『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』

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 封切から2週間近くの水曜日の夜9時45分からのバルト9の回を観て来ました。上映時間151分。トイレに行きたくなる時間長なので、通常ならパスすることが多いのですが、一応それなりに期待していたということと、DVDより大画面で見たほうが望ましいかとの考えから、(半日以上の事前の水断ちの末)トイレに途中で行くことも覚悟の下、敢えて挑戦してみることにしました。

 トレーラーなどの各種の案内、そして本編と足し算すると、終了は0時25分。平日の終電過ぎの終了時間で、観客は10人ほどしかいませんでした。3D上映も1日たった1回。私が選んだ2Dも1日4、5回だったように記憶します。マーベルコミック側がどんどんシリーズ作品を出していく中、DCコミックの巻き返しの作品の割には、意外にぱっとしない観客動員状況なのかもしれません。

 観客はたった10人ほどの中に老若男女入り混じった状態でしたが、多少若目の男性の構成比が高かったかもしれません。この映画の世界観を好きな人々と言うのがよく読み取れない客層でした。

 この映画は以前観た『マン・オブ・スティール』の3年近くぶりの続編です。バットマンが登場する関係で隣町らしきゴッサムとメトロポリスの両市が舞台となっていますが、ゴッサム市の世界観を際立たせるためか、全体に暗いイメージのバットマン・ワールドにスーパーマンが紛れ込んだ印象が拭えません。

 物語は前作にばっちりと繋がっていて、齟齬が見出せません。『マン・オブ・スティール』の感想の中で、私は…

> 特撮としてすごいと思うのと同時に、
> 寧ろ、「これ損保おりるのかな」とか、
> 「少しは気を使って、敵を山の中におびき出すとかしろよ」とか
> 「ザンボット3みたいに、糾弾されるぞ」とか、
> 色々と考えてしまうことがあって忙しかったです。

 と書いていましたが、この心配がやはり大当たりで、市民の敵、地球人の敵であるスーパーマンに対してバットマンが立ち上がると言う設定です。

 たまさか、レックス・ルーサーが登場し、バットマンと同じ立場でスーパーマンを徹底的に排除するために、先行してありとあらゆる手を打ってくれています。大きく分けると、資力と政治力を駆使して…

■民族的テロ部隊の首謀者をロイス・レインが取材に行き拘束された際に、救助を行なったスーパーマンに、民間人大量殺戮の濡れ衣を着せ、世論を誘導する。

■クリプトナイトの回収を世界規模で行ない、前作でスーパーマンに倒されたゾッド将軍の遺体を使って、クリプトナイトの地球外生命体への破壊的な影響力を確認し、武器化の道を開く。

■街のど真ん中に保存されている、クリプトンの巨大探査宇宙船の中に入り込み、辛うじて稼動するホスト・コンピュータを使役して、ゾッド将軍の遺体をベースに、宇宙生物のDNAなどを混ぜ込む操作をして、対スーパーマン生物兵器ドゥームズデイを完成させる。

 と言った感じです。本作のタイトルには「ジャスティスの誕生」とありますが、これは、DCコミックのヒーロー群が寄って集って構成するチーム「ジャスティス・リーグ」のことの筈です。その結成には、主要2ヒーローである、バットマンとスーパーマンが、まず手を組まねばなりません。

 ところが、作品を観る限り、どうも、ジャスティス・リーグは不要であって、劇中に出てくるスーパーマン不要論はかなり否定できないものがあります。バットマンのブルース・ウェインが持つ企業の社屋はメトロポリスにあり、その建物ごと前作でスーパーマンに破壊され、多くの社員が殺されたと言う認識を持っています。スーパーマン打倒を誓い、長年準備を粛々と進めてきたバットマンは、なんと、レックス・ルーサーから、クリプトナイトの原石を強奪し、それをつけた対スーパーマン最終兵器である槍を完成させるのでした。

 仮にバットマンが何もしなくても、レックス・ルーサーの対スーパーマン「三本の矢」で簡単にスーパーマンは殺されていたことでしょう。仮にスーパーマンがドゥームズデイに殺害されていたら、暴れまわるドゥームズデイは、例の槍を持つバットマンと、彼と手を組んだワンダーウーマンが倒せたことでしょう。仮に彼ら二人が失敗しても、槍さえあれば、どこかの軍隊でも倒せたように思えます。

