510 不良視界

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経営コラム SOLID AS FAITH 第510号
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 ご愛読ありがとうございます。第510話をお届けします。

 世の中で人口減少が本格的に騒がれ始めた10年以上前のこと、弊社代表の
市川は地方から人口が減少し急激に高齢化が進むと知って、そこに残るビジ
ネスのありかたについて考えるようになりました。当時全国区で事業を展開
するメーカーさんがクライアントに存在し、特に大票田の関東圏とそれ以外
の地域の営業戦略が、完全に乖離していることが常に営業部内で問題となっ
ていたのもその一つの理由でした。

 人口が少ない地域は海外に多数存在します。例えば米国では数年前まで人
口が100万人を超える都市はほんの数ヵ所しかありませんでした。つまり、
米国のほぼ全部と言っていいような場所がすべて人口の「薄い」地域です。
そんな全米で成功したといわれるウォルマートの戦略は、簡単に言うと、他
に大きな競合がいない田舎にいきなり出店し、扱い品目の多さによって、そ
の地域の支出金額の総計の極力大きいパイを分捕るというものです。

 どうもウォルマートの方法論は記号消費が進んだ日本市場においては粗雑
すぎると感じていたので、色々と当時調べてみて、A-Zスーパーセンターの
存在を知り、過疎地域のマーケティングのありかたの一つのサンプルとして
ずっと関心を持ち続けていました。そして、とうとう昨年初秋弟子の奥田が
案内役を買って出てくれて、訪店が叶いました。現場に学びは大量にありま
した。店舗のみならず、九州の南半分の経済的中心地になっている鹿児島市
の様子からも考えさせられることが非常に多い1泊2日でした。

 2009年にA-Zスーパーセンターの社長が書いた書籍には現存3店に加えて、
さらに2店の出店予定地まで書かれていましたが、未だにその2店は存在して
いません。それどころか、鳴り物入りでオープンした温浴施設も閉鎖の憂き
目に逢いかけていました。ウォルマートを遥かに凌駕する素晴らしいビジネ
ス・モデルの原型が間違いなくそこにありますが、オペレーションとそれを
支える組織体制の不具合が堆積して、勃興から凋落に向かっているように思
えました。

 小旅行での濃縮された知見をいつか当コラムのネタにしようとずっと考え
てきましたが、漸く原稿作成に入り、当コラム過去最大の10話連続シリーズ
になる見込みです。2015年のシリーズ『これからの生活』が現在の最長7回
の記録ですが、それを大きく上回ります。題して『南国の史実』。第517話
から開始の予定ですので、ご期待ください。鹿児島旅行に至るまでの経緯は、
第318話『浅知恵』と第491話『ガラパゴスの理解』にも登場しますので、
合わせてお読みいただけると幸いです。

 今回の『不良視界』は、「意図的な練習」の価値について考えてみたもの
です。何かの習熟に向けての努力のありかたにルール(/パターン)がある
ことはあまり知られていません。けれども、『やり抜く力』に紹介されてい
るこの「意図的な練習」の考え方は、中小零細企業の社員の育成にも間違い
なく役立つものと思われます。ご一緒にお考えいただければと思います。ご
意見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感想などへのお返事の目標
納期は5営業日!!

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■第318話『浅知恵』 http://tales.msi-group.org/?p=596
■第491話『ガラパゴスの理解』 http://tales.msi-group.org/?p=1908
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その510:不良視界

 真冬の早朝。猛吹雪の中を徐行しながら漸く停留所に辿り着いたバスを降
りたのは私一人。誰も除雪をしていない歩道は、当時流行り始めたスノトレ
では全く歯が立たない高さの積雪で、私の膝下のゴム長でさえ怪しい。1980
年が終わりに近い北海道の長い冬休み。高校二年生の私は毎日学校に通って
いた。

 いつもの教室ではまだ20代前半で昨年赴任してきたばかりの松井先生が一
人で新聞を読んでいる。挨拶をする私に、「昨日の hardly からだ。舌の形
や口の開き方は説明した通りだ。繰り返して良い発音になったら次を説明す
るから、ずっと発音してくれ」と言うと、一旦置いた新聞をまた読み始めた。
d と l の子音の発音が連続する流れがどうしても再現できない。私が十度
繰り返そうと二十度繰り返そうと、ダメな発音なら先生は新聞を読んでいる。
先生は大学時代に米国に短期留学して発音矯正を受けた。ネイティブの英語
話者など現れることがない田舎町で、ネイティブ並みの発音ができる唯一の
日本人だった。

「他に出る奴がいないから」と担任に言われて、私は当時読み耽っていた日
米文化比較譚を適当に英語にして、北海道高校英語弁論大会の地区予選にし
ぶしぶ出場し、青春だの友情だのをテーマにした流暢な英語のスピーチ群を
押しのけて優勝した。発音は滅茶苦茶だった。11月の地区予選から本大会は
3ヶ月後。まるで往年のオリンピック選手のような「学校の名誉が懸かった
代表者」となるため、徹底的な発音矯正が施されることとなった。

