは必ずしも適切ではなく、人口減少の本当の理由と現象の実態
を教えてくれる書籍です。少子化や高齢化などについての誤解もいきなり冒頭
でバッチリ指摘してくれる鮮やかさが好きです。

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次号予告:
 第230話 『昨日の感動』 (8月25日発行) 
 顧客満足とは、顧客に良い驚きを与え続けることと言う説明をよく耳にしま
す。それを実際の経営の中で実践していくのは、簡単なことではありません。
その難しさについて、考えてみた号です。

(完)