17周年記念特別号

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経営コラム SOLID AS FAITH 17周年記念特別号
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目次

第1章 ご挨拶
第2章 AIの歴史
第3章 たぐいまれな結末
第4章 オートメーション化の罠
第5章 大手企業のAI活用の検証
第6章 中小零細企業のAI活用の検証
第7章 中小零細企業とAI 共存の道標
あとがき (市川正人)

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☆注意:お読みになる際には、枚数がかさみ恐縮ながら、プリントアウトの上
お読みになることを、心よりお勧め申し上げます。
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第1章 ご挨拶

ソリアズをご覧の皆様、こんにちは。この度、17周年記念特別号を担当させ
ていただくことになりました、合資会社アイソリューションの山口佳織です。
振り返れば、300話発行記念特別号から始まり、13周年記念特別号、14周年記
念特別号と、ソリアズには通算して4回目の登場となります。

以前、13周年記念特別号で、『中小零細企業におけるIT導入』というテーマ
の文章を書かせていただいてから、早4年が経ちました。2012年当時は、PC
にインストールする形のソフトや、物理的なファイル・サーバを購入せず、イ
ンターネット経由で提供される同様のサービスを利用する「クラウド・コンピ
ューティング」が声高に叫ばれていましたが、私が知る範囲の中小零細企業の
現場では、その頃はクラウド・コンピューティングの導入に対して消極的どこ
ろか、選択肢にも挙がってこないような状況でした。しかし、4年経った今、
経理や販売管理を考える場面や、新たなシステムを開発する場面などで、中小
零細企業でもクラウド・コンピューティングの導入を検討し始めています。

2016年現在、最も注目されているITの技術といえば、AIではないでしょう
か。AIとは、Artificial Intelligenceの略称で、所謂「人工知能」のことで
す。今年に入ってから、Googleの子会社が開発した囲碁AI『AlphaGo』が、現
代最高の囲碁棋士と言われる李九段にほぼ完勝しました。囲碁は、手の豊富さ
からチェスや将棋と比べて遥かに難易度が高いと言われていますが、分野に
よっては、AIが既に人間の能力を超えてしまう場面も散見されるようになりま
した。更に、将来はコンピュータ・AIが人類を超え、人の仕事を奪う「2045年
問題」も危惧されています。

中小零細企業の現場では、まだまだ「世間では騒がれているけれど、AIが何
なのかよく分からない」「どういう風に仕事に影響があるのか想像がつかない」
というのが実態です。しかし、以前のクラウド・コンピューティングのように、
大企業から少し遅れて直面するであろう“AIの時代”の到来に向けて、中小零
細企業がAIを活用し、“共存”する道を考えていく場面がきっと訪れることと
思います。この文章が、少しでも中小零細企業におけるAI活用の在り方を考え
るきっかけとなりましたら幸いです。

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第2章 AIの歴史

“第三次AIブーム”の影響か、急遽「AI展」が開催されるというのでビックサ
イトに行ってみました。数十社のみの出展で成り立っていたエリアでしたが大
盛況で、「ウェブサイトのアクセス解析を自動でやってくれるAI」から「メー
ルの送受信履歴から『退職』に近い言葉を洗い出し、辞めそうな社員を洗い出
すAI」まで様々なAI製品が展示されていました。違うエリアの出展者と名刺
交換をしながら話をしていると、「AIの技術を使ったOCRの営業を受けていま
すが、既存のものと比べると随分高精度ですよ」と教えてくれました。

AI(人工知能)は最新技術と思われがちですが、人工知能という言葉ができ
たのは1956年のことです。第一次AIブームと呼ばれた当時は、“トイ・プロ
ブレム”と呼ばれる限られた範囲・限られたルールに支配される(オセロなど
のボードゲームのような)問題を解くことが限界でした。その後、1980年代に
巻き起こった第二次AIブームでは、コンピュータに蓄積された知識(データ
ベース)と定型の判断をもとに、専門的な問いに対して返答をするという機能
が開発されました。このとき初めて、コンピュータと“対話”することができ
るようになりました。ソリアズの3周年記念特別号に登場する「アリスボッ
ト」が、まさに対話できるAIです。

