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経営コラム SOLID AS FAITH 第200話発行記念特別号 第六弾
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目次
1 ご挨拶
2 茜色の残光 ?浮かび上がる下流志向と分かつ道?
3 205話 『変態の約束』 =斜陽の樹影(6)=
4 200話までの道のりを振り返る ?自己満足的タイトル解説?
5 あとがき (市川正人)
6 次号予告
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☆注意:お読みになる際には、枚数がかさみ恐縮ながら、プリントアウトの上
お読みになることを、心よりお勧め申し上げます。
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1 ご挨拶
いよいよソリアズ200話記念号全6回シリーズも最終号となりました。今
回、この記念号を担当するというお話を私が最初にいただいたのは、市川の下
での修行に際し、作業課題の1つとしてでした。その課題以外にも○○業界を
調べてデータを手に入れる!とか、中小企業の人材採用に関するレポートを作
成するといった課題が目白押しで、どれも初めて体験する事ばかりだったので、
比較検討する間もなく引き受けるしかなく、それでも6回シリーズと聞いて一
瞬ひるんだものの、自分のためにもやってみようと取り組む決意をしたのでし
た。
特集のテーマは一貫して内田樹著『下流志向』、中でも私自身のテーマは
「師弟関係」を取り上げてみようと思いつき、ない頭を振りしぼって師弟関係
について考えてみました。時に周りの方から見た市川と市場の師弟関係、そし
て自分の師弟関係体験談等、いろいろな切り口で書いてみましたが、書くこと
は同時に振り返りにもなり、修行が終わった今、改めてその意味を考えるよい
機会となりました。
市川の下で修業を行なって何を身につけたかと考える中で、面白いことに気
が付きました。それは、私の口をついて出る、ものの見方や表現方法です。例
えば、最近初めて会った方に「どんな仕事をしていますか?」とよく聞かれる
ので、市川自身の仕事の説明である、「コンサルタントが匙を投げたり、研修
会社が食い散らかしたりしたような現場に入り込んで後処理をすることですね」
という文句が自然と口をついて出るのですが、これがお客様には「面白い!」
「いいですね?」と受けが良く、お仕事を紹介して下さるケースが増えてきま
した。また、自分で市川に教わったことを話すうち、自らの体験を肉付けして
話すようになり、これも、お客様にはより刺さる言葉として伝わるようです。
修行中には考え及ばなかったことですが、師弟関係の効果が単なる技術や知
識の伝授だけではないことを改めて実感します。
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2 茜色の残光 ?浮かび上がる下流志向と分かつ道?
下流志向に関する本を探している中で、『アメリカ下層教育現場』という本
が目にとまりました。これまで日本の若者の下流志向について取り上げ、考え
てきましたが、“これは日本の将来の姿か?”と銘打った本に書かれたアメリ
カの学校の実態は、日本のそれの数歩先を早足で進んでいるようです。アメリ
カ社会、教育制度、貧困、家庭崩壊という背景により、生徒の授業料が免除さ
れている各高校で、子供達は教育を受けるという意識がなく、学ぶことの意味
すら考えることはないのかもしれないといいます。
著者の林壮一氏は、アメリカ高校の中でも特にレベルの低い学生が通う、チ
ャータースクールの教師を行なうこととなり、教壇に立って、日本文化を教え
ます。集中力がなく授業中座っていられない、授業を受けるという意識が全く
ない学生たちを相手に、工夫を凝らした授業を進め、生徒の夢を聞き出して味
方であることを伝え続け、一人一人と向き合うという手法で、まさに体当たり
教育を行った結果、次第に生徒達は林センセイに心を開きはじめ、物を考える
ことや学ぶことに興味を持ち始めます。
アメリカ留学経験があり、昨年末もアメリカに“帰省”していた市川から、
アメリカの人々の下流志向化を聞きました。知識格差は予想以上に深刻であり、
ショッピングセンターで人の流れを見ていても、本屋に入っていく人はごく一
部の限られた人たちだけ。身なりや会話から入店の予想がつくそうです。駐車
場に停めてある車を見ると、訪米毎に「ボロボロ」の車が増え、貧困も拡大し
ていることが目に見えて分かるといいます。
アカデミー賞長篇ドキュメンタリー部門を受賞した映画、『ボーリング・
フォー・コロンバイン』で描き出されたアメリカの姿はまた壮絶です。コロン
バイン高校で起こった生徒の銃乱射事件。問題の真相は、家庭不和や暴力的な
歴史、銃の所持率が高いことだけでなく、アメリカの地域社会における閉塞感
や行き詰まり感によるものだと指摘されています。
第171話『砂山の運搬』で市川は、無意味な砂山運搬作業が、最悪の刑罰
との話を紹介していますが、意味や意義を感じられないままに教育を受けるア
メリカの高校生もまた、それに似た感覚を味わっているのではないでしょうか。
それゆえ、アメリカの映画でもハイスクールものは決まって羽目を外すことば
かりが描かれているのだと市川は言います。
下流志向が最も進行している『アメリカ下層社会』の舞台となっているチャ
