8月8日の公開から1週間を経ない水曜日の午後6時半の回を新宿東南口のミニシアターで観て来ました。1日に3回上映されています。新宿ではこの館だけですが、全国でも現状この1館のようです。この映画のオフィシャル・サイトを調べると、9月中旬から大阪でも公開が予定されているようですが、その頃には新宿のこの館の方が終わってしまっていそうに思えます。
この映画を観ようと考えたのは、当初は特徴的なタイトルでネット上で目が止まり、その概要を見て、鑑賞動機が湧いてきました。大きく分けると、4つほど鑑賞動機を形成したポイントがあります。一つはいつものことですが、若者の日常やその中での思考を知るという、何となくの商売柄の関心です。老人になって来て、社会そのものとの接点が以前よりは希薄になる中で、自分に近い世代のことは(少なくとも自分の中では)或る程度理解できるように思っていますが、離れた年齢の人々、とりわけ異性の人々の実態が垣間見える作品は一応抑えておくべき候補となり得ます。
二つ目はこれが一番目を引く主要なポイントかと思いますが、「片付け」がテーマとなっていることです。一時(いっとき)のピークは去ったように感じますが、例えば「断捨離」のブームやそのまんまの片付けのブームなどが押し寄せては消える背景には、(その程度がどうあれ)片付けができないと自認する人々が多々いるのであろうと思われます。現実に私の知り合いの中にも、自宅や本人が管理する社内のスペースなどに赴くと、足の踏み場もないような事態になっていることも、そこそこの頻度で起きます。片付けノウハウをこの作品に期待できるものではないとは思いながら、片付けが必要な事態が発生する経緯や、片付けそのものの需要が急激に発生する背景など、関連する何かが一応得られれば良いかというような期待でした。
三つ目はこの作品がマイナーで上映館も限られていて、到底DVD化も望めなさそうな作品であることです。おまけに、たった61分の作品で映画鑑賞の月間ノルマ達成に当たって、気軽な選択肢であることも大きいと思います。
四つ目は微かな関心という程度ですが、この物語がこの片付けを必要とする部屋をシェアする女子二人の人間関係の物語でもあることです。特に、当初は互いに指摘し合ったり、互いに責めたりすることもできず、室内の物理的エントロピーがどんどん上昇していく事態であるようです。そこから、二人して片付けの必要性に押し迫られ、二人で着手するという過程に多少は関心が湧きました。
これらの鑑賞動機はいつもの通り、以下のような映画.comの作品説明を読んで湧いてきました。
[以下引用↓]
仲良しだけど共同生活に少しずつ不満を抱える2人の女性が、汚い部屋を片付けようと奮闘する一夜を描いたドラマ。
好奇心旺盛でトイレが長い矢吹ことりと、発酵食品マニアで家事が苦手な三森すずか。ベストフレンドの2人はシェアハウスをしているが、どこか違和感を覚えていた。そんなある日、2人の家に憧れの男性・栗田さんが遊びに来ることになるが、信じられないほど部屋が汚い。タイムリミットの朝10時までにどうにかするべく、一緒に大掃除に取りかかることりとすずかだったが……。
「スミコ22」「まだ君を知らない」で知られる、はまださつきと福岡佐和子による映像制作ユニット「しどろもどり」が、自身のシェアハウス経験をもとに制作。はまだが監督を務め、福岡が脚本・編集を手がけた。「結局珈琲」の瀬戸璃子が矢吹ことり役、「おとなになりたくなれますように」の園凛が三森すずか役で主演を務め、松?翔平、新帆ゆき、特別出演として工藤遥が脇を固める。シンガーソングライター・かなふぁんによるプロジェクト「chill the gambler」「kiss the gambler」が音楽と主題歌を担当。
2026年製作/61分/日本
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
劇場公開日:2026年8月8日
[以上引用↑]
料金は一律1600円でした。本来だとシニア料金の設定があり、1200円だとネットには書かれています。多分、尺が短いためであろうと思いますが一律1600円にされていますが、高齢者には逆に割高な逆差別状態になっています。そこまで事前にチェックして鑑賞作品を選ぶ人がどの程度いるのか分かりませんが、もしかすると後述するような高齢観客が少ない理由になっている可能性があるものと思えました。
