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経営コラム SOLID AS FAITH 第146号
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ご愛読ありがとうございます。第146話をお届けします。
地域によって、日によっては、寒さが随分と緩んでまいりましたが、皆様如
何お過ごしでしょうか。札幌と東京の往復生活をしている私としては、二月が
一年の中で最も季節感が二つの場所で食い違っている時期です。札幌では恒例
の雪祭りが開催される一方、東京では梅が咲き始め、春の気配が感じられるよ
うになります。温度差が体にこたえる以上に、この季節感のズレが心理的に負
担と言えば負担です。
さて、今号から二回続けて、『感情の労働』と題したシリーズをお送り致し
ます。感情労働なるものを定義して、その心のケアをせねばならないとする動
きがあり、それについての私の考えをまとめたものです。第一回の今回は『脆
弱のレッテル』と題して、ケアを必要とする心の持ち主の、社会における立位
置を考えてみた結果を書きまとめた号です。ご意見・ご感想お待ちしておりま
す。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!
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その146:脆弱のレッテル =感情の労働(1)=
自分の家族や級友の惨殺、地震などの災害による死亡者が大量に発生する惨
事などを目の当たりにした人々の心のケアがテレビで報じられているのを見て、
70歳を過ぎた知り合いの社長が問う。「おい、市川。心のケアって、何すんだ
ろうな」。
「さあ、私も詳しく知りませんが、多分、カウンセリングとかそう言うので、
トラウマみたいなものを癒すとか、そう言うことなんでしょうね」と作業を中
断することなく、上の空で私は答える。すると、社長は、「ふ?ん。心のケア
ねぇ。俺らは子供の頃、空襲で、目の前で近所の人が火達磨になって何人も何
十人ももがき苦しんで死んでいったのを見たけど、誰もケアしてくれなかった
けどなぁ。俺とかの世代の人間は、何か違う人間なのかねぇ」とブツブツ言っ
ている。
知り合いのコンサルタントを訪れると、「最近、感情労働者って言うのの問
題が発生していることって知ってますか」と尋ねられた。全く知らないので教
えを請うと、例えば、昔で言うスチュワーデスのように、感情表現がサービス
の一部として管理されている労働者を感情労働者と言うらしい。翻れば、サー
ビス業の接客従事者は殆ど皆、感情労働者であろう。私もそうかもしれない。
その人為的な感情表現が、感情労働者とその客の心を磨耗させて行くのが問題
であるのだろうと、あやふやなままに取り敢えず理解した。
今から、20年近く前、札幌に住んでいた頃、ベータながらビデオデッキを持
っている私のアパートを、スナックで働く当時付き合っていた女性がビデオを
レンタルして深夜に訪ねて来る。昼間はトレースの専門学校に通い、夜はスナ
ックのホステスで、来れば、映画一本を見るのが娯楽であった。時折、ススキ
ノの水商売の人々が集まる食堂で知り合ったと言う数人の女性達が、彼女に意
気投合してついて来た。
まさに射精産業の従事者である。「男ってホントにバカだよねぇ」と、その
日に下半身を晒していた男達の様子をワァワァ話しながら、ポテトチップと安
ウィスキーを手に映画の画面を見ていた。その子達をカウンセリングする者は
なく、翌日もまた翌日も「おっはようございま?す」と元気にタイムカードを
押していると聞いた。聞けば聞くほど、聞き手の私達二人の方に余程心のケア
が必要になりそうだった。
感情労働者の精神的疲弊が、今の時代だから発生すると言うのなら、多分そ
れは時代が過酷になったのではなく、心弱いと自他共に認める人が増えたから
ではないかと私は思う。弱い人々、補うべきものが多い人々は、そうではない
人々から、利用され、搾取され、剥奪されるのが、歴史上、ほぼ常ではなかっ
たか。疲弊しやすい人々が多いと、それは巨大なニーズとなり、巨大な市場を
生む。成熟して伸びない経済と言う中、感情労働者は内需拡大や経済成長に、
望むと望まざるに関わらず多大な貢献をしているようだ。
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次号予告: 第147号 (3月10日発行)
『笑えるスキル』 シリーズ『感情の労働』(2)
小泉八雲の『日本人の微笑』などを見ても、日本人の笑みの意味を考えさせ
られます。感情労働で最も要求されると思われる笑顔に関して考えました。ご
期待下さい。(完)