頓挫してしまった過去のAIブームと今回の大きな違いは、データのどこに注
目すべきかという「特徴量」を、AI自身が見つけられるようになった点にあり
ます。AI自身が特徴量を見つけられるようになるまでは、人が手作業で特徴量
を決定し、機械に設定しなくてはならず、大きな作業負担がネックとなってい
ました。今回の第三次AIブームでは、人の脳のつくりを機械で実現し、「ディ
ープ・ラーニング」という自ら特徴量を見つけ出す機能を開発したことで、AI
が自律的に判断基準を学習してくれるようになりました。

人の脳の構造は全貌がまだ明らかになっていないため、本当の意味での「人
工知能」の実現はまだ先になるかもしれませんが、このまま進歩を遂げると、
2045年には人工知能が人間の能力を超える「シンギュラリティ」が起こり、人
の仕事が機械に奪われてしまうと言われています。

実際に、今年に入ってから日本語版が発売されたIBMの「Watson(ワトソ
ン)」というAIは、過去の通話履歴をもとに、コールセンターにおける顧客品
質の向上を期待して導入されており、業界によってはAIが既に人の代わりに仕
事を始めています。また、Microsoftが開発している「りんな」は、LINEや
Twitterを通じて会話できる女子高生AIとして公開されており、シャープ株式
会社の公式Twitterを1日間インターンという設定で担当したこともあり、人
とAIとのコミュニケーションも徐々にスムーズになってきています。AIは、
人では扱い切れないほどの膨大なデータをもとに特定のパターンを見つけ出
し、予測・運用していくことが得意です。

しかし、裏を返すと、前例の数が十分ではないものについては、AIが予測し
て行動することが難しいということになります。また、AIは、投げかけられた
問いに対して膨大なデータを元に、妥当と思われる回答を提案することはでき
ますが、AI自らが問題意識を持つことは現時点では難しいとされています。
「何が問題か」を見つけることや、事例の少ない中での直感的な意思決定をす
ることがAIの弱点です。その得意・不得意とコスト面を考えて、何の仕事をAIに
させるのかを考えることが企業に求められてくるのです。

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経営コラム SOLID AS TAITH 3周年記念特別号
http://tales.msi-group.org/?p=116
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第3章 たぐいまれな結末

友人から「新しいビジネスを立ち上げた友人の力になってほしい」と言われ、
バングラデシュ在住の日本人と会った。彼は大学院を卒業後、バングラデシュ
の貧困を救うために単身で渡航したという。既に現地で人を採用して事業を営
んでいるそうだが、今回は新たに、バングラデシュの人材を日本に派遣するビ
ジネスを考えているということで来日したそうだ。「タクシーの運転手みたい
な、誰にでもできる仕事は外国人に任せてしまって、日本人は皆マネジメント
の仕事をすればもっと豊かになる」と屈託のない笑顔で言う彼を目の前に、最
近読んだ書籍の「AIに奪われそうな仕事」トップ10に「タクシー運転手」が含
まれていたのを思い出す。

『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』という書籍には、2013年にオックスフ
ォード大学 カール・フレイ、マイケル・オズボーン両博士が発表した論文を
元に、人工知能に奪われてしまう主な仕事と、奪われそうにない仕事について、
具体的に言及されていた。米国の労働省が提供するデータベースに登録されて
いる702種類の職種のうち、それぞれのトップ5は以下の通りだという。

●AIに奪われてしまう仕事
電話による販売員、データ入力、銀行の融資担当者、金融機関などの窓口係、
簿記・会計監査

●AIに奪われそうにない仕事
医師、小学校などの教師、ファッション・デザイナー、エレクトロニクス技
術者、情報通信システム管理者

*その他の職種の未来
『あなたは大丈夫? 10〜20年後、人工知能に奪われる仕事100』
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1602/03/news024.html

同じ論文を元に書かれたネットニュースの記事では、『現存する職種の47%
がAIに奪われる』という衝撃的な見出しで、AIへの恐怖心を強く煽っている。
“シンギュラリティ”と呼ばれるその状況は、2045年に到来すると予測されて
いるようだ。

