増刊第3号 青い鳥の所在

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経営コラム SOLID AS FAITH 増刊第3号
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ご愛読ありがとうございます。増刊第3号をお届けします。

全六回にわたり、『月刊フランチャイズ』誌に連載の『こころに効くコラム』
のオリジナル原稿を増刊号としてお届けする第三回目です。今回は失業を取り
上げて見ました。

四月より札幌学院大学の法学部で、毎週金曜日に『職業を知る』と題して働
くことについて考える講義を担当しております。巻末のPR欄にて、講義のテ
ーマやポイントを紹介することと致しましたので、ご関心を賜れたら幸いと存
じます。
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☆当コラムをより一層お楽しみ頂くために、プリントアウトの上、ご一読いた
だくよう強くお勧め申し上げます。
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増刊第3号: 青い鳥の所在

失業率が上昇していると言う。老若男女、みな仕事にあぶれているらしい。し
かし、指標は指標でしかない。マスコミで単純に比較される諸外国の失業率と
の比較も、兵役の捉え方や、どの程度の時間のパート・アルバイトを有職とみ
なすかなど計算方法は異なり、1?2%の差異など有意とは感じられない。単
純に考えて、職はなくてもハローワークをあてにしない人が増えれば、失業率
は低下する。現実に、失業率上昇の裏で人材紹介業界は、空前絶後の求人依頼
件数に踊っている。

私の知る中小企業経営者の意見を総合すると、「若い人は昔に比べて堪え性が
なく、電話一つ満足に取れないのに、すぐ『私にこの仕事は合っていません』
などと悟り、『充電』などと称して転退職を繰り返す」と言う。そのうちに履
歴書が「汚く」なって、企業が関心を示さなくなる。

女性の既存社員は比較的評判が良い。しかし、同じ女性でも入社希望者に対し
ては「30代前半までの女性で『やる気が自慢です』とか言う人は危ない」と言
う経営者がいる。入った後、内側から見たその企業の現実が、単に「想像して
いたのと違う」と言うだけで、当の「やる気」が失せてしまうからである。海
外から見たら、桃源郷のような生活ができる日本にいて、「留学すれば、本当
の自分が見つけられる」などと言い出して、突如、大学も専攻も決めずに渡航
する人も多い。これでは落ち着いて雇用する気にならない。

しかし、40代前半までの求人倍率はまだ現実感を伴う数字である。それ以上の
年代の人には、実質的に100人に対して求人が一件、1000人に対して一件。こ
んな現実がハローワークで待ちうけている。

年金支給は遥か遠く、家や車のローンは重く、子供は大学生や高校生。45?55
歳のフトコロ事情はそんなものではないだろうか。そのような支出を支えるよ
うな収入が現職で保証されているのに、会社の経営が多少悪化して「希望退職
者」を募ったりすると、いとも簡単に退職を決意する。「再スタートが切れる
うちに、一度、自分の力を試したかった」などと、今時、中学生でも言わない
ような青臭い台詞を吐いて、残れば1?2割程度の年収減で済んだかもしれな
い会社人生をあっさり捨てる。社外の人の意見を聞くでもなく、ハローワーク
の現実を覗いたりするでもない。会社に金を出してもらって、アウトプレース
メント屋の門を叩く。

アウトプレースメント業者は空前の好景気であるそうだ。大手企業の偉い人々
は、自社から去ってもらう人々に、せめて見た目に美しく整った環境を与えた
い。図書館よりも整っているような勉強机を見て契約をする。そこを訪れる自
社OBが多少でも活路を見出せる中小企業に、そのような素晴らしい労働環境
がまずあり得ない現実は考慮されない。

その後、これらの人々は、公のサービスであるハローワークが抱える現実を知
る。そして、民間の人材紹介業者の門を叩く。民間の人材紹介会社は、オカミ
の指導で、登録希望者を拒絶できない。若くて売れやすい人材には2時間かけ
る面接も、45過ぎのオジサンには15分で終わり、「良い案件があったら連絡し
ます」の一言で、十中八九、「なしのつぶて」になる。

事情はどうあれ、リストラを契機に大手企業を退職した50プラスマイナス5歳
の人材を、雇用する大手企業はなかなかない。これらの人々は、「やりがい溢
れる職場」と言う神話を伝え聞いて、中小企業への道を歩むことになる。それ
なのに、経理一筋十数年の部長は、銀行に頭を下げたことがなく、ここ数年フ
ァクスのボタンを自分で押したことがない。フットワーク良く動けて、顧客志
向が少しはあるはずの営業部長経験者までが、地方のグループ子会社に出向し
てこき使われた経験を持つかつての同期社員を見下すような発言をする。

