407 折れゆく矢

=================================
経営コラム SOLID AS FAITH 第407号
=================================

 既に10日過ぎてしまいましたが、遅れ馳せながら、新年明けましておめでと
うございます。いつもの如く、原稿の作成順の発表のため、コラム本文は季節
感も何もない内容で恐縮ですが、第407話をお届けします。

 年末12月から年度末の多い3月にかけて、書入れ時が幾つかのクライアント
さんで発生するため、勉強会などの経営改善の取組がお休みになるケースが多
く、弊社では冬季は一般に売上が減少する時期です。案件に区切りがつくケー
スもあり、新規案件の開拓も兼ねて、第393話『猫殺しの誘惑』で描いたまん
まの恒例の大判寒中見舞の発送の作業を行なったりしております。

 本年の大判寒中見舞のテーマは、中小零細企業の経営環境の変化要因の二つ
を取り上げてみました。「斑模様の人口減少」と「AIを含むICT技術の爆発的
普及」です。詳しくはPR欄をご覧下さい。何かすぐには影響の出なさそうな、
実感の湧かないテーマのようですが、現実には、世の中の至る所でこの二つの
要因についての話を耳にします。大判寒中見舞を受け取っていない方で、内容
をご覧になりたい方は、メールにてご一報ください。

 本年最初の号は『折れゆく矢』と題して、或る零細企業の事業承継の失敗の
事例を考えています。事業承継の成否は、多くの場合、事業承継の瞬間に明確
になることはありません。事業承継の際の判断の甘さや妥協が、最初は小さな
歪みやしこりとなって残りますが、それが徐々に大きくなって、正常な経営判
断を脅かすようになっていくように私は考えています。

「あの時に、ああしておけば…」と言う結果論は、如何様にも言えますが、そ
の消滅を惜しむ顧客が多く存在するような企業でも、組織運用や資金繰りなど
の問題で消えてしまうこともあります。今回の号では、そんな地元の有名店が
閉店に至った経緯をまとめてみました。本文に対するご意見・ご感想をお待ち
しております。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!
=================================
第393話『猫殺しの誘惑』 http://tales.msi-group.org/?p=822
=================================

その407:折れゆく矢

 タクシーの老運転手はこの界隈の過去50年以上の記憶を色々と話してくれ
る。同じ曜日、同じ時間帯に呼ぶと大抵彼が来る。家から駅に向かう10分ほど。
通りかかった角にはビルの袖看板に名前だけが残る地元の歴史ある書店跡。
「ああ、ほんとに残念ですよね」と彼が顎で指してぼそりと言う。私も数ヶ月
間だけ経営の相談に乗った書店。仕入の代金が払えず、3次問屋の口座を取り
消され、仕入不能に突如陥って、あっさり倒産した。
 
 この会社は地元の有力企業だった。先代の創業者夫婦は、努力家・倹約家と
して有名で、苦労に苦労を重ね、地元の大きな交差点角にビルを建てた。当時
は周辺に同じ高さのビルがなかった。賃貸を始め経営が楽になった。地元の小
事業者へ軽印刷の仕事も始めた。文具も充実させ、書籍販売から軽印刷まで
B2C・B2B両方の用が足せる便利な店舗になった。
 
 夫婦には息子が三人いた。後継者決定の経緯はタクシー運転手も詳しくない。
結果的に、不動産管理・書店経営・軽印刷の三つの事業の三社に分割され、三
人の息子にそれぞれ引き継がれた。三社の経営は総て程なく暗転した。自社ビ
ルの賃貸収益で成り立っていた不動産管理会社は、商店街の中心が移り、しも
た屋を曝し始めた。軽印刷会社は、大量印刷の大手とオフィスのIT環境の発達
で追い詰められつつある。書店は、コンビニや大手書店にネット通販が加わっ
て、売上が激減した。自社ビルに入っていても仕事が増えないと悟って、軽印
刷会社も書店も移転を繰り返して体力を削り取っていった。

「たわけ」の語源は、複数の子供に相続で田を分けていき、最後には喰ってい
けない田の大きさにしてしまう愚行から来ていると聞いたことがある。「戯け
る」という動詞もあるので、俗説なのかもしれないが、「田分け」は確かに、
情に絆された親の愚行のように響く。

