577 継続の損益 =ホルミシスの魅惑=

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経営コラム SOLID AS FAITH 第577号
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 ご愛読ありがとうございます。第577話をお届けします。

 2024年の最初の号から始まった3回シリーズ『ホルミシスの魅惑』の第3回
をお届けします。ホルミシスは学問領域の名前で、「冷たさ、熱さ、重力変
化、放射線、食事制限、運動など害や苦痛を起こす刺激を少量から中程度ま
で与えることで得られる有益な効果を研究する科学分野」とされています。
端的に言うと、苦痛や体への害があるような事柄のメリットを研究するとい
うことです。

 世の中では好きなことや楽しいことを続けると、結果が出たり成果につな
がったりするるという考え方が増えています。しかし、多くの場合、「好き」
や「楽しい」に関係なく、反復したり継続したりすることでできるようにな
り、できるようになるから楽しくなり、楽しいから結果的に好きになるとい
うのが普通でしょう。好きになって楽しく何かの仕事に取り組んでいる人は、
その状況になってから自分を振り返ってみて、時系列を誤った認識をして、
認知不協和を解消するのだと考えられます。楽しくないことや無味乾燥なこ
とに取り組んでいた過去の自分を無意識が認めたくないからです。

 ホルミシスという概念について考える今回のシリーズの最終回では、何か
の技術体系に関して達人レベルに習熟するための「10000時間ルール」を取
り上げてみます。本文でも説明している通り、その「10000時間」の反復練
習においても精神的に苦痛を伴う「意図的な練習」をすることが重要と言わ
れています。「好き」や「楽しい」だけで何年もの間、「意図的な練習」を
継続することが難しいこと、若しくは逆に「意図的な練習」をする過程その
ものが「好き」や「楽しい」の対極にあることがお分かり戴けるかと思いま
す。

 以前も書いた通り、ホルミシスはミミズや昆虫などにさえ見られる現象で
す。「好き」や「楽しい」に目を取られるあまり、生物として当たり前のこ
とが忘れられていると考えることもできるかもしれません。自社の従業員を
どのように定着させどのように戦力化するか。そんな事柄をホルミシスの概
念の敷衍と共にご一考戴けたら幸いです。ご意見・ご感想をお待ちしており
ます。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!

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その577:継続の損益 シリーズ『ホルミシスの魅惑』(3)

 ふと自分のブログのカテゴリー欄を見ると、劇場鑑賞した映画の感想を書
く『脱兎見!東京キネマ』の記事数が500を優に超えていた。毎月二回以上、
劇場に足を運んで映画を観ることにしている。映画が好きかと問われたら、
それほど好きでもない。わあと心を揺るがしたり、沈ませたりするような自
分にとって価値あると思える作品は年に数本もあるかないかで、時間と金を
無駄にしたと思えるような作品もかなりある。
 
 好きな映画はやたら好きだが、好きになれない映画の方が圧倒的に多い。
映画鑑賞が趣味と評されると全く頷けない。それほどドーパミンが分泌され
ているように感じないが、或る意味、自分の時間と金を賭けるギャンブルに
近い軽度の依存かもしれない。
 
 2008年に始めてから15年を経て500有余件。幾ら書いても、一部のプロの
映画評論家のような俯瞰的な評価が書けない。まして私が愛読した映画評論
家ロジャー・イーバートのピューリッツァー賞を受賞するような珠玉の表現
など到底生まれない。かといって、映画サイトにある一部のレビューのよう
な主張が簡潔で明快な短文も書けるようにならない。観れば観るほど過去作
の情報が蓄積されるので、関連付けができるようになるだけだ。
 
 著書『やり抜く力(GRIT)』の中でダックワースは、熟達者の分析を披露
している。心理学者のエリクソンが唱えた有名な「10000時間のルール」を
まず挙げて、1日3時間なら約10年の練習の継続が必要と説明する。しかし、
彼女は続いて、同様の熟達者でも要した時間の長短にかなりばらつきがある
と指摘する。その違いは同じ練習時間量でも、「意図的な練習」がどの程度
含まれているかに拠るのだという。
 
 (1)ある一点に的を絞って、ストレッチ目標[高めの目標]を設定する。
(2)しっかり集中して、努力を惜しまずに、ストレッチ目標の達成を目指す。
(3)改善すべき点がわかったあとは、うまくできるまで何度でも繰り返し練
習する。これらの条件を満たす練習を戦略的に積み重ねることで熟達は早ま
るという。ご丁寧にダックワースは、多くの場合、「意図的な練習」は精神
的に苦痛であり、1日に何時間も続けることが困難であると付け加えている。

 事業の生産性向上が叫ばれ、人間には人間しかできない価値ある仕事が求
められるだろう。その時に熟達は非常に重要な要素になる可能性が高い。10
年かけても漫然とした練習なら慣れるだけで熟達は覚束ない。その熟達を完
遂するなら精神的苦痛に耐えよとダックワースは言う。中小零細企業が採用
できる人々に精神的苦痛を5年10年耐えるグリットはあるか。ダックワース
の書籍に登場するのは成功者や熟達者ばかりで、真面目に働いても報われて
いないとされる米国のプアホワイトさえ見当たらない。

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『先生、どうか皆の前でほめないで下さい…』 金間大介 著
■『牧水の恋』 俵万智 著
■『「価格上昇」時代のマーケティング…』 小阪裕司 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 MSIグループ 市川正人
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次号予告:
 第578話 『持ち物検査』 (2月25日発行)
 中小零細企業のオーナーを後継する立場の人達の不安や迷いについて考え
てみました。

(完)