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経営コラム SOLID AS FAITH 第200話発行記念特別号 第四弾
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目次
1 ご挨拶
2 弟子の戯言
3 203話 『動物の覚悟』 =斜陽の樹影(4)=
4 200話までの道のりを振り返る?得心の時代?
5 あとがき (市川正人)
6 次号予告
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☆注意:お読みになる際には、枚数がかさみ恐縮ながら、プリントアウトの上
お読みになることを、心よりお勧め申し上げます。
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1 ご挨拶
学生が会社の仕事を体験するインターンシップが就活学生の間で流行ってい
るそうです。1日だけのインターンシップを20?30社受ける学生もいれば、
選抜で2か月程海外滞在に行く学生もいるそうです。学生はネット上で参加し
た企業のインターンシップについて感想を書き込み、内容・対応の可不可で企
業を格付けします。他の学生はその情報を頼りにインターンシップに参加する
企業を選びます。中でも、職場の日常をごまかさずリアルに見せてくれ、仕事
の厳しさや大変さを体験できる企業には、人気が集まっているといいます。
情報があふれ、売り手市場である就職戦線という環境下、学生達はインター
ネットという不確かな情報源で、そして、インターンシップ実施企業という限
定された条件の中で、今後の進路を自分たちの物差しで測り、評価し、選択し
ています。そのような狭い世界の中で厳しさを求め、選択をした結果、彼らは
何を学び、経験するのでしょうか。
今回ソリアズ200話記念号でシリーズとして特集している『下流志向』で
は、少ない知見の「短いモノサシ」で物事を測る子供や若者の姿が描かれてい
ます。シリーズ第四弾となる今号では、この「短いモノサシ」を無理やりに引
き伸ばす働きをする師弟関係について、市川は元弟子である私の修行の有様を
コラムにまとめ、私、市場は市川の下での修行体験記をまとめてみました。ど
うぞ、お楽しみください。
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2 弟子の戯言
私が市川の下で修行をしようと考え始めたのは、昨年秋のことです。会社で
社内講師の仕事をしつつ、会社の外でも講師のような活動をする事が多くなり、
持てる時間をより多く人材育成に費やしたいと考えていた頃でした。丁度その
時期、知人に市川を紹介され、当時抱いていた人材育成の疑問点に、予想外の
方向からあっさりと答えを言われた事、また、その考えや物の見方の根拠をも
っと知りたいと思うようになった事がきかっけで、弟子入りをしてみようと決
意したのでした。
修行を始めて、“弟子”が行なうことの多さに驚きました。同行して勉強会
をじっと見て、師匠が何を考えて言葉を発したのか、何の意図があってこの受
講生に質問を投げかけたのか。さらにどのように答えを返すのか。勉強会の時
間配分や、皆が議論している時の態度はどうしているか。ひたすら観察する。
終了後に師匠に質問し、彼の意図を自分の仮説と照合していく。その他に、紹
介された本を読む。映画を見て感想を述べる。師匠が北海道から東京に到着す
る時間をみて空港で待ち、移動時間も話を聞く。
睡眠時間をうまく確保できず、ぼーっとした頭で必死に勉強会の様子を観察
して、思いついた事を質問する。内容について意見を述べてみる。すると、質
問には「すぱっ」と答えが返ってきて、自分の意見には「ずばっ」と訂正が入
る。慌ただしく過ぎる日々に、何に向かって時間を費やしているのか、何を自
分が求めているのか分からなくなるほど、ひたすら話を聞き、乗物に酔いやす
い私が、いつも酔いと戦いつつ、新幹線の移動中もひたすらメモを取っていま
した。
修行の中でとりわけ難しく、手応えが感じられないことといえば、「師匠と
価値観を共有する」ことでした。日常の会話の中、ソリアズの文章、一連の行
動から、「独立事業者とは」「経営者とは」「人材育成とは」を学びとってい
きます。しかし、30年間積み重ねてきた価値観を変えるということは予想以
上に難しく、理解したつもりでいても、「お客様との関係性が何よりも大切だ」
「個人事業主になるんだから、友人知人が半減することぐらいは覚悟しろ」
「独立したら自分で仕事の仕方も生き方も選べ」という価値観に、なかなか行
動が伴いません。深夜まで「バカか」「ふざけるのもいい加減にしろ」「一体
