585 床上浸水

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経営コラム SOLID AS FAITH 第585号
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 ご愛読ありがとうございます。第585話をお届けします。

 今年3月に第579話『ネオテニー以前』を発行した際に、その前書きに…

「先日第586話『床上浸水』という話にまとめてみました。数ヶ月後の配信
をご期待ください。」

と書きました。しかし書き溜めたうちの一つの話と今回の『床上浸水』の後
に書いた話がシリーズとして組み合わせられることに気づき、『床上浸水』
の前にあった話の発行をシリーズ化のために遅らせることとなりました。そ
の結果、この『床上浸水』は第586話から第585話に繰り上がっての発行とな
りました。事前に申し上げていた発行順と異なることを予めお断り申し上げ
ます。

 ビジネス誌の特集にもなるほど、倒産・廃業が増えています。それは円高
やインフレ基調の固定化など、色々な要因が挙げられていますが、それらは
既に経営状況が質的にも劣化し、事業継続が困難になりつつあった企業群に
引導を渡す機能を果たしただけのことと考えるべきでしょう。「ゾンビ企業」
という言葉には、「借入金の金利を自事業からの利益で支払うことができな
い企業」など幾つかの定義があるようですが、そこまで追い詰められていな
くても、日々を辛うじて無難に過ごしているだけの企業群などリスク耐性が
低い企業は多々存在します。

 十分な経営余力を維持して事業を継続している企業群にとって、業界内の
競合他社の倒産・廃業は、(注意深く連鎖倒産などを避けている限り)「残
存者利益」を得る恰好の機会になるはずです。

 円高やインフレ基調のみならず、法制度や労働市場など、中小零細企業の
経営環境は複雑化し、読みにくくなり、まさにVUCAそのものといった状況に
なって来ています。そうした状況に対応することが困難な企業群は徐々に淘
汰されて行くことになります。

 今回の号は『床上浸水』と題してひたひたと上がりつつある中小零細企業
経営の難易度について考えてみました。VUCAそのもののといった感じへの経
営環境の変質に、中小零細企業群が対応しにくい理由を根本から考えてみた
号です。ご一緒に一考戴けたら幸いです。ご意見・ご感想をお待ちしており
ます。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!

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その585:床上浸水

 空前の物価高だから。景気は回復していないままだから。日本の人口がい
よいよ減って来て若者が居なくなっているから。通称武漢ウイルス禍の融資
の返済がとうとう始まったから。色々な理由が囁かれて企業がバタバタと消
えている。特に飲食店を始めとする店舗の閉鎖は相次ぎ、日常生活の中でも
その潮流が感じられる。
 
 嘗てXMLが世の中に広がり始めた時、クライアントの自称IT屋の社長は、
「これからはアマゾンや楽天にショバ代を払わなくても、素人でも簡単にネ
ットで店を開けるようなプラットフォームをウチが成立させる。それをやれ
ば誰でも食っていくことができる」と言っていた。しかし社長は後日二束三
文で会社を売って事業は日の目を見ずに終わった。
 
 仮にプラットフォームができても、集客を自動化しなくては、素人は食っ
ていけないだろう。そう思っていたら今度は素人でも集客できるとMA業者が
広く喧伝するようになった。それでも事業を始めるには資金もいるだろうと
思っていたら、後継経営者の見当たらない中小企業を買ってしまえば素人で
も事業が始められると宣う本も世に出た。
 
 マンガでも出ている飲食店経営の本にはFL比が55%を切らなければ、存続
は危ういとする鉄則が早い段階で強調されている。物販店舗でも月粗利のシ
ミュレーションを事業開始の前にきちんとやるべきだと、マニュアル本の中
盤の要点として説明されている。それでも多くの店舗がバタバタと潰れてい
くのはなぜなのか。
 
 集客して売上を立てることも、FLや販管費を節約することも、ITツールを
使えれば機会が広がることも、嘘ではない。副業的な位置づけのものも含め
て、独立起業を目指す人は増えていると、公的支援セミナーの講師を務める
知り合いの中小企業診断士が言っていた。その多くは全くの準備不足の状態
で公の独立起業セミナーに参加するが、準備不足と断じるとセミナー参加者
が減ってしまうので、講師もその現実を言い淀むらしい。
 
 数年前のOECDの国際成人力調査によると、日本人は世界でもダントツの成
績だが、パソコンを使った基本的な仕事ができる日本人は1割以下しかいな
い。3分の1以上が小学校3~4年生以下の数的思考力しかもたない。大体にし
て、3分の1は日本語が読めない。この数字は過去もそれほど大きく違わな
い。それでも「素人でもできる起業」は過去にはもうちょっとマシだった。
世の中の進歩は早く、経営環境もVUCAそのものになり、文字も読み、計算も
でき、パソコンも使えなくては商売にならなくなってきた。
 
 経営の難易度の水位はひたひたと上がり、爪先立ちだった人々は溺れ始め
ている。

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『アップルのリンゴはなぜかじりかけなのか?…』 廣中直行 著
■『川瀬巴水探索 無名なる風景の痕跡をさがす』
  川瀬巴水とその時代を知る会 編
■『ルポ女性用風俗』 菅野久美子 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 MSIグループ 市川正人
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次号予告:
 第586話 『そういう年』 (6月25日発行)
 高齢化社会という言葉が普及してもう大分経ちました。中小零細企業の
オーナー経営者の平均年齢も大分上がりました。その変動の推移を概観して
みました。

(完)