561 鳩穴の人々

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経営コラム SOLID AS FAITH 第561号
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 ご愛読ありがとうございます。第561話をお届けします。

 前回の当コラムのご挨拶でも離職率抑制策について少々触れましたが、そ
の後、離職率抑制をテーマに某コンサルティング系企業様主催のウェビナー
でお話する機会がありました。そこの会員企業の経営者や幹部の方々にアン
ケートを事前にとった結果、待遇面の改善や入社後のキャリア展望の明示な
どの対策が打たれているケースが多いようでしたが、効果はそれほど芳しく
なかったようです。

 多くの待遇面の要素はハーズバーグの二要因論では「衛生要因」です。つ
まり、不満を減らすことはあっても、やる気を引き出すものではないという
ことです。さらに「衛生要因」は面倒なことに、その効用がすぐに摩耗しま
す。つまり、待遇をそれなりに劇的に改善しても、その有難味が早晩薄れて
しまい当たり前になってしまうということです。当たり前になってしまった
後に減らせば不満が生み出されます。待遇面を改善すると、やる気を生まな
いどころか、改善結果の状況が少々でも損なわれると、大きな不満の発生要
因になるのです。
 
 キャリア展望の明示もあまり効果が期待できないのは自明です。端的に言
って、多くの無名の中小零細企業には、読解力が覚束ない人材が極端に集ま
りやすいからです。読解力は文字を読んで理解する能力だけではありません。
文字を読んで理解することができない以上、聞いて理解できる言葉も恐ろし
く限られています。当然、将来や未来のことなどを想像する材料である「言
語」が乏しい訳ですから、5年後に揃っているスキルだの10年後の幹部職だ
のの話がきちんと理解される訳がありません。
 
 少々考えればかなり自明のことであるはずなのに、そのような対策に資金
も時間も労力も膨大に投じている企業が多いことが分かりました。そう言っ
た企業の経営者や幹部の方々に、ご説明した離職率抑制策は目から鱗の対策
方針であったようです。巷間に流布している離職率抑制策の多くは、大手企
業の人事政策の延長線上で語られています。中小零細企業の現場に合った身
の丈の対策を提案しています。ご関心を賜りましたらご一報ください。

 今回の号は『鳩穴の人々』と題して、人材のカテゴライズのありかたにつ
いて考えてみたものです。スマホのCMに登場する「あまのじゃ子」も「若い
でまとめないでください」と憤慨していますが、残念ながら、そう言った括
りは、脳の仕組みから考えると必然です。まとめられたくなければ、まとめ
る必要が発生しない人間関係の中に身を置く必要があるでしょう。まとめら
れることを嫌がり、自分の個を評価するように求める人々に、戸惑う組織が
増えているようです。その人々が理解していない構造要因について考えてみ
ました。ご意見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感想などへのお
返事の目標納期は5営業日!!

 尚、この「鳩穴」の表現は過去に第36話『空ろな鳩穴』でも、マーケティ
ング戦略上の標的顧客理解の説明で用いられています。合わせてお楽しみい
ただけるかもしれません。宜しければご高覧ください。

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■第36話『空ろな鳩穴』 http://tales.msi-group.org/?p=77
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その561:鳩穴の人々

 弟子に大手企業と中小零細企業の社員に対する動機づけの方法の違いを、
成立してから時間が経っても全く褪色しないハーズバーグの二要因論で説明
した。大手企業の動機付けは、社員全員を公平に扱って制度や会社そのもの
によるものが多く、どうしても外発的な衛生要因に偏りやすい。それに対し
て、中小零細企業のオーナー社長ができる動機付けは、個々人の為人や努力
を見て柔軟に実施できる。個々にバラバラな方法になっても、それを「不公
平」とは思わない。思う人間はオーナーと意見が合わないのだから辞めて行
く。大手企業が公平さに拘らなければならない理由。それは究極ダンバー数
にあると思う。
 
 大晦日に紅白歌合戦を見ていて『Habit』というヒット曲を初めて知った。
「俺たちはもっと曖昧で複雑で不明瞭なナニカ」であって、「自分で自分を
分類するなよ」と、人間のタイプ別分類などへの嫌悪を謳っている。知り合
いによると、この曲が大ヒットしたため、人事での適性評価結果やマーケ
ティングでの市場分析の際に、人間を価値観や言動でカテゴライズすること
に疑念を抱く若者が増えていて困るのだという。
 
 多様な価値観や多様な性差、多様な生き方を社会は受容すべしと、確かに
テレビでもネットでも執拗に強調されている。正規分布的にではなく、ラン
ダム的に多様なら、個人は皆「曖昧で複雑で不明瞭なナニカ」で、理解が困
難な存在になってしまうだろう。
 
 嘗て地方の私立大学で、私が「就労観教育」と呼ぶ働くことを考える講義
を履修した学生と10年ぶりに会うことになった。「講義で何が一番印象に残
っている?」と尋ねると、「先生が『100万円を貸してくれる人を3人作れ』
と言ったことですかね」と彼女は答えた。それは、ストロング・タイズの
人々こそが、結果的に自分のことをよく知ってくれて、社会の中で繋がって
行ける存在だから。個人の時代だと言われ、自己責任の時代だと言われても、
本当にそんな生活を送っているのは貧乏な下々の人々だけで、富裕層は今尚
富裕層同士で相互に繋がり、場合によっては迷惑も懸け合える関係性を維持
している。
 
「だってこっちの世界に生きている人は、好き嫌いで結婚なんかしないでし
ょ。だから私もさ、30過ぎたら親に言って滅茶苦茶にお見合いしたわよ。そ
れで今の旦那見つけた。」
 某有名大学出身の女性社長が自分の結婚話をしていたのを思い出す。自分
の刹那の恋愛結果も、マッチングアプリの属性分類も、周囲の人々の自分に
ついての認識を超えない。
 
 SNSのフォロワーだのお友達だのは優にダンバー数を超えて、脳はきちん
と把握できない。「多分、あなたを分類して止まない人々の正体は ウィー
ク・タイズの人々か、本音ではあなたをモブ扱いしているだけの人なんだと
思う」と『Habit』を口遊む若者に伝えたい。

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『異形のものたち 絵画のなかの「怪」を読む』 中野京子 著
■『社会が漂白され尽くす前に…』 開沼博 著
■『マンガでやさしくわかる傾聴』 古宮昇 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 MSIグループ 市川正人
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次号予告:
 第562話 『隠れた革新者』 (6月25日発行) 
 ドラッカーのファンの人々がよく口にするイノベーションによる市場創造
について少々考えてみました。

(完)