ある日、クライアントの医療法人が、新たに特養老人ホームを建設するとい
うことでウェブサイト制作の打ち合わせに出向くと、「非正規雇用が4割を超
えて『正社員になれない』って嘆く若い人が多いけれど、介護・福祉業界では
若い人が採用できない」と施設長が嘆いていた。「敢えて非正規雇用という働
き方を選ぶ人もいますからね」と、『「若者はかわいそう」論のウソ データ
で暴く「雇用不安」の正体』で紹介されていた事例を紹介する。人件費の安い
作業系の仕事が海外に取られた結果、顧客折衝が不要な仕事が極端に減ったこ
とに言及している。そして、社会で生きていくためには対人折衝の能力が必須
となったが、人と接する仕事をしたくないがために、あえて派遣という働き方
を選ぶ人も増えたそうだ。

世界を一つの経済共同体と捉え、海外に単純作業を発注していく「グローバ
リズム」も、対応がマニュアル化できる職種をAIに奪われてしまう「シンギュ
ラリティ」も、人がやるべき仕事が、人と接する仕事ばかりになってくるとい
う現実を突きつけてくる。2045年に仕事を奪われてしまう47%の人々は、非
正規雇用を敢えて選ぶ4割を超えた人々に集約してしまいそうな事実に気が付
き、複雑な気持ちになった。

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第4章 オートメーション化の罠

「そういえば私の知り合いに、AIの仕事をしている人が居るんですよ。山口さ
んはITの仕事をされているのですよね。何かお仕事に繋がるのではないです
か? よければ、ご紹介しますよ」。交換したばかりの名刺を眺めて、異業種
交流会で知り合ったばかりの人が笑顔で言う。具体的な仕事内容を聞いてみた
ら、「とりあえず会ってみて話をすれば、わかりますよ!」と快活な声で答え
を頂いた。試しに、目の前の人に身近なAI活用事例で思い浮かぶものを問う
も、特に思い浮かばない様子だ。

Googleの画像検索をはじめ、スマートフォンに搭載されている音声認識型の
パーソナル・アシスタント機能、遅延証明書付き自動改札機やルンバ、更には
クレジット・カード会社の信用調査など、「無人化されているしくみ」を軸に
考え始めると、日常生活でも既に多くのAIを使ったサービスに触れていること
がわかる。AIは、人間が指示を与えなくても、蓄積されたデータをもとに自律
的に考え、行動することが最大の特徴である。一方で、画像認識のようにかつ
てはAIと呼ばれていたものも、時が経つにつれ、AIと認識されなくなっていく
ことも特徴であると『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先に
あるもの』で述べられている。

市川と毎週一緒に伺っているクライアント企業からの帰り道に、ふと思い出
して、ある大手企業で導入されたエレベータのAIの話をする。そのAIは、毎
朝の通勤ラッシュでビル内のエレベータが混むため、自動改札のような入口の
ゲートをICカードで通過した際に、複数基あるエレベータのうち、どのエレベ
ータに乗り込むかを音声で具体的に指示するそうだ。停止する階もエレベータ
毎にあらかじめ決められているわけではなく、毎日、どのエレベータがどの階
に停まるかをAIが制御しているという。「でも、そういう、日常生活で些細な
ことでも『考え続けるクセ』っていうのが、結構重要な気もする」と、市川が
ポツリと漏らす。

「後日連絡する」と言われたまま音沙汰のない“AIを生業とする人”の紹介に、
こちらから連絡すべきかと考え込む。「会ってみたら分かる、ではなくて、
もっと具体的に、どう私の仕事と結びつくかを話してくれたら、すぐにでも
会ってみたいと思うんだけどなあ」。業種を聞くだけで、業態の特徴を理解せ
ずに右から左に紹介をしてくるような人は、案外多い。AIにウェブサイトや過
去のメールの文章を読み込ませ、そのデータをもとにAIにマッチングをお願い
した方が、よほど良い人と知り合えそうだ。

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第5章 大手企業のAI活用の検証

ここでは、AIが企業の当たり前になった時代に、大手企業と中小零細企業の
職場がどのように変わるかを、5章・6章の二章に渡って経営戦略・人事・営業
・製造現場という観点で想像していきます。

【経営戦略】
過去の売上データを蓄積したAIが今後の売上推移の見通しと、経営課題を分析。
全く現場を見ることなく、AIが打ち出した経営方針案を経営会議で検討し、経
営陣が方針を最終決定する。しかし、蓄積したデータ容量が莫大なため処理時
間がかかり、経営方針がAIから提示されるまでには、比較的長いタイムラグが
発生してしまう。

