282 知の集合

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経営コラム SOLID AS FAITH 第282号
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ご愛読ありがとうございます。第282話をお届けします。

 当コラムの創刊12周年特別記念号の発行まで残すところ6日となりました。
毎年繰り返しておりますが、歳月の過ぎ去るのは速く、創刊から干支でもちょ
うど一周となりました。12周年特別記念号では、PR欄でも予告しております
通り、中小零細企業の現場レベルでの新卒社員育成の知恵・工夫についてまと
めてみました。皆様の組織における人材育成の参考となりましたら幸いです。

 今回の号は、今ではとんと耳にすることのなくなったウェブ2.0の中の代表
的な考え方である「集合知」について考えてみたものです。「集合知」同様に、
経営手法としての「ナレッジ・マネジメント」なる言葉も、今では殆ど耳にす
ることがなくなりました。それらの何がどう問題であり、少なくとも中小零細
企業の現場には、なぜ浸透することがなかったのか。弊社クライアント企業の
経営者の卓見をベースに、在り得る答えの一つをまとめてみました。

 文末に登場する『「みんなの意見」は案外正しい』の内容は興味深いです。
本テーマにご関心のある方は、ご参照下さい。本文に対するご意見・ご感想を
お待ちしております。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!
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その282:知の集合

 会場の隅の椅子に陣取り、私はそのコンサルタントのセミナーを凝視してい
た。そのコンサルタントは、何らの小売業の知識もないのに、地方に十店近く
あるスーパーマーケット・チェーンの売上を目覚しく伸ばした実績を持つとい
う。今から十年以上前のその日、開場より早く会場に赴き、インタビューをし
た。彼の手法を聞けば原理は簡単で、各店の店長を集めてグループにし、互い
の店を経営指導することにしたと言う。品揃えが得意な店長も居れば、生鮮三
品の売上を強化できる店長も居る。皆の知識を集めてベストな部分をつなぎ合
わせて、全部がベストなものを作ったと言うのが彼の説明だった。

 彼の言うナレッジ・マネジメントの時代は早々に到来した。しかし、その後
数年を経て私が独立した頃、ナレッジ・マネジメントの論説を殆ど耳にするこ
とがなくなった。企業に当り前の経営常識になった風もない。そんな時、各店
舗の営業方針が異なることで知られる十店規模のパチンコ店チェーンの社長と
話をすることになった。各店店長の裁量権は大きく、事実上の経営者と看做せ
ると言う。店長の能力と店舗環境の組み合わせで、業績が大きく変化すると社
長は説明する。なるほどと頷いた私は、数年前にコンサルタントから説明を受
けた、ナレッジ・マネジメントの話を社長にしてみた。

「できる店長と言うのは、結局、良い立地とか、少ない競合相手ややる気の乏
しい競合相手に助けられた運のよい店長ではないかと思いますよ。店長に経営
判断や営業方針を説明させると、まるでなっていなくて、がっかりすることば
かりです。そのナレッジを今の店長達から集めてつなぎ合わせたら、標準的で
駄目なやり方になってしまうでしょう。それを標準化と言うなら、恵まれた環
境の店舗しか出店できないことになります」。

 自分ではパチンコを嗜むことがなかったにも関わらず、この事業を承継した
と言う社長は、精緻な分析結果を交えながら説明し、言った。
「ナレッジの管理なら逆方向でしょう。集めて良くするのではなく、集めない
前提で、一人ひとりの店長が独力で業績向上に必要なことを学ばせる管理が必
要なんでしょう」。

 先日、数年前にウェブ2.0を文字通り語り尽くしていたクライアント企業の
幹部と話した。批判もあるが、ウェブ2.0には重要な論点が含まれており、特
に集合知の考え方は重要と見る彼は、「こんな本も見つけました。タイトルが
総てを物語っています」と笑った。

『「みんなの意見」は案外正しい』と言う本をぱらぱらと捲った私は顔を上げ
て言った。
「まさにタイトルの“案外”がミソですね。なんか正しくなかった事例も幾つ
も載っている感じですよ。正しくなるための条件が色々あるようですけど、こ
の条件をクリアする難しさに較べたら、例の専門知の方が余程手っ取り早く頼
りになりそうですよね」。
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☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
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【MSIグループからのPR】

12周年特別記念号 最終推敲中。
発行まであと6日。
テーマは「性悪説的新卒社員育成」です。

中小零細企業が、新卒採用に挑むと、
コストを抑えることに一工夫は必要ですが、
それほど大きな障害もなく、採用ができます。

問題は、その新卒社員を如何に組織の戦力としていくかが問われる
育成のプロセスです。

多くの中小零細企業が遭遇する症状別対処法付の
マニュアルかと見紛うほどの超実践型の企画が盛りだくさんです。

10月31日発行予定。ご期待下さい。

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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
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次号予告:
 第283話 『為替差益』 (11月10日発行) 
 国内経済の色々な事柄についてガラパゴス化と言う事象が指摘されています。
国内消費の場面においては、付加価値のあり方はかなり高度なものと感じます。
その付加価値を作り出す労働の質はその分高度であるのか考えてみました。

(完)