『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』

封切日の土曜日の終電時間にかかる、バルト9の夜の回で観てきました。比較的大きなシアターに観客は三分の一ほど席を埋めていたように思います。

二年前の三月に観た『シャーロック・ホームズ』の続編です。このブログでもその際に…

「シャーロック・ホームズの原作への忠実度という観点は、パンフを見ると、これでもかと言うぐらいに強調されています。特に、鹿打ち帽にケープの付いたコートをまとってパイプを加えた紳士然としたイメージを覆し、肉体派で観察力や洞察力以上に行動力が物言うような探偵スタイルとして描かれていることが、この映画の注目されている理由であるようです。パンフによれば、ホームズは、棒術・フェンシングに長け、さらにボクシングはプロ級の腕前で、おまけに何なのかよく分からない日本のバリツとか言う武術にも通じているという話が原作に出ているのだそうで、それを踏まえたら、プロデューサーや監督が、「こちらが正統派」としつこく主張するのも分かります」

と書いた通りの世界観が、続編でもきちんと継承されています。

前作の感想にも書いた通り、私はシャーロック・ホームズものを全く読んでいない人間ですが、前作もそこそこは楽しめました。しかし、オカルティズムの気配を醸し出しながら、結果的にはそれを黎明期の科学でぶち壊して見せる展開や、(続編と比べると特に分かるのですが)悪役が小物で、その分、登場人物の設定紹介のようなエピソードに時間をかなり割いていること、その結果、物語の展開にスピード感が欠けていることなどが、今一つに感じられました。

それらの「“今一つ”要因」の殆どが解決されているのがこの続編です。今回はオカルティズムなど全く入る余地がなく、後にヨーロッパ世界を第一次大戦に導く暗躍に科学技術が徹頭徹尾活用されていますし、悪役は前作でちらりと登場した、シャーロック・ホームズ作品中で最大の悪役と言われる人物です。登場人物の紹介に時間を割くこともなく、二時間少々の物語は目まぐるしいほどのスピード感で驀進していきます。殺陣や機械類の動きが突如スローモーションで一部分がアップになって、やたらのカット数に分けられているなどの、緊張感を盛り上げる演出も各所に配されていて、スピード感がさらに増します。

犯罪界のナポレオンとホームズが称するほどのこの悪役の登場を指して、パンフレットなどには「もうひとりの天才の登場」と書かれていますが、正確ではありません。なぜなら、知性ではホームズを凌駕すると言われるホームズの兄まで登場するからです。原作の主だった登場人物は、オールスターキャスト状態で登場しきってしまい、原作の世界観ではかなり時系列で後の方の名場面まで描き切ってしまう大作です。

さらに舞台は前作と異なり、イギリスを飛び出し、フランスやスイスにまで広がります。当時のヨーロッパ世界がそれなりに忠実に描写される中でのスピード感ある犯罪劇です。前作と異なり、悪役のスケールの大きさにホームズもかなり押され気味で、ハラハラドキドキ感が前作とは比べ物になりません。パンフやネットのインタビューに応えて、ワトソン役のジュード・ロウとはプライベートでも親交ができたと言う、ロバート・ダウニー・ジュニアのノリノリ感も以前以上です。抑制の効いたウィットとユーモアの世界ではあるものの、いきなり女装したり、おかしな変装を重ねたり、とどちらかと言うと、『アイアンマン』シリーズ以上の悪乗り感を出しています。

秀作だと思います。なぞ解きやオチが分かっても尚、繰り返し見て飽きの来ない面白さがあります。第一作を大きく超える第二作と言う、どちらかと言えば珍しい作品です。DVDは買いですが、第一作は持っていないのがアンバランスで困ります。