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経営コラム SOLID AS FAITH 第200話発行記念特別号 第二弾
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目次
1 ご挨拶
2 市場コラム『飽きない旨み』
3 201話 『不愉快な穴』 =斜陽の樹影(2)=
4 200話までの道のりを振り返る?胎動の時代?
5 あとがき (市川正人)
6 次号予告
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☆注意:お読みになる際には、枚数がかさみ恐縮ながら、プリントアウトの上
お読みになることを、心よりお勧め申し上げます。
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1 ご挨拶
みなさまこんにちは。ソリアズ200話記念号、全6回シリーズの第二弾を
お届け致します。私、市場(いちば)は、人事教育コンサルタントという仕事
がら、教育研修会社の方や企業の教育担当者の方と話をする機会がよくありま
す。近頃の話題は、入社2か月が過ぎ、現場になじみ始めた新入社員について。
「今年の新入社員は、例えば座る姿勢について注意をしても、直さない」。
「君に注意したんだよ言うと、あ、そうなんですかと座りなおす」。「それが、
わざとやっているわけでもないんだけど、注意されたからという危機感もない
んだ」。
昨年に増して「訳のわからない」若者に、苦戦している近況を多くの方から
伺います。
今回の200話記念号シリーズでは、内田樹著『下流志向』をテーマとして
取り上げています。学ばない子供と働かない若者は、なぜそうなってしまった
のか。多くの方に意味不明で片づけられている問題に、今までにない仮説と検
証で、大胆に切り込んだ名著です。その著書を、さらにコラム形式で考察して
みました。皆さまおなじみの、日常の題材から拾い問いかける市川と、下流志
向で取り上げられる世代に年齢的に近く、環境も身近にある私、市場の考察の
対比も併せて、お楽しみください。
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2 市場コラム『飽きない旨み』
前回は下流志向のアンチテーゼとして挙げられる師弟関係のきっかけを、私
の体験を交えつつご紹介しました。ここから後3回は、同じく師弟関係につい
て、切り口を変えて考えてみたいと思います。
「学ぶ」という言葉は「まねる」から派生しているように、師の言葉通り、
模倣することから始まります。その「守」「破」「離」の「守」の段階を、現
在の子供と若者は経験しない。それが下流志向を社会へと流出させる原因にな
っていると、『下流志向』の著者内田樹は考えています。
シリーズ2回目となる今号では、下流志向について考察する上で、「守」を
行なう時期に学ばずに過ごしてきた子供たちが、社会に出た後、どのような存
在となっていくかに目を向けてみたいと思います。
『飽きない旨み』
私の祖父母は長崎で食堂を経営していました。70歳になる直前まで、早朝
に車で店に出ていき、朝9時から夜22時まで、年末年始以外は無休。私も長
崎に帰ると、材料の仕込みや出前を手伝うのが当たり前の事となっていました。
そんな祖父母は戦後熊本から長崎に出てきた当初、店を始めるにあたって、
祖母の兄の旅館に住み込んで働き、経営やお客様との付き合い方、仕入れ等を
体得していったそうです。軍人一家に育ち、商売のいろはどころか、働いた経
験すらない祖父と、家庭に入って土いじりと子育てしかしていない祖母。親族
とはいえ一家まるごと住み込みで厄介になりつつ、商売を教わっていくために、
寝る間も惜しんで働き、この時代が一番辛かったと、後年一度だけ話していた
ことがあります。
修行期間を経て、晴れて二人が始めたのは、広さ4畳程度の甘味屋でした。
修行の甲斐もあって次第に店が軌道に乗り出し、メニューを増やし甘味屋は定
食屋へと変わり、お客様が増えるに従って市内に3店舗、従業員も1店舗あた
り住み込みで20名近くに増えました。その間も祖父は出前担当、祖母は調理
場に立ち続け、時に映画館を貸し切りにしてお客様を集めて大判焼きの早食い
大会を開催するなど、商売は盛況だったようです。
祖父母の影響もあり、私は社会人になって飲食業に入りました。その頃の仲
間と言えば、今でもほとんど飲食業界で働いていますが、先日、すでに退職し、
実家の飲食店を継ぐために富山へ戻った同期から連絡がありました。
給料はよくなったけど、自分の時間がないんだよ。店も、親父(社長)から