「兄弟は他人の始まり」とも言う。海外のナントカ・ブラザーズや国内のナン
トカ兄弟社の成功要因は何なのだろう。投資先を漁りたがる海外機関投資家か
ら脅されているのか、ニュースでは「閉鎖的家族経営の弊害」が頻繁に強調さ
れる。公開企業でも不埒な経営判断はそこここに存在する。誰と誰がどんな関
係性で経営していようと、市場のニーズに向き合い続ける組織は存続するだけ
のことだろうと、浅学な私は思う。

「本当にそうですね。残念ですよ。私も急がない書籍の取り寄せは全部ここで
やってたんです。ずっと昔、会社を分けなきゃ良かったのに。それならまだ、
環境が変化しても、勝算があったと思いますよ。まるで毛利元就の三本の矢の
話の裏返しバージョンですよね」。
 三人の兄弟は、タクシー車中でさえ蒸し返される詮無い話をとっくに忘れた
ことだろう。

=================================
☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
=================================

【MSIグループからのPR】

恒例、大判サイズ寒中見舞 お届け作業 順次進行中!

変に経費節減を狙った訳ではありませんが、
恒例のA4サイズに対して、本年の寒中見舞いはA5です。
従来のを大判と呼ぶなら、今回は中判です。

中小零細企業の経営を揺さぶりつつあり、
これからも大きく変化するであろう、
経営の環境要因についてまとめた内容にしてみました。

二つの経営環境要因は…
●「斑模様の人口減少」と
●「AIを含むICT技術の爆発的普及」です。

人が雇えなくなる一方で、人が要らなくなる仕事の激増。
ICT技術活用で大幅コスト削減の競合他社が出現する一方で、
人間の緻密で臨機応変な対応に拠る差別化ポイントが明確化。

否応なく、色々な変化が起きて、
中小零細企業の経営に、変化か淘汰かを迫ります。

そんな状況を俯瞰しつつ、
弊社の考えとご提供可能なサービスなどを紹介した内容です。

随時お届け作業進行中です!
「届いていないが、内容を見てみたい!」と言う方は、
是非、メールにてご一報を!
 bizcom@msi-group.org

=================================
【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『卵子老化の真実』 河合蘭 著
■『言ってはいけない…』 橘玲 著
=================================
発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
下のアドレスにご意見・ご感想を頂ければ幸いです。
 bizcom@msi-group.org
このメールマガジンは、
インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して発行しています。
(http://www.mag2.com/ ) 

毎月10日・25日発行 盆暮れ年始、一切休まず足掛け18年。

マガジンID:0000019921 (ナント、たった5ケタ)
★全バックナンバーはまぐまぐのサイトで掲示されております。
 http://archive.mag2.com/0000019921/index.html
★弊社代表のコラムが色々満載。
 ソリアズのバックナンバーも各号の全文が読める弊社ブログ。
 http://tales.msi-group.org/?cat=2
★講読の登録・解除はこちらのURLでお願いします。
 http://www.msi-group.org/SAF-index.html
=================================
※ ご注意!!
 サーバのエラーなどで読者登録が解除されてしまった方がいらっしゃる様子
です。当メルマガは毎月10日・25日に休まず発行しております。発行状況のご
確認は上述の弊社ブログにて行なってください。
 また、まぐまぐからの連絡によると、一部フリーメール運営企業でサーバの
受信量規制を行なっているケースがあり、その場合は大幅にメールマガジンの
到着が遅れるとのことです。
「届かない」、「再送希望」などの連絡は、まぐまぐの窓口である
「magpost@mag2.com」に、メルマガID(#0000019921)、タイトル(『経営コ
ラム SOLID AS FAITH』)、購読アドレス、再送希望の旨を記載の上、メール
にてご連絡下さい。
=================================
次号予告:
 第408話 『パーソナル・スペース』 (1月25日発行) 
 日本全体で人口減少現象が顕現してきたせいか、広域商圏だとネット上のビ
ジネスとの競合が激しくなるせいか、地元密着をコンセプトに掲げる中小零細
企業が増加しています。そのあるべき姿を考えてみました。

(完)