 前作の経緯を見るに、どう考えても、スーパーマンは地球にとって招かれざる客であって、地球を自分達の生存の地に変えようとするゾッド将軍を呼び寄せてしまう結果になります。スーパーマンが地球人の親子に育てられたなら、この決着をつける立場は当然に見えます。しかしながら、それが終了したなら地球人として普通の暮らしに徹すればよいだけのことです。また、前作のメトロポリスを灰燼に帰してしまった責を引き受け、どこぞに幽閉されるか、せめて隠遁に入るなどすれば良かったことと思います。

 スーパーヒーローは色々いますが、スーパーマンの能力は頭抜けています。単なる「銃弾よりも速く、機関車よりも強い!」ぐらいのキャッチフレーズ通りなら良いのですが、実際には、時間軸に干渉して、現在や未来をなかったことにまでできます。人類が持つ技術レベルと埋めようのない乖離が否めません。

『SPEC〜』に登場するような超能力者は、通常の人類でも策略によって対決が可能ですし、『暗殺教室』の殺先生だって技術の粋を尽くした罠の前には万事休すでした。スーパーマンのそれは、このようなレベルの話ではありません。自分の持つ力の人類社会への影響に無邪気に無自覚でいられるところに、スーパーマンの愚鈍があります。この愚鈍に人類全体が振り回されていることに自覚的である人々がなぜ結集できなかったのかが、この作品を観て非常に不思議に思えます。

 そのような確信に基づいて行動を起こしたバットマンの執念と周到な準備は、たった一人でスーパーマンを追い詰め、殺害一歩手前にまで追い込みます。事業者の鏡です。偶然、バットマンとスーパーマンの母親(スーパーマンの方は地球の育ての母親です)の名前が同じだったことから、母を人質に取られていて、死ぬに死ねないスーパーマンにバットマンが同情し、数年来の執念の努力の果実を摘まずに諦めるのです。馬鹿げています。気晴らしに銃を乱射したかったが故に的としたアメリカン・バッファローを絶滅させ、意味の分からない土地所有の権利を持ち込んで原住民を部族単位で皆殺しにした白人米国人の思考とは思えません。そこは一気に行くべきだったろうと思います。

 ちなみに、地球規模の災厄を齎して死んだスーパーマンを米国軍人同様に葬ろうとするところなど、「散々国民の敵、人類の敵と糾弾しておいて、これかい」と、米国式ご都合主義と米国国粋主義にウンザリさせられます。

 このような設定上の疑問は多々湧きますが、役者陣には色々見るべきものがあります。まずは、全然キャラの深みがなくなってしまっても尚、やたらブス可愛いエイミー・アダムスからは、目が離せませんでした。さらに、バットマンの執事らしい男は、ジェレミー・アイアンズが渋くキッチリ演じ切っています。3年前からさらに皺苦茶になったダイアン・レインも、色々見せ場をこなしています。そして、注目はウィキで確認してみたら、なんと11年ぶりに映画出演のホリー・ハンターです。やはり、安心して観ていられる名演技です。アカデミー主演女優賞受賞は伊達ではないと思い知らされます。

 レックス・ルーサーの男は、『ソーシャル・ネットワーク』のイメージが強すぎて、ドゥームズデイを作った後にはフェイスブックを立ち上げそうな感じでしたし、馬面過ぎてゴツイマスクに顔が全然納まりきらないベン・アフレックは、お笑いモノでしたが、まあ、良しとせざるを得ません。

 あと、収穫はモデル出身とか聞くワンダーウーマンです。遥か以前、元ミス・ワールドのアメリカ代表のリンダ・カーターが演じるワンダーウーマンをテレビシリーズで多少見たことのある程度ですが、能力などが今回の映画ではかなり上がっているように見えました。パンフに拠れば元ミス・イスラエルと言う話で、リンダ・カーターより、肌の色が濃いのが、本来のワンダーウーマンの役柄に合っているように思えます。(ワンダーウーマンは、アマゾン族の皇女ですし、もともと粘土に命を吹き込んで作られた存在です。)

 マーベル・シネマティック・ユニバースのDCコミック版の展開を一応は期待しますが、既に、本作でレックス・ルーサーの会社が研究しているメタヒューマンのデータが一部登場してきています。それにはフラッシュも出てきますが、粗いコンビニの監視カメラ映像に写っていた人物は、私のここ最近ハマりにハマったテレビシリーズ『THE FLASH/フラッシュ』のバリー・アレンではないように見えました。少々気がかりです。

 設定に色々難を感じますが、役者陣には色々と見るべきものがあります。拘束時間3時間近くでも、トイレに行くことを忘れさせるだけの面白さは十分にありました。DVDは買いです。