シアターに入ると、ネットには84席とありますが、そのうち25席ぐらいが埋まったように思えます。男女の比率はほぼ半々で、2人連れは3組で男女ペアが2組、女性同士が1組だったように見えましたが、混んで来て単に隣り合う席の2人を2人連れと認識してしまっている可能性もあります。全体に若い観客が目立ち、20代から30代ぐらいで4割ぐらいを占めていたように思えます。残りは40代から50代を中心に広く高齢な方にまで層が広がっている感じです。
楽しいというか、グダグダだけど小さな楽しみが散らばっている日常を切り取って見せたような、まさに映画にするにピッタリに見える物語です。これが小説ならイベントが無さ過ぎな気がしますし、DVDのみの販売のコンテンツでは、わざわざ買って二度観することがなさそうですし、レンタルなら他にも観たいものが山ほどあり、私は契約していない配信ならこれまたチョイスしなさそうに思えます。とんでもなく内容が濃いパンフに拠ればたった3日間の撮影で完成したらしく、インディーズ作品だからこその物語という感じに思えました。
この日は映画を2本梯子する予定だったので、終了後の「しどろもどり」の2人とさらにゲストの映画監督を生業にしている人1人のトークショーを、2人が壇上に陣取り、ゲストを呼ぶ前段階でシアターを出てしまったので、見ることができませんでしたが、パッと見の外観と最初の一言二言の発言の感じを聞く限り、この2人が主人公になってこの作品を作っても問題なかったのではないかと思えるような感じでした。映画.comの説明にもある通り、本人達の実体験を基にして書かれた脚本ですので、さもありなんという感じです。
分厚いパンフの最初の方に、この映画の物語を短く表現した文章があります。(STORYと題されていますが、余り物語紹介っぽくない文章です。)
[以下引用↓]
シェアハウスをしていることりとすずか。
ふたりの家に憧れの栗田さんが遊びに来ることになった(ハート目カオ絵文字)
だけど部屋がきたない!どうしよう!
でもパンも焼きたいし、
服も決めたいし、
漫画は面白いし、
ヘビ(ヘビ絵文字)のゴッドは可愛いし、
ポップコーン食べたいし、
ねむいし、
部屋きたないし、
そもそも私たちはこのまま一緒に住んでいていいのだろうか?
[以上引用↑]
少なくとも物語の最初から3分の2ぐらいまでをほぼ全部言い尽くしているような文章です。結局、私が鑑賞動機の一つに挙げていた「片付け」はほんのちょっとだけ着手されただけで、完遂には程遠い状態で栗田氏が来ます。
栗田氏は2人がよく(各々1人で行くこともあれば、2人揃って行くこともあるようですが)行くことがあるケーキ屋さんのパティシエです。憧れとパンフにも書かれていますが、2人ともあわよくば彼女になりたいと思っています。
店のイートインでケーキを食べ、他に客もなく暇で話し相手になっていた栗田氏に対して、すずかが自分の趣味の発酵系食べものづくりの話を振り、ピクルスがあると言いだします。そして食べますかと聞き、いっそ食べに来ますかという会話の展開になって、この栗田氏のう具体的な期待の把握もなく、スルッと栗田氏が翌日午前中の開店前に2人の家に来ることに決まります。AVだったら、栗田氏の来訪後、ピクルスを食べるのも早々に、いきなり3P展開となってしまいそうなぐらいの安易な会話で来訪が決まってしまっています。
そして、2人が部屋に戻ると、目に飛び込んできたのは、ものが溢れ返り、あちこちで足の踏み場のない惨状でした。2人は悲鳴を上げて嘆きますが、そのすぐ後に「まずは踊ろう」と「イェー!」といったノリで一頻りワチャワチャ踊り出すのでした。カメラが下に振られると、彼女らの素足が床に散乱した紙類などを時々踏みつけていたりすることが分かります。時々は避けたりしている様子も足の動きから窺われるので、「高エントロピー状態」への問題意識がこうした動きにも表現されているということかもしれません。何にせよ、ほんわか笑わせてくれます。
何となく若い頃の市川実日子に似ている会社員すずかと何となく若い頃ののんに似ているフリーターのことりはパンフに拠れば2人とも24歳で互いに「ベストフレンド」と関係性を呼称しています。すずかは何事もはっきりさせたい性格で、ことりに対する(トイレに籠っている時間が長いなどの)不満も口に出します。ことりはおっとりとして波風を立てるのが嫌いで、すずかへの(洗濯機の洗濯槽のゴミを取らない、電子レンジからすぐモノを出さず、催促音を必ず鳴らすなどの)不満は日々飲み込んだままにしています。この不満を互いにぶつけ合うと、じゃあ、別に別に暮らすか…と話が展開することになります。結婚などと違って鎹(カスガイ)になる法的束縛がある訳でも子供がいる訳でもない関係性ですから、すぐに解消の話が浮かんできます。ベストフレンドではあるので、ことりが「今度はもうちょっと東の日暮里とかに住みたい」と言い出すと、すずかは「私も日暮里に住もうかな。2人で不動産屋に内見に行こう」とか言い出しています。
