増刊第6号 命運の預託先

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経営コラム SOLID AS FAITH 増刊第6号
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ご愛読ありがとうございます。如何お過ごしでしょうか。私は札幌市のヨサ
コイソーラン祭り以降、体調を崩してしまいまして、色々な方に迷惑をかけな
いよう何とかくい留めております。

全六回にわたり、『月刊フランチャイズ』誌に連載の『こころに効くコラム』
のオリジナル原稿をお届けする増刊号も、とうとう最後の号になりました。3
ヶ月の長きに渡り3000字の長い文章にお付き合い頂きありがとうございます。
最終増刊号をお楽しみ下さい。

恒例となりましたが、私が大学で担当する講義『職業を知る』のポイント紹
介も、これまた、最後となりました。内容に関しまして、ご意見やご質問があ
りましたら、是非、お気軽にご一報下さい。
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☆当コラムをより一層お楽しみ頂くために、プリントアウトの上、ご一読いた
だくよう強くお勧め申し上げます。
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増刊第6号: 命運の預託先

何やら政治の舞台が騒がしい。外務大臣が更迭されただの、NGOが国際会議
の場から排除されただの、そしてほぼ同時に海外で日々の多くを費やすタレン
ト議員が辞任しただの喧しい。現首相の就任以来、メールマガジンなる媒体の
知名度が急速に上がった。写真集までバカ売れの首相の支持率は今回の外務大
臣更迭劇まで、異常なほどに高かった。そして今、「透明性なき伏魔殿」、
「市民感覚から乖離した政治」などとの批判があると言う。歴史上、市民感覚
を反映した政治を行って、長く発展した国がどこにあっただろう。

今回の騒ぎに、街頭のインタービューで多かった反応は、「外務大臣がかわい
そう」とのことであった。鯨が浜に打ち上げられた時の「かわいそう」であり、
小学生の子供を含む一家が惨殺された時の「かわいそう」である。昼近くなっ
てくると放送されるワイドショーでは、大抵、背景も知らない、予備知識もな
いようなコメンテーターが登場し、「かわいそう」、「カッコいい」、「うま
くいきそう」などと、事象の表層のみを感情・感覚でなぞって、耳優しい言葉
を並べる。

20年近く前に、通信関係の某巨大公社に勤めていた頃、組合の活動で消費税導
入反対のチラシのポスティングに動員されたことがある。当時サラリーマンの
私は、「ガラス張り」の高卒初任給9万4千円から源泉徴収される税金が全く
不当に感じていた。金銭を使ったら否応なく徴収される消費税の公平性溢れる
原理は、当時の私に非常に好ましいものに思えたので、私は結局ポスティング
を行わず、後で問題になった。

その組合の支持政党は「主婦の感覚の政治」とやらで、100円、200円の買物に
まで課される「悪税」として消費税を捉え、断固反対の姿勢をとっていた。こ
の時の「主婦」の人々にとって、収入は手にした額が原資で、その前にどれだ
け引かれているのかは関係なく、まして、個人事業主などの零細事業者の人々
がどのように節税しているかに関して想像することはなかったようだ。サラリ
ーマン世帯なら、「どうせ、増税するなら、消費税を増やして欲しい」と望む
のが当り前ではないだろうか。

社会は変化し、その構成員たる人も企業もそれぞれに都合や立場があり、その
利益は多く背反する。そんな中で、全体で物事を決めねばならない政治の世界
に、透明性や市民感覚を持ちこんでうまく行く訳がないと私は思っている。ま
して、価値観、歴史観が全く異なる人々と合い接しながら、自国の利益保全を
謀らねばならない外務省が、伏魔殿にならないほうがおかしいと私は思ってい
る。外務省の機密費の使途などが取り沙汰されて、「ワイドショーを放送する
テレビ局には『料亭での接待はおかしいのではないか』などとファクスが山の
ように送りつけられる。その送り主の一家の主が営業マンなら、「『飲ませる
・打たせる・抱かせる』は接待の基本」なる言葉ぐらい聞いたことがあるだろ
う。

東京六大学の一つの夜間コースで、知人が「コンサルタントの実践テクニック」
なる講座を担当している。外資系のコンサルティング会社に在籍し、その経営
企画を担当した私の経験について「時間を設けるので話して欲しい」との依頼
を受けた。ひとしきり話を終えると、就職活動中の現役の学生が挙手して聞く。

「市川さんがいらっしゃった会社の採用情報を求人サイトで見ると、多くの人
が『外資系コンサルティング会社で働くとスキルが他社の3倍の速さで身につ
く』と発言していますが、それは本当ですか」

私はこの講演を引きうけて本当に良かったと感じた。それは、世の中に如何に
偏った情報に左右される人々が多いかを目の当たりにすることができたからで
ある。入社すると、刀鍛冶も顔負けな特殊なスキルを学ばせる会社はまずない。
入社後にやる仕事など、誰でもが真面目に一生懸命取り組めばできるようなも
のである。それでも、「仕事ができる」、「スキルがある」と言う人は、詰ま
る所「段取りの良い人」であろう。つまり、3倍早く身に付く職場と言うのは、
3倍段取り上手にならねばならないほどこき使われる職場と言う意味でしかな
いだろう。

