498 犍陀多の未来

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経営コラム SOLID AS FAITH 第498号
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ご愛読ありがとうございます。第498話をお届けします。

物臭な弊社代表の市川は、街を見る機会と人を見る機会を定期的に創り出
すために、月に二度、劇場に映画を観に行くことにしています。通称「武漢
ウイルス」の流行が最初のピークに達して、東京の映画館が馬鹿げた自粛状
態に入った際にも、そのルーティンを崩すことなく維持していました。今月
と先月の連続4本はかなり無名に近い映画を観ています。

封切日から1つの劇場で1日39回も上映されるという、誰が仕掛けているの
か全国的大人気アニメもあれば、全国でもたった1館でたった1週間だけ1日
たった1回ずつ上映されて、制作関係者やその知人・業界関係者だけが観に
来て終映するような内輪ウケ映画も存在します。その各々に多種多様な観客
がいて、その各々に多種多様な存在意義があります。

6日後に発行される『21周年記念特別号』にも、ちょうど1ヶ月後から発行
される『500話発行記念特別号』にも、準備に要する時間が膨大に必要にな
り、弊社代表の市川が泣く泣く採用を諦めた大テーマがあります。それは、
『低生産性中小零細企業悪玉論』です。

簡単に言うと、日本経済全体の生産性が低いことが問題となっている中で、
その原因は日本に数多く(それも構成比も高く)存在する中小零細企業の生
産性が非常に低いことであるとする暴論です。中小零細企業が存在するが故
に生産性は低く、経済全体での生産性が低いが故に、国民の賃金も上がらず、
GDPも伸びず、国はどんどん貧しくなって行くのだと言われています。その
結果として国がとるべき施策は、最低賃金を引き上げ、それについてこられ
ない中小零細企業を見捨てて潰すこととされています。

国民の間に格差が広がり、絶対多数が貧困や差別に喘ぎ凋落しつつある多
くの先進国を範とするこの考え方には根本に大きな誤謬があります。しかし、
それに気づくこともできない人々が中小零細企業悪玉論を吹聴して回ってい
るのには辟易させられます。多くの中小零細企業の生産性が一般論として大
手に比べて低いのは事実ですし、杜撰な戦略と思い込みの判断で大破綻をす
る中小零細企業がたくさんあるのも否めません。しかし、生産性だけで企業
組織の存在意義を判断することはできません。それは、観客動員数の伸びや
1日の上映回数だけで映画作品を評価すると変わりません。いつか当コラム
でこの低生産性中小零細企業悪玉論を批判してみたいものと思っています。

今回の号は『犍陀多の未来』と題して、日本の特殊な経済構造とそこでの恵
まれた消費者の立場について考えてみました。実はこれも、先述の低生産性
中小零細企業悪玉論への批判の論点の一つです。ご意見・ご感想をお待ちし
ております。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!

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その498:犍陀多の未来

「もともと経営学はこの国で生まれたんだ。経営学はテーラーの生産管理と
か労働者に時間単位の生産量を上げさせる工夫から始まった。チャップリン
の映画のような感じになってな。大手製造業がこぞって生産を追求してたら、
第二次大戦が終わってモノ余りになって作っても売れなくなった。だからマ
ーケティングが理論立てられて、ニーズを満たすことになった。ところが、
それでもモノ余りや会社余りが進んでなかなか儲からなくなった。だから、
面倒なので敵を減らすことにした。それで、生産からマーケティング、さら
に『会計の時代』に移ったんだな。世の中、何かと言えばM&Aになった。
買えば短期的に売上が増えるから、株主にも説明がつきやすいし。お客のニ
ーズ研究より手っ取り早い」。

分厚い『世界標準の経営理論』の中の古典的なSCP理論の「完全競争はま
ったく儲からない」という項タイトルを読んで、大学留学時代に世話になっ
たマーケティングの教授との雑談を思い出した。SCP理論は有名なポーター
の競争戦略のベースとなっている経営理論。経済学の「参入障壁もない中で
無数の小規模事業者が全く差別化の余地もない商品・サービスを売り続けて
いる」と仮定する“完全競争市場”の概念を援用したもの。

ドイツの写真用フィルムメーカーのマーケティング担当をしていた頃、全
世界を統括するマーケティング担当役員が、半年に一度は来日して市場視察
をして回る。その案内役はいつも憂鬱だった。高頻度の来日理由を尋ねると、
ドヤ顔で見解を滔々と述べられた。

「ミスター市川。写真用フィルムは何種類もの乳剤をミクロンの単位の薄さ
の均質な膜状に重ねて製造する。おまけに感光させてはいけないので、真っ
暗闇で製造しなくてはならない。その高い技術による製造工程を持っている
のは、全世界でたった5社しかない。そのうちの二つが日本に集中していて、
おまけに人口当たりの写真用フィルムの消費量は世界でダントツに高く、全
5社が参入を目指す市場は日本だけなのだ」。

調べると多くの業種業界で、日本は主要企業が犇めいている。ポーターは
「完全競争に近い市場であればあるほど儲からない」という。海外企業群は
M&Aを重ねて短期的には濡れ手の粟の売上で、長期的には独占状態を形成し
て、ずっと儲けようとしてきたのだろう。

自分しか売り手がいなければ、普通は価格を吊り上げたくなる。製品開発
やマーケティングの努力も根本から要らなくなる。その結果、利益は確保で
きても、お客に不利益を強い続けることになる。日本の企業群の低生産性や
低配当体質、さらに低売上が、海外から批判されることがある。しかし、経
営学によるその背景理由の一つはあまり語られない。

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☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
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【MSIグループからのPR】

あと6日経つと、とうとう
『経営コラム SOLID AS FAITH 21周年記念特別号』の
前篇が発行です。題して『自然派宣言』

そして、11月25日には、
なんと当コラムが500話に到達します。
『経営コラム SOLID AS FAITH 500話発行記念特別号』は
『回路明察』と題した4話シリーズで、
ビジネスにおける“人間の無意識”の活用に迫ってみます。

第500話から第503話まで続く
『経営コラム SOLID AS FAITH 500話発行記念特別号』。
その各々の号には特別原稿として、
「会社の萬屋 企画改善請負本舗」の奥田美幸による
中小零細企業経営の現況と今後についてギュッと凝縮した
中身の濃い文章が一本ずつ漏れなくついてきます。

ご期待ください。

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『萬屋日和』 「会社の萬屋 企画改善請負本舗」からのPR

「会社の萬屋 企画改善請負本舗」の奥田美幸です。
まもなく今月末日から発行される
『経営コラム SOLID AS FAITH 21周年記念特別号』の
前後篇両方のあとがきを書かせていただきました。

本編は何度も読み直さないと理解できないほど
今までの常識を覆されるかなり衝撃的な内容となっております。
発行後、以下のURLからご覧いただけますので、ぜひご笑覧ください。

http://tales.msi-group.org/?cat=12
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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『AIに駆逐されない営業力 実践!インサイトセールス』 高橋研 著
■『ごめんなさい、もしあなたが…不便益と言う発想』 川上浩司 著
■『この国のたたみ方』 佐々木信夫 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
下のアドレスにご意見・ご感想を頂ければ幸いです。
bizcom@msi-group.org
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インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して発行しています。
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次号予告:
第499話 『地下爆発』 (11月10日発行)
最近あまり人工知能だのシンギュラリティだのが世の中を騒がさなくなっ
てきたように思います。それらの技術が今社会にどのように受け止められて
いるか考えてみました。

(完)