【人事】
年に一度、営業成績や所有している資格などの定量的なデータと、上司や部下
からの評価を入力した上で、AIが自動的に昇格候補者を提案し、最終的な決定
は人が行なう。退職希望の人材は常にAIが監視し、引き止めたい人材を洗い出
し、マネージャーが事前に手を打つようになる。基本的には「判断できる人材」
「AIをメンテナンスできる人材」が必要となるので、採用比率は新卒と比べて
中途の方が大きくなる。

【営業】
<店舗販売のケース>
自社の製品・サービスの顧客(特にコンシューマー)とのやりとりは、基本的
にAIが担当する。ペッパーのような人型ロボットが接客するのも当たり前にな
ったが、どうしても収束しないクレームの対応は責任者が出ていって対応する。
顧客からの注文情報をその場で蓄積し、データベースを作成。注文履歴を活か
して新商品の提案や、契約更新の案内メールはAIが自動的に行なう。また、
AIが注文履歴から人気商品を抽出し、類似の製品を仕入れるよう提案するが、
最終的な入荷判断は一部人が行なっている。

<法人営業のケース>
営業管理者が拠点単位ではいなくなり、営業会議はウェブ会議で実施される。
営業担当者は、実質的に個人事業主のような形で行動することとなる。訪問す
べき会社と、訪問すべきタイミングについては過去の購買履歴からすべてAI
が指示し、クライアント毎に持参する資料までをAIが指定し、タブレット端末
に配信。営業担当者は、AIに指定された日に、指定された会社に行き、指定さ
れた資料を元にプレゼンテーションを実施。本当に訪問したかどうかをタブレ
ット端末に内蔵されているGPSで管理されている他、資料のページごとの滞在
時間を分析し、よく見られたページや成約につながりやすいページ等を分析し、
資料の改善に活かす。

【製造現場】
全くの新規商品の開発は、人がすべて行なう。それ以外の商品については、過
去の製品情報をもとに、AIが図面を作成。設計部門のマネージャーはそれを見
て、多少の手直しを行なう。それを再度AIに取り込み、耐久性などの問題がク
リアできれば、実際に製造が始まる。組み立て作業など、単純作業で行なえる
ようなものに関してはすべてAIが行なっている。AIが行なえない製造作業に
関しては、すべて外注する。製造現場で働く人は、組立工よりもAIに指示を与
えるプログラマやエンジニア、機械をメンテナンスする人が圧倒的に多い。
元々製造部門のラインで働いていた人は、自社での製造がAIに変わったため、
関連会社へ出向している。

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第6章 中小零細企業のAI活用の検証

第5章に続き、今度は中小零細企業のAI活用の形を考えてみます。第2章
で見た通り、AIは前例の数が十分ではない場面や課題設定から求められる場面
が苦手です。一般に、中小零細企業においては、機動的な経営が強みとなって
いて、個別の場面ごとに判断や取り扱いを変える個別対応や多品種少量対応な
どを軸に事業を成立させていたりします。そのように考えると、大手企業と異
なり、中小零細企業ではAIの活用の場が非常に狭められてしまうであろうこと
が推測できます。

【経営戦略】
AIが自律的に判断できるほどの取引先数・注文数がないため、決まった帳簿入
力などの作業的な部分しかAIに任せない。経営方針は社長が現場を見て即判断
するため、AIはほとんど導入されていない分野となる。

【人事】
パート・アルバイトの管理や評価はある程度パターン化できるため、AIが担当
しているが、社員の昇給・昇格については条件やルールを具体的に定めていな
いため、社長が直接人を見て、好き嫌い人事で決定されることが多い。退職を
しそうな社員に関しても、社長が直接顔色を見て判断する。大手企業がAIの導
入で学生の採用数を控えた分、今まで回ってこなかった優秀な学生が採用しや
すくなってきたが、育てる体制があまり整っておらず、離職率も若干高くなっ
てしまっている。入社までの内定者の管理は、ある程度パターン化できるため、
AIが担当している。