回答としてそのような説明をすると、学生はコンサルティング会社に何か3倍
速の研修プログラムのノウハウでもあるものと想像していたのか、あまり嬉し
そうではなかった。私は付け加えた。

「どんな車のディーラーのセールスマンも、自分の会社の車が優れていると言
うものなんですよ。求人サイトにある『お勧め企業』はどんな風に決まるか知
っていますか。求人サイトの営業担当者は経営コンサルタントでもないので、
本当に良い会社を見極めている訳ではありませんよね。そして営業担当者であ
る限り売上が伸びた方が良い訳です。そこで、『お勧め企業の欄に掲載するに
は、割増料金を戴きます』となる訳ですよ。求人サイトに乗っていることなど、
カネで左右される程度のことです。ちなみに私は図書券の謝礼のみで、今日は
話していますのでご安心下さい」

倒産のきっかけとなる手形の扱いに苦慮を重ねて、それを出すことも受け取る
ことも排した企業を知っている。不渡りを2度出すと、弁解の余地なく、穴埋
めの交渉なく、法人としての生命が断たれる。こんな恐ろしいものを発行する
にはよほどの勇気が要ると私は思っている。私のような小心者が増えたのか、
手形はその流通量を徐々に減らしているようだ。

株価が急落した企業が紆余曲折を経て倒産に追込まれていると新聞や雑誌の記
事にある。また、株価が下がるので公的資金を投入してでも対策を打たねばな
らないとテレビのニュースキャスターが眉を顰める。株が100円割れで、世評
の厳しさに喘ぐ企業の話を聞くと、思わず考えてしまう。

粗データは、記録され、編集され、伝達されるたびにゆがみを重ねる。真実を
伝える情報公開など現実にはあり得ない。「かわいそう」だの「酷い」だのの
感情や、「このマーケットは縮小している」などの憶測で命運を左右される。
こんな手形以上に危険なことを企業はなぜ選択するのだろうか。そして、その
結果になぜ税金が投入されねばならないのだろうか。

私が自分の合資会社を設立して、まだ1年余。税理士事務所の所長に話をして
も、「いずれ、人を雇って育てて、大きな組織にして…。そうしないと、年を
取ってから大変だよ」などと説教をされる。経営に関わる各種企画の立案をそ
の企業の一員のようなフリをして行う請負事業。自称「一人派遣業」では、確
かに切り売りする時間に限界がある。

しかし、企画屋として、疑わなくては、ことの裏側は見えない。だから、私が
納得するような本質的解釈を仕事に換えてくれる人物はそうそう見つからない。
私の人生や会社の運命を他人に簡単に預けることができる方がおかしいと私は
割り切っている。会社を作って以降、「社長になって市川さんはどんな風に変
わりましたか」と聞かれることがある。一人しかいないので、社長も社員もあ
ったものではないが、「好奇心と猜疑心が両方旺盛なままです」と笑顔で答え
ることにしている。
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<PR: 札幌学院大学にて『職業を知る』講義中!>
札幌学院大学(北海道江別市)の法学部にて、『職業を知る』と題して週一回
約200名の学生に対して講義を行っております。その一端を紹介いたします。
(ホームページでも紹介予定!…ですがのびのびになっております。)

7月5日講義 「労働市場と採用チャネル(1)」
1 失業率が示していることは何か
2 一般的な求人広告の種類にはどのようなものがあり、
企業によるその使い分けはどのようになっているか
3 各種団体・組織を通じた
(企業にとって)安価な採用チャネルにはどのようなものがあるか
また、そのプロコンはどのようなことか
4 求人広告における年齢・性別の非表示のプロコンは何か
5 契約社員やアルバイトを企業はどのように使い分けるか

7月12日講義予定 「労働市場と採用チャネル(2)」
1 人材紹介の仕組みはどのようなもので
それは誰のどのような目的に添うために存在するか
2 人材派遣の仕組みはどのようなもので
派遣社員のキャリアをどのように捉えるべきか
3 紹介予定派遣(テンプ・トゥ・パーム)とは
どのようなしくみか
4 アウトプレースメントとはどのようなサービスか
5 契約社員やアルバイトを企業はどのように使い分けるか

※ 詳細な内容にご関心を頂けましたら、メールにてご一報ください。
msi-group1@mbb.nifty.ne.jp
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発行:
「企業から人へのコミュニケーションを考える」
合資会社MSIグループ(代表 市川正人)

下のアドレスにご意見・ご感想を頂ければ幸いです。
msi-group1@mbb.nifty.ne.jp

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行しています。(http://www.mag2.com/ ) マガジンID:0000019921全バッ
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次号予告: 第61号 燃え盛る松明(7月25日発行)
久々の通常号です。このまま一気に100話を目指すつもりです。第61話は後
継者の資質について考えます。