 スウェーデンの心理学者K・アンダース・エリクソンはチェスやテニス、
音楽等の芸術やスポーツ分野を題材に研究を掘り下げ、有名な「熟達化の10
年ルール」を発表した。実際には10000時間の練習が紹介されているので、
「10000時間のルール」とも呼ばれる。けれども、それさえ正確ではない。
調査対象者にはもっと早く最高水準まで達した人物もいれば、さらに多くの
時間がかかった人もいたらしい。

 エリクソンは早い熟達者は練習時間に占める「意図的な練習(deliberate
practice)」の時間量の比率が高いと主張する。それは「ある一点に的を
絞って、高めの目標を設定」し、「しっかり集中して、努力を惜しまずに、
ストレッチ目標の達成を目指し」つつ、「改善すべき点がわかったあとは、
うまくできるまで何度でも繰り返し練習する」ものだという。
 
「何か、事務作業の処理スピードが上がらないんですよね。入社半年経って、
原理はもうわかっているはずなのに」とクライアントの社長が今年の新卒社
員について語った。「意図的な練習」は基礎が身についたらすぐにも取り掛
かれるものだろう。「試しにできない部分だけ執拗に練習させてみるってい
うのはどうでしょう」と実体験に基づいて説明した。

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☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
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『萬屋日和』 「会社の萬屋 企画改善請負本舗」からのPR

「会社の萬屋 企画改善請負本舗」の奥田美幸です。
師匠・市川が役員を務める小売店の新規事業の業態調査のため、
先日ダガヤサンドウの店舗群を視察してきました。
http://dagayasando.jp/

ICTが進展するなか、新型コロナウイルス禍が
追い打ちをかけるように人々の外出機会を減らし、
リアル店舗の生き残りがより困難になってきています。
売上を維持・拡大するためには、お客様の来店理由を創ることが重要です。

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『萬屋のもっと深く愛してい』第7回「機械学習」

需要の見込みを立てていても、実際の受注と合わないことによる過剰生産や
在庫不足が発生したり、担当者が数名しかおらず業務が属人化したりしてし
まうなど、人数の少ない中小企業では特にそれらの課題を解決する手立てが
見つからないことも多いのではないでしょうか。機械学習を応用することで、
ベテランの方が経験則に基づき行なっていたことも、各種データを元に需要
予測の精度を上げ、属人化を解消することが可能となります。

機械学習は、マシンラーニング(Machine Learning, ML)とも呼ばれます。
人間の学習に相当する「特定のタスクを行えるようにシステム」を実現する
もので、一定の計算方法(アルゴリズム)に基づき、入力されたデータから
コンピュータがパターンやルールを発見し、そのパターンやルールを新たな
データに当てはめることで、その新たなデータに関する識別や予測等を可能
とする手法のことです。AIと同じものと思われることも多いですが、AIは
人間の思考プロセスと同じような形で操作するプログラム・技術全般を示す
のに対し、その仕組みの一つが「機械学習」なのです。

近年のAIブームは、この「機械学習」が中心となっています。たとえば、イ
ンターネットで買い物をするとおススメ商品が表示されるかと思います。コ
ンピュータに顧客の購入履歴や商品の閲覧履歴といったデータが与えられ、
その膨大なデータを分析し、特徴や傾向を機械学習によって見つけ出すこと
で、精緻なレコメンデーションが可能になります。

ある食品製造業では、気象データを機械学習により解析し、製品の需要を予
測することで、需要の予測精度をほぼ100%に高め、会社全体での廃棄ロス
を30%削減しました。

「AI」をテーマにした前回もお伝えしたように、導入のためには大量のデー
タを溜めておくことも必要ですが、何を目的に行なうか考えることが大前提
です。目的が確立されていないと、高いお金を払って導入しただけで満足し、
全く活用できずに終わってしまうという事例もあるようです。まずは、機械
学習の仕組みが自社の課題解決のために最適なのかきちんと見極めることが
大切です。

このテーマについてさらに詳しいご説明が可能です。
ご希望の方は萬屋までご一報ください。
contact@kaisha-yorozuya.support

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『スマホ脳』 アンデシュ・ハンセン 著
■『日本経済2020 恐怖の三重底から日本は異次元急上昇』 増田悦佐 著
■『差別化戦略で小が大に勝てる まんがでわかる…』 坂上仁志 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
下のアドレスにご意見・ご感想を頂ければ幸いです。
 bizcom@msi-group.org
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インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して発行しています。
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次号予告:
 第511話 『背馳者の夢想』 (5月10日発行) 
 毎月大量のタイトルが出版されているライトノベル・ライト文芸作品群の
トレンド分析を聞いて考えたことをまとめてみました。

(完)