『攻殻機動隊 ARISE border:1 Ghost Pain』

 平日の夜の回で観てきました。新宿のバルト9では一日に9回もやっているのに、シアター内はかなりの混雑で、三分の一以上は席が埋まっている感じでした。客層は私より上の人々はあまりいず、(老)「若男女」側にやや重心が偏っています。行ってみてから、実はこの映画が二週間限定の上映だったことに気づきました。「どうせ混んでいるんだから来週にでも行くかな」と思いつつ、幾つかの他の観たい映画と比べていたのですが、ちょうど、その日のその時間にぴったり合う上映時間のものが偶然、この作品しかなくて、足を運んだ結果です。上映終了前日。危なく見逃すところでした。

 たった59分の映画で、料金も1200円でした。全4部作で次の二本目は11月末に公開とエンディングロール後の予告画像で宣伝していました。結論から言うと、何か今一な作品です。

 私は攻殻機動隊のシリーズがかなり好きな人間です。マニアと言うほどではありませんが、エヴァシリーズほどのわざとらしい謎かけもなく、近未来の特捜ものという意味で、その時点での科学技術とその社会への浸透度合いや、国外・国内の政情など、非常によく作りこまれた設定を持っている物語だと思っています。タチコマも含めたメインキャラの中で、やはり、ダントツに「少佐」が好きです。一応、今までの映像作品は(テレビシリーズ各話を網羅していない部分がありますが)全部見てストーリーとして把握しています。一番好きなのは、「個別の11人」を扱った『S.A.C. 2nd GIG』、それとかなり並ぶ感じで『S.A.C. 3rd GIG』です。

『S.A.C. 2nd GIG』には「少佐」の過去が出てきますが、その話と今回の攻殻機動隊の話が矛盾をきたしているのかいないのか、私はきちんと理解できるほどのファンではありません。ただ、今までの攻殻機動隊の「少佐」のイメージからは、(声優が変わって)声質が違うことや、中途半端に若返り感があって、妙に人間的で表情もそれ以外の感情表現も、やたらに豊かになっていることに、とても違和感が湧きました。特に腕まで失う激しい戦闘シーンの中の力んでいる表情などは、げんなり来るぐらいに、過去の作品のイメージを壊しているように思えてなりません。

(寧ろ、好感が持てる女性(系)キャラという点で見ると、余程、襲い掛かり自爆するだけのために作られた少女型ロボット「自走地雷」の方が魅力的です。この作品最大のアピールポイントでしょう。『イノセンス』に出てきた人形たちをイメージさせる部分があります。)

 物語の舞台となっている社会観は非常に今までの作品と通底するものとなっていて、安心してみていられるのですが、『Q』になって、いきなり14年の歳月が過ぎていて、キャラの性格やら外観が、節操なく大幅変更のヱヴァシリーズに比べると、旧作とぴたりと同じにするか大幅に変えて見せるか、どちらかに潔くバッサリとやってほしかったように思います。この点でかなりまじめに取り組んでくれているのは、実写ですが『X?MEN』シリーズかもしれません。

 所謂電脳戦の世界も、ハッキングやら脳に巣食ってしまうウィルスやら、光眩しいネット内部の世界やら、お決まりの中にあって、特段に目新しいものはありません。それは旧作でも一貫したものなのですが、それを安定した道具立てとして、緻密に構築されたプロットと登場人物たちのぶつかり合いが魅力のシリーズであったはずです。その意味で、舞台設定はあっていても、上に載っているものが、ちゃっちくなっていて、『空の境界』などの短期間上映もしたアニメシリーズとレベル的に特段の違いを感じません。

 DVDはシリーズのファンとしては買うと思いますが、当然、劇場内で当日「予約分は売り切れです」と騒ぎ立てていた(旧作に比べてそれほど画質もよいように思えない作品なのに)8000円もするブルーレイは、当然要りません。そして、次作も二週間の上映期間なら、無理して劇場に足を運ぶ必要性をかなり検討するのは間違いないものと思います。