【営業】
大手企業からの下請けの場合、大手企業が保有しているAIが需要を予測し、発
注数の決定から発注手配までを自動で行なうようになり、大手企業の営業担当
者と折衝する機会が著しく減る。人情や性格に訴えかける営業が難しくなった
ため、価格や納期などが限定される、厳しい条件のみでの受注となってしまう。
ある程度単価の高い仕事を獲得しようとすると、量が少なく、パターン化でき
ない複雑な仕事が増えるため、受注段階でより一層経験値の高い人材が重宝さ
れるようになる。契約更新の連絡など、自動でできるようなことに関してはAI
に任せることになるが、実際の顧客対応やパターン化できない新規の提案に関
しては、引き続き人が担当することになる。

【製造現場】
少量で複雑な仕事が増えた結果、パターン化できる仕事が少ないため、製造現
場の完全AI化するのが難しく、人が作業をした方が速い時の方が多い。すべて
の作業に共通する、梱包・配送などの工程についてはAI化が進むが、基本的に
は作業よりも、何らかの原因特定に使われる場面の方が多くなる。例えば、天
候、気温、その日のその人の仕事の状況など、あらゆる情報の組み合わせから、
不良が出やすい条件を導き出したりすることに使わたり、モーション・キャプ
チャと組み合わせて、従業員が言語化できない、製造に関わる暗黙知(職人的
技術など)を抽出するためにも使われるようになる。大手企業に採用されずに
残った優秀な人材が中小零細企業に就職し、AIを使えるように設定したり、な
るべく多くの作業をAIに任せられるよう業務のマニュアル化を進めたりする
ようになる。作業によってはAIの維持費用の方が人件費よりも高くなることも
あるため、人が作業している場面はまだまだ多い。

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第7章 中小零細企業とAI 共存の道標

インターネットで、『中堅中小企業のIT投資、3〜5年後「AI格差」がやっ
て来る』という記事を見つけました。記事の元を辿ると、日本ユニシスが毎年
公開している研究資料に行き着きました。そこには、全てのビジネスにAIが使
われるようになり、多くの企業がAIによる差別化・競争力強化を行ない、AI
格差が生じ始めるという予想が書かれています。
http://www.unisys.co.jp/com/tech/technology_foresight/1.html

『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』によると、AIに作曲をさせる実験をし
たところ、バッハをはじめとしたバロック時代のような音楽理論に基づいた曲
の方が良曲を生み出す確率が高く、ベートーヴェンのように、ルールに囚われ
ない自由な音楽の方が、良曲を生み出す可能性が低いという結果が出たと書か
れています。昨今のAIは、ディープ・ラーニングという機能を備え、自発的な
思考ができるようになってきていますが、まだまだルール・法則が決まってい
るものを考えていくほうが得意なようです。

今後、大手企業はAIの導入を進め、業務の効率化をより一層図っていくこと
になると思いますが、それでも発生してしまう不定型で少量の作業については、
小回りの効く中小零細企業に仕事を委託していくことになることと思います。
不定型な仕事が集中する中小零細企業では、AIによる差別化・競争力強化を進
めたところで、AIが得意な「膨大なデータを元に、共通項やパターンを見出し
て、その法則に当てはめて判断すること」は、あまり求められていません。

最終的に、中小零細企業は、AIでは満たされないものを求める顧客から選ば
れるようになると思います。しかし、一方では、中小零細企業においても、本
当に定型化できる作業や、多くの情報から言語化できないものを明らかにする
仕事はAIに任せていくことになると思います。その上で、AIには奪われにく
い…

■営業や、相手の機微を読んで人と接するスキル、
■前例が少ない中、関連する事例を元に的確な意思決定をするスキル

を磨くことで、他社との差別化を図ることが必要になってきます。そのため
には、今以上に人材育成に取り組むことこそが、中小零細企業が今後AIと共存
して生き残る方法のように思えてなりません。

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あとがき (市川正人)

2045年にシンギュラリティが訪れて、たとえ大真面目に「ターミネーター現
実化論」を唱える人々の想像通りの未来が到来しても、その頃には草葉の蔭か
ら眺めれば良いだけだから関係ないや。そんな風に思っていました。

