『クロニクル』

 実写版の『AKIRA』との評価が気になり、どこでやっているんだろうと調べてみると、昨年の年末、新宿にオープンした、多分、新宿駅に一番近い映画館でした。行ったことのない映画館に行ってみるかと、三連休の二日に足を伸ばしてみると、何とこの映画が満席になっていました。そこで、全席指定の翌日の回を買って出直すことにしてみました。夜9時からの回は前日同様に満席になっていました。関東で二ヶ所しかやっていず、残る一カ所は群馬県です。そして、この映画館でも一日二回しか上映していません。それは混むのも仕方ないかと思われます。

 しかし、封切後、約三週間近く。それでもこの人気と考えるべきなのか、世界的に見ても、トップクラスの乗降客数の駅に事実上くっついているので、作品の良しあしによらず、その利便性で客が多いと言うことも考えられます。入ってみると、2スクリーンしかない映画館で、今日見た方は、96席でした。観客は圧倒的に20代が多く、カップルもいれば、一人客もいました。男女も入り乱れて偏りがありません。シアター内の天井は低く、後ろから投影する映写機の光に簡単に体が被ってしまうので、エンドロールが終わるまで立ち上がるなと言う注意が出る、御丁寧な映画館です。

 作品は、洞窟に入った三人の男子高校生が変な石に触って念力(+お互いの間のみのテレパシー的な能力)に目覚めて、能力がどんどん強化されて行き、悲劇が待ち受けると言う、或る意味典型的なお話です。

 三人の一人は残り二人と異なり、社交的ではなく、アメリカものの高校生生活を描いたドラマに出てくる典型的なオタクでいじめられている学生です。おまけに、父はアル中の元消防士で、何か負傷をして貰った保険金(一時金)でダラダラ暮らすようになる典型的人生の負け犬的人物です。母は何か呼吸器系の酷い病気に侵されていて寝たきりで、ギリギリ会話ができる程度の生活しか残されていません。家の外には、これまた典型的な不良が常に屯し、金をせびったり暴力をふるったりします。

 この人間が強力な力を得たらどうなるかは、ほぼ、ありとあらゆるこの手の話で語られている通りです。まず、最初は自分の車を後ろからあおってきたピックアップトラックの馬鹿どもを、車ごと念力で沼地に叩き落としてしまいます。残り二人から説き伏せられ、少々大人しくしていますが、DVの父を念力でねじふせてしまって、パニックになります。さらに、二人から「お前の力を見せてやれ」と学園祭で念力を使ったマジックショーをやり、一躍ヒーローになりますが、お決まりの感じで迫ってきた美女とうまくセックスできず、いきなり笑い物に堕ちてしまいます。これまた典型的です。

 雷雲の中でブチ切れているのを宥めにわざわざ空中高く追ってきた一人が、いきなり落雷(正確には落ちてきたのではなく、その高さに居たのですが)にやられ死亡します。この死んだ一人は黒人で、三人の中の陽気なムードメーカーでした。この辺からネクラ少年の暴走が始まります。生態系の頂点に立つ人間のさらに頂点に立つ者として、自分を認識するようになります。ライオンはシカを殺して食べても何も罪悪感を抱かない、などと念仏のように呟くようになります。

 母の薬代が払えないため薬局に拒否されると、思い詰めて、まず家の前の不良どもを徹底的にぶちのめし、カツアゲします。それでも足りないと分かると、コンビニ強盗までやってのけるようになり、あっという間に犯罪者になります。自分の不注意で爆発したガソリンスタンドの爆炎にやられ、入院した所へ、「おまえの母が死んだぞ、死なせてしまったのはお前が騒ぎを起こしているのを俺が探しに出かけていたからだ」とアル中の父親が詰りにきます。再びブチ切れて、病院のワンフロアを炎上させます。今度こそ警察が徹底して追いかけてくるようになりました。

 追ってくる者には反撃するので、舞台のシアトルの街は火の海になり、スピード感こそないですが、最近見た『マン・オブ・スティール』とか、その手のSFドラマの世界に、一気に学園ものだった前半からなだれ込みます。どんどん怪物化して行き、見かねたもう一人が、銅像の持つ矢を彼に打ち込み、警察に取り囲まれる中、殺害します。この最後の一人の念力少年は咄嗟に飛翔しその場を去って、日常生活を捨てる…。こんな感じで話が終わります。

 余りにありふれた展開で、特撮のレベルは、つまみ食い程度にしか見ていないTVドラマ・シリーズの『ヒーロー』より少々マシぐらいの感じにしか見えません。教訓は、あまり恵まれてなくて、素性の悪い人間に、強大な力を与えてはいけません。ということでしょうか。これなら、ディオ・ブランド―の方がよほど魅力的です。

 同じ高校生のブチ切れ念力ものの中でも、予告で観て気になり、苦手なジャンルだけど、名優クロエ・グレース・モレッツが出ればモロに人間ドラマっぽくなって、おまけに原作も嫌いじゃなかったから、やはり見に行かざるを得ないかと考えている『キャリー』のリメイク版の方が、余程、面白そうな気がしてきます。こちらの方なら、教訓は、弱い者いじめをすると、ろくなことになりません。特に女の子は、いつどんなふうにおお化けするか分かりません。ということでしょう。何かすっきりします。

(主演のシシー・スペイセクは到底美人とは言えず、最後に生き残り、その後を知ってしまうエイミー・アーヴィングはギリギリ可愛いかという程度の、オリジナルの『キャリー』でさえ、面白いと思えるのですから、クロエ・グレース・モレッツがやったら、絶対にありだと思えます。)

 ということで、TVドラマレベルのできの特撮で、力を持て余した勘違い男のありきたりな話と見ると、到底、DVDは必要ないと言う感じでした。初めての映画館に行けたのが最大の収穫だと思います。