増刊第1号 信念の着脱

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経営コラム SOLID AS FAITH 増刊第1号
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ご愛読ありがとうございます。増刊第1号をお届けします。

既に、何度か予告しております通り、今回の号から6回に渡って『月刊フラ
ンチャイズ』誌に連載の『こころに効くコラム』のオリジナル原稿を増刊号と
してお届けします。通常号に比べ、本文部分の長さが倍以上ありますので、長
さに耐えられない方は、(決して読者登録を解除せずに)6回分、届くごとに
読まずに廃棄してください。お手数をおかけしますが、ご了承下さい。

また、ありがたくもお読みいただく場合は、通常号以上に、プリントアウト
した方が読み易さが増すものと思いますので、是非お試しください。

既に『月刊フランチャイズ』誌上でお読みの方もいらっしゃるかとは存じま
すが、その表現は、多分に編集長の好みによって変更されておりますので、オ
リジナルがまた新たな楽しみになるのではないかと、淡い期待を抱いておりま
す。ご意見・ご感想はメールにてお寄せ下さい。(返事の納期は5営業日!)

販促資料『稼ぐホームページ作りなら、こんな常識捨てなさい。?中小企業
向け、利益を生むホームページ活用術?』の発送・お届けは既に完了いたしま
した。ありがたいことに「できの良さに驚いた」の主旨の感想まで頂きました。
皆様の参考になれば幸いと存じると同時に、ヒト系の(研修・採用の)企画専
門ではなく、このような企画もお受けできることをご認識頂けましたら望外の
喜びと存じます。
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☆当コラムをより一層お楽しみ頂くために、プリントアウトの上、ご一読いた
だくよう強くお勧め申し上げます。
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増刊第1号:信念の着脱

ニューヨークでのテロ事件以来、各国の首脳達が強く格好良い言葉を並べる。
「正義」、「自由」、「民主主義」など、ありとあらゆる概念を持ち出し、戦
争を正当化しようとする。自由とは何と不便なものであろうと思う。民主主義
とは何と効率の悪いものであろうと感じる。

「断固たる姿勢」と日本の首相も繰り返す。日本人が政治や軍事を介して断固
たる姿勢をとれたのは一体いつのことだろう。鬼となって、敵に味方する民間
人どころか、女子供まで、根絶やしにすることができた日本人は歴史上一体何
人いるのだろうか。

「アメリカもとうとう本気にならなきゃね。やるのなら、アラブ全国を敵に回
し、皆殺しにする覚悟をしなくちゃだめね」。
20代前半のように見える普通の女性が、アイスクリームを舐めながら、当り前
のように答える。軍事力を動員すると米国が発表した時、イスラエルの街角で
行われたインタビューに答えた発言である。建国からその存在を脅かされ、周
囲の国すべてを敵に回して何年にも渡る血みどろの戦争を繰り返したこの国で
は、18歳になると全員が徴兵されて銃を握る。

「断固たる姿勢」で日本が勝負するのは何やら虚しい。「断固たる姿勢」は彼
の国の人々の十八番である。日本より「断固たる姿勢」を打ち出しているはず
のアメリカでも、如何に政府を支える軍需産業が焚き付けようとも、民意を計
り、言葉を費やして、軍を動かさねばならない。戦地でも、人権が慮られる。
負傷した者は置き去りにされず、まるで、山岳地帯での遭難者の如く救助され
る。そして、無防備な負傷者収容のタイミングを狙われて、さらに被害が広が
る。

人権を考慮し、人が争わない戦争を近代戦と呼び、破壊兵器を開発する。しか
し、ミサイルで人を狙い打つことはできない。森や山に潜む敵兵は、戦闘機が
ナパームを落とすより早くエンジンの爆音を聞くだけで脱出する。戦車で建物
を破壊し、その地を制圧することはできても、操縦者を狙われると一たまりも
ない。軍縮の時代に核は使えない。兵を皆殺しにする毒ガスや地雷も「人道的
ではない」ので、使えない。敵兵と同じ顔をしているのに民間人は保護しなく
てはいけない。降伏を示したら、保護しなくてはいけない。こんな手枷足枷が
あって、「断固とした姿勢」の敵殲滅はできるのか。

漫画のスーパーマンもスパイダーマンも、アメリカのヒーローはほとんど血を
流さない。相手の命を奪わない。相手が無力になったと見たら攻撃を止め、ボ
クシングか何かの競技のように、敗者に手を差し伸べる。ゲーム感覚では実戦
に生き残れない。肥大した「人権」が国と民族を弱くしているように思えるの
は私だけだろうか。

