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経営コラム SOLID AS FAITH 増刊第2号
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ご愛読ありがとうございます。増刊第2号をお届けします。
全6回にわたり、『月刊フランチャイズ』誌に連載の『こころに効くコラム』
のオリジナル原稿を増刊号としてお届けする第二回目です。長さが通常号の倍
以上あるので、ご負担に感じる方が多いかと危惧しておりましたが、幸いにし
て、幾つか頂戴したご感想の範囲では、大丈夫とのことですので安堵しており
ます。長さに耐えられない方は、(決して読者登録を解除せずに)6回分、届
くごとに読まずに廃棄して頂くようお願い申し上げます。
四月より札幌学院大学の法学部で、毎週金曜日に『職業を知る』と題して働
くことについて考える講義を担当させていただくこととなりました。(教育上
の悪影響を危惧してのことかもしれませんが、)「どんなこと教えているの」
とお尋ねいただく機会が増えました。巻末のPR欄にて、講義のテーマやポイ
ントを紹介することと致しましたので、ご関心を賜れたら幸いと存じます。
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☆当コラムをより一層お楽しみ頂くために、プリントアウトの上、ご一読いた
だくよう強くお勧め申し上げます。
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増刊第2号: 天気図の舞台裏
テレビを見ていると、大手小売業の業績が悪い。単に業績が悪いだけではなく、
どんどん潰れて消えて行く。ニュース、特番と映像が重ねられて行く。広報担
当者が状況を報告し、追って経営者が自らの責任を電波に乗せ、辞任して行く。
特定の葬祭場のような会場で何か定番の式次第に則って行なわれているが如く、
どの企業のケースも同じような映像に私には見える。
私があるフィルムメーカーに勤めていた頃、今、経営危機に瀕している某スー
パーと取引があった。納入業者である私を担当するバイヤーは、朝からネクタ
イを緩め、上着もなくしわしわのワイシャツも露に、サンダル履きで現れる。
約束の時間に、無人の受付で内線番号をダイヤルしても、いつも席にいず、煙
立ち上る喫煙室で燻製のようになっていた。彼だけのことではない。燻製部屋
には他にも多数の担当者がいた。
この企業では、頻繁に組織改編が行われ、担当者の部署名・役職名も変わるし、
居る階も変わる。その連絡は全くない。ある日、商談に行くとその部署が存在
しなくなっていて、もとの階の「新住人」に尋ねても、「たらい回し」か木で
鼻を括ったような返事しか返って来ない。実務担当者である私に会った彼の上
司は、名刺交換しようとすると、「担当者レベルの名刺は要らない」と拒み、
用件だけ言い放って足早に去った。
このスーパーのOBで、今はそのグループ企業の幹部と酒の席を共にする機会
があった。「やはり、スーパーにしても、GMSにしても、その業態自体が役
割を終えたということなんだと思うんだよ。お客さんのニーズに合致しなくな
ったということだよね」と、遠くを見つめるように言う。彼の話と私の体験を
組み合わせてみると面白い見解が構成される。過去の一時点において、納入業
者には最低限の礼さえ失していても、消費者のニーズには合っていた。しかし、
時を経て、消費者のニーズにも合わなくなったということであろう。
私は日本特有の言葉である「流通業」の業態の定義や分類を詳しく知らない。
だから、スーパーやら、GMSなどが、その業態の役割を終えたなら、同業他
社がなぜ同様に消えてなくならないのか不思議に思う。小売業の「輪の理論」
などを持ち出して話を進め、まるで恐竜絶滅の経緯のように、不可避の天変地
異や寿命の到来のように、業態の終焉を論じる彼に私の疑問は膨らんで行った。
意見を求められたので、取り敢えずこう答えた。
「業態とか、その店舗の器が、それほどまでに決定的な影響を業績に与えるの
かどうか私には分かりません。私の知る限り、あの企業が傾いたのは、社会人
として、企業人として、未熟な人が異常に多かったからであるように見えます」。
以前の職場で、中小企業向けのオーダーメイドの研修を企画する仕事をしてい
たことがある。ある時、家具店のボランタリーチェーンの主催者から研修の依
頼が来た。商店街にあるような中小零細家具店店主の勉強会の企画依頼である。
大手の家具小売店が巨大なショールームを構える動きや、業界の寡占化が騒が
れている当時の話である。
いつも通り、ラフな企画を立案し、それを「たたき台」にして、講師の選定・
打ち合わせと仕事を進めるつもりだったが、すぐに頓挫した。講師が見つから
ない。小売業種へのコンサルティングを行なっている所謂「先生」は数多い。
しかし、衰退が必定であるクライアントは誰もが持ちたくない。10人近くあた
って、「諸般の事情」など、色好い返事は皆無だった。
確かに、私が記憶する商店街の家具店は、総じて繁盛しているとは言い難い。
しかし、「廃業か営業権譲渡のコンサルティングならできますよ」と真顔で答
えてくる「先生」が現れるに至って、はっきりとした違和感が自覚できた。
景気が悪くなったと言う。市場に流通しているカネの総量が減ったと言う。カ
ネは天下の回りモノ。将来に不安があるから、回ってきたモノを皆が貯めこむ。
貯めこめば流通量が減り、もともと分け前に預かれた量が減って行く。その分
け前に預かっていた者の中で、「役割を終えた」者の分け前がどんどん減って
行き、「役割を終えていない」者が分け前を維持、または拡大できる。そして、
その役割は、台本できっちり決められている役者の出番のように、ある時が来
ると終焉する。全く分かりやすい理屈である。あまりに単純過ぎはしないだろ
うか。