ータースクールにおいて、アメリカという国の底辺に位置する生徒達を変えた
一筋の光、それは、やはり人と人とが向き合うことでした。叱られて、考えて、
行動して、認められて、進んで良いのだと確認できること。これが人々に下流
志向とは別の道を選択させるのではないでしょうか。
参考:
171話 『砂山の運搬』
http://tales.msi-group.org/?p=225&page=2
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3 その205:変態の約束 =斜陽の樹影(6)=
大学の非常勤講師稼業を、今年を最後に辞めることに決めて、最後の講義が
終わった後に、提出すべき書類を片付けた。授業実施状況調査と言うアンケー
ト形式の報告書に記入する。講義の回数はシラバス通りだったか。各回のテー
マはシラバス通りだったか。シラバスの全体的な達成度の自己評価は何%ぐら
いか。執拗にシラバス通りの講義についての記述を求められる。
講義を開始するに当たって、学生との「契約」であるシラバスを学内のネッ
トワーク上にアップすることが求められる。講義の回数や講義方法の具体的な
説明など、事細かに記入するよう求められる。記入に不備があると、添削が入
り、加筆修正が求められる。
「企業の研修もそうですが、参加者の人数や社歴、学力、性格とか、できれば
人間関係やと言ったことまで分からないと、教育なんて企画できないんですよ。
当然、大学の講義だって一緒でしょ。人数も分からない。学年構成も分からな
い。性別も分からない。学科構成も分からない。こんな状況でシラバスを記入
するなんてできる訳がないじゃないですか。
まして、到達目標? そんなことを書ける訳がないでしょう。他の先生方は
それができるんですか。なるほど。もしどうしても貴校がそれを当然と受け止
めるなら、他の方にシラバスを作ってもらってください。講義の台本まで作成
願います。そうしたらそれを読み上げる仕事を請け負うことと致します」。
教務課の担当者が替わるたびに、講義前に毎度同じような議論を繰り返す。
教務課担当者同士でも仲が悪いのか、それとも、ごねる非常勤講師が多数派な
のか、この議論は何度繰り返されても引き継がれることはない。大抵、それな
らばと、初期履修登録段階での人数と学科構成だけが知らされる。
「メンターのパラドクス」なるものが、示唆に富む名著『下流志向』に紹介さ
れている。何かを学ぶ時には、メンターに就く。しかし、これから学ぶ者はメ
ンターを合理的に選び得ない。なぜなら、学びと言うのは自分が学んだことの
意味や価値が理解できるような主体を構成してゆくプロセスであって、学び終
えないと自分が何を学んだのか理解できないものであろうと著者は言う。学ぶ
前に比べ、学んだ後には別人になっていないと、学ぶ意味がないと断言し、大
学のシラバスを「高等教育の自殺の一つの兆候」と呼ぶ。
勉強会サービス開始段階で、「勉強会の成果物は何か」、「勉強会で問題は
解決するか」と、問うて来ない経営者に巡り会った。問わない理由を逆に尋ね
ると、
「勉強するって言うのは、昆虫の変態とかと一緒で、別の人間になることでし
ょ。組織の改善も、社員が今よりマシになった状態に賭けるしかないんじゃな
いのかな。どうなるか端っから分かってるんだったら、皆やってる筈でしょ。
そんなんじゃ、やる意味がないでしょ」と大口で笑った。
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4 200話までの道のりを振り返る ?自己満足的タイトル解説?
200話までの道のりを振り返る企画の最終回では、私がよく間違った解釈
をして市川を呆れかえらせる、ソリアズのタイトルの幾つかを考えてみます。
その真意を知った際、驚きの大きかったものを、私の独断と偏見で選び、紹介
したいと思います。読者の皆様はすでに理解していらっしゃると思いますが、
ぜひ一緒に含蓄を味わいつつ、お楽しみ下さい。
● 200話?205話 シリーズタイトル『斜陽の樹影』
ゆっくりと沈み行く夕日に映し出された樹木の影が、地面を這って鋭い矢印
のように太陽とは逆の方向に伸びて行く。斜陽は確実に落ちて行きますが、私
達はそれを影の動きでより強く実感します。
言うまでもなく「斜陽」は太宰治の没落のイメージです。それも、堕ちるま
まにどうにもならなくなっていく有り様。下流志向の若者達の未来が沈み行く
太陽に重ね合わせられる時、著者である内田樹氏の指摘は、次第に鋭くなって
ゆく影となって、太陽とは反対の方向へ伸びて風景に突き刺さっていきます。
著者の名前である樹が、感じ難い下流志向の進展を鋭く暴きだすイメージから、
このタイトルができ上がったそうです。
● 103話 『フカフカのショッカン=足元の発見(1)=』
靴屋のクライアントでの仕事を通して、お客様が“足”に求めるニーズは何
かを探ろうと1?2ヵ月に1度通っているリフレクソロジーでは、どの店も似
通ったサービスで、足をマッサージしてもらう「触感」以外に特段得られるも
のもなく、顧客は黙って足を揉ませ、金を払っている。足の「触感」に対する
付加価値は作ることは不可能なのだろうかと市川は考えました。
それは「付加が不可な触感」。つまり、タイトルは『付加不可の触感』が正
しい表記です。お客様が本当に求めるニーズは何か、それに対する付加価値と
は何かについて疑問を投げかける文章を、リフレクソロジーのマッサージの感
覚をかけて、『フカフカのショッカン』と表現したタイトルです。