敵は命を賭して、航空機を乗っ取る。その乗客を人質にしたまま、敵国の航空
機を「有人のミサイル」と化してしまう。テロと戦争の定義の相違も関係ない。
民間人と兵の区別もしない。スキューバダイビングのナイフぐらいなら簡単に
通してしまう金属探知機。そんな甘くいい加減な日常に浸かった薄く広い防衛
網を、ピンポイントで強襲し、最小のリスクで最大のリターンを目指す。その
実行を可能にするのが、「断固たる姿勢」であろう。

物量の大国アメリカを相手に、今回のような攻撃を仕掛ける「テロ」を私は決
して賞賛しない。しかし、その実行を決断し、計画し、その実行にあたる者を
教育し、そして死までをも良しとさせるそのプロセスに多大な関心が涌き溢れ
る。

私は「業務系コミュニケーション企画請負業者」である。組織の意志を関係者
に効率的に伝えるのが仕事である。顧客に対しては、その会社と製品の揺るが
ない強みを効果的に伝える販売促進策を企画する。従業員に対しては、そのク
ライアント企業が、仮に3Kを絵に描いたような会社でも、その評価されるべ
き所を社員に認識させ、その全知全能をもって仕事にあたるようにする方策を
考える。

私のクライアント企業の多くは、中小企業・零細企業と呼ばれる会社で、生き
残ることに必死のはずである。最近は採用の悩みを相談されることが多い。曰
く、「広告を打っても良い人物が集まらない」、「面接しても、やる気が感じ
られない」、「入社してもすぐに辞めてしまう」、など枚挙に暇がない。さら
に細かく、「注意すると、ふてくされてしまう」、「時間になるとさっさと帰
る」、「自分が何をすべきか分かっていないようだ」など、態度面に言及する
ものもある。

資金も設備も不充分で、組織も未整備で、技術も情報も満足なものではない。
社員の給与水準は低く、おまけに、福利厚生も殆どない。集まる人材の学歴も
意識も総じて低い。こんな企業が大企業に伍して行くことができるのかと、社
長自ら、私に不安をぶつけてくることさえある。そんな社長に、ニューヨーク
の話をする。

「あのハイジャック犯のような人々が御社に数人でもいたら、御社は簡単に持
ち返すでしょうね」と私が言うと、当の社長はギョッと目をむく。「目的のた
めには「死ね」と言えば「死ぬ」ような人達ですから、当日の売上目標達成の
ためには、夜の夜中まで理屈も言わず駆けずり回るでしょうねぇ。例え、社用
車が壊れても、不満も漏らさず、言い訳もせずに、自分で直して帰ってくるん
じゃないですか」と。

強烈な目的意識は、人々を変え、その能力を躊躇いなく引きずり出す。宗教絡
みの狂信者のやったことだと言うのなら、自社独自の宗教を確立すれば良い。
なりふり構わず、「利益」と「顧客満足」の並立に邁進するのが中小企業では
なかったか。書店に行くと、「祈りの経営」などのタイトルが目に付く。経営
者がご託宣をもって経営を行っているかつてのベンチャー企業を私は知ってい
る。アメリカで好業績の「ビジョナリーカンパニー」と称される企業は、社員
や顧客に対して自社の価値観の浸透を最優先すべき業務と位置付けている。

かつて、自分の信じることを主張するために大学の講堂に立てこもり、水をか
けられ、催涙弾でいぶされて尚、抵抗する人々がいた。同じく山荘に立てこも
り、日本のスーパーと銭湯からすべての客を奪い、テレビの前に釘付けにする
ほどの人々がいた。さらに、自衛隊の基地で割腹自殺をする人がいた。古くは
主君の仇討に、名誉が重んじられた時代に「臆病者」、「うつけ」と罵られな
がら人知れず準備を進め、見事に目的を完遂した人々がいた。

私はかつての日本にも存在した、信念に基づき行動する人々は、どのように発
生し、どのように激減していったのかに非常に関心がある。発生のプロセスは
企業にとって最高の投資の対象となるだろう。そして、絶滅のプロセスは軍備
によらない最大のテロ対策となるのではないかと思う。

そして、私は、信念ある人の常識を越えた強さに引きずられ、悩まされる側に
は立ちたくない。NHKのプロジェクトXなる番組に涙する人がまだ多いなら、
何かの方法・方策で人に失われた信念を、目的意識を植え付けることはできる
のではないかと、燃え上がり崩れる高層ビルをテレビの画面で見るたびに考え
る。
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発行:
「企業から人へのコミュニケーションを考える」
合資会社MSIグループ(代表 市川正人)

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次号予告: 増刊第2号 天気図の舞台裏(5月10日発行)
業界の景況を天気で表すテレビ番組があります。その天気予報を見ながらこ
こ最近の倒産劇・破綻劇について考えたことをまとめてみました。
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