573 知的均霑

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経営コラム SOLID AS FAITH 第573号
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 ご愛読ありがとうございます。第573話をお届けします。

 師走に入り諸々慌ただしくなって参りました。当コラムも今年は本号を含め
てあと二回の配信です。世界は「既に第三次世界大戦が始まっている」という
専門家の声を聞こえるほどに戦火で溢れていて、凄惨な状況がニュースで伝え
られる紛争以外にも燻る火種は地政学の示唆する場所に多数存在しています。
前回のご挨拶でも書いた通り、1997年のベストセラー『ジハード対マックワー
ルド』に描かれた世界は、どんどん現実化しているようです。

 先日劇場で観てきたドキュメンタリー映画『世界のはしっこ、ちいさな教室』
は、映画.comの紹介文には「シベリア、ブルキナファソ、バングラデシュを舞
台に、3人の先生の奮闘と学びに目覚めた子どもたちの姿をとらえたドキュメ
ンタリー」と紹介されていますが、非常に興味深い作品でした。学校施設も満
足にないような環境下で、日本で言うと寺子屋の「読み書き算盤」的な初等教
育を行なうことに人生を捧げている女性教師3人の物語です。

 コミックでヒットした『ドラゴン桜』の主人公が、「知的に優れた者は放っ
ておいても勝手に学び成長する。教育は彼らのためにあるのではない。教育は
学びの価値を分からず学びから遠ざかっている者に施してこそ意味がある」と
いうような主張をしています。中小零細企業の現場をみる時、非常に頷ける考
え方で、『世界のはしっこ、ちいさな教室』は視点を世界規模にして同じテー
マを掘り下げています。
 
 実は、今回お届けする第573話『知的均霑』を書くきっかけになった映画
『スーパー30 アーナンド先生の教室』に対する疑問の延長線上で偶然観に行
くことにしたのが『世界のはしっこ、ちいさな教室』でした。全国のミニシア
ターで公開されたマイナーな映画でしたが、非常に話題になり、上映から半年
も経たない今月既にDVDが発売されました。
 
 中小零細企業には大学を卒業していても、小学校高学年の四則演算もできな
いような人材が入ってくることもそれほど珍しくありません。そんな中で中小
零細企業の経営の命運を握る重要なカギの一つは、こうした人材に対する基礎
教育であることが理解されます。今年発行した『24周年記念特別号』と映画劇
場鑑賞感想ブログ『脱兎見!東京キネマ』の『世界のはしっこ、ちいさな教室』
の記事を合わせてお読みいただくと、今回の『知的均霑』をより一層お楽しみ
いただけるものと思います。ご意見・ご感想をお待ちしております。頂戴した
ご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!
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■『世界のはしっこ、ちいさな教室』in『脱兎見!東京キネマ』
 http://tales.msi-group.org/?p=3032
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■『経営コラム SOLID AS FAITH 24周年記念特別号』
 http://tales.msi-group.org/?p=3184
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その573:知的均霑

 尺が長過ぎて封切本数が増えてきたインド映画を観ることはあまりなく、イ
ンドについてすぐ思い出せることは限られている。嘗て島耕作がインドを訪れ
た時、路上には同情を買えるよう親に腕を切り落とされた物乞いの子供が立ち
並んでいた。さくら剛の愉快な著書『インドなんて二度と行くか!ボケ!!―…
でもまた行きたいかも』は楽しいが、読んだら初回でもインドに行きたくなく
なる。どちらも10年以上前の話。しかし、一般の人々の暮らしの風景は、これ
らの話から大きく改善されていないようだ。

 154分の尺でとても映画館で中抜けなく鑑賞することが難しそうで、DVD発売
を待っていた『スーパー30 アーナンド先生の教室』を漸く見ることができた。
天才的な数学者でありながら、貧しい出自のためケンブリッジ大留学を断念し
たアーナンド・クマールが私塾「スーパー30(サーティ)」を始めたのは2003
年。全国の貧しい家庭から選抜した若者30人に食事と寮と教育を与え、初年度
から最難関大学インド工科大学に合格者を送り込んだ。

 インド人の優秀さは世界的によく知られている。20×20のインド式九九の数
学教育についても耳にすることがある。旧英領で英語が堪能である人々が一定
割合でいることも、世界で活躍するハードルを下げているだろう。ネットの記
事は、インド人がグローバル企業のCEOの座に就くことが増えていると報じて
いる。人種的多様性が重視されるそうした企業群で、非白人のCEOに限ってみ
たら、確かにインド人が一定の割合を占めているという。

 既に完全に終焉したらしいグローバリズムがまだ広く信奉されていた頃、ト
リクルダウンという言葉がよく聞かれた。その理論(均霑理論)は、グローバ
ル企業や富裕層に有利な経済政策が経済活動を活性化させ、結果的に中流層や
低所得者層にも富が滴り溢れ出て行き渡るとする仮説である。上から下へと行
き渡る富。ならば知も同様か。
 
 嘗てタイの幼児売春や人身売買、臓器密売の実態を描いた『闇の子供たち』
で、宮崎あおい演じるボランティアは、同僚の現地女性ボランティアから「日
本にいてもやれることがあるはずだ」と告げられていた。優秀な30人を生み出
す努力は素晴らしい。学ぶ機会を渇望する子供達に、知の世界の門を開く行為
は手放しに美しい。けれどもSuper30で端緒を与えられた大きな学びと輝かし
い人生の軌道は、いつか貧しい人々を豊かにするのか。その知はグローバル企
業から自国の貧しい人々にトリクルダウンするのだろうか。
 
 低読解力では就労機会が大きく制限されると言われる近未来。その傾向は既
に社会に散見される。貧困対策に最も顕著な効果を上げるのは、長期的には教
育であるという意見は多い。多くの国々の普通の人々の普通の教育も感動作に
なるように思われる。

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☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『日本再興 世界が江戸革命を待っている』 増田悦佐 著
■『世界の今を読み解く「政治思想マトリックス」』 茂木誠 著
■『震災風俗嬢』 小野一光 著
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次号予告:
 第574話 『改造人間の暗澹』 (12月25日発行)
 今年最後のクリスマス当日配信のコラムでは現場労働者の未来を考える文章
をお届けします。

(完)