某デパートが倒産し、閉店後のある店舗に、人材紹介の仕事を手伝っている関
係で、就職説明会に行った。別に私に話す必要もないであろうし、若しくは、
既に尋ねられ疲れたのかもしれない。面接相手は、会社の行く末や倒産の理由、
そして、数はどうあれ贔屓にしてくれたお客様にかけるかもしれない迷惑につ
いて全く言及しなかった。
そのデパートの自宅近くの店舗に妻が足を運んだ。この店舗の正真正銘の閉店
セールである。商品が途方もなく安く売られていた。レジ周り以外は、閑散と
している。店員の中年女性は、同僚に退職の手続についての愚痴を述べていた
と言う。売り場での会話である。
このデパートと、今尚、立派に残って固定したファンを持つ幾つかのデパート
は本当に業態の一言で同列に扱えるのだろうか。同一のマニュアル、同一の看
板、果ては同一の立地のフランチャイズ店といえども、業績に恒常的なむらが
出るのはなぜだろうか。私は、社会全体や消費者に対して企業が果たす役割の
多くは、その経営環境や業態によって、永らえたり消滅したりするものと考え
てはいない。その役割を意識して、それを行動に反映できた者が永らえ、そう
でない者が淘汰されるだけであると思う。
私が敬愛する或る先生の知人の会社が倒産した。その元社員の子供が幼稚園か
ら泣きながら送り返されてきたと言う。月謝の滞納を理由に、もう来ては行け
ないと告げられたと言う。経営はスポーツや道楽ではない。敗者は自らに関わ
る人々に、多大な迷惑や損害を与える。簡単に店を閉めるものではない。廃業
するものでもない。ましてそれを他人事のように穏やかに回想するものではな
いと私は思っている。
テレビでは経済評論家や識者と呼ばれる人々が、業種単位に、企業規模単位に、
業界天気図を解説する。30秒で。3分で。持ち時間以内に終わらせるコメント
は、自ずと単純な分かりやすい構図になるだろう。その「お天気表」の裏側で、
顧客の冷徹な評価のみが業界の天気に関係なく企業を断じて行くことを、画面
から想像することは難しい。
お客様が眼前にいて、その期待に応えることで、企業経営は如何様にでも結果
を変え得る。天気や競馬のように結果が勝手に出るものではない。だからこそ、
株の値段や、ビジネスフォーマットのあり様や歴史、そんな安易で単純な視点
から企業を見ても、経営の面白さと難しさを味わうことはできないのではない
かと考えることがある。
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<PR: 札幌学院大学にて『職業を知る』講義中!>
札幌学院大学(北海道江別市)の法学部にて、『職業を知る』と題して週一回
約250名の学生に対して講義を行っております。その一端を紹介いたします。
(近日中に、ホームページでも紹介予定!)
「テーマ」と「キーポイント」、そして「修了レポート」
講義は毎回一つのテーマの下、4?6個程度のキーポイントと呼ぶサブテーマ
に関して、私の考えを述べてゆく形式で進められています。参加学生は全10回
の講義終了後に抽選で約50の全キーポイントのうち、自分がどのキーポイント
について修了レポートを書くか決定されます。修了レポートはそのキーポイン
トに関して、講師(私)の考えと自分の考えを併記した形で提出することにな
っています。
4月19日講義 「大手企業と中小企業」
1 「終身雇用」・「年功序列」のプロコンはとはどのようなものか
2 企業規模によって、社員一人の重みはどのように異なるか
3 企業規模によって、福利厚生はどのように異なるか
4 企業規模によって、販売戦略・戦術はどのように異なるか
5 企業の経営の方針は誰によって決まるか。
そしてそれは、企業規模によってどのように異なるか
6 組織がその力を発揮できない時、それはどのような理由によるか。
またそれは、企業規模によってどのように異なるか
4月25日講義 「企業の利益創出のメカニズムと人件費抑制」
1 損益計算書上で、人件費はどのような位置付けにあるか
2 損益計算書上の人件費と給与はどのような関係にあるか
3 業績不振の企業は、一般的にどのような対策を取るか
4 一般的な人件費抑制策とはどのようなものか。
またそれは企業の規模によってどのように異なるか
※ 詳細な内容にご関心を頂けましたら、メールにてご一報ください。
msi-group1@mbb.nifty.ne.jp
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発行:
「企業から人へのコミュニケーションを考える」
合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
下のアドレスにご意見・ご感想を頂ければ幸いです。
msi-group1@mbb.nifty.ne.jp
このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して発
行しています。(http://www.mag2.com/ ) マガジンID:0000019921全バッ
クナンバーはまぐまぐのサイトで掲示されております。
http://backno.mag2.com/reader/Back?id=0000019921
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MSIグループの業務案内はこちらです。
http://member.nifty.ne.jp/MSI-GRP/MSI-profile.html
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次号予告: 増刊第3号 青い鳥の所在(5月25日発行)
「倒産」がテーマの今号に続き、次号は「失業」をテーマにしてみます。景気
のバロメーターともなっている失業率。私が見聞きしたその裏事情を匿名の実
話満載でまとめてみました。ご期待ください。