中小企業で、毎年700万円以上のランニングコストを見込まねばならない機械
・設備はそう簡単に見つからない。その意味で「人材」とは全く不届きな資産
である。慎重になればなるほど面接の時間が初期コストとなってかさみ、どん
な性能なのか分からず、マニュアルもなければ、メーカー保証もない。そんな
話を50歳過ぎの「営業のプロ」と名乗る人材にして、「だから、あなた自身が
商品だと思って、あなたのPRをしてください」と依頼すると、ぐうの音も出
ずに帰ってしまう。私が彼にとって11人目のキャリア・コンサルタントであっ
たにもかかわらずである。

1000万円からの退職金を貰って、学費や日当まで税金から出してもらって専門
学校に通い、習ったエクセルの基本操作を面接で自慢気に説明する人材までい
る。カネを出してもらわなければ、そんなことさえ学ばないような人間に、福
利厚生一つ満足にない実力主義・現場主義の中小企業が勤まる訳がないと私な
ら思う。

私の知るある経営コンサルタントは、「中小企業で600万円以上の給料を貰っ
ている人は、電卓を持ってはいけない」と言う。「代わりにPCを使え」とい
う意味ではない。もっと人件費の安い人にPCを操作させて、そこからカネを
稼ぎ出すしくみ作りをするのが、高給取りの仕事だと言っているのである。

他人がお膳立てをする再就職への支援をあてにするだけで、「人生の再スター
ト」を切ることができると言う「青い鳥」。中小零細企業の管理者、フランチ
ャイズのオーナー。転身の条件は大手ではなかなか身につかない「後ろ盾無い
行動力」であることを無視して、スキルと聞けば資格取得やソフト操作で事足
りるとする「青い鳥」。このような「青い鳥」を追い続けて、大切な時を何ヶ
月、何年と費やす人に私は何度も会ったことがある。

「うちの社員は使い物にならない。光る人材がいれば良いのに。そんな奴がい
たら、すぐにでも雇うよ」と言い出す数人の経営者も私は知っている。まず隗
より始めねばならない時に、「ぴったりの人材にいつか巡り会える」と啼きな
がら飛び去る「青い鳥」を見つめている人々である。「ぴったりの人材」が、
具体的にどんな人か描けないので、ハローワークに提出する「求人票」も書け
ない。求人ニーズは山ほどあるのに、ハローワークに寄せられる求人案件は伸
び悩む。かくして、ここでも「青い鳥」が失業率を押し上げる。

その上、オカミは「年齢と性別を条件に入れなければ丸く収まる」と叫ぶ「青
い鳥」を追いかけることにしたらしい。「ニガー」と言う言葉を封じても米国
の黒人差別はなくならない。広告に年齢を書かなくなっても、履歴書に生年月
日と年齢の記入を求めず、面接には目を閉じて臨む経営者はいない。無駄な接
触を重ねて求職者と求人企業は疲弊して行く。

人材ビジネス全体を「伏魔殿」と呼ぶコンサルタントを知っている。私にはそ
れが「野鳥園」に見える。決して捕まえられない「青い鳥」が群れなして飛び
回る限り、失業率は下がらないのではないかと思っている。だから、それが数
ポイント上がっても驚かない。むしろ、その鳥を片っ端から猟銃で撃ち殺すよ
うな作業が、今、私にはとても楽しく感じられる。
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<PR: 札幌学院大学にて『職業を知る』講義中!>
札幌学院大学(北海道江別市)の法学部にて、『職業を知る』と題して週一回
約200名の学生に対して講義を行っております。その一端を紹介いたします。
(近日中に、ホームページでも紹介予定!)

5月17日講義 「給与の位置付けと生活設計」
1 「基本給」・「年収」などにはどのような項目が含まれているか
2 インセンティブ制のプロコンはどのようなものか
3 年齢ごとに基準となる給与は変化させるべきか
4 給与の市場決定とはどのようなことか
また、そのプロコンはどのようなことか
5 社会人になるとどのような支出をしなくてはならないか
6 加齢と共に支出にはどのような変化が生じるか

5月24日講義 「キャリアパスを考える(1) =会社員と職能=」
1 ゼネラリストのキャリアパスとはどのようなものか
また、そこで求められるスキルとはどのようなものか
2 スペシャリストのキャリアパスとはどのようなものか
また、そこで求められるスキルとはどのようなものか
3 転職の「上流」と「下流」とはどのようなことか
4 年齢ごとの能力の限界(1)
30歳以降変えられない能力とはどのようなものか
5 年齢ごとの能力の限界(2)
35歳以降変えられない能力とはどのようなものか

※ 詳細な内容にご関心を頂けましたら、メールにてご一報ください。
msi-group1@mbb.nifty.ne.jp
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発行:
「企業から人へのコミュニケーションを考える」
合資会社MSIグループ(代表 市川正人)

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次号予告: 増刊第4号 癒しのまじない(6月10日発行)
ヒット曲『気持ちはつたわる』を聞きながら考えた、「言葉にすること」の意
味についてまとめたものです。かなり練度の高い文章になったつもりです。ご
期待下さい。