新宿南口の映画館で見ていました。封切られてから随分時間が経っています。それでも、先週あたりから、都内で他の上映館も現れるなど、人気が高まっている様子が窺えます。事実、年末に見に行こうと最初に思い立った際に、今回の映画館に行った所、ロビーが見たことないほどの人でごった返していて、早々に退散してくるほどでした。
一時間半少々の短いドキュメンタリー映画ですが、今年の映画第一作目にして、今年見た最高傑作になるのではないかと思えるほど、素晴らしい映画でした。「魂が揺さぶられる」と言う表現が、大作ドラマなどの宣伝に使われますが、まさに、この映画のためにあるような言葉です。見れば、泣けると思いますが、DVDは間違いなく買いです。
タイトルから分かる通り、第二次大戦下の米軍において、陸軍部隊として優れた戦績を残した日系人部隊の歴史を、実際にその部隊で戦った日系人(現在80代後半)の方々の声を集めて描いていく映画です。この部隊は、「ゴー・フォー・ブロウク」のスローガンや「バンザイ・チャージ」などの際立った言葉や、日系人が不当に収容されていた収容所からの出身者で構成されていたことなどでよく知られている…と言った所が、私の映画を見る前の予備知識でした。
収容所の出身者の語りから入るのかと思っていたら、いきなり話はハワイが舞台で始まります。442連隊が合衆国本土の収容所からの志願兵で構成される、その前身であり後に442連隊に組み入れられる第100大隊がハワイの日系人出身者で構成されたということを初めて知りました。ハワイの日系人が「敵性国民」として軍役から外され、労働部隊として国のために働こうとして組織化されていた過程での憤懣が映画の冒頭で描かれていきます。
しかし、この人々は(ハワイにおいてあまりにも数が多く、隔離することが困難だったため)強制収容されることを経験しなくて済んだ人達です。映画はここで西海岸に舞台を移し、強制収容の理不尽さを体験者の言葉で描きだします。興味深いのは、この二つのグループが同じ連隊として統合された時、諍いが絶えなかったのですが、部隊を率いる白人将校が一計を案じてハワイ出身者に、有刺鉄線で囲まれ警備兵の銃口が常に中に向けられている収容所を、現実に訪れて見せた途端、彼らが自分達を取り囲んでいる偏見と差別の重さを知るというくだりです。
『TOKYO JOE』の感想でも書きましたが、私が大学時代に居たオレゴンの片田舎の街は、カリフォルニアとの州境の目と鼻の先で、州境を越えて少し先には、収容所の中でも忠誠心が低いとランクされた(正確に言うと「忠誠心アンケート」と言う全く理不尽な調査の結果判明したと言うべきなのですが)人々が収容された「収容所の中の収容所」があった、ツールレイクがあります。
今でも古くからその地域に住んでいる人々は(モビリティの高いアメリカにおいても尚)いる訳で、その人々の中には、留学中の私に向かって、「私たちの国の歴史の中で最大の汚点で、君たち日本人に本当にひどいことをした」と唐突に謝り始める人までいたぐらいに、この差別と偏見の施策は有名です。この収容所の体験者で今でも存命な人々には、この映画に登場する『スター・トレック』のミスター・カトーがいます。(ジャニーズ事務所のジャニ―喜多川もそうなのだそうです。)
パンフレットにコメントを寄せている多くの人が、「日本人であることに誇りを持てる」と言っていますが。本当にその通りだと思います。アメリカでも観客動員は物凄く、その評判も素晴らしいようで、監督自らが、白人老人から大声で泣きそうになったので劇場を出たと聞き、「この映画を作ってくれて本当にありがとう」と直接観客から言われたと言います。
誇りを持てる客観的事実は、勿論、442連隊の戦績にあります。勲章の数が異常に多いことを米軍の中将が劇中で述べていますし、年単位で万単位の兵が掛っても崩れなかったナチスドイツイタリア戦線最終防衛ラインを、僅かの「時間単位」の時間で、撃破するなど、最強の部隊であることは明白です。しかし、何より、トルーマン大統領が自ら帰国した部隊を迎えたエピソードが、素人にもわかる最大の偉業です。当日天候が悪く、実施を見合わせるように側近が進言したにも拘らず、トルーマンはこの出迎えを行なったということで、「君たちは偏見とも闘って、勝った」と大統領に言わしめています。米陸軍史上唯一の大統領に出迎えられた部隊だと言うことです。そして、戦後数十年を経て、彼らの戦闘によりナチスドイツから解放された村々を彼らが尋ねると、ヒーローとして若者をも含むありとあらゆる住民から諸手を挙げて歓迎される事実です。
しかし、彼らは日本人として闘ったのではなく、合衆国国民であることを自力で証明するために闘ったのです。つまり、国籍として日本人として私たちが彼らを誇りに思うと言うのは、お門違いでしょう。むしろ、彼らをして、このような偉業を成し得させた文化を共にできていることを誇りに思うと言うことになります。
この映画で淡々と述べられていることを聞いていて、ふと疑問に湧くことが幾つもあります。代表的なものは、
「なぜ強制収容されるような目に合わされていても、直接その制度の非を論うのではなく、行動によって自分の信念を示そうとしたのか」
「なぜ、特殊な訓練を受けたものでもないのに、この連隊だけが、素晴らしい戦績を上げられたのか」の二点でしょう。
映画はこれを日本文化の賜物であると位置づけています。
それを裏打ちするように、映画では東条英機が書簡で日系人に対して、「既に合衆国国民になった諸君は、合衆国に忠誠を誓い、合衆国のために戦え」と伝えている事実まで紹介されています。
そして、収容所出身の彼らが、ナチスドイツのユダヤ人収容所を開放して、天使に見えたと言われても尚、多数の命を奪ったことでPTSDに悩み、家族にも自分の経験を殆ど語らずにきた事実も明らかにされていきます。
国の、家族の、自分自身の尊厳を守ること。尊厳に比べ、命は非常に軽い。記録破りの戦績の一方で記録破り割合の戦死者を出したこの部隊の史実は、戦争と平和、日本人であること、愛国と言うこと、人間の尊厳、色々なことについて考えさせてくれると同時に指針を与えてくれるものだと思いました。