指図される事が多すぎて対応しきれない。経営環境も悪くて、売上もぱっとし
ないし。昔と変わらない愚痴。自分の店なのに?何でもできるじゃない。私が
そう言っても、彼の選択肢には「何でも」が浮かばない様子。会社の組織を出
た今も、昔と変わらず、漫然と毎日の時間をすり減らしていっているように感
じられます。
内田樹著『下流志向』では、「守」「破」「離」の、基本形をじっと学ぶ
「守」を経験することなく、物事を自分自身の短いモノサシで判断する若者が
増えていると指摘しています。「守」の時期に師匠の動きをじっとコピーして、
まねることで、やがて自分ならではの型が生まれてくる「破」。この段階を経
なければ、自分なりの道を選ぶ選択肢はとても少なく、世界は狭い。それは時
に企業から見ると、言われるがままに転勤に応じ、サービス残業にも暗黙の了
解で従う労働力となる。低賃金で働かせ、生活費に困窮すると系列会社でロー
ンを組ませ、搾取を続ける。やがて労働力だけではより安価な海外に太刀打ち
できなくなり、中には上顧客としてローン会社や娯楽産業の搾取の対象となる
負のスパイラルが存在するのだそうだ。
すでに職場や従業員という資源があり、近くに先代という見本がありながら、
働く意味が見出せないと嘆く彼とは対照的に、休みなしで働いていた祖父母の、
深夜に帰宅して、いつも二人で売上の勘定をしながら、店のこと、家族のこと
について飽くことなく話していた姿を思い出す。
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3 その201:不愉快な穴 =斜陽の樹影(2)=
「『雑用にツツシム』?。それは、『イソシム』ですね、『イソシム』。じゃ
あ、音読は終わりです。小冊子はテーブルに置いてもらってと。テストの質問、
いいですか。私はここ数日間、御社を見学しました。で、アルバイトの方々の
動機付けとして、ジョブ・エンリッチメントよりもジョブ・エンラージメント
を優先すべきと感じました。私がそう想定した理由を当てた上で、論評して下
さい。私を唸らせてくれたら、合格です」と、いきなり私が言い出すと、テー
ブルを囲む勉強会参加者は絶句して俯く。
各人の前には『人材育成のレポート』と題した小冊子が置かれている。数年
前、或る社長から、時々に私が口にする人材育成の考え方や理論を全部まとめ
たような本を探してくれと言われた。書店を訪ね回るが、良い本が見つからな
い。覚悟を決めて自分で書くことにした。ゴールデン・ウィークを全部費やし
てまだ足りず、週末に書き足して6月半ば、テキストファイルで91KBの『人
材育成のレポート』が完成した。クライアント各社に好評で、勉強会の教材に
なることも増えた。
勉強会のテーブル脇でニヤニヤしている幹部に目配せし、俯く参加者に私は
告げる。
「部長は、どうも、このレポートがとても勉強になったと、気に入って何度も
読んでいて、『アルダファのERG!』とか言っても、いきなりそのページが開
けるらしいです。皆さんは、このレポートを教える側になる訳ですよね。どこ
を聞かれても答えられるぐらいにならなくて良いんですか。最近、英語にもな
っているらしいですが、まずはスドクです。漢字一文字まで、読み間違わない
ようになって戴きましょう。徹底的にやりますよ。行間まで読めるようになれ
との部長のお達しですから。部長は、読む毎に、2ページに一回ぐらいは新た
な発見があるそうです。そうなって戴きましょう」。
若者達から見た新聞の外交面や経済面は、全体の三分の一ぐらいが意味不明
の言葉で埋め尽くされているのではないかと、何度も読んだ名著『下流志向』
は指摘する。若者は意味が分からないことにストレスを感じないから、それを
理解する動機付けが働かないと言う。若者から見える世界は、意味の穴だらけ
であり、そのことに不安を感じずに生きることができる。「自分の知らないこ
と」は「存在しないこと」にできる。著者にも余程驚きだったのだろう。何度
も恐ろしい指摘が重ねられる。
不惑はとうに過ぎて、未だ自分さえ捉え得ない。世の中分からないことばか
りで、本当に分かることなど多分決してない。だからこそ、発見することや知
ることを苦にならず続けられる。
PDCAのサイクルを回せと色々な本にある。就活の行動原理にまで、PD
CAを紹介する著作さえある。なのに、PDCAの好例は私の周辺では全く見
当たらない。回すどころか始めることさえできない。「分からないことが多す
ぎるから、計画など立てられない」らしい。面倒なので、分からない事前提の
「仮説と検証」を教えることにした。
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4 200話までの道のりを振り返る?胎動の時代?
