増刊第5号 功名の対価

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経営コラム SOLID AS FAITH 増刊第5号
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ご愛読ありがとうございます。如何お過ごしでしょうか。私は札幌市のヨサ
コイソーラン祭り二日間、主に路上で踊っておりましたので、だるい体で増刊
第5号の発行作業をしております。

全六回にわたり、『月刊フランチャイズ』誌に連載の『こころに効くコラム』
のオリジナル原稿をお届けする増刊号も、今回を含めてあと二回です。長文を
もう少々お楽しみ下さい。今回は名前が知られることについて考えてみました。

私が大学で担当する講義『職業を知る』のポイント紹介も、恒例となりまし
たが、巻末PR欄に掲載致しました。内容に関しまして、ご意見やご質問があ
りましたら、是非、お気軽にご一報下さい。
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☆当コラムをより一層お楽しみ頂くために、プリントアウトの上、ご一読いた
だくよう強くお勧め申し上げます。
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増刊第5号: 功名の対価

子供が産まれた。10月産まれの女の子である。「キムタクと工藤静香の間の心
美ちゃんや(名前は知らないが)椎名林檎の娘と同じ年です」などと友人・知
人に言っていたら、皇室で愛子様までがご誕生とのことである。その名が国文
学者を引っ張り出しての予想合戦となって、ワイドショーが喧しい。結果的に
言い当てた者がいるのか知らないが、どの説にしても古典文学の中にその文字
を求めるらしい。自分の子の名は妻の希望で比較的簡単に決まったが、最近、
私は命名の意義に関心を持っている。

『陰陽師』なる映画がヒットして、まだ、ブームは去っていない。舞台は平安
時代。平たく言うと呪術を行う陰陽師(おんみょうじ)である安倍清明(あべ
のせいめい)の活躍を描いた物語である。映画のヒットを知って、夢枕獏原作
のコミック全12巻を読んでみることにした。第1巻で清明は、呪(しゅ)と呼
ばれる呪い・まじないの一番短いものが、名前であると説明する。彼によると、
呪はものを縛るものであり、名前はものの根本的な在り様を縛るものであると
言う。個人の名前も、山も海も草も木も、人が「そのようにあれ」との願いを
もってその存在に名前をつけたということであろう。

事実、庭の藤の木は「みつむし」と彼が名づけたが故に、彼を想い始め、彼が
旅から帰るまで花を散らせずにいる。そして、彼の友、源博雅(みなもとのひ
ろまさ)は羅城門の鬼に自らの名を名乗ってしまったが故に、鬼の「動くな、
博雅」の声に金縛りにあう。その時、居合せた清明はなぜ金縛りにあわずに済
んだか。何かの高等な呪術を使った訳ではない。その鬼に偽名を名乗り、名を
呼ばれても金縛りに合わないようにたぶらかしただけである。「命名」と言う
言葉が「命」を含むが如く、名前はそれを付けた者の願いが付けられた者の人
生や存在を縛る形であり、その「命」たる名前をむやみに人に教えるものでは
ない。大変勉強になる考え方である。

今年会社を設立した。合資会社なので、その設立の手筈たるや有限会社・株式
会社設立の手続の煩雑さに比ぶべくもない。基本的には法務局に行って作成し
た書類を提出して、お沙汰を待つのみである。私は知人の助けを得てようやく
登記に漕ぎ着けたが、あまりの簡易さに拍子抜けしたほどであった。しかし、
問題は今後継続的に発生する経理処理と税金の申告である。テレビでは野村沙
知代が脱税で逮捕されたと執拗に報じている。その手口の稚拙さと金額の大き
さ、そして税務署をも恐れぬ悪質な態度の組み合わせが今回の逮捕劇になった
と、「識者」が説明している。各種の中堅・大手企業の税金の追徴も跡を絶た
ない。資本金たった10万円の合資会社の代表でも、「納めるものは納めねば」
と感じ入る次第で、税務調査に入られる話などで、知り合いの経営者と盛り上
がったりする。

私の知り合いの女性で従業員一人の社内研修企画会社を営む人がいる。彼女に
会社設立の話をすると、税務調査へと話題がそれて、彼女の体験談を聞くこと
になった。彼女の株式会社に調査に来た税務署員に対し、彼女は「女手一つで
稼いで、きちんと税金を納めているのに、この上、何をどうしろと言うのです
か」と「よよ」と涙して見せ、結局、彼女の目論むままの申告が通ったと言う。
また、彼女の知る或る老いた医師は、税務署員に対して、徹頭徹尾、耳が不自
由なフリをする牛歩戦術に出て、毎回、これまた思い通りの申告額に「着地す
る」と言う。

この手の税務署員との丁々発止は、何もこの二人の専売特許ではない。企業経
営者と話す時に、最も共感を得やすい話題ではないかと思えるほどに、ありふ
れた話題である。私は脱税を良しとして、その手口を流布しようとしているの
ではない。関心が湧くのは、テレビに登場する一連の脱税企業群とこれらの目
論みが成功している人々との違いは一体何であるのかである。