http://tales.msi-group.org/?p=154&page=2
● 169話 『ヘイスタック・ネイル』
中小零細企業の経営戦略では、自社の強みを徹底して伸ばすことが必要です。
人間は金槌を持つと何でも釘に見えてくると言いますが、経営課題の中の釘を
打つには、万能な方法などなく、金槌を見極め、釘にきちんと当てることが必
要であり、とにかく金槌を振り回してでも釘を打つ努力をしなければならない。
haystack needle=干し草の山の中の針。つまり、“探してもなかなか見つ
からないもの”という英語表現で、スティーヴィー・ワンダーの名曲「Living
for the city」の歌詞にも、
To find a job is like a haystack needle
という一節があります。このneedle(針)を文中に出てくるnail(釘)に変え
たのがタイトルです。それは本来探してもなかなかないはずの、金槌がぴった
り合う経営課題なのに、金槌を振り回すうちに釘に当たってしまうこともある
不思議を指したもののようです。
http://tales.msi-group.org/?p=223&page=2
● 195?196話 シリーズタイトル『サウンドスペース』
シリーズの中では若手と中堅のサラリーマン二人と隣り合った市川の話が、
各々1話ずつになって紹介されます。彼らと対照的に好きな時に仕事が調節で
き、買ったばかりのお気に入りのiPodで音楽を楽しむ市川。独立してからスト
レスが減り、病院に行くことも減ったという今の生活を考え、その中でお客様
に選ばれる付加価値とは何かを、改めて考えている文章です。
実は、ここでいうサウンドとは、音のことではなく、「健全な」という形容
詞です。iPodの音楽の記述が多いことから「音」を敢えて連想させているので
しょう。世の中からの評価で「健全」とされる働き方とは、新幹線の中で隣接
する二つの席のスペースのどちらにあるのかを問いかけつつ、忙しいサラリー
マンとの対比を情景的に表現したタイトルです。
http://tales.msi-group.org/?p=250&page=2
http://tales.msi-group.org/?p=251&page=2
記憶が曖昧ですが、“絵画の価値の4割はタイトルで決まる”という表現を
聞いたことがあります。同様にソリアズにつけられたタイトルも、市川がネタ
を熟考し、一気に文章を書きあげた後、その核となる部分を集約して最後につ
けることが多いそうです。タイトルを知ることで文章の指すところが現出し、
時に逆説の意味も含んで気付きを与える。これらのタイトルの意味を考えるの
も、ソリアズの奥深さを堪能する一つの方法です。
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5 あとがき (市川正人)
頭の中に浮遊する小さなネタの数々が、既にどこかの号に使っていたような
気がして、新しい原稿を書いている最中に、ブログで検索をしてみることが時
々あります。調べる習慣は念のため維持し続けているものの、不思議なことに、
今まで一度として使用済みと判明したことはありません。何話に到達したら、
この状態が維持できなくなるのか、ぼんやりと考えこみます。
当コラム創刊以来初の6話連続シリーズをお送りする、一連の200話達成
特別記念号も、漸く終わりに辿り着きました。市場真理子が提出する原稿を校
正しながら、ソリアズ200話の歩みを自分でも振り返ってきました。彼女が
200話までの道程を期間に区切って分析したら、直近の号は冷徹な視線が感
じられると言います。
200話の記念特別号を発行する傍ら、その後の号の原稿を作成し続けて、
ストックの完成原稿は215話に到達しました。構成をメモした状態の「原稿
未満」は、これ以外に10話ほどあります。206話から215話の完成原稿
を読み返すと、やはり、市場真理子の言う「突き放した感じ」は否めません。
「なら、たまには熱血っぽいのを書いてパターンを崩してやらなきゃ」などと、
大人気ない志向で以降の号の構成に臨みます。
こうして、220話過ぎまで続く「突き放した文章」の連続はいつか、幼く
拙い、しかし、何やら変に気張った文章の乱入によって唐突に終わるのかもし
れません。それは今から一年近く後のことで、その頃にはまた私は何かに感銘
を受けたり呆れたりしながら、そこから先の文章を書いていることでしょう。
私の日常の一部となったソリアズ発行は、こうして各号に盛られた志向や指
向の移動平均のような軌跡を描きながら、緩やかに淡々と進められています。
市場真理子の解き明かした変遷の先にある私の変化や変質をも、読者の方々が
今後楽しんで戴けるのであれば光栄です。今後ともよろしくお付き合い下さい。
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを企画する」
合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
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6 次号予告
第206話 『ラスト・ラスツ』 (8月25日発行)
人の本質を捉えることがビジネスの要諦と言われます。捉えても、それをビ
ジネスの成果に反映させることが困難なことはままあります。インセンティブ
性の高い営業部隊が提供する顧客満足を引揚げる特命を受けて、営業担当者の
動機付けと成果の関係の調整に手を焼く話をまとめてみました。
(完)