今回はソリアズ創刊から70話までを振り返り、初期の市川の考え方を探っ
てみましょう。前回の記念号第一弾でもご紹介しましたが、実はこの時期のソ
リアズ、会社員時代にビジネス誌の予備原稿として書きためておいたネタが元
になっているのです。そのため、価値観としては会社員時代そのままで、さら
にコラムの形式も、『商工にっぽん』編集者時代のままの短い文章でした。
この時期、市川は今まで自身が学んできた経営論、世の中で言われるビジネ
ス論について、ある疑問を持ち始めていました。どうやら一般に言われる経営
論とは、大手向きのものらしい。それに対して、約80万社と言われる中小企
業の多くでは、その理論が通用しない。試しに取材に行った中小企業で聞き出
してきた価値観を元に、記事を書く。セミナーを打つ。すると、なぜかウケる。
世の中の多くの会社の現実には、大手向けのビジネス論と異なる中小企業独自
の経営論が介在しているのではないだろうか、と。
例えば、当時話題だったビジネス・エシックス。セクハラ対策は意味がある
のだろうか。商売とはもともと欲得づくなもの。対外的アピールの必要が少な
い中小企業の現場に、倫理は必要なのだろうか。市川は紀伊国屋のビジネス書
のコーナーで、扱うテーマについて、どの本も当てはまらない現実に困惑し、
悩んだ事もあるそうです。同じ様に、人事制度、経営理念、アンケート調査…。
市川が中小企業における有用性を疑ったものは、多々あったようです。
こうして、市川の中で少しずつ独自の中小企業論の基礎ができ始めます。た
だし、この頃はまだ頭の中で考えていた程度。常に意識していないと忘れてし
まうくらい、まだまだ市川自身の意識にも大手の経営論が根強く浸透していま
した。そんな中でも、市川の中で中小企業経営論として昇華し得た内容だけが、
この段階のソリアズとして結実していたことになります。よく読み返すと、テ
ーマも大枠の設定で、経営論との重なりが大きくない号も散見されます。この
中小企業論が少しずつ実感に変わっていったのは、自身が中小零細企業家とし
て実体験として語るようになってから。次回は、その変遷について考察してい
きたいと思います。
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5 あとがき (市川正人)
今回の号が皆様のお手許に届く時点では、私は毎年恒例のヨサコイソーラン
祭りへの参加を終えて、筋肉痛に悩まされながら、東京の街を歩いていること
と思います。昨年と同じチームで、昨年と同じタイミングで開かれる祭りに参
加して、昨年と同じ札幌の街の景色の中で、踊り叫ぶ。毎年5月下旬と6月上
旬のソリアズ発行号を見返すと、必ず冒頭の挨拶に宜しければ見てやって頂き
たいと書き述べられています。200話記念特別号にぶつかったお蔭で、今年
はその挨拶が消えてしまって、パターンが崩れました。
最近、行きつけの新宿のバーは、ソリアズの200話発行と、ほぼ時を同じ
くする6月の上旬、オープン28周年目を迎えるとやらで、還暦のママが慌し
く準備をしています。それでも、僅かしかいない徒歩で帰る客である私が遅く
まで飲んでいると、10年以上の馴染み客ばかりを迎え続けて、店と言う小さ
な空間の中で、仕事や住まい、家族構成まで全部分かった中での繰言のような
接客の意義とは何なのか考えこんでしまうことがあると言います。
私は能や歌舞伎などの古典芸能を例にとって、同じ芸や演目を何度も見ても、
飽きが来ないのは何故なんでしょうかと、彼女に問いかけます。演じ手も観客
も、日々考えることは異なり、感情の持ちようも違うことでしょう。観客個々
も違う以上に、観客全体の層も、また演じるごとに違います。定番の中にも、
演じ手と観客の間の緊張に揺らぎは起こり、演じる内容にも小さな工夫が入り
込む余地はほぼ無限に残されているのではないかと思うからです。
弊社のサイトは、独立後、当時考え得るジャンル別に内容を分けてあったの
ですが、そのジャンル毎に、クライアント先で話すことが時を経るにつれてま
とまってきました。どうせ、頻繁に話すならと、差別化や営業改善などのテー
マを文章にまとめてアップしてみました。とても膨大な量になり、ここまで書
けば、解説も要らないだろうとたかを括っていました。しかし、現実は逆でし
た。そのような内容をアップしたからこそ、質問は増え、そのたびにアップし
た内容の拙さや解釈の余地を痛感します。
現状を否定し、仮説と検証によって、新たな道を目指せと、クライアントの
社長が仰っているのを伺いますし、自分でも言っています。その言葉に勿論嘘
はありませんが、お客様との関係性において真摯であれば、継続自体が変化の
証であるように感じられてなりません。先日、自社版のブログサイトに内容を
盛りつつ、考えていました。
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
下のアドレスにご意見・ご感想を頂ければ幸いです。
bizcom@msi-group.org
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インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して
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(http://www.mag2.com/ )
毎月10日・25日発行 盆暮れ年始、一切休まず 9年目に突入。
そしてとうとう200話突破!
マガジンID:0000019921 (ナント、たった5ケタ)
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6 次号予告
今号に引き続き、コラム『斜陽の樹影』シリーズ第3話『危険手当』をお送
りします。下流志向はリスク社会における生き残りを妨げる要因となっている。
その現実を鋭く見つめたコラムです。
また、私、市場による、下流志向を考察するコラムでは、自身の弟子入りの
経験も踏まえた、師弟関係について取り上げます。そしてソリアズ200話ま
での歩みを振り返る企画では、いよいよ独立後の視点が反映されるようになっ
た70話以降のソリアズを読み解き、次第に変わりゆく市川の世の中の見方を
考察してみたいと思います。どうぞご期待下さい。
(完)