先日、私がその研修企画を手伝っているある会社の仕事で、お世話になってい
る先生に講演をお願いした。その会社での私の役割は、研修を企画する社員プ
ロジェクトに参加して、企画立案や運営にアドバイスをすることである。報酬
は参加日の「日当」の形で戴いている。懇親会の場面で先生が私と企業の担当
者に言う。「市川君も、中小企業診断士なのだから、もうちょっと修行して独
立できたら、一人前のコンサルタントだね」。すると、その担当者が応じる。
「あれっ、市川さんはもう独立しているじゃないですか。コンサルタント志望
ではないのでしょ」。

私は、「ペーパードライバー」の如き「ペーパー診断士」である。自分からコ
ンサルタントと名乗ることはこれからも多分無い。昨年急逝された恩師、小谷
喜八郎先生を始め、素晴らしい先達のかたがたと同じ「コンサルタント」・
「先生」の呼称で並び称される訳には行かない。設備もなく、優れた技術がな
くても、町医者は務まる。重病の患者が来たら、その対応に秀でた病院を探し
出して、きちんとした紹介状を書けば良い。コミュニケーション系企画請負業
者もまた、著名コンサルタントの仕事の概要を知ることにより、共存すること
ができると私は考えている。お世話になった人々の悩みや課題を聞き、お世話
になった先生のサービスの何たるかを知らしめるだけで私は満足である。

この株価低迷の時期でも尚、株式公開を目指す経営者を多数知っている。店の
数を増やしたがる経営者も知っている。売上が大きくなり目立つこと。利益が
野放図に伸びて株価が上がること。それらはそれほどに魅力的だろうか。株式
公開の背景には中小企業の事業承継問題などもあることだろう。規模の拡大に
もスケールメリットの追及や取引先の意向など、ペーパー診断士の知り得ぬそ
れなりの根拠があることだろう。

地方のしもたやには二坪の土地をタダにするから店を開けと起業家が招かれる。
同じ店開きでも大手スーパーの進出には膨大な時間とコストをかけて住民との
交渉が必要である。大きくなることは目立つこと。新聞の株価の欄に毎日名前
が載れば、見ず知らずの人がどんどん関心を持つ。税務署員や与信調査の人々
が目を光らせ始める。広告代理店の営業マンもコンタクトパーソンを探し始め
る。一方、集る人材は、企業が何をどう喧伝しようと、「寄らば大樹の陰」の
依存型人材になって行く。私の好きなピーターの法則によれば、組織が大きく
なって、「昇進」が始まる時、組織は「無能化」を開始する。

CR、ER、PR、IRと、人とのコミュニケーション手法をどれだけ研ぎ澄
まして、情報をどれだけ公開しようが、受け手は自分の都合でその会社を見る。
クレーム対象のメーカーとして、組合の交渉相手として、地元の騒音や悪臭の
発生源として、株の銘柄名として、各自の解釈でその名を呼び、「呪」をかけ
るのではないか。株式を公開することや規模を拡大して名が売れることは、見
ず知らずの他人に「命」を預けることに思えてくる。大きく有名になることを
否定はしない。しかし、そろそろ真の意味でのダウンサイジングや小さき経営
の選択が、今より少しは評価されて良いように思う。
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<PR: 札幌学院大学にて『職業を知る』講義中!>
札幌学院大学(北海道江別市)の法学部にて、『職業を知る』と題して週一回
約200名の学生に対して講義を行っております。その一端を紹介いたします。
(ホームページでも紹介予定!…ですがのびのびになっております。)

6月14日講義 「良い会社を探す」
1 会社の外部評価はどのように決定されるか
2 「良い製品を作っている会社」は、「良い会社」と言えるか
3 会社に在籍する動機付けとは何か
在籍社員は何が良くてその企業を選び続けているか
4 入社前に「良い会社」を探す方法にはどのようなものがあるか
5 「合わない」と感じる会社に入ってしまったら、何をすべきか

6月21日講義 「履歴書作成と面接」
1 履歴書の記載結果から、何がチェックされるのか
2 なぜ、面接は必要なのか
(また、ウェブによる応募などのプロコンは何か)
3 「選ばれる」ために、面接開始の瞬間に何を為すべきか
4 「なぜ、弊社を選びましたか」は、なぜ問われ、
それに対してどのように答えるべきか
5 面接を「選ばれる場」ではなく、「選ぶ場」と捉える時、
どのような点に着目すべきか

※ 詳細な内容にご関心を頂けましたら、メールにてご一報ください。
msi-group1@mbb.nifty.ne.jp
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発行:
「企業から人へのコミュニケーションを考える」
合資会社MSIグループ(代表 市川正人)

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次号予告: 増刊第6号 命運の預託(7月10日発行)
世の中が当り前になってきたと感じることがあります。正確に言うと、「建
前をそのまま信じる人々が増えたため、建前論の展開場面に出くわすことが多
くなった」と言うべきでしょう。それを経営環境と捉えた時の経営課題につい
て考えました。