いままで何を学んできたのか」と、叱咤のメールが届き、ますます眠れぬ夜を
過ごすのでした。
修行は終了し、目標としていた到達点に程遠い現在の自分を考えると、どこ
をどうしたら良かったのか、何を得たのか分からなくなることもあります。し
かし、ふとした瞬間、例えば営業に行ってお客様と話していたり、勉強会の骨
子を作成したり、勉強会を運営して受講者と会話している中に、市川ならこう
するだろうな。市川はこう言うだろうという、考えの筋のようなものが、自分
の考えのような姿をして現れることがあります。それは、真似をしているわけ
でもなく、かといって3か月前の私なら全く考えもしなかった物の見方。到底
師匠の考えを部分足りとも習得したとはいえないものの、少なからず、沁みこ
んでいるものがあるとしか説明がつきません。
内田樹著『下流志向』では、師弟関係について、その関係の中で、師匠は越
えられない壁であり、技量や何を知っているかという数量的な問題では測れな
い絶対的な存在であるとしています。逆に師匠の技量を弟子が自分の物差しで
測り、越えたと思った瞬間にその成長は止まってしまう。師匠とは絶対的な存
在であり続ける、それだけでいいのだといいます。早く師匠を超えてみろと市
川にさんざん言われ、むきになっては玉砕していた私ですが、予定した学習リ
ストの中には入っていない経験や想いこそが、修行で得られる大きな財産なの
かもしれません。
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3 その203:動物の覚悟 =斜陽の樹影(4)=
「格差社会について雑誌を読み漁っているですって。ハヤリの下流とかの話で
すか。くだらない。色んな人が色んなことを言ってますし、その中には私が知
らない事実も沢山含まれているでしょう。けれども、私の知る限り、病気や障
害などで本当に働けない僅かな人を除いて、世の中にいるのは、上流と下流の
人々ではなくて、努力する人とぐうたらの二種類だけです。その病気と言う人
だって、病は気からとだって言う訳ですからね」。
私が持っていたビジネス誌の特集に眼を通しながら、クライアントの社長が
言う。これで何人目だろうか。中小零細企業のオーナー経営者を識別する踏み
絵のようなものかとさえ思えて来る。
雇用融解と言う現象があると言うので非正社員の立場について、弟子の研究
テーマにしてみた。派遣社員の立場が弱く、不当な扱いを受けていると言う。
特に請負系の作業は貧困化の温床となっていると指摘されているらしい。
「派遣会社って派遣社員を食い物にしている構造ってあると思うんですよ」と
弟子が言う。
「この雑誌の記事に言うように、派遣社員も下流の人と言うカテゴリーなら、
下流の人が搾取されている構造ってことね。まあ、自分の仕事選びを最終的に
人任せにしている部分はあるのだから、搾取だとして原因の一部は自分じゃな
いのかな。しかし搾取ねぇ。鎖で繋がれている訳でもないのに、どうしてその
下流と言う人達はその状況に甘んじてるんだろ。逃げたら良いんじゃないのか
ね」。
そんなことしても、他に仕事がなかったらすぐに干上がってしまう。大体に
して、自分が如何に搾取されているのかを知らないのだと、弟子は私の疑問に
応じる。
社会人十年目を待たず、生計を立てるに足る金額をくれるクライアントの見
込みもないのに、正社員の定職を捨て、弟子は独立すると言っている。
「下流ではなくて、ぐうたらなだけだって言う社長の意見が多いのは教えたよ
ね。ぐうたらな人を集めて、ぐうたらな人を使って、利益を上げる方法につい
ての依頼って山ほど来るよ。山ほど来るから、その勉強して食って行けるよう
に成りたいんじゃなかったっけ。それって、自分も「下流喰い」に加担するこ
とじゃないの。
例の凄い本『下流志向』で「穴だらけの世界観」の話を読んだでしょ。大学
でも社会に出てからも、そういう風に過ごして来た自分を反省したんでしょ。
あの本の分類によれば、既にマインド的には下流だった訳だよね。その上、会
社辞めちゃうんだから、自分の時間と体力と貯金まで全部注ぎ込んで、ノウハ
ウ習得しなきゃ、まさにこの雑誌で言う下流の生活だよね。で、上手く行った
ら「下流喰い」な訳だ。
まるで、どこかからか陽も当たって雨も降ってくるから育っていられる植物
でいるか、頭使って、動き回って、それを喰らう動物になるか。そんな感じか
な」。
弟子の顔を見つめながら、半分独り言のように言った。
二元論は分かり易い。どうせ育てるなら獰猛で俊敏で生き残る動物を育てた
い。
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4 200話までの振り返り?得心の時代?