そんな2人ですが、一頻り踊った後に、仕方なく片付けを始めますが、すぐに脱線してしまいます。すずかはパン生地を捏ねだしたりしますし、ことりはそのあとにポップコーンを作るのに(蓋をせず)失敗し、ポップコーンの暴発に振り回される結果になります。さらに先程のパンフの物語紹介にあるように、2人して服を選びだし、ことりが自分で描いた絵を飾りたいと言い出すと、すずかは何かで受賞した小さなトロフィーを2つ何気に置いておきたいと言い出します。2人とも栗田氏に競ってアピールしようとします。ついには、すずかはことりに「栗田さんのこと、好き?」、「どんな感じの好き?付き合いたいってこと」と糺すと、ことりは「…うん。」と答えています。
2人して煮詰まると、「カラオケいこ!」とまるで映画のタイトルのようなことを言いだし、本当に2人で行って大騒ぎをします。(実際にしどろもどりのペットのようですが)蛇のゴッドは行方不明になり、かなり時間を割いて探しても見つからなくなります。その上、だるくなったことりが、つい何気にスナック感覚でキッチン・テーブル上のものに埋もれた小鉢のピクルスを食べてしまいますが、それが栗田氏に上げるべく用意した最後のピクルスであることが発覚し、結局栗田氏の当初の来訪目的に応えられない事態に陥ります。(深夜スーパーで買ってごまかすという手法も無きにしも非ずかな…とは思いましたが。)
グダグダです。終いに二人は疲れて寝入り、目覚まし時計で目覚めた直後にドアのチャイムがなり、栗田氏を寝起きで迎えることになるのでした。勿論、部屋の惨状は半分も解消していません。一見してぐちゃぐちゃなままで、捏ねたパン生地までそのままに放置されている状態です。
ところが最後に大番狂わせが来ます。2人が勝手に付き合いたいなどと競って盛り上がっていて、日暮里の不動産探しの落ちも、「いっそどちらかが栗田氏の所に転がり込むか」などと言って盛り上がっていたのに、栗田氏には妙にプライドが高く2人に対してマウントを取ってくる彼女がいて、栗田氏は彼女を連れてピクルスを食べに来たのでした。当然ですが栗田氏から彼女同伴で良いかなどは尋ねられていないようですから、栗田氏はいきなり訪問先への配慮もなく人数を増やしたことになりますし、そこでいきなり彼女を2人に見せるというのも全くよく分からない思考です。
彼女の方は2人が栗田氏を好意を持って狙っていることを十分理解してついてきたいと申し出たのでしょうが、それをただズボラに連れて行こうとする栗田氏の無配慮も2人を呆れさせることになります。彼女はピクルスの代わりにキムチがあると奨めるすずかに、「キムチは嫌い」とあっさり断り、ことりの絵を慇懃無礼に褒め殺し、さらに部屋を見回してその惨状を見下した態度をあからさまに取ります。その無礼さを戒めるでもない栗田氏の愚鈍さが際立ちます。
突如ことりは彼女に「あの。蹴ります」と宣言して彼女の臀部を蹴ります。余りの唐突な展開に理解がなかなか追いつかず、彼女がトイレに行くと、そこには行方不明だった蛇のゴッドが潜んでいて大騒ぎになり、栗田氏と彼女は這う這うの体で去っていくのでした。会社員とフリーターでライフスタイルも価値観も異なる若いベストフレンド2人の、同居故の蟠りも、競っての恋愛も、そして、その熱情ゆえの全くの男を見る目のなさも、ありとあらゆる未熟さや計画性のなさが、愛らしく見えるから不思議です。
面白い作品です。先述の通り、インディーズ映画として見たら十分佳作の域に入っていると思います。日常生活の中のビッグイベントを控えた半日程度の時間枠を刳り貫いて描き、そこから主人公2人の価値観やライフスタイルの対比が楽しめる作品です。出るのならDVDは買いです。
追記:
パンフでもネット上の紹介文でも「シェアハウス」と表現されていますが、主人公達が住んでいるのは間取り広めの古アパートの2階の1室(パンフには間取りまで載っていますが、2LDKです。)に過ぎませんので、どちらかというと「ルームシェア」と呼ぶべき状況に見えます。アパートの外観は写っていなかったように記憶しますし、2階とも言われていませんが、部屋の作りや間取り、さらに小さなベランダからの風景の感じから、そのように感じました。パンフのロケ地紹介にはケーキ屋の情報のみ載っていますが、西荻窪のようです。アパートもその界隈であるのかもしれません。