映画『ターミネーター』の「審判の日」は突然到来するのかもしれませんが、
それまで今の日常がそのままに続く訳ではありません。確実にAI技術は加速し
つつ深化し、私たちの前にその姿を現していくことでしょう。そんな当たり前
のことに気付かされたのは、比較的最近です。仕事の関係で訪れたビル・メン
テナンス関係の展示会では、ブースの2割以上が自動床面清掃機を目玉商品に
していました。ぎこちなく床を這い回りながら清掃する機械群の異様な光景を
目にして、不人気業種の中小零細企業を中心によく言われている「海外研修生
受入制度の拡充」など、霞んでしまう思いがしました。

勿論、この特別号にもある通り、なんでもかんでもAI化やメカトロ化で解決
するものでもありません。研修生受入どころか、本格的な移民受入さえ始まる
可能性は否定できません。しかし、海外諸国以上に、高付加価値を重視する日
本社会の文化背景などを振り返ると、単なる安い労働力のあてがい扶持で多く
の問題の解決を図るやる方には無理があります。

また、海外の移民施策を見ると、「安易に調達できる労働力」としてだけの
移民は中長期的に社会的に根深い問題を残すようです。むしろ、日本語を教え
るのは勿論のこと、日本人の行動規範や価値観をしっかり教えて、日本人以上
の日本人を創り上げるぐらいの覚悟なければ成立しないように思えます。

そのような手間をかけた海外からの労働力移転が慎重に進む傍ら、AI化・メ
カトロ化も社会にどんどん浸透していくことでしょう。そして、地方の中核都
市を中心に、今の予想よりは徐々に出生率が高まる事例が見つかるようになり、
日本人の数の減少にもジワジワと歯止めが掛かる段階が来るかもしれません。
一方で、記録されているもの以外も含めると、年間20万件以上あるとも言われ
る堕胎に、何らかの抑制が掛かっていく可能性も十分あると私は思っています。

中小零細企業の経営の現場を考えると、社員の採用や育成、その目的として
の組織全体への多能化の浸透などに真剣に取り組まねばならない案件が増えつ
つあります。押し寄せる人口減のインパクトへの対応は、採用と定着の研ぎ澄
ましと雇用の多様化(≒ダイバーシティ対応)で時間を稼ぎつつ、ダウンサイ
ジングとAI化・メカトロ化が主流になっていくように思えます。その核となる
技術について、今見えていることをまとめておく機会が、このたびできたこと
を喜ばしく思っています。

創刊から17年の間に、第1章で山口佳織が言うように、中小零細企業の経営
の手段は大きく変わっています。しかし、中小零細企業の経営の強みとすると
ころも組織運営の原理にも、大きな変化は見られません。規模が小さく、人の
顔の見える組織であるからこそ、関わる人々のニーズを満たすことを前提とし
た、肌理細かく柔軟で大胆な組織運用が絞り込まれた目的に向かって為され
る。そんな企業だけが生き残り、勝ち残っていきます。それは、手段の選択肢
にAIが加わっても、変わらないものと思います。むしろ、AIの導入によって、
より一層、経営原理が明確になるのかもしれません。

ソリアズはそのような中小零細企業の姿をこれからも描いていきたいと思っ
ています。末永いお付き合いをお願い申し上げます。

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参考記事・書籍一覧:

【第2章】
●記事 『経営コラム SOLID AS FAITH』 3周年記念特別号
http://tales.msi-group.org/?p=116
●記事 『週刊ダイヤモンド』2016年8/27号
http://www.amazon.co.jp/dp/B01KNM4WX0

【第3章】
●書籍 『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』
http://www.amazon.co.jp/dp/4062883074
●記事 『あなたは大丈夫? 10〜20年後、人工知能に奪われる仕事100』
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1602/03/news024.html
●書籍 『「若者はかわいそう」論のウソ …』
http://www.amazon.co.jp/dp/B00KD2IK5M

【第4章】
●書籍 『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』
http://www.amazon.co.jp/dp/B00UAAK07S

【第7章】
●書籍 『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』
http://www.amazon.co.jp/dp/4062883074
●記事 『中堅中小企業のIT投資、3〜5年後「AI格差」がやって来る』
http://ascii.jp/elem/000/001/169/1169683/
●企業ウェブサイト文章 『全てのビジネスにAI』
http://www.unisys.co.jp/com/tech/technology_foresight/1.html
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