中小企業には、特有の企業論があると感じていた市川は、独立後、その考え
が現実に即していたのだと実感するようになりました。人材紹介業に携わった
経験から、その考えに、企業を人の切り口から見る、すなわち、人がどのよう
に企業に作用するのかという視点が加わり、ソリアズの70話から110話ま
では人材ネタについて書かれた号が数多く登場します。
その後、いよいよ自らが合資会社の経営を行う立場になると、ソリアズの文
章にも少しずつ変化が見えはじめます。111話から150話までを振り返る
と、事象の切り口は、今までの「人を中心に企業を見る」という視点から、次
第に「企業の枠で経営者を見る」視点に変わり、内容にも経営の本質を探究す
る文章が増え始めます。
この頃の市川は、自身が経営者となったため、今までは想像や仮説で捉えて
いた経営者の心情が理解できるようになって来ました。つまり、経営者によく
見られる「不安」「孤独」「猜疑心」という心情を、初めて実体験として理解
したのです。この心情が理解されないため、幹部からは「変わってる」「奇人
変人」と揶揄される社長が多く、経営者は何か満たされないものを持っている
事も実感します。
また同時に、自分と同じように、なりゆきで経営者になった人、満を持して
経営者になった人、勢いで経営者になってしまった人と、一口に経営者といっ
ても、様々なタイプが見えてきます。ビジネス誌『商工にっぽん』編集者時代
に多く接してきた経営者像は、その中でも危機意識と向上心が強く、知識を貪
欲に吸収し、それを行動に反映させている方ばかり。しかし、その対極には、
経営意識が低く、自社が置かれた状況も十分に把握できていない経営者も多く
存在する。そのような認識を持つに至りました。
このような視点の変化は、ソリアズの文章にも次第に滲み出し、この時期の
文章からは、企業と言う枠の中での経営者の存在のあり方に着目するコラムが
増えていきます。以下に、特徴的な号をご紹介致します。
第111話 「眼下の黒林」
倒産社長の手記や、体験を聞くセミナーが多くの経営者を惹きつける。市川
自身も、公園や道の片隅で寝ている浮浪者を見て、何かを一歩踏み違えば転落
するかもしれない自身の姿を写し見る。市川が小学生の修学旅行で夜景見学に
行った際に見た、山道で片方ライトが壊れたバスを恐ろしい形相で操る運転手
が持つ、転落の結果に戦きながら必死に避けようとする危機感。それこそが経
営者を突き動かして止まない心の奥底からの響きである。
http://tales.msi-group.org/?p=162&page=2
第118話 「官軍のいきさつ」
荷主の不正を告発した結果、負債を抱えて廃業に追い込まれた倉庫会社社長
がいる。会社経営の鉄則は、「ゴーイング・コンサーン」。企業はその存続価
値を周囲のあらゆる関係者に等しく認められてこそ存続できる。だからこそ、
その関係性により築いた価値を自ら崩す倒産は、何があっても絶対に避けなく
てはならない。世の中、正義や理想だけでは食っていけない。生き残り、力を
蓄えた者だけが、自らの都合を他者に含ませられる。
http://tales.msi-group.org/?p=170&page=2
第132話 「気休めと言い訳」=林檎の教え=
社長が経営方針をはっきり示さないから、社員が振り回されてやる気が起き
なくなると嘆く幹部社員がいる。先に何が起こるか分からない中小零細企業で、
方針を決めることこそ、その通りにならなかった時、社員のやる気を損ねる。
自身も5回の転職でキャリアアップをした男として雑誌に紹介されたが、いつ
もその時その時やらねばならない事を果たす選択肢を選んできただけである。
中小企業経営者の選択と、経営者の想いを理解できていない幹部社員を、経営
者の視点で見つめている。
http://tales.msi-group.org/?p=184&page=2
このように、市川自身が経営者となり、経営者に共感してその心情を書き出
したものや、他の経営者を観察してその実態に気づいたこと。また、経営者の
視点から幹部社員を見て書いたもの等、相対的に経営ネタやマーケティングネ
タが増え、より経営の本質に近づこうとする視点が加わった時代でした。その
後、独立して多くの企業の内部を定点観測するようになると、市川の物事の捉
え方はさらに変化し、150話以降では、世の中を客観視する文章が多く見ら
れるようになります。次回は振り返りの最終回として、150話から200話
までをご紹介いたします。
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5 あとがき (市川正人)
世の中に「下流」と言う言葉が流行ったきっかけは、間違いなく三浦展氏に
よる『下流社会』だと思います。三浦展氏の『マイホームレス・チャイルド』
や『ファスト風土化する日本』は、何度も読み返した本です。20歳の上京当
初、時々書店で手にした『アクロス』の編集長は三浦展氏でした。当時の私に
東京での「タウンウォッチング」の楽しみを教えてくれた『アクロス』の都市
を観察する視点が、彼の著作には感じられるような気がします。
三浦展氏を最も有名にした著作は『下流社会』だと思いますが、私はこの本
を買っていません。書店で手に取り、流し読みをしてみて、何か違和感を覚え
たからです。その違和感が、今号の『動物の覚悟』の冒頭に現れる、「努力す
る人」と「ぐうたら」の二元論の世界と、微妙に『下流社会』が描く世界がず
れていることによるものと、その時点では気付きもしませんでした。その違和
感が何であるかが分かったのは、当に『下流志向』を読んでからです。
ソリアズの第107話『ネガティブ・フィードバック』には、没落を危惧す
る富裕層の家族の話が登場します。札幌の富裕層が集まる幼稚園では、ベンツ
で子供を送り迎えする親が何人も見られますが、必ずしもその子らの躾は良い
ということはありません。我侭な子、挨拶が全くできない子など、多々存在し
ます。逆に、大ヒットマンガ『ドラゴン桜』にも登場するように、東大の学生
は富裕層の子供ばかりでもありません。つまり、『下流社会』に描かれる所得
格差などは結果の問題であって、その背景には『下流志向』にも描かれる、
「努力する人とぐうたら」の世界観が横たわっていて、“下流”を捕捉するな
ら、「志向」の方が着目すべきことに思えるのです。
『下流志向』を読んで、つくづく思うのは、私の仕事もかなり「努力する人と
ぐうたら」の二元論に支配されているということです。多くのクライアントは、
「ぐうたら」しか集められないような求人力なのに、「努力する人」で組織を
埋めなければ経営が危ういため、「ぐうたら」を「努力する人」に変換するシ
ステムの開発に必然的に着手します。「どんな酷い奴が入っても、取り敢えず、
遅刻と欠勤をしないようになって、一ヵ月後には戦力になるような仕組みが欲
しい」と極言する社長も居ます。
一方で多くのクライアント企業のお客様の方は、自分の欲望に歯止めが利か
ない「ぐうたら」であると、何人もの社長が言います。つまり、「ぐうたら」
を喜ばせて収益を上げ、その収益で社内の「ぐうたら」を「努力する人」に変
換する仕組みが中小零細企業と呼ぶことができるということです。
週末に帰札すると、PCのゲームをしたり、DVDを見てばかりいて、一日
二日を過ごします。残った夏休みの宿題に慌てふためく子供のように、上京直
前になると集中して仕事をする。こんな私は社長兼任の社員である自分自身を、
毎週末「ぐうたら」から「努力する人」に刹那的ながら変換しているのです。
参考:ソリアズ第107話『ネガティブ・フィードバック』
http://tales.msi-group.org/?p=158&page=2
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを企画する」
合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
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6 次号予告
200話記念号連続6回シリーズ連載も残り2回となりました。次号では、
今号に引き続き、コラム『斜陽の樹影』シリーズ第5話『互助の始まり』をお
届けします。市川の独立3年目に起きた経営危機を振り返り、クライアントに
危機を救われたという経験をもとに、リスクヘッジについて、信頼できる他人
との関係性がいかに必要であるかを考えます。
また、私、市場は、引き続き“師弟関係” について考える中で、次号では
視点を変え、今号で描いた泣き言を言いたくなるような市川との師弟関係が、
第三者の目にはどのように映っていたのかを考えてみます。
また、ソリアズ200話までの歩みを振り返る企画では、経営者の心境がよ
りリアルに理解できるようになり、仕事柄多くの企業を定点観測で観察するよ
うになった市川に訪れた或る種の厭世観のような心境が、ソリアズの文章にど
のように影響していったかをご紹介いたします。どうぞご期待下さい。